麦わら一味にローさんの過去知ってほしいんだってばよ

OP妄想書き殴り
この記事は約24分で読めます。

ローさんネタメモ帳3にするつもりだったんだけれど、なんか結構長くなったのでとりあえず単体で。

ってことでいつもの欲求のままに書くよ。

 

ドレスローザ後、麦わらの船にセンゴクさんが一人で乗り込んできた!(一味そろっててほしいなーナミさんとかサンジの反応ほしいから。あの二人はいい反応してくれそうなんだよなぁ。んあ? 時系列? こ、こまけぇこたぁいいんだよ!)

慌てふためく麦わらの一味!(一部除く)

しかし、センゴクに戦いの意思はなく(ちなみにこの場合ドレスローザ戦闘後まだローとセンゴクさん会話してない感じで。相変わらず原作改変していくよぉおお)

 

センゴクはじっとローを見る。その視線に、ローは武器を片手にいきり立つ麦わらの一味に待てと言葉をかけた。

「……何の用だ」

「一つ届け物があるだけだ」

「はぁ!? 元海軍元帥が海賊に届け物ですって!? 碌なものじゃないわ!」

ナミが声を荒げるも、センゴクの視線はローから動かない。その様子に、サンジは訝しげに表情を変えた。

センゴクは周囲を気にする様子も見せず、懐に手を入れる。ゾロが殺気立つが、そのゾロの前に腕を出して静止させたのはルフィだった。ゾロは目だけ僅かにルフィに向ける。そして、次にローを見た。危機感ならこの中で一番高そうなローだが、彼はまったく構えず鬼哭を抱き込む形で両腕を組んでいる。

センゴクが懐から取り出したのは、

「トーンダイヤルじゃねぇか」

ウソップがゾロの後ろに隠れながら呟く。

「一週間ほど前に、私の手元に届いたものだ。ロックは解除してある」

「ロック……?」

ウソップは小首をかしげ、センゴクの手に乗せられたダイヤルを見る。よく見ればダイヤル式の鍵が埋め込まれており、海軍のマークが描かれていた。センゴクはそれを、まっすぐ、ローへと差し出す。ローは眉間に皺を寄せ、差し出されたトーンダイヤルに視線を落とし、そしてセンゴクを見る。

「受け取れ。これは、お前が聞かねばならぬものだ」

ローはおずおずと手を伸ばした。その手の上に、センゴクはトーンダイヤルを乗せる。そのトーンダイヤルは薄汚れ、サビついた部分もあった。年代を感じさせるそれにローはセンゴクへと再び目を向ける。だが、センゴクはその視線に何も応えることなく、ローがトーンダイヤルを受け取ったのを確認した途端に背を向けた。そのまま船に乗り込み、挨拶ひとつせずセンゴクは去っていった。麦わらの一味はそれを唖然と見送った。

「……なんなんだ、一体」

「トラ男、あんた元海軍元帥と何か関係あんの? 七武海やってたときに何かあったとか?」

「……いや」

「なぁ、とりあえず聞いてみようぜ、それ!」

「ちょっと待ちなさいよ! 罠かもしれないでしょ! スイッチ入れた途端爆発したらどうすんのよ! あいつ渡したとたんすぐ離れたのよ!? 可能性あるんじゃない!?」

「でも、それだったら時限式か遠隔操作ですぐ爆発させるんじゃないかしら」

「見たところ爆発物っぽいのはなさそうだぞ?」

「盗聴器の類とかもなさそうだな」

 

と、まぁ色々疑心暗鬼になりつつとりあえず再生してみようぜって形になって

 

 

一体、このトーンダイヤルからどんな情報が出るのか。一同が息を呑んで見守る中、トーンダイヤルのスイッチは押された。

ジジ、ザーというノイズが入り、しばらくして、男の声が再生された。

「センゴクさん、おれです」

ガチッ!

