ハートが夢見る医者 3-1

OPハートが夢見る医者
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毎回最初から読み返して編集かけて、途中で止まってをずっと繰り返しちゃってて、いつまでたっても後半部分が書けないので一旦最初のほう下書きうpしときやす。

なんか下書き側の番号ぐちゃぐちゃになっちゃったけど、清書済み側のハートが夢見る医者2の続きでっすん。

あとついでに小説ページに改ページ導入してみた。ハートが夢見る医者のページ分けがpixivと同じ感じになりまちた。やっぱ2万文字とかになるとある程度の場所でページ分けられてる方が部分的に読むとき読みやすいなーって思ったのでちた。私もここ書きたかったンッスっていう3ページ目ばっかり自分で読み返しちゃうしね。てへぺろりん。

ローが意識を取り戻したのは朝の七時。ワズワズの実の能力者による襲撃から一晩が経ってのことだった。

それから時を少し遡った医務室では、ロビンが椅子に腰掛け倉庫部屋へと向かわせた分身の操作に集中していた。

ロビンが座っているのはナミが眠るベッドのすぐ隣。そのベッドの上で、ロビンに背を向ける形で横向きに眠っていたナミの瞼が何度か震えた。やがてパチ、と大きな瞳が開かれる。

「んぅーっ!」

ぐっと大きく伸びをし、ナミは上体を起こした。いつもの朝と全く同じだ。ほんの少し体がだるく感じるが、それは一日中ベッドで寝ていたせいだろうとナミは思う。

もう熱はない。昨日の晩には既に一度目を覚まし、サンジの作った粥を残さず食べた。チョッパーの薬は、かつてくれはが投与した薬と同等か、それ以上の効果を見せている。完全復活と言っていいと思うのだ。

(だというのに……)

能力使用に集中する為、目を瞑り俯いているロビンを見て、ナミは苦笑を浮かべる。彼女がずっと隣で看ていてくれたことを、ナミは知っている。

かつてDr.くれはに”熱は下がっても菌は残っているから退院は許さない”と、言われた病ではあるが。

(ちょっと過保護が過ぎるんじゃない?)

ナミは医務室に居たもう一人の人物、ウソップへと呆れた目を向けた。その少し不満気な視線に気付いたウソップが苦笑混じりに歩み寄る。

「おう、起きたか」

「おはよう」

ウソップは能力に意識を向けているロビンに代わり、一時的にナミの様子を見に来ているのだろう。

ナミは不満の表情を一度引っ込め、陰りのない笑みで挨拶を返す。やや過剰気味な看護に鬱憤は溜まっているものの、心配してくれる彼らの気持ちは無下にしたくない。

ウソップはベッド脇のもう一つの椅子に腰掛け、手に持っていた水をナミへと差し出した。

「だいぶ調子が良さそうだな。体調はどうだ?」

「うん! もう全然平気!」

ナミは水を半分一気に呷ると、一呼吸ついた後、ウソップの目をじっと見る。先ほど引っ込めた不満を無遠慮に送り込んで。

「だから、もういいでしょ?」

じっとりと鬱憤をぶつけてくる瞳に、ウソップは再び苦笑した。

ナミは昨晩から航海の状況や作戦のことをしきりに気にしている。下手に熱が下がっていることもあり、何なら甲板に出る勢いだったそれを、今は休めと無理に寝かせ続けてきたのだ。

二年前のくれはの言葉と同じく、三日間は油断ならないとチョッパーに聞かされていた面々は、チョッパーがローにかかりきりであるが故に、過剰なほどにナミに眠ることを強いた。

大丈夫だから今は眠れ。考えるのは元気になってから、と、現状を気にするナミを真綿に包んで遮ってきたのだから、ナミに溜まった不満は相当だろう。

(さすがに情報くらいはちゃんと共有してやった方が安心できたか)

少し申し訳ない気持ちになりつつ、「わかったわかった」と、ウソップはナミの言葉に肯定を返し、椅子に座り直す。

そして、先日起こったことから今の状況までを少しずつ語りだした。

敵の能力によって過去の病気を再発症させられたこと。あの戦闘は当然勝利に終わり、その能力者を捕えていること。今は天候が安定しており、舵はブルックが取っていること。そして、ローが倒れていること。

