また予定もない方向にロニが暴走した。
突然ロニちゃんらしくなきマイナス思考。
本当に突然だからきっと前回の文と続けて読むと 「!?」 ってなる予感。
これだから長い時間空けつつの長編って怖いよね。
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どんどんと、ジューダスの表情が苦痛に歪められているような、感じがする。
「僕はあの町の住人だ。一緒なんだよ!違うも何もあるものか!お前だって全部知らない癖に、僕があの町で何をしていたか、知らない癖に!!」
どれだけ振り被っても逃れられない泥に苛まれている。なんとなく、俺にはわかった。きっと俺も同じだから。
こいつがどういった心境であの町の生活を続けていたのかはわからない。だが、今あの町でしてきたことを罪だと認識し、こうやって苦しんでいるのだ。こいつはもうあの町の住民ではない。
「今も続けているわけでもないだろうが。もう、過去のことなんだろう?」
「そんな風に割り切れるものか」
……そりゃ、そうか。
どうしても、俺のせいで死なせてしまったあの人の、苦い記憶が蘇る。
そう、これは、俺がカイルに抱く罪悪感と、同じ……。
「お前だって、知れば……絶対に……」
カイルが知ればどうなるか。
カイルの為なんて汚い考えで俺は罪を隠し続けている。それをあいつが知ったら、どう、思うのか。
ジューダスがそのことを知ったら、どう思うのか。
俺がジューダスへ告げようと頭に浮かべた言葉全てが自分自身への慰めのように感じた。
何を口にしようとしても、何の中身も持たない空っぽの言葉しか、きっと出ないだろう。
俺は何も喋ることができなくなってしまった。
ジューダスの姿すら、直視することができなくなってしまった。
「帰る」
やがてぽつりと零された言葉。
はっと顔を上げた。馬鹿だ、俺は。あそこでジューダスの言葉に答えもせず顔を俯かせてりゃ、ジューダスの言葉全部肯定したようなもんじゃねぇか。
ジューダスが此処にいちゃいけねぇってのを肯定しちまったもんじゃねぇか!
「あの町に帰る」
「おい、待てよジューダス!」
「あそこが、本来の居場所なんだ。ありえないんだ!こんなのは!」
ジューダスが叫ぶように言って走り出した。
その背を追いかけようと足を踏み出した瞬間、ビュッと目の前に赤色の鎖が地面から空へと突き上げるかのように生えてきた。赤色、というよりは、やはり赤黒いと言ったほうが正しい。あの門に絡み付いていたボロボロの錆びて赤くなった鎖。
簡単に崩せることは第三階層で知っているはずなのに、何故か一瞬怖気づいてしまう。そんな気味の悪い鎖だった。
「っくそ、どけろ!」
鎖を薙ぎ払い、急いでジューダスの背中を追いかける。だが赤黒い鎖は次々と足元から生えてきた。第一階層と同じように。穏やかなクレスタのような町が作り上げられたこの場所も、この鎖のせいでどんどんおぞましいものになっていく。
――君のせいで、この世界こんなに鎖張っちゃったんだから!
第一階層で聞いた心の護の言葉を思い出して思わず顔を歪めた。
今ならわかる。今この世界に鎖を増やしているその原因は間違いなく俺だった。
森を抜け孤児院の前に出てきたというのに、もうジューダスの姿が見えない。
変わりに、俺の後ろをマイペースに追っていたのが、ふよふよとあの発光体が浮遊しているのを見つけた。
「心の護!ジューダスは、どこへいったかわかるか!?」
「……わかるけど、君に言うと思う?」
……非難されて、当然か。だが……
「悪かった……でも、でも違うんだ。こんな、こんな風にしたかったわけじゃねぇ……ちげぇんだ……」
畜生、畜生!情けねぇ、情けねぇ!!
どの口が言った?あいつを守りたいって大口叩いたのは誰だ!くそったれ!
奥歯を噛み締め、それ以上心の護に言い訳を重ねるような情けないまねもできず、俺は再び走り出そうとした。そのときだった。
信じられないものを見た。
それは、世界を覆う鎖だとか、一面の砂漠だとか、喋る発光体だとか、そんなのとはまた違った驚きの光景。
太陽のような、光を纏うような金髪の髪。
あぁ、カイルだ。カイルがいる。けど、もう一人。その隣。
カイルと並んで孤児院から出てきたのは、
「あ、ロニ!どうしたの?ジューダス見つからなかった?」
親しんだカイルの声が、とても遠くに聞こえる。俺の意識は全てその隣の存在へと向いたままだった。
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