 

「あ、あぁ!? トラ男、なんで止めんだよ!」

 

「……トラ男?」

そこには、瞳を震わせ動揺を隠し切れないローの姿があった。

「……一人で、聞きたい」

「ちょっと、何言ってんの! 馬鹿言わないで! あんた、これは一体なんなの? 何かわかったんでしょ!? それとも何、私たちに聞かれて都合の悪いことなの!?」

「んー、別にいいじゃねえか、トラ男が一人で聞きてぇってんならさ。もともとあのおっさん、これトラ男に渡しにきたんだし」

「ルフィはちょっと黙ってなさい!」

「ま、まぁまぁ、ちょっとナミさん落ち着いて……」

「サンジ君!?」

珍しくナミを抑える側に回るサンジにナミは更に憤る。だが、サンジはそんなナミよりもローの様子が気になった。この男が、ここまで感情を揺らすところを見るのは初めてだ。それも、今にも、何かが溢れて壊れそうな程の強い感情。見聞色の覇気に長けたサンジには、それが強く感じられる。

「そんなこと言ってもね、これをもってきたのは海軍なのよ!? 下手したら私たちの身に危険が及ぶかもしれないっていうのに! 一人で聞くのは百歩譲って許しても、内容は聞かせてもらわないと困るわ! どうしても一人で聞きたいっていうのなら、これ、もっていきなさい! 盗聴するから!」

「気持ちはわかるが少し落ち着けよ、ナミ。公言してりゃ盗聴になんねぇって!」

「うっさいわね! 仕方ないでしょ! こいつに盗聴器しかけてもすぐバレそうなんだもん!」

「わかった」

「わか、った?」

 

「それ、よこせ」

 

「部屋を、ひとつ借りるぞ」

「おう、いいぞ」

「え、ちょ、は? 本当にいいわけ?」

「ふふ、あなたが言い出したことじゃないの、ナミ」

 

「なんか、調子狂うわね」

ローは盗聴器とトーンダイヤルを持ってそそくさと船内に入ってしまった。ナミたちが言い合いをしている間も、ローは手元のトーンダイヤルだけをじっと見つめ、心ここにあらずといった様子だった。

「ほんと、一体何なのかしら、あれ」

「聞かせてくれるっていうんだから、すぐにわかるんじゃないかしら」

 

って感じで、トーンダイヤルの内容再生へ。

 

ナミは受信用の電伝虫を甲板に置き、その周囲をぐるっと麦わらの一味のほとんどが囲う。どうやらルフィは興味がない様で一人海を眺めている。ゾロは昼寝を始めてしまった。そんな彼らの様子は一味からしたらいつものことなので眼中になく、ただじっと、電伝虫を眺めた。

電伝虫の向こうからローの声は一切しない。ただ電伝虫とトーンダイヤルがどこかに置かれるような物音と、衣擦れの音がしばらく響き、一度沈黙する。

「……焦らしてないで早くつけなさいよ……!」

思わずぼやくナミの言葉に応えるように、カチ、と音がなる。

先ほどと同じようにノイズの音が混じり、再び、トーンダイヤルは再生された。

 

 

『センゴクさん、おれです。……これを聞いている頃には、おれはあなたを裏切っているんでしょうね。……恩を仇で返すような真似をして、すみません。自分勝手で、ほんとに申し訳ないんですが、それでも、どうかおれの想いを聞いてほしいんです』

録音を聞いている者はみな訝しげに表情を歪めた。

「何……? 誰からなの、これ」

思わず、ナミは小さく呟いた。

『2年程前、ドンキホーテファミリーに入った珀鉛病の少年のことを、覚えていますか?』

ドンキホーテという単語にローとの関わりを感じ、緊張が高まる中、チョッパーは一人、珀鉛病の単語に表情を変えた。

『珀鉛病に治療法はない。諦めろと、あなたはおれを案じて言ってくれました。……すみません。おれはそんなあなたの忠告を、聞き入れることができませんでした。……まぁ、ドジったってのも、あるんですけどね』

「珀鉛病?」

サンジがそっとチョッパーへ目を向ける。チョッパーのうろたえた表情と電伝虫の内容から、重い病気だったということは十分伝わった。

『……珀鉛病の少年。名前を、ローといいます』

「!」

誰もが息を呑んだ。チョッパーに至っては「えっ」と声を上げた。

「え、2年前でしょ? 少年って、別人? あいつ少年なんて年じゃないでしょ」

「いや、多分……トラ男のことだと思う」

情報が混乱する中、チョッパーは声を低くして言う。

『ファミリー加入当時はたった10歳です。たった10歳で、あのフレバンスの悲劇を生き残って、そして、寿命はあと三年と二ヶ月……。あまりにも、過酷な運命です……。それでも、最初は、おれも……諦めようと思っていたんです。治療法のない病気。三年と二ヶ月。10歳のガキが、おれはもう死ぬと、諦めきって、行き場のない怒りのままに犯罪に手を染める……。でも、それも、三年と二ヶ月で、終わる。そのときが過ぎるのを目を瞑って待てばいい。そうする、つもりでした』

