【TOD2】 dive 続き – 19 –

diveTOD2
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前回は沢山の拍手、ありがとうございました!
ロニきゅん全力の告白への拍手でしょうか?/////ブヒヒwwよかったね!ロニ!!!
または第七階層への期待も込められていると見ていいんでしょうか!私は一人第七階層にずっと期待してたので!そうとも!とれます!!
さぁて、とうとう第七階層への進入ですよ皆さん!!!
このときをどれだけ待ってたか!!!待ってたけど第七階層書きたいこと多すぎて混乱したわ!!!
ようやく、ある程度話の流れを決めることが出来たので途中までUPです!いっそ全部書き終えてからUPろうかとも思ったのですが、なんかいつまでたってもUPれなさそうなのでとりあえずあげるうぅううう!!
は~て、あれだけ現実世界ではどろっどろにあっつ~い思いをロニはぶつけてたわけですが、第七階層はつめてぇぞぉ~~ww
温度差でびっくり死なないようにお気をつけて!ではどうぞ!
余談ですがBGMはアルトネリコ2の「華模様~現~」をメインに聞きながら書きました^p^
ものごっつい過去を持ったヒロインの深層のコスモスフィアで流れる曲です。一番好きなヒロインなんです///この曲初めて聴いたときは、フオオ!ってなりましたw
こう、憎しみとか怒りとか、その中に悲しみとか愛しさとか、そんなのが混じって狂気すらはらんだ感じ。カッチョイイ。消えてくれない辛い過去が迫ってくるって感じで、それに対し少しパニック起こしてそうな感じ。たまらん。



第七階層。降り立ったその世界は、赤かった。
見回せば、見覚えのある町並みがあった。石造りがメインの家や店、人通りの多い通り、裏通りに潜む物乞いの姿。
ここは、インだ。第三階層で完全にヨウから切り離されてしまった、あのインの世界だ。
だが、俺の知っているインの世界とは大きく違うところがある。城の姿や町並みは前に来たときと変わらないが、まず目に付くのがこのインの世界を完全に囲んでしまっている赤い鎖だ。第六階層のジューダスを縛り付けていたのと全く同じ鎖。錆びなどは一切無い強固な鎖。血のように赤い色をした鎖が、ドームのように世界を囲っている。空の色すら分からない程、この世界の外がどうなっているのか分からない程に、びっちりと、雁字搦めにこの世界を覆っていた。
次に、地面だ。石レンガで作られていたはずの大通りから、土が剥き出しになっていたはずの裏路地まで、地面が全て黒と白の市松模様になっている。靴の汚れすらない真っ白と真っ黒の床。目がチカチカしてくるほどに、果てしなくずっとそんな床が続いていた。
「随分と、様変わりしてんな……」
ここが、ジューダスがリオンとして生きていた世界か。
第二階層のインは、きっとこの過去の世界の一部分が現れていたのだろう。あの時、俺は胸糞悪い罠にかけられて危うく拷問されるところだった。第二階層ですら危険だったんだ。あのときよりも遥かに深い階層のここでは、慎重に動かなければ。
まずは、ジューダスを探そう。
目は自然と城へと向いた。第二階層で俺が囚われたのも、あの城の牢屋だ。あいつはあの時も城にいた。リオン・マグナスは王国の客員剣士だったはず。城とは関わりが深いはずだ。
俺は人ごみに飲まれながら、城へと真っ直ぐ伸びる大通りを歩き始めた。
俺の予想は外れず、ジューダスの姿を城門の前で見つけることが出来た。
黒衣と仮面をつけたジューダスとしての姿ではなく、青を基調とした服の、リオン・マグナスの格好だ。立派な城を背景に立つ姿はやけに様になっていた。
仮面の陰に隠されることのない紫紺の瞳が近づいてくる俺の目を射抜いている。
俺のことを、待っていたのか。
「……ジューダス」
「とうとう、ここまで来たのか」
近寄って声をかければジューダスは目を細めた。随分と不機嫌そうだ。
これが、第七階層のジューダスか。第六階層を破壊した人格。シャルティエに散々、会う前に忠告を入れられた人格だ。
「シャルはお前に忠告しなかったか?この階層が、どんな世界なのか」
冷たく言い放つ姿からは拒絶を感じる。歓迎はされていないようだ。されたことないけど。
一見、格好が違う以外には俺の知るジューダスと何ら変わりないように思える。俺はこいつが一体どんな言動をするのかと構えていたが、馬鹿らしくなってやめた。正反対だとか、全然違うとか、散々言われたけれど、やっぱり俺にはジューダスにしか見えない。こいつはジューダスの一部だ。
俺は苦笑しながら言った。
「そりゃあもう、激しく脅されたよ」
「……分かっていて来たのか。救いようがないな」
ジューダスは更に表情を険しく歪めた。
おう、何とでも言え。お前に突き放されることは俺にとって救いなんかじゃねぇんだよ。
現実世界のジューダスは、四英雄を裏切ったことへの理解を得ようとは思わないと、そう言っていた。そんな過去そのものであるこいつが自分から懇切丁寧に過去を教えてくれるだろうなんてことは、はなから思っていない。
俺はジューダスの態度に特に気にすることなく、空を仰ぎ見た。とりあえずあれだ、この赤い鎖。第六階層のジューダスを縛り付けていた鎖。第三階層でも、第二階層でも現れたこの鎖が、一体何なのか。きっとこいつなら分かるはずなんだ。
「なぁ、ジューダス。この赤い鎖は……」
「お前は本当に馬鹿だ」
「あ?」
「僕はジューダスじゃない。リオンだ」
鎖について聞く前に、思わぬところで訂正が入って俺は眉を寄せた。
「……一緒だろ?」
「ほう?」
ジューダスは馬鹿にしたように俺を見た。
なんだよ。呼ばれていた名前は確かに違うかもしれないが、ただそれだけだ。同一人物に違いねぇだろ。何が気に食わねぇってんだ?細かいこと気にする奴だな。名前なんて、関係ないだろうが。お前もそう思ってエルレインの前で「僕はジューダスだ」って言ったんじゃねぇのか?
