久々に
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カイルの言葉に感じたのは虚脱感と怒りだった。
「カイル、冗談だろ……?」
「え、ごめん。俺また何か忘れちゃった?」
「お前さっき探しに行ってくれてたじゃねぇか」
「えぇ?母さんのおつかいに関係すること?」
畜生、また戻っちまったじゃねぇか!
いや、もしかしてあれか、俺があいつをあっちの町に戻そうとしてるから、なのか?
いやいや!だからって何で、何で無かったことになるんだよ!!
「ロニ、どうした?」
ぽん、と暖かい手が俺の肩に触れた。
びっくりするくらいそれは暖かくて、安らぐものだった。
握り締め震えていた拳の力がそれに解され消えていく。
「スタンさん……」
真剣に心配してくれているスタンさんの目が、心強い。
下手したら、もうあいつはいなくなってるのかもしれないが、俺はスタンさんの手を握り締め、もう一度願いを口にした。
「助けてやりたい奴が、いるんです」
スタンさんは何も言わず、俺が縋ったその表情のままに笑みを浮かべ、俺の頭にポンと手を置いた。
あぁ、やっぱりこの人は英雄だと、カイル見たいな事を考えてしまった。
スタンさんを連れ、孤児院から飛び出た。
途端に、凄まじい音を立てて今までの比ではなく赤の鎖が地から天へと駆け上がる。
「どあっ」
うろたえる俺に反し、スタンさんはじっと空を見上げていた。
赤い鎖が空のほとんどを支配し、その隙間から灰色の鎖が見える。
もはや明るい世界に見えていたこの場所が薄気味悪い世界へと変わっていた。
「スタンさん?」
空を見上げるスタンさんの顔が、心なしか哀しげに見えた。
「行こう、ロニ」
「あ、はい。こっちです」
歩き出すも、道を完全に阻んでしまった鎖をどうしたものか。
悩んではみたものの、とりあえず押しのけようと鎖に手を触れたら、それだけで鎖は砕けて消えた。
意味がわからない。まじで質より量な鎖だなこいつ。
何故だか、砕けて落ちる鎖の音が、悲鳴に聞こえる。
心の護に幾度となく受けた忠告が頭の中をかき回す。後ろでふよふよ浮いている浮遊体がいつ俺を殺しにかかるかわかったもんじゃないな。
何よりの不安は、あの門とジューダス自体が完全にこの世界から消えているのではないかというものだったが、ありがたいことに遠目からあのばかでかい門の姿を確認することができた。
その麓にいるはずのジューダスの姿を早く目にしたくて、思わずスタンさんを置いて走り出す。
「ジューダス!」
そいつは変わらず、その場に立ち尽くし大きな門をただ見上げていた。
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