サスケ視点ではカカサスとか特別に意識してなかったのですが、カカシ視点になったら何となくカカサスになりました。イタチとは兄弟愛で。
――あんなの、信じる訳が無いだろう。あり得ない
そう言い捨てたあいつの目は、ナルトやサクラにもはっきりと分かる程動揺に塗れ虚ろだった。マダラの語ったイタチの真実とやらはうちはでない俺たちでも衝撃的なものだった。そして、巧みに悪意を織り交ぜられてはいただろうが、真実味を帯びていた。
どうするべきか。三代目火影はもういない。マダラの言うように残った者達は絶対口を割らないだろう。かといって、放っておける問題ではない。
頭を悩ませ帰りの道中は沈黙が続いた。ナルトは何とか空気を変えようと口を開いてはすぐに閉じた。どんな軽口を叩いてもサスケは一切反応しない。
見かねたサクラがナルトの肩に手を置き首を横に振った。ナルトは珍しく眉間にしわを寄せた。それから僅か一分後、ナルトはサスケの腕を掴んで無理やり引っ張った。
「俺たちは、例え何があってもぜってぇお前の仲間だかんな!!」
振り向かされたサスケは即座に投げられたその言葉に僅かに目を丸めた。
「……なんだ、それ」
「そのまんまの意味だってばよ!例え、木の葉がうちはの…お前のことどうこうしようとしても、俺はぜってぇ」
「ハッ、お前が珍しく何考えてんだよ。……あんなやつの戯言、いちいち真に受けんなって」
ここにきて、大分サスケは動揺を収め元に戻ることができたようで、いつもと変わらぬ深い漆黒の瞳をナルトに向ける。
「さっさと忘れろ。間違っても言いふらして里を混乱させんじゃねぇぞ」
ナルトにそれだけ言って、サスケは歩き出す。
ナルトが心配してか再びちょっかいを出す。サスケはまたそれを一切無視していた。だがそれも6回目くらいを越すとサスケの鉄拳がナルトの顔面に炸裂した。いつものように喧嘩が始まりサクラがサスケを抑えつつナルトを地面に沈めて事を治める。いつもの様子だった。ナルトもサクラも、元に戻そうと必死だった。サスケは、それに応え始めている。
いつもの、穏やかで騒がしい七班の様子だ。だが、あの出来事の後では嫌でも違和感が残る。しかし、ナルトとサクラがいる手前でそれを暴くことはできない。一先ず、俺もそれに乗ることにした。
報告に行く手前で解散を告げた。
サスケはいつものようにすぐに背を向けて帰宅しようとする、ナルトやサクラが何かしら誘おうとしたけれどもサスケは気分じゃないと切り捨てた。サスケの背が小さくなったころ、二人が不安げに俺を見る。
「んー、ま、大丈夫大丈夫。後から俺が様子見に行くし、ね?」
「先生、頼んだってばよ」
ナルトが珍しくじっとこちらを見つめてくるのに、俺は笑みを浮かべながら頷いた。
一先ずイタチの死とマダラの出現について報告した。その場には他の忍もいたため後ほど二人きりで話がしたいと火影に告げ、出てきた。
すっかり太陽は沈んで満月が高く上っていた。
すぐにサスケの家へと向かった。だが、サスケの住む小さな部屋には誰もいなかった。帰ってきた様子すらなかった。息を詰める。忍犬を呼び出す。下手したら里抜けするのではと考えていた。だがそれはなかったらしい。犬の遠吠えが聞こえた方向は、かつてうちは一族が暮らしていた場所だ。
入り口には立ち入り禁止と書かれた黄色いテープが巻かれていたが、すっかり草臥れて茶色くなり所々千切れていた。もう長いこと放置されているのだ。
満月が荒んだ集落を照らしだす。皹の入った家紋の壁が見えた。
どう声をかけてやればいいだろうか。イタチの真実については俺すら混乱している。忍が、木の葉が作り出した悲劇だ。その裏に何があろうとも、うちはのクーデターとイタチの任務が本当だとすれば、裏にどんな悪意が根付いていようが木の葉の罪に変わりはない。
サスケは、木の葉を恨むだろう。だができればそれを乗り越え飲み込んで、イタチの想いを、ナルトやサクラという仲間を、今の居場所を取ってほしい。
