やっとダイブハジマタ!うっはwktk
さらさら さらさら
隠してくれ、早く隠してくれ。
さらさら さらさら。
砂が舞う。少年の手から砂が落ちる。
少年は手で砂を掬い、落とす。それを繰り返してこの世界を埋めた。
隠せと呟く声のままに
いつしか世界は砂漠となった。何もない世界になった。
成し遂げたのだと安心したのは束の間
砂まみれの己の手を見て少年は途方にくれる
自分を埋める術がない
この世界にたった一つ残されてしまった存在
隠せ隠せと未だ囁く声
瞼を上げた。そう思ったのに目の前は真っ暗だった。
驚いたが、それは一瞬のことだった。すぐに視界が開く。どうやら目の前をちょうど何か黒いものが通り過ぎたようだ。それを目で追えば、見たことのある黒いマントがちらついた。
「ジューダス?」
更にそれを追って首を動かすがあたり一面砂があるだけで探している者はなかった。
……砂漠だ。あたり一面砂しかねぇ。
ここがコスモスフィア、ジューダスの精神世界だというのか?
想い、気持ち、意思、過去、ジューダスという人格を形成する全てが目に見える物質となった世界がコスモスフィアだろう?
「何もないじゃねぇか……」
地平線の彼方まで、灰色の空と砂漠しか続かない。他に本当に何もない。
ジャラジャラ
突如耳には行った音に驚き後ろを振り向いて、更に驚いた。
「……なんだこりゃ」
コスモスフィアは夢のようなもの。超常現象だって起きる。か
マジでほっぺた抓りてぇ。
数多もの鎖が地面から空へ伸びている。奥が全く見えない程に鎖に塗りつぶされた世界がそこにはあった。
マジで超常現象だわ。どこから伸びてどこから繋がってるんだよこれ。てか、そういえばさっきジューダスいたよな?当人の精神世界だがジューダス自身が現れることもあるのか。
「なんだこりゃじゃないよ。君のせいでこの世界ひどい有様になっちゃったんだけど」
またも突然耳に入る声。あたりをきょろきょろ見回すがどこにもそれらしき姿はない。もしかして乙女チックに花がしゃべるみたいに鎖が喋っているんだろうか。まさか、な。
「上だよ」
声に導かれるまま頭上を仰げば発光体があった。
真っ白で何も見えない。ただ、何かが光っている。どうやらこれが声の主らしい。
「……鎖が喋るよりまだ現実的か?」
「何言ってるの君……」
「で、お前何よ」
「僕は坊ちゃんの心の護」
答えてもらったものの何のこっちゃわからねぇ。
「待て、まず坊ちゃんって誰だ?」
「君が土足で踏み入っているこの世界の主だよ」
「ジューダスのことか?」
「君たちは勝手にそう呼んでるね」
つまり、ココロノモリさんとやらはあいつの本当の名前を知っているらしい。
しかし坊ちゃんと呼ばれてるってことは、薄々思ってたけれどやっぱり良いとこの息子なのか。
「で、ココロノモリってのがあんたの名前か?」
「……心の護。字のとおり心の護人だよ。僕はこのコスモスフィアの守護者」
「へぇ。そういう職業か。じゃあ名前は?ねぇのか?」
「あるよ。でも君には教えられない」
「何で」
「坊ちゃんが君に教えたくないと思っているから」
こんなところも謎に包まれてるのかよ。
「多分言っても君には聞き取れないよ」
「そう思うなら試しに言ってみろよ。それが聞き取れたならジューダスが俺に聞いてもらってもいいと思ってるってことだろう?」
「じゃあ言ってあげようか僕の名前は――」
キィィィイインと、ものすごい耳鳴りがして俺は思わず耳を押さえて蹲った。耳鳴りどころじゃなく頭が痛い。
光に包まれた護人はケラケラ笑って「ね?」と言う。こいつ俺を嘲笑ってやがる。ちくしょ、コスモスフィアの主にそっくりなきつい性格してやがる。
「僕の姿も君にはまだ見えてないんじゃない?」
「あぁ……そりゃもうまぶしくて目が痛い発光体だな」
「そういうこと。坊ちゃんは君に何も見ることを許したくないんだよ」
それ以前にこの心の護からは俺に対してすごい敵対心を感じる。まぁつまりジューダスがそう思っていると、とっていいんだろうか。だってここはジューダスのコスモスフィアだ。俺に攻撃的ってことはジューダスが俺をよく思っていないってことだろう。
「心の護ってちょっと特別なんだ。僕は坊ちゃんが作り出した存在ではあるけれど、少し坊ちゃんの意思とは切り離されて生きてるんだよね。坊ちゃんを護る。そのためにね」
「……あ?つまりお前がそんなに俺に敵対心剥き出しなのはお前の意思ってわけ?」
「あ、わかってたんだ?そういうこと。僕は君が嫌いだよ。ねぇ、さっさと出て行ってくれないかな?」
ただの発光体なのに威圧感があるってのはどういうことだ。ものすごい怒りを感じる。
「君のせいで、この世界こんなに鎖張っちゃったんだから!」
え……?
唖然とする。だが心の護の俺を責める声は強く知るかそんなものと振り払えなかった。
もう一度あの鎖の入り乱れた場所を見る。これが、俺のせいだと?
「もともと、ここは砂漠と一人の少年がいただけの世界だったんだ。完成してしまった未完成の世界だったんだ」
心の護が何を言っているかはよくわからない。
「君が出て行けば、まだましになるよ。好奇心だけでさ、勝手に坊ちゃんの心を荒らさないでくれない?」
荒らすなって……確かにこの鎖だらけの世界は異常だ。だが砂漠しかない何もない世界とやらは荒れていないと言えるのか?コスモスフィアって想い、気持ち、意思、過去、ジューダスという人格を形成する全てが形になったものだろう?何もないって、どういうことだよ。
「なぁ。コスモスフィアってのは人格を形成する全てが世界になって見えるものなんだろう?」
「君僕の話完璧に無視したね……?」
「何でこの世界には何もねぇんだよ。あいつは確かにカイルよりはよっぽど冷静沈着だが何もないやつじゃねぇだろ。茶化しすぎたら怒るし、皮肉はいくらでも沸いて出てくるし、その上剣の腕や知識は無駄にあるはずだ」
「ここがコスモスフィアの全てなわけないでしょ」
そうなのか。
「コスモスフィアは9階層あるんだよ。ここはまだ第一階層。奥に行けば行くほど想いや意思が強いものが蔓延ってる。それに入れるのは9階層だけど実はまだまだ奥があるんだ。ただ世界として形成されていないだけでね」
「なるほどね。つまりまだまだここは上辺ってわけか」
「それでも坊ちゃんの大切な心の一つ。で、出て行ってくれないわけ?」
「あぁ。そんなにつまみ出したいってジューダスが思ってるなら既につまみ出されてるだろう?つまり居てもいいってことで」
「傲慢」
「ほっとけ。何も言わないんだったらこっちが勝手に良いように想像するまでだろ」
そうして俺は歩き出した。
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