シャルの喋り方がわかんない……だと……?
とりあえず鎖へと歩み寄る。何もない砂漠だけの世界よりこの鎖の方がよっぽど気になるってもんだ。心の護の言いようではこの鎖ができたのは俺がダイブしたかららしいから余計と気になる。
頭上をふよふよ動く発光体は俺を付け回している。まぁ、護るための監視というやつだろう。
「ところでよ、奥の階層に行くにはどうすればいいんだ?」
「君が行けるところじゃないよ」
「じゃあ教えるだけ教えてくれたっていいだろう?」
「何の義理があって?」
「お前ほんっと主によく似てるな」
不親切すぎる監視者を完全に放置する。
とりあえずこの世界に来たのはジューダスという謎だらけの人物を少しでも知るためだ。この世界を調べてみるとしよう。あいつがああも頑なに隠し、些細な発言で傷ついちまう理由を……あれ?趣旨激しく変わってねぇか俺。
鎖はいたって普通の鎖だった。感覚を置いて伸びているそれは入り込もうと思えば多少苦労はあるだろうが十分行ける。だというのに背景を塗りつぶす程の量なのだからいったいどれだけの空間がこれで埋められているのやら。
鎖に触ってみる。冷たい感触。やはり普通の鎖だ。
だが、ここがコスモスフィアならばこれはただの鎖ではないはず。何かしら意味があるはずだ。
鎖とは繋ぐもの。繋ぐことによって遮ることもできる。多分これは俺の行く手を遮ぎるために作られたんじゃないか。理由は簡単に想像がつく。あいつは俺に見られたくないものがあるんだ。
その見られたくないものとは一体何か。それも簡単だった。以外にもぽろりと答えを出してしまったのは俺の上にいる発光体。
この世界は砂漠と、一人の少年だけが居た世界。
少年ってのは、誰だ。心の護はその人物を坊ちゃんと呼ばなかった。別人だろうか
鎖を一つ潜る。鎖のアスレチック。しかも先が見えないのを前にすると砂漠よりも気が滅入るが、ここで足を止めたら来た意味がない。
どれだけの時間鎖と格闘しただろうか。今はもう四方八方鎖しか見えない。
長い時間鎖と格闘していて気づいたのだが、あの発光体はどうやら鎖に一切触れないらしい。難なく鎖をすり抜けていくのだ。まるで幽霊のように、おぅ……気味わりぃ。
そんなことを頭の片隅に考え、また一つ鎖を潜ったとき、視界にまた黒い布切れが映った。
鎖の合間に確かに見える衣服。あれは、ジューダスだ。
「ジューダス!」
仮面を被った黒衣の少年がこちらを見た。間違いなくジューダスだ。
だがそいつは俺を見た瞬間俺とは真逆の方向へと走り出した。鎖を掻い潜り逃げ出した。
「ちょ、おい待てよ!」
追おうとした瞬間、砂しかない地面から突如鎖が伸びてきた。
「どわっ」
驚いて思わず足を止める。そうしている間にも鎖は増えて行く手を阻む。
よほど俺は歓迎されてないみたいだ。これがリアラの言っていた見せたくないものは自然と鍵がかかるってやつなのかね。しかし、そうとなると不自然だ。
リアラは言った。無理にこじ開けようとすれば排除、すなわち世界が殺しにかかることもある。と
鎖なんて手段使わず、あいつはさっさと俺に剣を向けてみるなりこの鎖を剣に変えるなりすれば簡単に俺を排除できるはずだ。何故それをしない。
「まぁいい。だったら追うまでってな!」
鎖と長い鬼ごっこが始まった。
いくら言葉を投げかけても振り向いたのは最初だけでジューダスは一切答えず逃げ続ける。ジューダスとの間に行く手を阻むように鎖が増えるが、なんかもう慣れてきた。これ戦闘訓練にいいかもしれねぇ。
だがジューダスの方が身のこなしは上だ。一向に追いつける気がしない。気を抜けば完全に見失いそうになるのを気合で張り付いた。
そうとうな時間粘った。やがて幾度かジューダスが振り返るようになった。鎖で遮られてその表情を見ることはできないが確かに振り返っていた。
言葉を交えない鬼ごっこ。砂漠と鎖とジューダスと変な発光体しかない世界。
それでも、なんとなく見えてきた。なるほど、これがコスモスフィアか。現実より確かにわかりやすい。
鬼ごっこの勝敗は、ジューダスの根負けという結果になった。
完全に足を遅め始めたそいつの腕を俺はとうとう掴んだ。
だが増え続ける鎖がそれを邪魔する。うざってぇ