唐突に語られた珀鉛病の少年の過去は、漠然とする情報の中でも十分その悲惨さを感じさせるものだった。特に医学を学ぶチョッパーは珀鉛病の存在と、その病に冒された国の末路を知っている。

そんな少年を見捨てるつもりだったと言い捨てるその人の声色は、とてもそのことに納得しているようには聞こえない、苦悩に満ちたものだった。

『でも、おれ、聞いちまったんです。ローは、トラファルガー・ローと、最初に名乗ったのですが……隠し名があることを、同年代のファミリーに漏らしたんです。たまたま、おれはそれを聞いてしまった。……ローは、Dの名を継いでいたんです』

「D……!?」

ロビンが目を見張る。ナミは小首をかしげた。

「Dって? 隠し名って……Dって……?」

「なんだ、あいつ本当はトラファルガー・D・ローって名前なのか?」

『だから、思わず、余計な肩入れをしてしまいました。隠していた能力をばらして、兄が……ドフラミンゴがどれだけ危険なのか説いて、ファミリーから抜けろと、説教しちまって。でも、それでローがファミリーから抜けるわけが、ない。ほんと、おれ、ドジですよね。ガキの気持ちひとつ変えられねえで、結局おれは自分の立場を危ぶめただけで……』

情報を整理する間を、過去に録音されたトーンダイヤルが与えてくれるわけもなく、次々と与えられる情報にナミたちは目を白黒させながら、もはや黙って聞くしかなかった。

『それで、おれはローを連れてファミリーから離れて旅をすることにしました。兄には、ローの病気を治すためと告げて、ローを無理やり掻っ攫って、二人海に出ました。半年前、私用で任務を離れると告げたのは、これです。でも、それすら……おれの考えは甘かった』

ロビンは静かに情報を整理する。この録音の主はあのドフラミンゴの弟で、おそらく、海軍側のスパイとしてドンキホーテファミリーに入っていたのだ。

『センゴクさんが治療法はないって断定した意味を、おれは履き違えてました。ローがファミリーに加入してから……フレバンスの悲劇が起きてから、もう二年が経つ。二年も経ったなら、治療法が見つかっているんじゃないかと、そうでなくとも、研究している場所があるのではないかと、そんな、根拠も何もない勝手な願望を抱いてました。どこかで、ローを治療してくれる人は見つかると……。おれは、ローを取り巻く環境を、何も理解してやれていなかった。今思えば、あいつをファミリーから追い出そうなんて、なんて恐ろしいことをしていたんだと……』

みなの視線は自然とチョッパーへと向けられた。チョッパーは歯を食いしばって床に置かれた電伝虫を見つめる。

『北の海の、全ての医者を、回りました。……どこも、誰一人、ローを診てくれる医者はいなかった……!! ほとんどの病院が、感染を恐れてローを排除しようとする。銃まで向けられることも、ありました……』

「……そんなやべぇ病気なのか? 珀鉛病ってのは」

「治療法が見つかっていない、強い感染力の持つ病気なんだ。それも、肌が白くなるっていう、目に見える病気だったから、余計と……」

「だからって、……ひでぇ」

『……あのローが、不遜な態度で他人に興味を持たずあまつさえ見下すような冷たい目をしていたローが、病院に行くたびに、小さく、震えていました。……それでも、探し続ければ、いつか、いつか見つかるんじゃないかと、そう思って、半年旅をしてきました。でも、病院は、ダメだった。おれは、痛みを忘れようと我武者羅に生きてるガキに、ただただ過去の痛みを思い出させることしかできなかった。自分の無力さに、馬鹿さ加減に、ほんと、嫌になっちまいましたよ……。おれはこんなだから、あの時も、兄を止められなかったんだろうなって……。ローを取り巻く、あまりに理不尽な環境に、あまりに無力な自分に、悔しくて、悔しくて……。おれは、本当に、何してんだと、途方に暮れましたよ』