ジューダスからの次の言葉を待って俺は腰に手を当てる。不機嫌そうに歪められていたジューダスの表情が、抜けるように消えた。
「ロニ。いなくなったシャルに代わって、僕から最後の警告だ」
「いなくなった?」
「ここから去れ。今すぐにだ」
それを言う為だけに待っていたと言わんばかりに、ジューダスは背を向けて城の方へと歩き出してしまった。城門の横に立つ兵士が小さく頭を下げる。俺は慌ててジューダスを追って城門を通る。
「おい、待てよ。もう少し話を」
こいつと会う為に、色々話を聞く為に俺は色んな覚悟を決めてここまで来たっていうのに。
門番の兵士達が訝しげに俺の姿を目で追う。
「僕はお前なんていらない。必要としていない」
話の脈絡がよくわからないが、ジューダスはばっさりと切り捨てるように言った。その物言いには、さすがに傷ついたというか、頭にきたというか。「なんだよそれ」と少し怒声混じりにジューダスの腕を掴めば、鬼の形相でジューダスは俺の腕を振り払った。
「帰れ!僕に関わるな!」
久々に感じた激しい拒絶だった。思わず怯んで動きを止めてしまう程に。
そうしている間にもジューダスは足早に城へと入っていく。俺は慌ててもう一度、届かないと分かっていながらも手を伸ばす。
「おい、ジューダス!」
「待て、一般市民はここより先の立ち入りは禁じられている。何用だ」
城の中へついて入ろうとしたところで、付近に居た兵士二人がこちらへと駆け寄ってきた。長い槍の柄に行く手を阻まれて俺は焦る。「ジューダス!」ともう一度声をかけるが、ジューダスは振り向きもせず死角に入り姿が見えなくなってしまった。
目の前に掲げられた槍が城の外へ押し込むように力を入れられる。
なんだこれ。突然帰れって言われて、拒絶されて、邪魔されて。第一階層に逆戻りした気分だ。
「ジューダスと話をさせてくれ、仲間なんだよ!」
「ジューダス?誰だそれは」
「さっき通っただろ!」
ついさっきまで会話してたのを見てなかったのかよ!察しろ馬鹿が!邪魔すんな!そう頭の中で毒づいた。
あークッソ。第一階層以来、俺から逃げたり拒絶したりってことが殆どなかったから随分と心を開いてくれたもんだと、正直、浮かれていた。久々の拒絶は堪えた。
怒声を放つ俺に対し、兵士二人は嫌悪感を露にした。
「……あの人の名はリオンだぞ。……こいつおかしいな。どうする?」
一気に取り巻く空気が不穏になったことにようやく俺は気づいた。やべぇ、態度を誤った。苛立ちに満ちていた感情が一気に冷える。また牢屋行きは御免だ。さっきのジューダスとのやり取りは傍目から見れば仲の良い知人には見えないかもしれない。頭のおかしい奴が絡んでいるように見られたかもしれない。
焦りから無意識に縋る思いで城の方へと目を向ける。だが、そこからジューダスが再び姿を現す様子はない。
てか、城の中すら白黒のタイル状の床になっているんだな。そのタイルの一面一面に綺麗に収まるように兵士達が立っている。ジューダスは、やっぱり現れない。
「何をしている」
突如、よく通る低い声が響いた。聞き覚えのある声だった。その声は前方の城の中からではなく、右側、外から聞こえてきた。
「フィンレイ将軍!」
城の大きな庭を歩き、こちらに近づいてくる人物は、あのガラス球の記憶の中にいた男だった。確かジューダスの剣術を褒めていた人だ。そして、第六階層で死体となって転がっていた人。どういうことだろう。この世界では、生きているのか?この階層のジューダスが第六階層のこの人を殺したんだろ?この階層では共存してるのか?……よくわからねぇ。
俺に槍を向けていた兵士が慌てて背筋を伸ばす。
「その、不審な男が城に侵入しようとしていましたので……」
「ふむ……君は?」
フィンレイと呼ばれた男は俺の方を真っ直ぐ見た。
自然と俺も背筋が伸びた。当時のセインガルド兵の階級なんて俺は詳しくないが、将軍と呼ばれている男なのだから相当の権限を持っているはずだ。何より、ジューダスに剣を教えた人でもあるようだし、失礼な態度を取るのははばかれる。
「リオンの知り合いなんです」
伝えれば、兵士達がすぐさま揚げ足を取るように声を荒げた。
「馬鹿を言うな、先ほどお前はリオンさんのことを全く違う名で呼んでいただろうが」
「リオンのことをジューダスと呼んでるってだけだ!」
反論する俺に兵士は更に口を開きかけるが、フィンレイ将軍は「まぁ、待て」とそれを静止した。
「私は今から出るところだったからな、丁度いい。この男は私が外まで連れていこう」
「しかし!」
「お前達は持ち場へ戻れ。さぁ、行こうか」
「あ、あぁ……」
有無を言わさず兵士を退けてしまった男に俺は唖然とする。権力ってすげぇ。
だが兵士達が戸惑う気持ちの方に俺は共感しちまう。何で俺を庇うのだろう。あ、一応ジューダスの世界だからジューダスが俺を助けたいって思ってくれてるってことか?俺また浮かれてもいいか?