「ジューダス、これてめぇがやってんのか?いい加減にしようぜ。もう鬼ごっこは終わりだ」
「…………何なんだお前は!」
完全に苛立ちに満ちた声と共にようやくジューダスは振り返る。鎖の動きが止まった。
「長い追いかけっこだったな。そんなに俺が嫌いか?」
「何でついてくる。なんで僕にかまう」
「リアルの世界の会話はこっちじゃ覚えてねぇのか?」
「僕が信用に値するかどうか、か。ならば答えてやろう」
ジューダスは力任せに俺の腕を振り払った。
仮面の下の表情は酷く冷たい。ジューダスは時にすごく冷酷になる。心を感じさせないくらいに殺した顔を見せる。
「僕は信ずるに値しない。間違いなくお前たちにとって悪であり災いだ」
「…………」
「わかったら、さっさと立ち去れ」
冷ややかな目で言われる。だが、いくつもの仮面を被ったこいつとの付き合いに慣れるには結構な時間が経った。今は自分が感じた世界だけを信じて俺は冷たい眼差しを見る。
「あのよ、お前なんで一緒に旅することに決めたわけ?」
「貴様らが強引に誘ったのだろうが」
「自主的じゃなかったよな?つまりお前から俺たちに危害加えようとかそういうんじゃねぇだろ?」
「さぁ?どうだろうな」
「何?お前自分が不幸体質で自分が居たら周りのやつらも不幸にするなんて愉快なこと考えているわけじゃないだろうな」
「……なんだそれは」
仮面の下でジューダスが困惑している。
あぁ、とりあえずわかったこと一つ。こいつ強引な押しに弱い。
しかし、何が悪だ。何が災いだ。何でこいつはそんなこと考えてる。
「もうお前が自分の意思で悪意を持って俺たちに攻撃してくるなんて、ありえねぇってわかってる」
「何を根拠に」
ふ、と俺は笑う。もうわかっちまったんだ。
こいつが冷たい振りして以外にも情に厚いところがあるということに
強引な押しに弱いところなんて特にそうじゃないか。こいつはなるべく人と関わらないようにしているだけだ。だから冷たく見える。だが自分に向けられる思いを簡単に無下にできねぇんだ。本気でそれらを冷たくあしらうならばそれこそ鎖なんて面倒なことしないで俺を殺せばよかったんだよ。
意味深に笑って黙る俺をジューダスは険しい顔で睨み付ける。
「……僕は、目的の為ならば何でもする」
目的。初めてジューダスに口から聞いた言葉に俺は笑みを引っ込めた。
やはり何かしら思うことがあって旅をしているわけか。
「その為ならば、お前たちの望まぬことをすることもある。裏切ることだって……」
……は?
「何?お前それが理由で僕は悪だーとか言ってたのか?」
「な、別に、それだけではない」
「けど、そういうことか」
何だ。そんなことだったのか。胸のうちに広がる安堵に俺は思わず笑い出した。
ジューダスは何がおかしいと顔を顰めている。そりゃ確かにお前はもっともっと何か重大なものを隠してるんだろうけど、少なくとも俺にとって重大だったのはこっちなわけよ。薄々感じてはいたが、やはり俺の警戒のしすぎだった。こんな肩透かしなものだったと思うと、ほんと悪いことしたなぁっていうのと、ここまできてよかったと思う。
「確かに、お前はそういうやつかもしんねぇな。俺だってそうだ。カイルを護るためならお前相手だって、リアラ相手だって戦う。でもよ、お前は人の心を持ってるだろう」
「お前が、何を言っているのかさっぱりだ」
「くくく、仮面の下にどんな怪物がいんのかなって思ったが、どーもただの臆病者にしか見えなくなってきた」
「だ、誰が臆病者だ!」
「いいじゃねぇか。もし本当にお前が裏切らないといけないことがあったとしてもよ」
完全に困惑しているジューダスに俺は自身満々で告げる。
「俺はお前が仲間であること、後悔しねぇな。絶対に」
あのジューダスが目をぱちくりさせている。こんなにおかしいものはない。
あぁ、すげぇ年相応の顔だぜ。
「お前のことが何となくわかったぜ、ジューダス。俺はお前と仲間でありてぇ」
よろしくな、と握手を求めて手を差し出す。
ジューダスはその手を目で追い、またパチパチと瞬く。
少しの間のあと、ジューダスは視線をそらした。その表情は、あのときの顔だ。
傷に触れられたような顔。