録音された声には言葉通りの苦渋が宿り、鼻をすする音も混じった。

『でも、でもですね……センゴクさん、聞いてください。不思議でならないんですけどね、ローのやつ、おれに、なつきやがったんですよ』

鼻を啜りながらも続けられた言葉は、苦汁の中にも、歓喜を宿していた。

『ファミリーに入った当初は、おれ、あいつに刺されたこともあったのに。当然ですよね。自分が生きられる唯一の居場所からひたすら追い出そうとしてた人間だ。恨まれて当然のことをしていた。その後も、トラウマえぐる様なことしかできなかったってのに、なのに……。いつからだか、無理やり腕を捕まえていなくても、あいつはおれの後をついてくるようになったし、目を合わせて話せるようにもなって、ドジなおれに代わって飯作ったり、航海の手助けまでしてくれて……ふふ、センゴクさん。あいつね、何もかもぶち壊したいなんて言って海賊なんかになったガキですけど、本当は、すごくお人よしで、優しい子なんですよ。結局、医者もまともに見つけてやれなかったのに、それなのに、あいつ、おれのこと、ずっと呼び捨てで呼んでたのを、コラさんって、呼んでくれるようになったんです。それがね、ほんっと、なんか、なんか、ね』

ナミは、思わず口元に手を当てて胸に広がった感情に震えた。録音者は自分を卑下し続けているが、心のそこから当時少年だったローを助けたいと願っていたのはこれまでの録音内容で十分知れる。そして、それは少年であったローにもしっかり伝わったのだろう。

『なんでかな、ほんと、おれ、何もしてやれてねぇのに、あいつ、おれなんかを、信頼してくれるようになったんです。たまに、笑ってくれるようになりました。ほんと、随分と変わった。多分、今のローが、本当のローなんです。ローが、おれと一緒にいて、本来の自分を取り戻していく。ファミリーにいた当時は一度も見せなかった笑顔を、おれには見せてくれる。時々ですけど、自らおれに擦り寄ってくることもある。こんな、こんなおれを、信頼してくれている。そのことに、おれは……救われたんです。そんなローがね、可愛くてしかたないんです』

 

『おれは、ローを助けたい。もっと心から笑わせられるようになりたい。おれは、それからも根拠のない願望をこりもせずにずっと言い続けてました。いつか、きっと病気を治してやるって、探せばきっと、治療法は見つかるって、治ったら、いっぱい楽しいことをしよう。おいしいレストランに堂々と入って、腹いっぱい食べよう。綺麗な景色をたくさん見よう。世界には、もっともっと楽しいことや美しいものが溢れているんだって。……ローはね、嬉しそうに頷いてくれます。でも、おれには、わかるんです。あいつは、そんな日が来ることを信じちゃいない……。ただ、おれの夢語りに付き合ってくれてるだけなんだ。だから、おれはね、絶対、ローを助けてやりたいんです。この夢物語を、現実にしてやりたい。それを実現してやった日に、ローはいったい、どんな表情を見せてくれるんだろう。おれは、あいつから何もかもを諦めたような達観した表情を消し去りたいんです。あいつを、自由にしてやりたい。病気さえ治れば、珀鉛病さえなければ、あいつは、自由になれる。無知の銃を向けられることもなく、色んな人と関わって、夢だった医者にもなって、ありのままの姿で、笑える日が来る。おれは、そんなローが見たいんです』

 

『……だから、だから、お願いです。オペオペの実は、おれ達にください』

 

『ローはフレバンス一の医者の息子だ。賢いあの子なら、あの実さえあれば、きっと治療ができるに違いない。……はは、またおれ、悪い癖がでてますかね。……センゴクさん、ローはもう数日前から高い熱を出して碌に歩けなくなってます。……まだ、ローが言っていた寿命までには時間があるはずなんですけど……でも、熱が下がらないんです。この小さな体のほとんどが、もう、白く染まっています。きっと、時間はもうない。こんなボロボロのガキにどう自身を治療させるんだ……悪魔の実も、宿してすぐ使いこなせるわけじゃない……わかっているんです。でも、この当てのない旅よりも、よほど可能性があるんです』

 

『世界中の人間が、ローを見捨てようとしている。ロー自身もが、自分の命を諦めちまっている。おれしかいないんだ。ローの命を繋げるのは、おれしかいない。たとえ全てを敵に回しても、おれはあいつを守ってやる。死んでも、守る。それが、兄だけでなく、海軍を……あなたを敵に回す形になろうとも……おれは、絶対諦めたくない』