それができず里を抜けるという選択を取ったとしても、どこか遠くの――憎しみが届かない場所でそれが薄れる時を過ごし、新たな出会いの中で幸せを掴んでくれたならば、それでもいい。
どうか、再び復讐に走り全てを傷つけるような道だけはとらないで欲しい。
勝手な願いをしながら、一番大きな家に入る。ギシギシと廊下の床が軋んだ。一切光を生み出さないこの跡地では満月が存在を主張しているようだった。
奥から人の気配がする。一瞬本当にサスケなのかと疑うほど、いつもの凛とした気配が崩れて虚ろだった。
サスケがいる部屋の扉は開け放たれていた。部屋の窓から月の光が入る。月とはこうも明るいものだっただろうか。ただ単にこの居住区の暗さに目が慣れてきただけかもしれない。……床には拭いきれない血の跡が残っていた。
部屋の片隅に座り込んでいるサスケの姿が映る。未だに俺の気配に気づいていないらしいそいつは、右手を振り上げたところだった。サスケの右手に握られたものが月の光に反射する。クナイだ。その切っ先が真っ直ぐサスケの喉元へと向かおうとしているのに体中の血が一気に頭に上った。刃を気にせずクナイを握り締めそのまま力任せに奪い取り床に落とす。同時に胸倉を掴んで引き上げたサスケの頬を思い切り殴った。
これなら、木の葉を恨み俺達に刃を向けてくれたほうがまだマシだった。
怒りで真っ白になった頭のままで再びサスケを持ち上げる。もう一度殴ってやりたかったが、何の感情も持たずに見上げてくるサスケを見て振り上げた拳の行方を見失った。
冷静になった頭が告げる。こいつを手放すなと。それに従い、何処にも逃げさせないよう力強く抱きしめた。心臓がバクバク煩い。
「あんまり俺を怒らせないでよ」
サスケは全く動かない。
「……お前、やっぱりあの話、本当だって思ってるんだな」
サスケが身じろぐ。恐らく俺のほうへと顔を向けたのだろう。暫くして、ぽつりと呟く。「泣いていた」と、俺に向けられた言葉ではない。自分に言い聞かせるようにサスケは呟く。
「イタチの、泣き顔と……最期の顔が、……頭から、離れない」
絶望と言う奈落へ落ちるかのように、サスケの膝がガクリと折れる。支えながらゆっくりと床に膝をついた。
やはり、事実なのだ。誰よりもマダラの言葉を信じたくなかったのはサスケだろう。何か、思い当たる節があったのだろう。イタチが泣いていたところも、最期の顔とやらも俺は見ていないが、きっとどれも肉親への、サスケへの愛に満ちていたに違いない。
蚊の鳴くような声でサスケは後悔を呟く。気づけなかった、と自嘲の言葉が呟かれる。
どう声をかけていいかなど、わからない。イタチの遺志を継げ。そう簡単に言い切ってやれるような資格など無い。それでも、こいつを何とか此処に留めていたくて抱きしめていた。
だが、突如サスケから怒気があがり、胸を思い切り押し返され、突き飛ばされそうになる。サスケの二の腕を掴み何とか留まる。真正面から見たそいつの目は、悲しみと怒りに満ちていた。胸が苦しくなった。昔から思っていた。こいつは、イタチのことが大切で仕方が無かったのだと。
――サスケは情に厚い奴だ
いつだったか、ナルトが言っていた。
「うざい!お前も死ね…っ!! 消えろ!! 消えてしまえ、消えろよ!」
ボロボロと涙を零しながらサスケは俺の胸を殴ってくる。腕を掴んでいるから全く重くない拳だが、心臓に嫌に響いた。憎しみを込められた拳だが、その裏にある感情が切なすぎて止めることができない。
再びクナイを手に取るのは、さすがにはじき落とした。
すまない、サスケ。それでも俺も、お前が大切で離したくないんだ。
そっと涙に塗れた頬に触れる。クナイを握った手だから涙が傷に染みた。だが痛みに顔を顰めたのは俺ではなくサスケだった。
「……サスケ」
呼べば、サスケをギリギリのところで保っていた何かが、音を立てて崩れたかのように泣き始めた。それでも必死に噛み殺そうとする嗚咽が苦しげに漏れてくる。
パタパタとサスケの目から涙が床に落ちた。