フィンレイは城門の方へ向かって俺の背を軽く押した。
いや、浮かれられない。結局はジューダスから引き剥がされるんじゃねぇかこれ。俺はあいつと話がしたいんだが……。
背中に当たる手は大きく硬い。剣を握る者の手だ。その手が背中に触れているだけで、手綱を握られている気分だった。逆らおうって気持ちが沸いてこない。
「リオンの友人か?」
「……はい、あのフィンレイ将軍、ですよね」
「あぁ、君の名前を聞いても?」
「ロニ・デュナミスって言います」
「ふむ。ロニ、リオンには急ぎの用だったのか?」
「……まぁ、それなりには」
城の中へと目を向けた後、フィンレイへと視線を戻す。言葉にはしないが、ジューダスと何とか会わせてくれないか、そう期待の眼差しを送った。だがフィンレイは絆されることなく無表情のままだ。
「リオンは多忙でね。あの兵士も言っていたように、城に一般人が勝手に立ち入ってはいけない。リオンにも迷惑がかかるぞ?」
「……すんません」
その言い方はずるい。引くしかないじゃないか。
俺は溜息をついた。これは一度諦めるしかない。ジューダスが城から出てくるのを待つか、町を周ったりして何か他に情報を掴むかしよう。そう気持ちを切り替えて城門の方へと目を向ける。
「それから、あまりここには長居しない方がいい」
ふと、フィンレイからかけられた言葉に違和感を感じて視線をフィンレイへと戻した。
「君は、余所者だろう?」
「え?」
「きっともうすぐ、見つかってしまうから」
「見つかる?」
フィンレイは特に表情を変えることなくそう言った。
見つかるって、誰に?余所者ってどういう意味だ?
フィンレイは俺の疑問に答えることなく、突然城門の方へ向けていた足を右側へと向けた。
「どこに行くんです?」
「ついてきなさい」
言われるがままについていけば、庭の奥の方へと連れて行かれる。なにやら倉庫らしき建物の前でフィンレイは鍵を差込みドアを開けた。そのままフィンレイは暗い建物の中に入っていく。俺も一緒に入るべきかどうか考えていたのだが、直ぐにフィンレイは中から出てきた。中から出てきたフィンレイは手に武器を、ハルバードを持っていた。
「これをもっていなさい」
そのハルバードをフィンレイは俺へ差し出す。
よく見れば、それは俺が現実世界で使っているハルバードだった。
「……あんた、何で」
何でこんなところに俺の武器があるんだよ、とか。何でお前が俺に武器を渡すんだよ、とか。何かもう色々訳が分からない。とりあえずハルバードは受け取った。俺の手に吸い付くように納まるこれは、間違いなく俺が長く使っている武器だ。
フィンレイは俺の肩を軽く押し、体を城門の方へと向けた。
「さぁ、もう行きなさい」
「ちょっと待ってくれ、どういう意味だ、さっきの」
とん、と再び背中を押される。フィンレイは黙って城門に向かって足早に歩き出した。
何でだ?何でここに俺の武器が?何でこいつは俺にこれを渡した?長居しないほうがいいって?見つかるって誰に?見つかったらどうなるっていうんだ?
俺はじっと、フィンレイが話し出すのを待っていたが、結局それ以上この男は何も語らなかった。
城門を抜ける。脇に立っていた兵士がフィンレイに向かって敬礼する。その兵士の片方が持っている槍を見て、俺は何となくハルバードを持つ手に力を込めた。
警戒しろ、そう言われている気がした。戦うときが来ることを示唆されている。
このフィンレイという男はジューダスと関わりが深いはずだ。何か聞けないだろうか。
フィンレイは「では、今後城に入るならば手順を取るように」と声をかけて町の中を歩き始める。俺は慌ててその横に並んだ。
「あの、あなたとリオンって、どういう関係なんです?」
突然ついてきた俺にフィンレイは少し目を瞠ったが、歩きながら答えてくれた。
「リオンは私の直属の部下だ。私の元で預かっている」
「へぇ……あの、リオンの話、色々聞かせてくれませんか?」
「君は?」
「ん?」
「リオンとの関係だ。何故リオンのことを聞きたがる」
フィンレイは目を細めて俺を見た。怪しまれただろうか。
「俺、リオンとは仲間なんですが、その……最近知り合ったから、よくわからないんです。あいつの生い立ちとか」
フィンレイは暫く目を細めたまま俺をじっと見ていたが、やがて口を開いた。
「彼は幼いときに両親を殺されているそうだ」
「!?」
淡々とした口調で告げられた思わぬ言葉に俺は何も言葉にできなかった。
ジューダスは家族なんて居ないと言っていたが、まさかそんな過去があったとは。
「リオンが持っている剣はとてつもない価値を持つものだったからね。それを狙われていたのではないか、という話だ」
「ソーディアン、か」
「ほう。知っているのか。リオンから聞いたのか?」
「はい」
そうか、両親は殺されていたのか。それはきっと、心に深い闇を落としたことだろう。それが原因で、ヒューゴの思想に共感したのだろうか。
「彼にはソーディアンの声が聞こえるらしい。俄かには信じがたいがね。だがソーディアンがいたからこそ生きてこられたのだとリオンは言っていた。千年前に生まれた人格の宿る剣だそうだ。生きる知識をもらったのだろう」
「リオンは、なんで兵士に?」
「一年程前に女王陛下の乗る馬車が盗賊に襲われた。随分と人数が集まっていたらしい。殉職者が多数でたよ」
血なまぐさい話に思わず眉を寄せる。フィンレイはそんな話など慣れているのか、相変わらず顔色を変えない。
「そんなときに、リオンが通ったのだそうだ。ソーディアンの力を使って盗賊を一網打尽にしたとのことだ。女王陛下はそれはもう感激なされてね。是非リオンをセインガルドの兵士に、と迎え入れたわけだ。リオンは身寄りがないままに旅をしていたらしいからね。そのまま王宮に住むことになった」
「そう、だったのか……一年前って、あいつ十五か。そんな歳で一人旅か……いや、下手したらもっと小さいときから……」
苦労して生きていたんだな。ずっと一人で旅をしていたのか。ならば、人に頼るのが下手なのも頷ける気がする。
いや、一応一人ではないか。シャルティエと二人で、か。……歩んできた道のりが厳しい程、共に歩んだ仲間との絆は深くなるもんだ。……シャルティエの喪失……ジューダスは平気な面してやがったけど、ほんと、堪えただろうな……。
突然、フィンレイが足を止めた。物思いに耽っていたから、二歩先に進んでしまってから慌てて振り向く。
どうした?と聞こうとしたが、俺を見据えるフィンレイの姿に何故か言葉を飲み込んだ。
「さて、どこまでが真実かな」
「え?」
立ち止まるフィンレイの表情は、相変わらず無表情だった。
「あの子はずっと何かを抱え込んでいる。密かに、誰にも打ち明けずに、ずっと。……君も、きっとそれが気になったんだろう?」
俺はおずおずと頷いた。
「私はあの子のことを、分かってあげているつもりでいて、何も知らないのかもしれない。ただ、そうだな。愛情に飢え、孤独を抱えていることだけは、確かだと思う」
なんだ、どういう意味だ?