それを見て先ほど安堵に温もった胸のうちが一気に冷えた。
何で、そんな顔するんだ。
何を考えているんだ。おい、コスモスフィアだろうここは。早く形になって教えろよ。
こいつのこんな顔を見たくねぇ。
何を隠している。何に傷ついている。
他人の排除を選ばず、自分を鎖の中に閉じ込めて、まるで自分ひとりが悪いかのように人目から隠し通そうとしている。お前の言う悪ってのは、災いって言うのは何なんだ。
「ロニ」
ジューダスは手をとることなく名を呼んだ。
俺は差し出していた手を下ろす。
「今お前たちと仲間であること」
突如鎖が音を立てて崩れ始めた。砂に落ち、そのまま砂に食われるように埋もれていく。
ドサドサドサと音を立て、砂煙が舞う。
ジューダスの足元に真っ暗な穴が開いた。
そこから砂が流れ出ていく。全てを飲み込み砂漠を形成していた砂が消えていく。
「な、なんだ!?」
「それ自体が裏切りであったらどうする」
さらさらと、音を立ててこの世界が消えようとしていた。
俺は突然の世界の変化に慌てて避難を考えるが、どこも砂だらけでどこも今から崩れようとしているものだ。
……飲まれる。
何とか、助かる術を、そう思ってジューダスの腕を握る。
「お前は、どうするんだ?」
ジューダスが何か言っているが、今はそんなところじゃねぇ!
ジューダスの腕を引っ張り、何とかその流れに逆らおうとするが、掴めるのは砂ばかりで俺たちはあっけなく砂と一緒に穴に飲み込まれた。
落下していく感覚。見えるのは砂とその暗闇から伸びる鎖の姿。今はもう動くことはないがこの世界を縛り付けているかのような姿にぞっとする。それでも、とその鎖に手を伸ばす前に突如真っ暗だったはずの奈落の底から光の柱があがった。真っ白な光に包まれすべての感覚が奪われた。
「ロニ」
名を呼ばれて気づく。ずっと目を開けていたのに今の今まで呆けていたかのように俺はその場に立ち尽くしていた。
「……え?何が、どうなった?!ジューダスは!?」
「落ち着いてくれないかな。ここはコスモスフィアの外だよ」
辺りを見回せばよくわからない光の羅列の中に心の護がいた。
「コスモスフィアの外……?つまり俺ははじき出されたのか?」
「んー……いや、違うかな。まぁそうとも言うけど」
「どうなってんだよ!」
「僕もそう言いたいよ。解せないなーもう。君、坊ちゃんのコスモスフィア第一階層をクリアしたんだ」
「……クリア?」
「更に奥の階層へと行くことを第一階層に認められたんだよ。最後に見えたあの光はパラダイムシフトの光だよ。次の階層に移行することができる証として現れる光でそこに入ればクリア。ゲームみたいでわかりやすいでしょ?」
そういうもんなのか。と漠然とした理解しかできるわけねぇこんなの。
「とりあえず君を元の世界に戻すね」
「お……おう」
「坊ちゃん、ほんと押しに弱いんだよね。甘いなあ」
「あぁ、それは俺も思う」
「まさか君に僅かとはいえ心を開いてしまうなんてね」
「……そう、なのか?」
心の守護者と名乗ったそいつにそう言われるとドキッとしちまう。
あの鉄壁仮面を少しでもかち割ることができたと思うと、ものすごい達成感というか、なんというか。
だがそれはひとまず置いておく。心変わりと言うにはあまりにも不吉な終わりを迎えたあの第一階層と言う世界。その不安がいまだ消えない。精神世界が一つ壊れる。心が壊れるようなもんじゃねぇのか
「パラダイムシフトが起きたってことは変革、まぁ心変わりしたってことなんだよ。ま、これくらいならいいかな。じゃあねロニ」
「ちょ、ちょっと待ってくれ!そのパラダイムシフトとやらの前に明らかに第一階層の世界が崩れてたんだが、ジューダスはあれ、大丈夫なのか?」
「あぁ、あれなら大丈夫だよ。あれはただの仮面のようなものだから。じゃ、これでもう気兼ねないよね?」
一方的に言い放ち心の護は放つ光を強くした。視界が白で塗りつぶされる。
気づけば船の一室。その天井が見えた。
半分寝てるので文章がry
コスモスフィア楽しいよコスモスフィア
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