こんなに狂おしい想いに満ちた涙だというのに、床に作られた血の跡は流されることなくこびり付いている。
再び力なく胸を殴られる。胸へと疼くめられた口からくぐもった嗚咽が漏れる。やがてそれは意味を成さない声となり、悲鳴となり、泣き声となった。言葉にならないただの悲鳴なのに、本人の意識するものでないのに、意味するものが胸への振動と共に全部伝わってくる。
大好きだったと、大切だったと、愛していたと、憎しみに偽っていた全てを必死に取り消すように、これでもかと言うほど込められた想い。だがどうしたって二度と届かず伝えることのできないそれに、苦しい、悲しい、切ないと、悲鳴を上げて縋り付いていくる。引きちぎらんばかりに腕を握り締められた。
捕まれた腕が、殴られる胸が痛い。痛すぎる。これと同等の、それ以上の痛みをサスケはイタチから受けたのだろう。本当はすぐに会いに行って、ぶん殴って、同じ分を返してやりたいのだろう。でもゴメン。それだけは許せない。許してやれない。
お前のイタチの想い、全部俺が知ってやる。それ以上のことは何もできないが、お前の傷の一欠けらでも共に味わってやろう。
だから――
イタチやマダラとの戦いからそれでなくとも消耗していたサスケは、どれくらい経ってからか、疲れて腕の中で眠ってしまった。涙に塗れた頬が冷たい。
握り締められていた腕が引きつるような痛みを残している。今は幼い子供が親に縋り付くような軟さで服を握り締めているだけだった。これが、俺の元に残ってくれると言う意思表示だったらいいのだが……。俺はサスケとは違って腕の力を緩めてやることはできなかった。
此処は寒い。場所を移動したい。そう思ったが、動けない。俺も相当疲れているらしい。やがて腕の温もりだけ意識を置きながら、俺もサスケを抱きしめ座ったまま眠った。
腕の中の意識が覚めるのと同時に俺も起きた。急いでぎゅっと握り締める。途端、離れようと必死にもがくサスケを尚更強く抱きしめた。ピタリと、腕の中の動きが止まった。
「……離せよ」
昨晩とは打って変わっていつもの凛とした気高さの元にサスケは俺を睨みあげてそう言った。
「……やだって言ったら?」
「うぜぇ」
「だってサスケが昨日あんなことするから」
「…………」
ばつが悪そうに顔を顰め俺の胸に頭を埋めて表情を隠す。
「忘れろ……」
「んー」
いつものサスケだ。だが、この子がどれだけ危うい場所で己を保っていたのか再確認させられた昨日の今日、そう簡単に離してやるわけには行かない。
「カカシ」
昨日とは立場が逆転し、サスケが宥めるように俺を呼ぶ。
「俺、イタチの遺志を継ぐ」
黒塗りの瞳が悲しみを奥に潜ませた強い決意でこちらを見つめてくる。澄んだ瞳からはいつ涙が零れだしてもおかしくない、それほど切ない想いの元に作られた決意。だが、涙は昨日流しきったようだ。
腕は解いてやったが、左手首だけは掴んだまま離してやった。繋がったその手を見ながら、サスケは言う。
「だから……昨日のことは、忘れてくれ。イタチの真実も……マダラから聞いたことは、誰にも言うな」
「……お前はそれでいいのか?うちは一族のクーデターだって、元は木の葉が追い詰めたからだろう」
サスケはゆるゆると首を横に振った。弱々しく振られたそれに強制力はなく、そのまま言いくるめることができそうだったが、これ以上やればまた崖っぷちの少年を突き飛ばしてしまいそうで、やめた。
「イタチが守った、真実だ」
「……そう」
サスケの腕を掴む手に力が篭る。サスケは眉を寄せて俺のほうを見てもう一度言う。
「離せよ」
「サスケ」
「……何だ」
「俺もお前が大切だよ」
くしゃ、とサスケの顔が歪んだ。
結局こっちのサスケもマダラ殺して俺も死のう。うちはは終わりにしよーとか寂しい考え持ったまま突き進むのだろう。早く第七班に絆されてしまえサスケェ
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