ハートが夢見る医者 – 2

1 2 3
この記事は約15分で読めます。

ウソップとサンジはチョッパーと別れた後、二人で医務室へ戻ろうとしていた。

「ひとまず全員に状況を伝えねェと。特に倉庫部屋への入室は厳禁だ」

歩きながらのサンジの言葉に、ウソップは顎に手をかけながら頷く。

「だな。あと、チョッパーはトラ男の治療がメインになっちまいそうだし、ナミの看病役も考えねェと」

その言葉に、前を向いていたサンジはブンッと音がなるほど勢いよくウソップに顔を向けた。

「おれがやる!!」

「即答だなぁ!? オイ!? 怖くて任せらんねェよ! おれが後でナミに絞られる!」

一見真剣なその目の奥にハートが見えてウソップは即座にツッコミを入れる。

だが、そのツッコミを聞いていたのかいないのか、サンジは「あ」と声を上げた。

「おれも一度倉庫部屋に入ったからな……ナミさんには近づかない方がいいのか……? クッソ、目に見えねえ脅威ってもんはほんと面倒だな」

「ああ。チョッパーも、『おれはナミのところに行けない』って言ってたからなあ」

そんなやりとりをしながら歩いていると、ふとフランキーが何かを満足そうに見上げているところに出会った。彼は二人に気づくと顔を向けて呼ぶ。

「ウソップ、サンジ! 見ろよ、これ!」

「うおぉおおお!? なんだそのでっけェメカは!?」

どうやって船内に入れたのか。そこにはフランキーの巨体を軽く収めそうな謎のメカがあった。フランキーであれば一人、ウソップの体格であれば二、三人が入れそうな円柱のメカは自動扉がついており、ガシャンとその口を大きく開ける。好奇心を掻き立てられたウソップは目を輝かせた。

「おれが作ったスーパー人間洗浄機だ! 人間一人丸ごと綺麗さっぱり洗い、殺菌消毒まで完璧にこなすメカだぜ!」

「すげェええええええ!!」

「シーザーの野郎のガスは厄介だったからな。パンクハザードやゾウのようなことが今後あったときようにと試作してた一つなんだ」

「へェ」

サンジは感嘆を漏らしながらメカを見回す。サンジも好奇心が疼いたが、このメカに自分の体を全身洗浄されるのかと思うと不安が頭をもたげる。

「大丈夫なのか? これ」

「まーまー、入ってみろって」

「おれからやる!」

目を煌々と輝かせ、ウソップは躊躇うサンジの前を駆け抜けメカの中へ飛び込んでいった。ガシャンと閉まる自動ドア。フランキーはメカの中へ向かって話しかける。

「服を全部脱いでカゴにいれろ。それができたらすぐ近くにあるスイッチを押すんだ」

「おーう!」

元気に応えるウソップの声。しばらく衣服の擦れる音やベルトの金属音が続く。やがて服を脱ぎ終えたのか、ウソップの小さな呟きが聞こえた。

「よし、これだな」

カチ、という音。ウィーンと円柱のメカから何かの動作音が聞こえる。そして――

「うおぉおおぉおおおぉおおおおおお!!」

「な、なんだ!?」

突如響いたウソップの声にサンジはビクッと肩を跳ねさせ一歩下がる。メカはガタガタと揺れながら、ウィーンだのシュワーだの謎の音を響かせている。

本当に大丈夫なのだろうか、と僅かに顔色を悪くさせたサンジが目をパチパチと瞬かせる。やがてメカの音や動きは小さくなっていき、停止した。

「スーパーだろォ?」

「……あ……洗われたぜ……」

フランキーがにっと笑う。それに答えるようにメカの中からか細いウソップの声が聞こえてきた。

(中で一体何が起きたんだ……!?)

引いているサンジと対照的に平常心のフランキーは自慢げに説明を続ける。

「さっきのカゴのところに服が戻ってるだろ? それも全部綺麗さっぱり洗って乾かしてあるから、それ着ろ。これで付着した菌はほぼ百パーセント落とせてるぜ!」

「す、すげェ……フランキー、すげェよ……」

「ナミの調子が悪くなった折には、チョッパーも医務室に戻らねェとだろ? これがありゃあ少しは違うと思ってよ」

ウソップの掠れた感嘆の声にフランキーは嬉しそうに鼻の下を人差し指で擦る。

カシュンと自動ドアが開いて先ほどと全く同じ姿のウソップが現れる。その全身は心なしか清潔感に輝いて見えた。が、足元がふらついている。

少し疲れた様子のウソップだが、彼はそのことを言及せず、着ている自身の服をつまんで目を丸めた。

「てか、この洗って乾かすのがすげェよ。洗濯いらねェじゃねェか」

そんなことより中でどんなことがあったのかが、サンジは知りたい。

「馬鹿言え! どんだけコーラ使うと思ってんだ。普段使いなんてとてもできやしねェよ、今だけの特別だ! おら、サンジもやっとけ」

「あ、あぁ」

せっかく自分より先に体験した者がいると言うのに、予備知識をほとんど得ることなく不安だけが煽られた。

ポカリと開いているメカの扉。未知の世界。

麗しのナミさんにおいしい粥を作り、その隣で甲斐甲斐しく看病するためにも、ここは絶対通らなければならない道だ。サンジはそう意気込み、中へ入っていった。そして――

「うおぉおおおおおおおおぉおおおぉおお!!」

サンジの奇声が響き渡った。

 