どこまでが真実って、どういうことだ。この人は何を知っているんだ?いや、言葉の通り知らないのか?でも、この人は、何かを勘付いている。
ジューダスは、その愛情や孤独に餓えたところを、ヒューゴに付け入られたのだろうか。
リオンが王宮に関わったのが神の眼を巡る騒乱が起きる一年程前。この短い時間でヒューゴとリオンは結託しているんだ。リオンの直属の上司というこの男なら、もしかして何か勘付いているのではないのか。
「あの、リオンとヒューゴ・ジルクリストって、親しいんですか?」
「……」
フィンレイは目を細めた。瞳が鋭い光を宿している。
「ヒューゴには気をつけろ」
低い声で呟かれた言葉は、やけに耳の奥に強くこびりついた。
「リオンを、宜しく頼む」
俺の前でフィンレイは初めて表情を変えた。静かに微笑んでみせた後、フィンレイは突然進路を変えて歩き去ってしまった。
「あ、ちょっと!」
後を追ってみるも、人ごみの中に長身であるはずのあの男の姿を見つけることができなかった。
目の前を行きかう人の群れを見ながら、唖然とする。
どこまでが、真実……?
先ほどの話に、嘘が潜んでいたとでも言うのだろうか。裏切り者としては有名であるが、リオンの生い立ちなどは歴史書に載ってなどいない。俺には答え合わせなんてできねぇぞ。
「ヒューゴに気をつけろ……か」
やはり、ジューダスの過去を知るには、ヒューゴが鍵となるのだろう。
それにしても、あのフィンレイ将軍はヒューゴを危険視していたんだな。とはいっても精神世界での話しだから、現実でもそうとは言えない、か?
はて、どうしようか。何はともあれ、現状、城には入れない。とりあえず町を見て周ろうか。一年しか住んでいないとはいえ、あんな大きな騒乱が起きるきっかけとなった町だ。何か他にも情報があるかもしれない。……たった一年の間に、ヒューゴとの間に何があったのだろう。
空を仰げば、赤い鎖で作られた真っ赤な空が見える。
……シャルティエはいないのだろうか。未だに姿が見えない。
ジューダスはシャルティエがいなくなったと言っていた。現実でシャルティエを失くしたことが影響しているのだろうか。
心の守護者であるシャルティエがいなくなるって、大丈夫なのか?
適当に町を歩いていると、一際目立つ大きな屋敷が目に入った。あほかってくらい庭がでかい。
しかし、綺麗に整えられた庭木の中すら地面は白黒だ。この白黒の床は一体何なんだろうか。床がこんな状態になっているのはこの階層が初めてだ。そんな庭の中に、異様とも言えるような光景があった。白黒の床を埋め尽くす程に花が咲き乱れている場所があるのだ。茶色の土からではなく、白や黒の床から茎を生やして見せる花には違和感を覚えるが、一面白黒の床の中、鮮やかな花が埋め尽くすその場所はあまりに綺麗で、異世界のようにも思えた。
その中で、花に水をやっているメイドの姿があった。長い黒髪が美しい女性だった。思わず目を奪われていると視線に気付いた女性が顔を上げる。
「こんにちは」
にこっと、女性は笑った。それだけで、胸がぽかっと温かくなるようだった。何て綺麗な笑顔を浮かべる人だろうか。この町にもこんな人がいるんだな。
「あぁ……こんにちは」
「あなた、もしかしてリオンのお友達?」
「え」
まさかの言葉に思考が固まる。まさかこんなタイミングでリオンの名が出るとは思わなかった。俺、挨拶しただけだぞ。というか、なんで俺のことを知っているんだろうか。俺はこんな綺麗な人知らないぞ。こんな誰の屋敷とも知れぬ場所のメイドが、どうしてまたリオンのことを知ってて、俺のことまで知ってるんだ。さすがにびっくりした。
「……リオンのこと、知っているんですか?」
「えぇ。あなたの話を少しだけ聞いたことがあるわ。ハルバードの使い手で、長身で、銀髪の髪。そして、いつもお腹を出しているんですって」
あぁ、それ俺だわ。あまりに詳細に告げられた内容に思わず呆れてしまった。何なんだろう、この女の人は。ジューダスはこの女の人に、俺のことをこんなに詳しく話しているのか。
「あの、入ってもいいですか?話、聞きたいです」
メイドの女性はにっこりと笑った。それを承諾の意として受け取り、俺は庭に入り込む。
女性の周りにだけ花が咲くのではないかと錯覚するほど、女性は花の中心に立っていて、花と女性は絵になるほど綺麗だった。歪な世界の中でこの空間だけが穏やかで美しい。その中に入るのがなんだか躊躇われて、俺は花が咲く場所の一歩手前で歩みを止めた。
「あの……リオンとは、どういう関係なんですか?」
「たまに、お仕事関係で来るから、その時にお話するのよ」
その言葉に俺は屋敷を見上げる。城の仕事の関係で来るって……ここ、誰の屋敷なんだろうか。
「リオンと、仲良くしてあげてね」
女性の言葉に、屋敷に向けていた視線を戻す。
「気難しいところがあるけれど、凄く優しい子なのよ」
「……リオンと、親しいんですね」
女性は再び微笑んだ。
人と接したがらない、一見冷たいあいつの本質を、この人は知っている。それだけジューダスとこの女の人は親しいのだ。そんな人が過去、この町にもちゃんと居たということか。……でも、第六階層ではこの人の記憶は、なかった。
仕事で、ただ顔見知りになっているというだけの関係ではないように思う。ジューダスから俺のことを聞いているってことは、それだけよく会話をしているんじゃないだろうか。
「あいつ、俺のこと何て言ってたんですか?」
「ふふ、秘密。きっと怒られてしまうわ」