「トラ男が?」

「あぁ。やばい病気を再発症しちまったみてぇで、今チョッパーがかかりきりになってんだ」

医務室にいるというのに、ずっとチョッパーの姿を見かけなかったことを疑問に思っていたナミは、「なるほど」と小さく頷きながらウソップに続きを促す。

ウソップは神妙な面持ちで語った。治療法の見つかっていない、ロー自身の能力でしか治せない病気らしいということ。伝染病であること。故に倉庫部屋にいるということ。そして、この伝染病が、一つの国を滅ぼしたということ。恐らく、ローはその国の出身だろうということ。

そこまで説明し、ウソップは昨日のあの出来事のことを、どう語るべきかと悩む。自身の二の轍をナミに踏ませたくはない。だが――

「その、だからな、えーっと……」

ウソップは必死に言葉を選ぶ。告げたいことははっきりとしているが、それを伝えるには語るべき史実があまりに残酷すぎて口にし難い。

「…………肌が、白くなる病気なんだ。それで、伝染病だから……迫害が、あったんだ。だから……」

ようやく、それだけ口にした。

そのウソップの表情を見て悟ったのか、ナミは首を小さく振ってウソップの次の言葉を遮った。

「そう……わかったわ」

ナミの沈痛な面持ちから、その説明だけでウソップが何を伝えたかったのかを十分に理解したことが知れた。

ウソップは苦しそうに笑顔を浮かべ、小さく頷く。その察しの良さに救われた。この話は、詳細を思い浮かべるだけで大きな石を三個飲み込んだかのような、重く苦しい気持ちにさせられる。

一度床に視線を落とした後、ウソップは切り替えるように表情を明るいものへと変えて言う。

「まぁ、そんなわけだからよ。今の状態じゃ作戦の決行なんて、とてもできやしねぇ。だからお前も今は気にせずゆっくり休んでろよ」

ナミの不満は、自分のせいで作戦に支障をきたしているのではといった責任感と不安から来ている。それを気遣うウソップの言葉に、ナミは小さく笑って見せた。

「ん……そっか……でも、私たちがあの島に向かおうとしていたことはバレているのよね。あいつらで全員ってわけじゃないだろうし。ベポちゃんたち大丈夫かしら」

「あいつらのことだ。上手くやってると信じよう。トラ男のことも合わせて連絡とりてぇけど、電伝虫も風邪引いちまって連絡がとれねぇんだよ」

「そう……。私たちが攻め入ろうとしていたこと、悟られてないといいけど」

顎に手を当てて思いを巡らすナミは、ふと視界の端でロビンが体勢を変えたのに気づいて顔を向ける。ロビンはずっと交差させていた腕を下ろし、にっこりとナミに笑いかけた。

「おはよう、ナミ」

「ロビン」

「お。戻ったか、ロビン」

ウソップも同じようにロビンへと顔を向ける。

「えぇ。診ていてくれてありがとう、ウソップ。ナミ、体の調子はどう?」

「全然平気。ちょっと寝すぎちゃったわ。ずっと診ててくれたんでしょう? ありがとう」

ナミはもう一度大きく伸びをして、元気な様を見せる。その姿にウソップは苦笑を浮かべて言う。

「だからってお前、無理はするなよ」

「わかってるわよ。チョッパーにはトラ男を見ててもらわないとだものね。ロビン、トラ男の様子を見てきたの?」

「えぇ。先ほど意識が戻ったわ」

その朗報にウソップは体を前のめりにした。

「本当か!? じゃあ、大丈夫そうなんだな!?」

「まだ油断はならないでしょうけど、今のところ快方に向かっていると思っていいんじゃないかしら」

微笑むロビンの姿に、ウソップは体中から力を抜きながら胸を撫で下ろし、「良かったぁ」と息を大きく吐いた。

「下手したら死ぬかもしれねぇって言うからよ、ほんっとどうなることかと思ったぜ」

「そんなにだったの!?」

「あぁ。治療法がないっていうからよぉ」

ローがそれほど窮地にあることを知らなかったナミが目を丸める。ウソップが安堵と同時に疲労を見せていることからも、ずっと気を揉んでいたことが窺い知れた。

「やっぱりトラ男がこれくらいで死ぬわけねぇよな」

自分に言い聞かせるようにウソップは言って、脱力した体を腕で支えながら天井を仰ぐ。その表情には安堵の笑みが浮かんでいた。「よかった、よかった」と、なお口に出して言うウソップに、ロビンも微笑む。