今までどこか頼りなさすら感じるほどに優しさが滲んでいた男の声は、一転して、誰にも折ることのできない信念の塊となっていた。

『きっと、うまくオペオペの実を盗み出したとしても、その後まともに生きられるかもわからない。でも、たとえ何を犠牲にしても、ローが生きてくれれば……あいつが、この雁字搦めの運命から、飛びたつことさえできれば……おれは、それで、満足なんです、それがおれの、夢なんです』

 

『センゴクさん、……もし、無事にローにオペオペの実を与えることができたら……無事に、ローが病気に打ち勝つことができたら……もう、あいつのことは放っておいてやってもらえませんか。海軍を裏切ったおれを捕まえるのは、かまいません。でも、ローは、もう自由にしてやってほしいんです。今はもう、Dの運命にすら縛られてほしくない』

 

『自由に、どこまでも自由に、生き抜いてほしい。そして、沢山悲しいもんを見ちまった分だけ、それを塗り替えるだけ、美しいものを、暖かいものを、見てほしい』

 

『ねえ、センゴクさん、あいつね、きっとオペオペの実の力をものにしたら、すっごく、いい医者になると思うんですよ。あいつ、ほんと頭いいから。ねぇ、センゴクさん。おれね、あいつのこと、ほんとうに、愛おしく思うんです。センゴクさん、あなたがおれを拾って育ててくれたときも、こんな感情だったのでしょうか。そうだったら、嬉しい。そして、わかってくれると、嬉しいです』

 

『……本当に、ごめんなさい。でも、おれ、センゴクさんに育ててもらったからこそ、今のおれがあると思ってます。おれは、おれの正義を貫きます。兄を止めるのを使命としてたんですけどね、ほんと、すみません。兄のこと、お願いします。センゴクさん、ほんとうに、今まで、ありがとうございました。大好きです。あのとき、あなたに会えなかったら、今頃おれはどうしていたか……センゴクさんは、おれにとって光そのものでした。センゴクさん、だから、おれ、センゴクさんのようになりたいです。ローにとって、そんな存在になってやりたい』

 

『……センゴクさん、おれ、行ってきます。どうか、お元気で』

 

いつからか、ナミやウソップ、チョッパーの目には涙がたまっていた。フランキーに至っては声を上げて号泣している。この電伝虫には、余りある愛が詰まっていた。

そして、この声の持ち主はその信念のままに、自分の夢を叶えた。トラファルガー・ローは、オペオペの実の力をその身に宿し、今も生きている。

 

だが、その彼は、パンクハザードとドレスローザで、この奇跡のような命を、途方のない愛によって繋がれたその命を、どう扱っていただろうか。

だから、センゴクはローにトーンダイヤルを渡したのだろう。だから、このトーンダイヤルは今、ここにあるのだろう。

 

邪推したことを恥じながら、ナミはそっと電伝虫の通話を切った。センゴクが、そしてこの声の主が伝えたかった想いは確かに伝わった。それは、通話の先から漏れる堪え切れない嗚咽が物語っていた。

「やっぱ、ドフラミンゴが本命だったってわけか」

サンジはふぅ、とタバコの息を吐いて空を仰ぎ見た。

この録音の主は、もうこの世にいないのだろう。どのような最期を迎えたのかはわからないが、きっと、宣言どおりに、ローを守ったのだろう。

自分のために無茶をし、そして大切なものを失わせてしまう。その感謝と、それを上回る苦い負い目の感情を、サンジは知っている。

――死ぬくらいのことしねぇと、クソジジイに恩返しできねぇんだよ

 

 

 

「……あれ、ルフィは?」

ナミはあたりをキョロキョロと見回す。海をただ眺めていたはずのルフィの姿が、いつの間にかなくなっていた。

気づいていたサンジは静かに笑みを浮かべて「放っておいたらいいですよ」と伝えた。

 

 

 

 

ローは一人、部屋の中で暴れ狂う感情と戦っていた。馬鹿みたいに涙が零れて仕方なかった。

ずっと、コラさんを犠牲に生き残ってしまった理由を探していた。Dの名を気にかけていたことは覚えている。でも、Dが何なのかもよくわからない。いつものドジのせいなのか、コラさんが語るDの意味がさっぱりわからない。ただ、コラさんはドフラミンゴを止めたがっていた。それは行き場を失ったおれに、わかりやすい理由をくれた。