うっわ。めっちゃ聞きたい。皮肉もめちゃくちゃ言われてそうだが、何だかこの言い回しだと、恥ずかしくて俺本人には伝えられない言葉とか、聞いていそうだ。すげぇ聞きたい。あぁ、でも当人から直接聞きてぇなぁ。ここで無理に聞き出すというのも、なんか男が廃る気がする。
俺はあえて軽口を叩くことに決めた。
「かー!あいつのことだ、どうせ俺が馬鹿やっちまったこととか聞いているんじゃないですか」
「ふふっ、ふふふ」
女性は何かを思い出したかのように笑い始めた。あぁ、こりゃー俺のことを面白いネタとして話したりもしてたか。
それにしても、この様子を見るに本当に親しくジューダスと会話をしていたはずだ。不思議な女性だ。
「面白い人ね。素敵。よかった、リオンの近くにあなたみたいな人がいて」
慈しみを感じるような、優しい目をして女性はそう言った。保護者みたいな言い草だ。まぁ、年齢はわからないが、成人はしているだろう女性からすれば、ジューダスなんて子供も同然か。
優しい顔で笑っていた女性が、ふと表情を曇らせた。
「リオンにはもっと、お友達がいると思うの」
「あいつ、友達少ないんですか?」
「そうね。作るのを避けているみたい」
「……どうして」
どうしてだろう。ふと、思った。あいつは確かに一人を好むタイプだった。人と接したがらない。距離を置く。でもよく考えればそれは、ジューダスがリオンであることを隠そうとしていたからだ。今のジューダスは隠し事がなくなり俺達を避けるようなことはなくなっている。過去のリオンが、人を避ける理由はあるだろうか。
ただ人付き合いが苦手だとかいうわけではなく、「避けている」と言われる程、両親を殺され一人で歩んできた孤独は重かったのだろうか。
なんだかんだで、あいつは情に厚いところがある。俺達との最初の旅のように、後ろめたいものを抱えて自ら避けるようなことでもしない限り、友達の一人や二人できそうだと思うのだが。現にこの女性はそんなジューダスの本質をよく分かっていると思う。
「何をしている」
低く、冷たい男の声が突如背後から聞こえ、無意識に肩が跳ねた。不機嫌そうな声から、ここに居ることを咎められていることが一発で分かった。目の前の女性も俺と同じような反応をした。
振り向くと、眼鏡をかけた中年の男がこちらに向かって歩いているところだった。この屋敷の住人か、それに近い権力を持つ者だろうか。
「申し訳ございません、ヒューゴ様」
女性が口にした名前に俺は衝撃を受けた。
ヒューゴ!?ヒューゴ・ジルクリストか!?
メイドの女性は深く頭を下げる。俺は驚愕のままに男を凝視していた。まさか、この屋敷は
「ここは私の屋敷だ。お前は誰だ?マリアン、どうしてこの男をここに入れた」
「その……リオン様のお知り合いでしたので、申し訳ございません、少し世間話を」
「ほう?」
男の無遠慮な目に晒される。気分が悪い。
まさか、ヒューゴの屋敷だったとは。いや、ぱっと見る限りでもこの町で城の次に大きな建物だ。当時世界一の大企業だった社長の家だと言われれば納得だ。
いつか会うことになるとは思っていたが、まさか今になるとは。
「……城の関係者には、見えんな」
「……」
「武器まで持って、何用だ」
「いえ、たまたま通りかかって、随分と綺麗な庭、でした、ので」
心の奥底に沈む憎しみが煽られるのを感じるも、必死にそれを抑えて答えた。
こいつが、ヒューゴ・ジルクリスト。神の眼を巡る騒乱の首謀者。先入観があるのは自覚しているが、いけ好かない奴だ。何だろう、嫌な目をしている。全ての人間を蔑んでいるんじゃないかと思うような目だ。何で、ジューダスはこんな奴の下についたんだ。
「用がないのなら、出て行ってもらおうか」
「あぁ……すまねぇな」
多分、俺の愛想笑いは失敗してる。
俺は早足で庭から出た。振り返れば、ヒューゴは屋敷の中へ入っていくところだった。あのメイドの女性は残りの水遣りを始めている。再び俺の視線に気づき、申し訳なさそうな顔をして小さくお辞儀をした。俺も同じように頭を下げた。
彼女が後で叱られることにならなければいいのだが。
ヒューゴの屋敷と、ジューダスのことをよく知るメイド。ジューダスが屋敷に仕事で訪れるというのは、城関係の話だけではなく、後に起こす騒乱の関係もあってだろうか。
美しい花が咲く庭とは逆に、この大きな屋敷が巨大な闇を抱えた恐ろしいものに見えた。
その屋敷に背を向けて、俺は再び町の大通りへ向かって歩き始めた。ヒューゴとリオンの関係。もう少し情報を得られないだろうか。
それから適当に町を歩いてみたが、特に目立って何があるわけでもなく、情報も特に得られなかった。
ヒューゴとリオンの関係性に関わるものではないが、一つ見つけたとするならば、城の後ろへと回ってみた時に城に隠れてあの神の手が存在していたことに気づいたことくらいか。城並にでっかい手が赤い鎖を掻き分けて世界を掴んでる姿は不気味だった。
ちなみに城の後ろに回ったのは最悪忍び込めないか、っていう偵察目的だったのだが、当時の一番大きな国の城を再現したものだけあって簡単に忍び込めそうにはなかった。
こうして俺はまた城の前にある大通りへと振り出しに戻ってきたわけだ。
この世界の重要人物はジューダス自身と、フィンレイとヒューゴ……あと、少しあのメイドの女性が気になるくらいだろうか。このうちの誰かに、再び会いに行くしかないか。
ドンッ
突然、世界が大きく一度揺れた。
「なんだ!?地震か!?」