そうして、安堵から医務室には和やかな空気が流れた。

ひときわ表情を明るくしたウソップは、虚脱の体制をゆっくりと戻しながら、「そうだ。お前が倒れてからのウソップ様の大活躍劇を聞かせてやろーう!」と、ナミに前日の戦闘の武勇伝を語り始める。それをいつものことと、笑って聞き流しながら、ナミはロビンに今日の朝食は何だろうか、といった他愛のない話を投げかけた。サンジが調理中なのだろう。朝の空気と共に食欲をそそる匂いが漂ってきた。

平穏を取り戻し始めた、そんな感覚があった。

だというのに、ふと、そんな空気に不似合な音が聞こえてきた。それに気づいたナミが小首を傾げ、ペラペラと話し続けていたウソップの言葉も途切れる。それにより、先まで和やかだった部屋はシン、と静まり返り、その音は確かなものとなって届いた。

「……ふぇ…………ひっく………」

段々近づいてくるそれに、三人は顔を見合わせる。それは小さな嗚咽だった。

各々扉へと顔を向ける。コン、と頼りないノックの後、扉を開けて入ってきたのは、ぼろぼろと涙を零すチョッパーだった。

「チョッパー!?」

「いったいどうしたの!?」

大きな目いっぱいに涙を溜め、溢れさせたものを次から次へと零していくチョッパーは、何度も嗚咽で体を引きつらせながら「ふえぇ」と声を上げ、ロビンへと歩み寄ってその体に縋るように泣き始めた。

「な、なんだ!? 今度は何があったんだ!? トラ男は目を覚ましたんじゃなかったのかよ!?」

「う、うえぇ……トラ男、目、覚まじだ……っ! えぇんっ……」

ローの容態が急変したのかと、ウソップは慌てて椅子から立ち上がるが、チョッパーの様子からしてそれは違うらしい。では、ローが目を覚ましたから感動して泣いているのだろうか。いや、それもどこか違う。

ウソップは困惑して、先ほどまで倉庫部屋の様子を見ていたロビンへと顔を向ける。だが、ロビンもまた状況が掴めずにウソップと同じ顔をしていた。

「チョッパー、落ち着いて。どうしたの?」

嗚咽を混じらせ縋り付くチョッパーの頭をロビンは優しく起こし、その目元にハンカチを当てる。

「また何かあったの?」

ロビンの問いに、チョッパーは首をぶんぶんと横に振って答える。それでも嗚咽が止まらないチョッパーは中々話し出すことができない。ロビンたちは辛抱強くチョッパーが落ち着くのを待った。

やがて、チョッパーが嗚咽の合間にようやく言葉を紡ぐ。

「珀鉛病はっ、……えぐ……伝染、しねえ゛、って……っ!!」

――――その言葉に、ウソップたちは固まった。

「…………え?」

聞き間違いだろうか。そんな疑問すら過ぎる。思考が、止まる。

珀鉛病は、伝染しない。

言葉の意味は単純だ。だが、これまで聞いてきた情報と全く噛み合わない。だから、理解ができない。

「えぐっ……ふえぇえ……」

凍った空気の中、チョッパーの泣き声だけが小さく響く。先ほどまでチョッパーの頭を撫でていたロビンの手も、今は硬直して動かず、その頭の上に置かれるのみであった。

珀鉛病は、伝染しない。

ウソップは先ほどチョッパーが嗚咽混じりに伝えた言葉をもう一度自分の頭の中で繰り返す。

そうか、伝染しないのか、じゃあ安心だな。そんな考えが頭の片隅に流れつつ、その奥に残る異様な感覚が思考を凍らせてくる。

珀鉛病は、伝染しない。

もう一度、頭の中で繰り返す。ようやく頭が少しずつ回り出した。そして、気づく。

……おかしい。それだと、おかしい。だって、昨日聞いた話では……。

ウソップは喉が詰まったような感覚を覚えた。その詰まった物をなんとか吐き出すように、嗚咽以外聞こえなくなってしまったこの部屋の静寂を破る。

「いや、いやいや、待てよオイ! だって、お前……昨日、……ロビンだってよぉ!?」

ウソップはまともに言葉を紡ぐことができず、それでも必死に思いを訴える。何かの悪い冗談だと願い、口の端に笑みを浮かべ、それでもその目は恐ろしい怪物でも見たかのように震えていた。

