ハートが夢見る医者 3-2

OPハートが夢見る医者
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(・3・)……。

ずっとここのシーンこねこねしててめっちゃ時間かけてるからさぁ……5000文字くらいあるかなって思ったら3000文字未満だった(・3・)難産にもほどがある。

人の感情の移り変わりの表現ってむつかしいですよね(・3・)

フランキーは鼻をすすり、肩を落としながら医務室を後にした。

未だ船内に輝きを見せるスーパー人間洗浄機の撤去をする為である。ローがあのメカを見たのなら、気に病むどころか少し目を輝かせて「自分の船にも欲しい」と頼んだかもしれない。そんな大きなメカはどんどんと分解されていく。

機械に罪はない。過剰な対応だろうとフランキー自身も思った。だが、迫害の歴史と真実を知った以上、今は目に付く場所にこれを置いておきたくなかった。意図しない形で傷つけ、傷つくのはもう御免だ。ローが完治するまではフランキー特性スーパー洗浄機はその出番が来るまで布の下でお休みだ。

 

一方、医務室ではようやく泣き止んだチョッパーが時折喉をひくつかせながらナミの検診に勤しんでいた。

各々未だ表情は暗く、サンジもキッチンに戻る気になれないのか、壁に背を預けて視線を虚空へやっていた。

室内の空気は重苦しい。誰もが聞かされた真実の重みを受け止めるのに精一杯だった。

まだ目の端を濡らしているウソップは椅子を反対向きに座り、背もたれを抱え込むようにして床を見つめている。ナミもチョッパーの指示に従いつつその視線は別のところへ投げ出されていた。

こういった話に耐性があると自覚するロビンだけが、仲間の様子を伺うだけの余裕を見せていた。しかし、かけるべき言葉がなかなか見つからず、その目も憂いに満ちている。

「…………なんか……おれ達にできることは、ないのか……」

沈黙の中にぽとりと言葉が落ちる。

皆、発言者であるウソップに視線をやった。ウソップは苦渋に満ちた表情で縋るように一度仲間に目を向けた。だが、すぐに逃げるように視線を落とす。

「こんなの、あんまりだろ。今もまだ、その病気は伝染するって、思われてるんだろ?」

「……うん」

チョッパーが力なく答える。ウソップの瞳には悔しさと怒りが滲んでいた。誰もがウソップのその想いに共感できた。だが、応えられるものがなかった。

ロビンは首を小さく横に振る。

「それを覆すのは……難しいでしょうね。もう、十六年も前のことよ。それも遠い、北の海のお話」

今更この場で出来ることなどない。そんなことはウソップもわかっていた。でも、それではこの想いが抑えられない。胸の内に荒れ狂う感情と、突きつけられる現実の温度差はあまりに大きい。その痛みに耐えられず、ウソップはロビンに向かって声を荒げた。

「でもよォ!」

「ウソップの気持ちはわかるわ」

激情を露にするウソップに対し、ロビンの声はどこまでも冷静だった。

「でも、それをトラ男君が望むかも、わからない」

「……」

静かに告げられた言葉を前に、ウソップは歯噛みするしかなかった。

ローが率先してこの話に自分たちを関わらせてくれるわけがない。そういう男だ。この話に踏み入るには、彼との距離も時間も足りないことはわかっている。

「今はトラ男君の回復を何よりも優先するべきよ。その為にも、今はそっとしてあげましょう」

諭すように、そしてあやすように優しく告げられ、ウソップは再び下を向く。

胸の内にしまうには、あまりに苦痛を伴う話だ。だが、その思いを何十倍、何百倍もの痛みを伴い背負ってきたのはローだ。下手に関われば、ただその辛い過去を思い起こさせるだけになる。それでなくとも、先日の騒動で苦しませてしまったばかりなのだ。そんなこと、二度としたくない。