でも、どうしようもねぇ勘違いだった。いや、本当はなんとなく、わかっていたのだ。コラさんがそんなことの為におれを助けてくれたわけじゃないことを。そんなもの、ただ自分を納得させるための言い訳でしかなかった。

「トラ男」

「……っ!」

突如声をかけられ、情けなくも体が跳ね上がる。おれは未だにボロボロと涙をこぼしている最中で、慌てて目を擦った。

「こいつが、トラ男の大好きだったやつか」

「……」

麦わら屋はおれのそんな様子を茶化すわけでもなく、ただ淡々とそう聞いた。

「すっげー優しいやつだったんだな」

「…………あぁ」

そう、コラさんは、優しい人だ。優しすぎる人だった。

 

 

 

「でも、ひでぇやつだな」

 

唐突に告げられた言葉に、絶句する。

大切な人を貶されたと、苛立ちも沸いた。

だが、何故か言葉は何も出ず、体も硬直して動かない。

「……」

「なぁ、ひでぇやつだ。トラ男も、本当は怒ってんだろ?」

お前が、あの人の何を知っているというのだ。

麦わら屋を睨み付ける。だが、麦わら屋は感情を感じさせない真っ黒な、何もかもを見透かしているかのような目でまっすぐおれを見つめていた。

「だから、トラ男、こいつの本当の願い、素直に適えてやれねぇんだ」

「……」

「なぁ、言っちまえよ、お前はひでぇって。本当はずっと言いたかったんじゃねえのか。だから、お前、こいつに仕返ししようとしてたんじゃねぇのか」

「……何、言ってんだ、お前……」

「でも、もうそんなつもりはなくなってんだろ? だから、言っちまえばいい。叫んで、喚いちまえばいい」

「…………意味が、わからねぇ。仕返しだと? おれは、おれは……この人に感謝しか、ねぇよ」

そう、感謝しかない。大恩人だ。あの人から全てを奪ったおれが、一体、これ以上あの人に何を求めるというのだ。仕返しだと? 馬鹿を言うな。おれは、おれは……

 

麦わら屋は、黙ってずっとおれを見ていた。

その目は、何もかもを、ただあるがままに受け入れようとする目だった。

いつの間にか、その目に吸い込まれていた。

 

「……麦わら屋」

「ん」

「おれは、おれはな……」

 

「コラさんに、死んでほしくなかったんだ」

「うん」

「コラさんにだけは、死んでほしく、なかったんだ。絶対、死なせたく、なかったんだ」

「うん」

淡々と、相槌が返ってくる。それが、促してくる。全て吐き出せと。

13年間、ずっと胸に溜め込んでたこの想いが、ぐるぐると渦巻く。ずっと、そう、ずっと苦しかった。

「おれ、別に、頼んでねぇんだ……」

一度も、そうしてほしいなんて言ったことない。むしろ、おれはずっと嫌だやめろと拒絶していたはずなんだ。

「ファミリーから追い出そうとしたのも、無理やり拉致って病院連れまわしたのも……」

嫌だ嫌だと、ずっと喚いていた。

「おれだけ逃がすために、一人囮になって、死ぬのも……!」

こんなのは嫌だと、叫ぶ声すらあの人は能力で消してしまって。

「頼んでなんか、ねぇ……! おれ、そんなこと、望んじゃ、いなかった……っ!!!」

 

そう、コラさんは、やさしくて、ひどい人だった。

 

「あんたにだけは、死んでほしくなかったのにっ!!!!」

堤防が決壊したかのように、おれは声を荒げた。もうコラさんはいない。でも、言わずにはいられなかった。13年も経って、再び一方的に愛を押し付けてきやがって。ふざけないでほしい。おれの気持ちはどうなる。少しは汲み取ってくれたっていいじゃないか。おれの本当の願いは、夢は、一生叶わないんだ。

やっとの思いで一度堪えた涙が、また流れ出す。

「なんで死んじまったんだよ! 何でっ! 何で嘘ばっかりつくんだよ! 一緒に逃げようっていってくれたじゃねぇか!!!! 綺麗な景色見るのも、うまい飯くうのも、全部、一緒に旅してって……一緒にって……!!!!!」