思わずつんのめってしまう程の衝撃だった。町の住人達も感じ取ったのか、よどみなく歩いていた住民達の脚は皆一様に止まっていた。いや、でもあの地震に驚いて動きが止まったという感じでは、ない。倒れているものは誰も居ない。驚きに声を上げる者もいない。時間が止まったように皆、ピタ、と動きを止めているのだ。
「……おいおい……どうしちまったんだ?」
銅像のように動かなくなってしまった住民達。恐る恐る直ぐ近くの男性の方に手を伸ばしたところで、今度は一気に人が動いた。
全員が一斉に、同じタイミングで、一歩分、動いたのだ。住民たちはそれぞれが床のタイルの白か黒、どちらかに綺麗に納まるように移動し、またそこで硬直した。
俺が驚いた三回瞬きをすると、また一斉に、隣のタイルへと移動する。その移動の仕方がルールなのだとでも言うように、気持ち悪いくらいの正確さで、住民たちは床の上のタイルを一枚ずつ移動していくのだ。白と黒の間を踏むものは誰もいなかった。
ザ、ザ、ザと揃う足音が響いていく。やがて住民たちはおもちゃの兵隊のように固い動きで建物の中や裏路地へと消えていってしまった。
そうして、俺の立つ大通りの周辺には、誰もいなくなった。
「……気味悪ぃ……なんだったんだ、あれは」
唖然と床の白黒のタイルへと視線を落とす。すごろくのマス目かなんかかよ。
あれだけの人間が移動したのに、相変わらずこの白黒の床は汚れが見えない。
床を睨んでいたら遠くから足音が聞こえて俺は顔を上げた。城の方から一人、こちらに向かって真っ直ぐ歩いてくる人物がいた。青を基調とした衣服。ジューダスだ。
「ジューダス!」
誰も居ない大通りのど真ん中をゆっくり歩み寄ってくるジューダスに向けて俺は右手を振る。そして俺からも向かおうと数歩走ったとき、突如刃がこちらに向かって飛んできた。
その狙いは真っ直ぐ俺の顔。慌てて俺は首を横に倒す。右耳にシュ、と風を切る音が聞こえた。頬にぴりっとした痛みが走る。右手で頬に触れれば、手袋に血の跡がついた。後ろを振り向けば、地面の白い部分に短剣が突き刺さっていた。
視線をジューダスに戻す。周囲に人の姿は、いない。分かっている。短剣を投げたのはジューダスだ。
「おいおい!いきなり、何すんだよ!」
第五階層でも剣を向けられたが、あれはジューダスの意志に反する行動を俺が取ったからだ。今回は俺、何もしてねぇぞ!
突然向けられた敵意に俺は焦ってジューダスの顔色を見る。
無表情だった。
白い手が鞘から剣を抜く。そして真っ直ぐ俺に剣が向けられた。
「お前を殺す」
「はぁ!?」
何が、何で、どうなって突然そうなった!?突然現れて短剣投げ込んでお前を殺すってどういうことだよ!
ジューダスは真っ直ぐ俺に剣を向けたまま、一歩、一歩、白と黒のタイルの上を歩いて近づいてくる。
「言っただろう、僕に関わるなと。だというのに、勝手に動き回って、関わって、あいつに見られた」
「あぁ!?どういう意味だ!」
「馬鹿が」
吐き捨てるようにそう言ったジューダスの表情が僅かに歪んだ。
「もう手遅れだ」
背筋を凍らせるような殺気が、ジューダスから湧き上がる。こいつ、本気だ。
俺は肩に担いでいたハルバードを慌てて両手に持ち直した。
同時にジューダスが地面を強く蹴り、一気に俺との距離を縮める。突進してくるように真っ直ぐ向かってくる剣を右に避け、そのまま薙ぎ払われることを見越してハルバードの柄を左に構えた。
「おい、なんだよ!突然どうした!」
カン、と音を立て強い振動が手に伝わった。
「何で攻撃してくる!?」
柄と剣で競り合っている間に、ジューダスの左手が腰に回り、直後俺の首に向かって真っ直ぐ突き出される。その手には短剣が握られていた。まだ持ってたのか。
慌ててハルバードを上へ持ち上げることでジューダスの左手を払おうとする。だが、柄はジューダスの左腕を打ち上げることはなかった。その前にジューダスは左手を引っ込めていた。
がら空きになった俺の腹に、右手の長剣が迫る。
後ろに跳んで距離を空けようとしたものの、遅かった。腹に痛みが走る。横なぎに斬られただけで傷は深くはない。もっと遅ければ内蔵が見えていたかもしれない。顎に嫌な汗が伝った。
本気だ、本気で殺しにかかってる。
俺は動揺を抑えきれず、三歩、ゆっくり後退した。
「随分と面白い顔をしているじゃないか、ロニ。今更驚いているのか?」
離れた距離にジューダスは目を細め、剣を地面に向けて振るった。僅かについた血が白い床に赤い点を描いた。
「第六階層を見たのだろう?シャルはお前に教えてくれたのだろう?だというのに、僕がお前を殺すかもしれない可能性を、まだ信じていなかったのか?随分と甘い思考だな」
ジューダスは淡々と言葉を放ち、そして再び剣を俺に向けた。切っ先がぶれることもない。ジューダスの表情に動揺が走ることもない。第五階層とは違って、その剣には躊躇いがない。これが、第七階層のジューダスだというのか。ジューダスの人格の一つだと、言うのか。
俺は大きく息を吸い、奥歯を噛み締めた。
「……いいや、お前は自分の信念を貫き通す奴だって、わかってる。その結果俺に剣を向けることになるかもしれないってことも、知ってる。……何か、理由があるんだろ!?なぁ、話せよ!」
これでは第五階層と同じだ。理由もちゃんと話さないままで納得なんて出来るものか。理由があるはずだ。お前が理由もなく俺に剣を向けるわけがない。
こいつはただ冷酷なだけの人格ではないはずだ。そうせざる得ないだけの、何か大切な信念を抱えているはずだ!