しかし、それでは……自分たちにできることは何もないということだ。

ローは、仲間と言えば本人に否定されるだろうが、それに程近い存在である。たとえいつか同盟が終わり、敵同士となって互いに武器を突きつける日が来たとしても、その向き合っている間でさえも憎む気持ちはもてないだろう。そんなやつなのだ。

そんなやつを、理不尽に、あまりに非情に傷つけられた。だというのに代わりに殴ってやることも出来ない。

無力感に苛まれ、ウソップは俯く。

再び、部屋に沈黙が落ちた。

ロビンはウソップを静かに見ていた。今も尚、自分にできることはないのかと探す彼を。

ロビンの生きてきた世界では、それらは簡単に割り切られ、見捨てられてきた。それができず苦しみ続ける彼のような存在を、愚かと罵る世界だった。でも、今のロビンはそんなウソップを哀れむと同時に、誇らしく、そして愛おしく思う。彼らは甘いが、決して弱くない。むしろ、その想いをずっと抱えて強くあろうとする彼らに、どれだけ自分は救われてきたか。

そう考え至ったとき、ロビンは彼らにかけられる言葉を自分が持っていたことに気づいた。

ロビンだからこそ、気づけること。

彼女はふっと表情を綻ばせる。ローも、きっと同じなのではないだろうか。チョッパーが医務室に来た時に言っていた言葉は、それを裏付ける。

ロビンは胸にそっと手を当て、その奥深くにあるだろう温かなものを確かめるように目を瞑る。じんわりと宿る確かな温もりに、自然と表情が柔らかくなる。

ロビンはゆっくり瞼を上げ、優しく微笑んだ。

「そんな顔をしないで。トラ男君のために何かしたいというなら、もう、チョッパーもウソップも、十分できているんじゃないかしら。サンジも、フランキーも、みんなよ」

ウソップとチョッパーはきょとんとしてロビンへ視線を向けた。サンジもナミも、ロビンの唐突な言葉の意味を図れず視線を向けている。そんな彼らの表情に、ふふ、とロビンは笑みを零した。

「チョッパー、言ったじゃない。トラ男君、ありがとうって、言ってたんでしょう?」

チョッパーは小さく「うん」と頷く。未だに悲しげに下向く姿から、彼がその感謝を上手く受け止められていないことがわかる。

彼らにとって、ローが感謝を述べたチョッパーたちの行動は至極当たり前のことであり、感謝に足るものではないと思っているのだろう。だが ——

「私、そのトラ男君の気持ち。わかる気がするわ」

チョッパーたちは再びロビンを見る。ぱちぱちと目を瞬かせながら、答えを求めるように見つめている。

きっと、この想いはなかなか伝わらないのだろうと、ロビンは僅かに寂しさを感じた。

「トラ男君、とても救われたと思うの。私も、そうだったから」

「……ロビン」

一瞬息を呑んで、ナミは小さくロビンの名を呼んだ。ロビンはナミへ笑顔を向けて応え、まだ表情を曇らせているウソップとチョッパーへゆっくり視線を向ける。

「だから、大丈夫よ」

そうして、再び笑顔を咲かせた。

彼らは気づけないだろう。彼らが当たり前だと思ってとっているその行動が、どれだけ救いとなったのか。ただ彼らがそこにいてくれるだけで、どれだけ自分の存在を許されたのか。

何もできていないなんてことは、決してない。あの仏頂面ばっかり向けて、「友達じゃない同盟だ」、「馴れ合うな」なんて不器用に距離を置こうとする男が、「ありがとう」と言ったのだ。その言葉を、彼の想いを、受け取ってあげてほしいとロビンは思った。

ロビンの言葉と表情から少なからず伝わるものがあったのだろう。かつて死にたいと頑なに言い続けていた彼女が幸せそうに微笑む姿を前に、ウソップ達の表情から少しだけ影が消える。

「……そっか、な」

「ええ。そうよ」

ロビンは躊躇いなく答えた。その返事に、ウソップたちの目の奥に僅かな光が灯る。

完全には割り切れていないだろう。それでも安堵の笑みを浮かべ、ウソップは頷いて見せた。

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