すべて、コラさんから言い出したことじゃないか

「おれはっ、おれは……あんたを死なせてまで、生き延びたいなんて、願ってねぇよ!!!!」

麦わら屋は、もう相槌を打たなかった。ゆっくり距離をつめ、狂ったように喚き散らすおれを抱き込む。おれはそれに縋り付くように腕を回した。

「おれは、あんたに看取ってもらえりゃ、それでよかったんだ!!! それだけで、十分、幸せだったんだ!!!!!」

 

「ひでぇよ、コラさん!!! あんたは、自分勝手過ぎるんだよ、馬鹿……っ 病気なんかより、よっぽど……辛かったよ!!!!!!!」

 

この行き場のない想いは、同じようにぶつければ、消えてなくなるだろうか。おれも、あなたのために全てを捨てて、あなたのために死ねたら、この痛みから解放されるだろうか。

でも、そんなのは、逃げでしかない。おれは、あなたからもらったこの愛を、ちゃんと、受け止めないといけない。でも、そうするには辛くて、辛くって、爆発してしまいそうだった。

麦わら屋は、それを吐き出させてくれたのだ。

帽子越しに頭を撫でる感覚。抑えきれない感情をそっとなだめ様とする優しい手が、何度も何度も往復される。頭を、背中を、時にぽん、ぽん、と叩いて。出し切ってしまえと促すように。それにつられるように、馬鹿正直におれは涙を流し続けた。

 

「トラ男、きっと、こいつ、十分反省してんじゃねぇかな。トラ男、今までずっと大変だったから。だから、もう仕返しも十分だよな」

「…………あぁ」

「ししっ、だったら、トラ男は、今からこいつの、本当の願い通りに、トラ男の思うように自由に生きればいいんだ。これから楽しいな!」

ローはぼろぼろと涙を零し、必死に嗚咽を堪える最中、確かに頷いて見せた。

 

コラさん、おれは、あなたを死なせてまで生きたいと願ったことはない。

それでも、あなたがおれを愛してくれたから、おれの命はここにある。

コラさんの死を踏み台に生きるのは苦しいけれど、でも、おれ、生きるよ。

あなたの願い通り、楽しいもんは沢山見つけたし、色んなやつらと関わった。

おれはもう、寿命を飛び越え何年も生きて、海賊だけど医者もやってる。

あんたの命を糧にする覚悟は、できたよ。

コラさん

おれに、命をくれて、ありがとう。

おれも、愛してるよ。

大好き。

 

 

さようなら。

 

 

 

 

「よう……はは、お前、目ぇ真っ赤じゃねぇか」

「うっせぇ、ほっとけ」

「ホットミルクでも飲むか?」

「ガキ扱いすんじゃねぇよ」

 

「しかし、やっぱり本命はドフラミンゴだったってわけか」

「まぁな。騙して悪かったな」

「一切負い目を感じさせない顔で言われてもねぇ」

「本心は隠してたが、計画や利害については問題なかったはずだしな」

「まぁ……確かに? でもお前、こっちの本命のカイドウ戦のときには同盟破棄してたんじゃねぇの、それ」

「そうだな」

「お前ねぇ」

それも、その同盟破棄はおそらく、ハートの海賊団側の船長が死んだから、という形になっていた可能性が高いのだ。

「ま、過ぎたことだ。今はもう計画は大いに狂っておれたちは仲良くカイドウに目を付けられた者同士一蓮托生となっちまってんだ。今更手を切るもくそもない状況だ」

「はは、ざまぁみろってんだ」

「くく、まぁいいさ。おれもドフラミンゴを倒すと決めた時点で腹は括ってる」

 

「へぇ、やる気じゃねぇか」

「当たり前だ。こんなところで死んで溜まるかってんだ。せっかく拾った命だからな」

 

「生き抜いてやるさ。どこまでも、自由に、生き抜いてやる」

そう告げたローの目は、強い信念と、そして受け入れた愛に満ちていた。

 

 

 

 

設定。

ミニヨン島へ向かう途中でコラさんがトーンダイヤルに録音。海軍がこっそり使ってる鍵付きトーンダイヤルって設定を勝手につくりゅ。でも事件の最中トーンダイヤル紛失。13年経った今になって海軍のマークを見て届けられた奇跡って感じ。

もともとローのことを もしかして、と原作どおり思っていたセンゴクさんはトーンダイヤルを聞いて全て把握。知りたかったことは全部知れたのでローとお話はしない。ローの心中は全て察した感じ。原作よりもローとコラさんの絆は十分伝わってる感じ。