「理由?そんなもの、ない」
だが、淡々とューダスは言ってのけた。声を荒げて言う俺と正反対の冷静さで、何も感情を揺るがすことなく。
「理由がない、だと……?」
「強いて言うなら、邪魔なんだ。お前の存在が邪魔だ」
「待てよ!俺はお前の邪魔をした覚えなんてねぇよ!」
「……」
「なぁ!まずは話をちゃんとしねぇと!教えてくれよ!前にも言っただろうが!俺を頼れって!俺はお前の邪魔をしたいわけじゃない!お前のことを想っている!だから!」
「お前は勘違いをしている」
勘違い……?
どれだけ叫んでも、ジューダスは剣を下ろさない。無表情が崩れることもない。俺の言葉は、何も伝わっていない。届いていない。
なんだ、何を勘違いしているって言うんだ。
「僕に信念なんてない。お前を殺す意味なんて、僕にはない。お前を殺さないといけない理由なんて知らない」
理由が、ない?何だよ、それ。
そんなわけ、あるか。意味もなく人を殺すなんてこと、するわけあるか。お前がそんなことする訳が
「ヒューゴ様の命令だ。ただ、それだけだ」
「ヒューゴ!?」
突如出てきた名前に俺は心の底に怒りが沸いた。何かよく分からないが、とりあえずヒューゴが何か関わっている。俺の混乱は全て怒りとなってヒューゴに向かい始めていた。
ふと、ジューダスの顔から逸らしていた視界の端で、薄い唇が弧を描いた。この場で対峙してから初めて現れた表情の変化に俺は眼を瞠る。
「そう、たったそれだけのことだ」
自嘲するように、ジューダスは微笑んだ。
「たったそれだけで、僕は人を殺すんだ」
口は笑っているというのに、瞳は今にも泣き出してしまいそうだ。
あぁ、やっぱり、こいつは、無感情で人を殺せるような奴じゃない。その奥に、狂ってしまいそうな何かを秘めてる。今にも、破裂してしまいそうな、あまりに危うげな表情。狂気を感じる瞳なのに、何故か。
何故か綺麗だとも、思ってしまった。
何でこんな目が出来るんだろう。ヒューゴの命令を聞くその裏に、どんな思いがあるのだろう。
どんな思いにせよ、何か色んな感情でめちゃくちゃになっているその本質は、純粋で、深い想いな気がする。
思わず嫉妬してしまうくらいに。
「なんでお前はヒューゴなんかの命令を聞くんだよ!?」
悔しい、同時に怒りすら沸く。醜い感情が俺の胸に渦巻いた。
どんな思いだとしても、それがジューダスを突き動かしているんだ。ヒューゴなんかの命令を聞くように動かしているんだ。よりによって、ヒューゴなんかの!何でだ。何なんだよ、何でなんだよ!
俺の最後の問いに、ジューダスは答えてくれなかった。その代わりに、ジューダスは一歩足を前に出した。
くっそ、ダメだ!このままじゃ!
――君は坊ちゃんに殺されるかもしれない。逆に、君が坊ちゃんを殺すかもしれない
シャルティエから聞いた言葉が脳裏を過ぎる。このままでは、本当にそうなりかねない。ひとまず逃げねぇと!
俺は数歩ゆっくり下がり、そして一気に裏路地へと走った。ジューダスが後を追う足音が聞こえる。入り組んだ路地を何度も曲がって、途中でこけそうになったり、壁にぶつかりそうになったりしながら、ひたすら走った。
だがジューダスを中々巻くことができない。それどころか何度も追いつかれてはその剣を受け止め、狭い裏路地の中で、蹴りを入れたりして無理やり距離を作ってはまた走り出した。
こんなに狭いところじゃ俺の武器は思うように使えない。それでも、ただ逃げ切ることだけを考えて入り組んだ道を走った。戦うために広い場所に出ては、殺し合いになる。それだけはダメだ!
はぁはぁと息を切らしながらまた狭い裏路地を曲がった。路地っていうか、これはもう家と家の間で不法侵入染みてるけど、んなこと言ってる場合じゃない。
俺を追うジューダスの足音が直ぐ近くまで聞こえる。俺は目の前にある塀を飛び越えた。
「リオン」
誰かの声と同時に、俺を追跡する足音が止まる。
あの声は……ヒューゴか?
一瞬、ジューダスとヒューゴがどんな言葉を交わすのか気になって足を止めかけたが、俺はそれを振り切り再び走り出した。
今は好奇心に負けている場合じゃない。ヒューゴはジューダスに俺を殺すように命じたんだ。その二人が居る近くに呑気に留まっていたら本当に殺されるかもしれない。さっきまで俺を追いかけていたジューダスには俺がどのあたりに逃げ込んだかもバレているんだ。今は、とりあえず逃げないと。
「逃がしたのか」
ヒューゴと思われる男の声が僅かに聞こえてくる中、俺は更に家と家の間に作られた塀を乗り越え、そっと足音を立てないように降りた。
「フィ……イを」
もう殆ど声は届かない。とりあえずジューダスが俺を追ってくる様子はなさそうだ。深く溜息を吐いた。疲れから自然と視線が落ちていく。腹の傷が目に入って俺は眉を寄せた。もう少し、どこか落ち着いて隠れられる場所を探してから治癒術でもかけないと。
付近を見れば城のすぐ近くだった。すぐ右側にはあの忌々しい馬鹿みたいにでかいヒューゴの屋敷がある。無駄にでかい塀の後ろに隠れるように足音を殺して進む。
「こっち」
ふと、どこからか小さく囁くような高い声が聞こえて肩が跳ね上がった。もうこの近辺には誰も居ないと思ったのに。
子供の声、だと思う。どこかで遊んでいるのだろうか。
「ロニ」
同じ声に、今度は名前を呼ばれて目を見開く。
誰だ?誰の声だ。聞き覚えがないぞ。というか、必死に隠れてるのに、ばらしてくれるなよ。見えてるのか?