チョッパーが言ったのだ。珀鉛病は恐ろしい伝染病なのだと。昨日、ロビンだって言った。だから、戦争が起こったのだと。伝染病だから、病が広がらないように……そうして起こった悲劇なのだと、そう言っていたはずだ。だから一つの国が滅びたのだと。恐らく、ローの故郷だろう国の人々は、伝染病だから、みんな殺されたのだと。そう教えられたばかりだ。

その根本が覆った。今踏みしめている地面が崩れて落ちるような衝撃だった。

ウソップの混乱する脳は、すべてが覆ったというのなら、フレバンスが滅びたというのも全て嘘なのではないかと、見当違いな理想へと向かう。

国一つ滅びた大事の根本だ。それがひっくり返ったというのなら、国が滅びたという事実もくるんとひっくり返って、本当は国は健在だと、今も変わらず国民たちは平和に暮らしていると。恐ろしい伝染病の話すべてが嘘であると。そんな、自身が語る嘘のような、救いのある話であればいいと、思考が逃げに走る。

でも違うのだ。チョッパーの嗚咽が、その夢を否定している。ただ伝染病だったという情報ひとつだけがくるんとひっくり返ったのだと…………そんなあまりに馬鹿げた恐ろしい話を、ウソップはとても直視できない。

「だって、お前……国が一つ、滅んだんだろ……!? 伝染病だから滅んだんだろ!? 戦争になったのは、伝染病だったからなんだろ!? そうじゃねえってのなら、お前、それは……っ!!」

混乱と激情をそのまま露わにするウソップの隣で、ロビンは見開いたまま震わせていた瞳を、ゆっくりと、静かに伏せる。

「…………そう」

そして、ぎゅっと、チョッパーを抱き寄せた。

彼女は誰よりも早く真実を受け入れた。そんなロビンの姿に、ウソップは顔を青くしながら、「いや、でも……」と、頭を横に振る。それでも、それ以上言葉が続かなくなり、部屋に沈黙が落ちる。

「……マジ、かよ」

掠れた声で、ウソップはとうとう、その真実を受け入れた。

「えっ、うええ、トラ男、伝染病だって思いながら、近づくやつは、初めてだって……! ありがとう、って……! おれ、おれ、もう、何て、何て言ったらいいか、わかんなくて……っ! おれが、おれが泣いてちゃダメなのにっ!」

嗚咽交じりに必死に告げるチョッパーの言葉。それを聞き、ウソップもロビンも、どうしてチョッパーが泣きながらこの場にやってきたのかがわかった。珀鉛病の真実と、チョッパーが聞いたというローの言葉。それを聞かされ、ウソップもロビンも、今、同じ思いを抱いたのだから。

「えぇ。わかるわ、チョッパー。……いいの……いいのよ……」

ロビンは感情の渦に呑まれそうになるのを耐え、チョッパーを抱きしめながらその頭を撫でる。ウソップは顔をくしゃくしゃに歪めて涙した。まだウソップから状況の触りしか聞いていなかったナミも、交わされた言葉で大方を把握したのか、口元を手で覆い、絶句している。

その後、騒動に気づいてか、ナミのために粥を持ってきたサンジと、たまたま居合わせたフランキーが医務室に顔を出した。涙を流す面々を見て、二人は大いに驚いた。その後、話を聞いて同様の感情を抱くのだった。

Comment

  1. YUKI より:

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  2. YUKI より:

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    • 内緒 より:

      YUKI様、初めましてっ! お越しくださりありがとうございます~~! もう、めためた光栄なお言葉の数々に悶え転がりました_(:3 」∠ )_ ハァハァ……。う、うれ、うれちぃ……。
      やはり「伝わる」っていうのが、文字書きとしては本当に冥利に尽きるので、そう言って頂けて本当に嬉しいですっ! ストーリー構成はもう脳内妄想を行き当たりばったりに繋げちゃってるだけですが、なんだかすごい照れます//// へっへっへ/// う、うれしい///
      ご感想頂けて本当に嬉しいですっ! こちらこそ素敵なご感想を本当にありがとうございますっ!!