センゴクとロシナンテの関係をローが知らない可能性をこっそり危惧してたけれど、船に乗り込んだ際のローの様子で多少なりとも知ってるんじゃねーかなーって察知した感じで。トーンダイヤルだけ預けた感じ。多分捨てたりしないだろうと。

 

はーーーーー楽しかった。

とりあえず、コラさんがひたすらローさんについて語るところを麦わらの一味に利かせたかったんだけどさ、録音とかいう形とったせいでリアクションくっそさせずらかったでごじゃる。こういうのはやっぱ漫画とかでやると表情とかで表現しやすいんじゃなかろうかぁあああああ!?わいに絵心があったならば・・・・・・・。

コラさんには Dの運命にも縛られてほしくない 自由に生きてほしい ってコラさん本人からもいってほしくって書きました。でもほんまDってなんやねんワーテルってなんやねんめっちゃ気になるはよ!はよ!解明はよ!

ローさんが慟哭するシーンは最初考えてなかったんだけど、やっぱいれました。

コラさんは優しいけどひでぇやつ。自己犠牲は他人を傷つけるのです。ダメ絶対!!!! でも仕方なかったんだけどね(´・ω・) でも残されたローさんのことを思えば、生き残ってほしかったですほんま・・・。悲しいなぁあああああああああああ。

ってことで、そのあたりの慟哭させればもれなく内緒が泣く。

 

内緒妄想ローさんは原作よりもコラさんという沼にどっぷりはまって沈んじゃいそうなので、「さようなら」して前へ進まないとって意味でさようなら。別にコラさんを忘れるとかそういうのじゃなくて、前向きに、しっかり死者とお別れしようねってお話。

切ないお話としては結構気に入ってるけれど、麦わらの一味に見せるって本題部分は小説でやるには無理感あって大変。

 

ちなみにチョッパーたちは珀鉛病患者と一緒にずっといたこの人やドンキホーテファミリーはどうなったんだって違和感から、珀鉛病は実は・・・って感じたりとかあるはずなんだけれど、発言させる間がねぇんだよぉ!!!!!!!!!!!!!

Comment

  1. すあ より:

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    • 内緒 より:

      ぬおおおおおおおっ!初めまして!内緒です!
      うわああああジューダスも好きでローも好きな人がこの偏狭の地に来てくれるなんてええええええええええうれじいいい゛いいい゛いいいいいいい!!!!!!!
      何かしらOP小説一個書き上げてどっかと繋いで同士探してぇなあああなんて思うくらい飢えてたのでほんっと嬉しい・・・うれしい・・・・・・・です!!!!!(涙)

      すあさんの仰るロー像がほんまどんぴしゃ……!! 突然核心突いて動くルフィってほんまかっこいいですよね……!!

      ローの過去は一味の過去を複合したみたいだってちょくちょく言われてますもんね! ロビン、サンジ、ナミ、チョッパーあたりはほんと凄い共感してくれそうです。なのでこの4人との絡みが結構好きなんですよねぇ……! 私も共感したりって話すごい好きなんですよ! そのための過去ぶちまけ話!w でも難しくってネタメモ状態なのもあり雑な共感表現になってしまってましたが、好きって言ってもらえて嬉しいです//////

      センゴクさんとローさんの二人すっげえええいいですよねぇええええ!!!!!!! わかります!!!!!!!! わかります!!!!!! DR終戦後のあの二人の会話はマジ神シーンだとほんま・・・ほんま・・・尊い・・・。
      無駄にこの話と類似というか本筋同じ内容を他に2,3ネタメモ帳に置いてるくらいセンゴクさんとローさんの二人の話好きですw

      他にもたくさん読んでくださりありがとうございます!
      フレバンスホラーネタは色々萌えが燃えますよね……!? やっぱりホラーネタって素晴らしい・・・。 実はちょっと迷走して収拾つかなくなってるネタですが、まぁネタメモだしってことで今度残ってる文全部あげますね//////////

      長文すっごい嬉しいですよ!謝らないでください!!!是非とももっとローさんのこと語り合いましょう/// 感想ありがとうございました!

  2. 匿名 より:

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    • 内緒 より:

      妄想殴り書きにもかかわらず気に入って頂けて嬉しいです~! センゴクとローの関係は夢がひろがりますよねぇ~~~!