つづき。
とうとうジューダスが折れた。
ガッツポーズを頭の中で決めておく。よっしゃ。よっしゃ。何でこんなに嬉しいのか自分でもわかんねぇけど。
ジューダスは本当に嫌そうな表情だ。いや、不安そう、か。まぁ当たり前だな。精神世界といえども自分で全てコントロールできるようなものでは決してないだろう。自分が剥き出しになった世界だとリアラは言ったんだから。
「じゃぁ、カイル、ロニ、ジューダス。説明するから一度部屋に戻りましょう?」
そう言ったリアラに俺たちは続いた。
部屋に入って行われたリアラの説明。
精神世界のことはコスモスフィアとリアラは呼ぶらしい。
コスモスフィアでの出来事はダイブした側はリアルに戻ってきても覚えているがされるが側は一切知らず、またコントロールも意思を持ってできるものではないとのことだ。それでも己が本当に知られたくないと思っているならばちゃんと鍵がかかるから大丈夫だとリアラは何度もジューダスに説明してくれた。現在の精神状態がそのまま現れるからなんだろう。
そしてコスモスフィアでは何が起こるかわからない。超常現象だって起きるとのこと。夢の中みたいなものなんだろうな。当然死だってあり得るとリアラは言った。コスモスフィアでの死はつまり精神の死だと。そうなる前にリアラの使う力によってリアルにはじき出すらしい。
ジューダスは嘲笑した。「僕がお前を殺すことになるかもしれないな」と。
俺は別にそれでもいいと言い切った。一応本当に死ぬことにはならないだろうし。
それからも多くの説明を受けた。ダイブされる側は覚えて帰ることがない代わりに第三者が精神世界に入り込むことから精神にいろんな影響が出るらしい。
コスモスフィアで何か良いことが起きれば良い方に。悪いことが起きれば悪い方に。
だからダイブする側は行動に気をつけろとリアラに釘を刺された。
未知の世界に行くための知識は膨大で、カイルはすでにパンクしている。
行って実際に見てもいないから更に理解は困難だった。それでもリアラは口をすっぱく説明し続ける。それだけ結構危ない行動なのかもしれない。確かにそうだ、人間の心に直に触ることができるようなものなのだ。
そうしてようやく、リアラは俺たちに一つのレンズを渡した。
「私のペンダントのレンズは私とカイルで使うから。ロニとジューダスはこっちで」
それはリアラのレンズ程精密なものではなかったが、十分に大きく高密度な結晶だった。
ある程度の力があればダイブするのに十分なのだとリアラは言う。リアラが目を閉じればレンズが輝いた。
「ダイブシステムはインストールできたから、後は二人が同時にレンズに触れて目を閉じればダイブを開始できるわ。私がいなくてもこのレンズさえあればいつでも。だから続ける続けないも、後は二人に任せるから」
俺はリアラに礼を言ってレンズを受け取った。後はプライベートもあるし、とリアラとカイルは部屋を変えるべく出て行った。残されたのは痛い沈黙と重々しいジューダスの気だ。
そんなに構えなくても、と苦笑する。
「別にお前の世界をめちゃくちゃにするつもりはねぇからよ」
「ふん、僕の世界がそんなに軟なものか。そんなことになればお前をさっさと殺して排除するだろう」
「じゃあ安心だな」
皮肉を何食わぬ顔で往なしてやる。そしてレンズをジューダスへと向けた。
「ほら、行こうぜ?」
「…………」
それをじっと見つめるだけで手も伸ばさないジューダス。往生際が悪いな。
「男は一度言った言葉撤回しないこと」
「……うるさい」
ジューダスは意を決して強く目を瞑り投げやりにレンズに触れる。
俺も目を閉じればレンズが輝き、ぐい、と何かに強く引き込まれる感覚がした。
そのまま、真っ暗になった。
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