声がするのはヒューゴの屋敷の方からだ。俺は恐る恐る塀から頭を出した。屋敷の二階の窓から覗き込む目と視線がかち合う。目が合ったと同時に、そいつは微笑んだ。
「ここ、上れるか?」
窓から顔を覗かせている人物は、思ったとおり、幼い子供だった。その子供は自分が居る窓を指差している。
「ここに逃げればいい」
なんだ、この子供。俺の名前を知ってて、俺が逃げてることも知ってて、そして匿おうってのか?ヒューゴの屋敷に逃げるって罠に嵌りにいくような気分なんだが。……でも、この俺のことを知る子供は気になるし、ヒューゴには遠からず接触する必要がある。行ってみるか。
窓の大きさは十分潜って入れるぐらいだ。丁度窓の近くに雨どいがあるから、これを伝えばいくつか足場もあるし上れそうだ。
俺はあたりに誰も人が居ないことを確認してから、塀を乗り越え、身を低くしながら窓の下に移動した。
「窓の横に逃げててくれ」
「うん」
子供の頭が引っ込み、もう一度付近に人が居ないことを確認してから、俺はハルバードを左手に担いだまま勢いをつけて壁を上った。雨どいを右手に掴み、更に足場を蹴って、窓へと転がり込む。ハルバードを床に落としながら二回転ほど転がったが、生地の厚い絨毯が衝撃を緩和してくれた。派手な音も立てることがなかった。助かった。
ゆっくり上体を起こし、部屋を見回す。外装と同じぐらい豪華な見た目の部屋は掃除が行き届いていて綺麗だ。辺りを見回していたら窓の横に立っていた子供がこちらへと近寄ってきた。
「ここなら、暫く見つからないと思う」
「お前……」
八歳か、九歳くらいだろうか?子供は綺麗な黒い髪に紫紺の瞳をしていた。ジューダスに、そっくりだった。ジューダスをそのまんま縮めたら、こうなるんじゃないだろうか。
「ロニ、大丈夫?」
「俺のこと、知ってるのか」
「うん」
「お前、ジューダスか?」
ここは精神世界だ。ジューダスの幼い姿が出てきたとしても不思議じゃない、と思う。よく知らないが。
子供は大きな目を二回瞬かせ、小首を傾げた。
「エミリオ」

引きを意識して!ひとまずここまでです!
はて、内緒にとっての第七階層の最上滾りポイントはまだまだ先です><心が折れそう!
でも今回にも滾りポイントはあるんですよ!
「ヒューゴの命令だ。僕はそれだけで、人が殺せるんだ」って台詞です!!せつねぇえええええええ!!
第七階層に突然出てきた白黒のタイル上の床はチェスの盤上を意識してるんですけどわかってもらえたでしょうか!もうね!僕の!文字センスでは!全然!表現!できなくて!心が!折れそう!!
誰かジューダスのコスモスフィアの絵描いて><
フィンレイが語ったリオンの過去は、リオンがヒューゴとの血縁を悟られないように、ヒューゴがでっち上げた嘘です。プルースト設定です。
この嘘設定のせいで翻弄されるロニたん。 と 内緒/(^o^)\
ところで、コスモスフィアのマリアンが何でロニのこと知ってるの?っていう疑問が自分の中でちょっとだけ沸いたからその説明用に設定も作ったので晒しておく!相変わらずネタバレ防止とかしてないのでお気をつけください!
第七階層のロニの扱いについて
第七階層はリオンの過去の世界ですが、リオンの過去がそのままになっているわけではありません。
リオンの過去をイメージした精神世界です。
本来ならば、過去のリオンはロニなんて知りませんが、結局この階層のリオンもまたジューダスの一部なんです。
そんなわけでロニの存在はちゃんと知覚しています。ロニがダイブすることによって、この階層にロニの居場所というのは出来ているんです。
それは、余所者って扱いですけどね。言うなれば、この階層には存在しないヨウから現れた異質な人間です。でも、仲間であり友達となってしまったジューダスにとって大切な存在です。そう、第七階層リオンにとってもね!!
そんなわけで、第七階層のリオンはマリアンにロニのことも話してるって設定です。
「マリアン」
「久しぶりね、エミリオ」
「うん」
「最近はどう?」
「口煩い奴が来た」
「そうなの?どんな人?」
「無駄に背が高くて、銀髪の髪で、腹を出してて、弟とあわせて漫才みたいなことをしている奴だ」
「ふふ、楽しそうな人ね」
「戦闘は、まだまだ甘くて見ててはらはらする」
「助けてあげたの?」
「別に……」
「エミリオは剣の腕が上手だから、教えてあげたらいいわ」
「そいつはハルバードを使っているからな。あの筋肉馬鹿のごり押し戦法に僕が口に出せることはない」
「あらあら」
「でも、割と頼りになる。壁になるしな」
「ふふ」
「僕のことを知りたいって言うんだ」
「教えてあげればいいわ」
「……ダメだ」
「そう?その人、信じられないの?」
「……そういうわけじゃない。ロニは、割といい奴だ」
「まぁ。エミリオがそんなこと言うなんて、珍しいわ」
「でも……だからこそ、僕とは違いすぎるから、きっと分かり合えない」
「ダメよエミリオ」
って感じの会話があったんじゃないっすかね!(適当妄想)あんまり甘々なのろけ話できてないな!畜生!やっぱり内緒に恋愛関連妄想はまだまだだった!途中で妄想飽きてやめましたが、どっかでもうちょっとツンデレな感じでロニのこと語ってる坊ちゃんがいると想像してます!w内緒さんすぐシリアス行くから書けなかったorz
でも、どれだけ大切にしていようが、
まぁ察してもらえていると思うのですが、
第七階層のリオンはマリアン第一なので、その為ならそんな大切なロニだろうと殺しにかかってきます。
;w;かなぴぃ

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