【TOD2】dive – 21 –

diveTOD2
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パシャパシャと、地面を踏みつけるたびに飛沫が上がる。
鎖はこれ以上生えてくることはなかったが、今や町中に至る所に張り巡らされていた。それを掻い潜りながらも、スピードは極力落とさず、俺は走り続けた。
立ち止まるのが怖かった。
相変わらず悠々と鎖をすり抜けて浮遊する心の護が言う。

「念のために言っておくけど、帰り道はそっちじゃないよ」

わかってる。当たり前だ。俺が向かってるのは帰り道でも逃げ道でもない。
ジューダスがいるところだ。

スタンさんを前に長話をしてしまった。
もう、帰ってしまったんじゃないだろうか。いや、だったらもう一度連れ戻すまでだ。

それが正しいことなのかはわからない。俺のわがままでしかないのはわかる。
何が俺たちにとって最善なのか。そんなの全くわからねぇ。
だからって、立ち止まって失うようなことを許すほど、俺の想いは薄っぺらじゃなかった。

目指すのは、町の境。あの門の場所。

目的の場所へ近づくに連れ、鎖の数が増えていく。
完全に息が上がって苦しかった。雨は一向にやむ気配がない。雨が降るだけで、随分と様変わりするもんだな。まるで、あの暗い街にいる気分だった。

門の前にたどり着いた。
門を前にして、ジューダスは佇んでいた。

俺を、待っていてくれたのか?

だが違うと気づく。門に、鎖が絡みついている。
赤の鎖が蔓延る町に、門だけが、黒い鎖に覆われていた。
第二階層で赤い鎖が絡み付いていたのと同じように。だが、この黒い鎖はあの錆びた鎖とは全く違う。冷たく重たい雰囲気を醸し出すそれが千切れる様を全く想像できなかった。

「……ジューダス」

それを前にして、成すすべなく立ち止まるジューダスの体もまた雨に濡れている。
哀れに思えた。俺にとっては都合のいいことだったというのに。
……いや、これでいいんだ。

「ジューダス。帰ろう」

手を差し伸べる。ジューダスは振り向かない。
あがった息を整えながら、一歩二歩とジューダスへ近づく。

「ジューダス」
「帰らないと……帰りたい」

俺の呼びかけに応えたといった風になく、ジューダスは呟いた。
ジューダスの言う帰りたい場所は、間違いなく門の向こうだろう。
ジューダスを振り向かせようと伸ばしかけた手を、思わず止めた。

こいつ、本当にジューダスか?
今まで見てきたこいつと、何か違う気がする。

「……ジューダス?」
「ロニ」

俺が手を触れる前に、ジューダスは自分から振り向いた。
変わらない、ジューダスだ。でも何か、雰囲気が違う。
何だろう。隙だらけな、そんな感じがする。
あぁ、わかった。子供、年相応の子供のような雰囲気がする。迷子になったカイルを探し回り、ようやく見つけたカイルの顔。それと似たような感じがした。

「ロニ、僕は……」
「ジューダス、帰ろう。カイルも、ナナリーも、んで、俺も、探した。お前を」
「………。」

ジューダスは一度俯いた。だが、その時間は短く、その首は横に振られた。

「あっちに、戻る」
「……なんで!俺たちは、何も拒否してねぇ!お前を受け入れてやる。受け入れる!俺たちは、俺は!今のお前が大事で、今のお前を認めてるんだ!過去なんて、知ったこっちゃねぇよ!」

言いたいことを、ようやく吐き出せた気がする。
もしも俺が過去を吐き出して、ジューダスやカイルに受け入れてもらえなくても、俺は別にいい。ただ、俺はジューダスが過去を吐き出したそのとき、受け入れてやる。絶対に。ただ、それだけだ。

「だから、んな意味不明な言い訳してねーで、さっさと帰ってナナリーにしこたま怒られろ。で、明日はさぼっちまった仕事、一緒にやるんだよ。わかったか」

そう言って、もう一度俺はジューダスに手を差し伸べた。
ジューダスは俺の言葉に僅かに反応した気がする。多少なりとも俺の声は、気持ちは届いた。そう実感できた。

だが、再びジューダスは首を横にふった。

「なんでだよ!まだ言うのか!」
「違う。違うんだ」

ジューダスの落ち着いた声に、失いかけた冷静さを取り戻す。

「……待ってくれてる人がいるんだ」
「……え?」
「あの町に、いるんだ。おかえりと、言ってくれる人がいる。だから帰る」

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ロニの思考がどんどん滅裂になっていく

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