 

「……何をしているの?」

「あぁ、ロビン」

騒ぎを聞きつけたのだろう、ロビンが医務室の方角から歩いてきた。やや困った顔を見せた彼女は口に人差し指を立てる。慌ててウソップが両手を口に当て、声を落として謝罪した。

「わ、わりぃ。騒ぎすぎた」

「ふふ。でも大丈夫。ナミはぐっすり眠っているから」

頭を掻きながらばつが悪そうにするウソップにロビンが微笑む。その後、ガタガタと動くメカへと目を向け小首を傾げた。そんな彼女にウソップが口を開く。

「さっきも言ったが、トラ男がひでェ病気を再発症してるんだ。それがよ、伝染病って話でな。だから、こうやって消毒してんだ」

ロビンはなるほど、とメカを見上げながら小さく呟く。

やがて再びメカは動作を停止し、少し疲れた形相のサンジが出てきた。心なしか清潔感に体を輝かせながら。

「あ、洗われた……」

そんなサンジの姿にくす、とロビンが笑う。それに気づいたサンジが目をハートにさせてすぐ元気を取り戻した。

「ロビンちゃん! ナミさんの様子はどうだ?」

「熱は下がってきているわ」

「そうか、良かった」

胸を撫で下ろすサンジに微笑んで応えた後、ロビンはその表情を心配そうに変えて問う。

「それで、トラ男君の方はどうなの?」

ウソップが医務室に駆け込んできたときは、チョッパーから頼まれた薬品を探し出すのに集中していた為ロビンはまだ詳細を知らない。ただ、ウソップの慌てようと、フランキーの大規模な殺菌などから、事態が随分と大事になっているのを察していた。

「さっきチョッパーが見に行った。あいつなら何とかするとは思うが……」

「一体どんな病気なの?」

「肌のほとんどが真っ白に変色してた。熱がかなり高いみたいでな、意識が戻らねェ。何よりも治療法が見つかっていない病気だそうだ。チョッパーも治し方がわからない」

神妙に告げられるサンジの言葉。その隣で表情を暗くするウソップ。その情報と二人の顔からローの容態と状況が緊迫していることが分かり、ロビンは眉を寄せる。

「……でも、一度は治っている病気……よね。……トラ男君は能力で治したのかしら?」

「おれ達もそう思ってる。あいつもぶっ倒れる前は自分で治せるって言ってたんだ。……治す前にぶっ倒れちまってたわけだが」

「そう……トラ男君……あの能力は体力を削るって言ってたわね……」

「あぁ」

「……。」

ロビンにも、ローがこのまま弱る一方であれば最悪の事態に陥るだろうと想像がついた。ウソップが大慌てで医務室に飛び込んでくるのも納得だ。心配と不安が募るが、今はチョッパーに任せるほかないだろうと、ロビンは息を吐き、次の疑問へと目を向ける。

ロビンは大きなメカを再び見上げた。

「それにしても、随分と念入りに消毒するのね。そんなに伝染力が高いの?」

「あぁ。国をひとつ滅ぼしただとかでな」

「…………国が?」

現状の理解に勤めていたロビンの思考が、国が滅んだという単語の前に引っかかり、止まる。

「あぁ。国民が一斉に感染したらしい。それほどの伝染力なんだって。ローも、やけに近づくなって念押してやがった」

あの時の異様な剣幕を思い出しながらサンジは言う。誰よりもその病の危険性を知っているからこその、あの剣幕だったのだろうか。

「肌が白く……伝染……国が……」

薄く開いたロビンの口から、周囲には聞こえない程の小さな声が紡がれる。

多くの本を読んで得た知識の中から、その引っかかりを引き出すロビンの目が泳ぐ。説明に意識を割いていたサンジは、ロビンの様子に気づいて小首を傾げた。

「ロビンちゃん?」

「…………珀鉛病」

軽く握った手を口元へと寄せ、思考の海を潜っていたロビンが答えを引き上げる。その瞳が、僅かに震えた。

「そう……確か、彼は……北の海出身だったわね……」

表情を曇らせるロビン。何か知っているのかと、サンジは声をかけようとした。だが、口を開きかける前にサンジの体がぴくりと震える。

開きかけた口を閉じ、サンジは表情を固くする。彼は倉庫の方へと目を向けた。同時に、その方角からドンッと物音が響いた。

「……なんだ?」

サンジの眉間に皺が寄る。音が聞こえる前にサンジを反応させたのは、殺気に似た気配だった。

見聞色の覇気によって感じ取っていたローの気配は、病気を発症してから常に不穏なものだった。それが一気に爆発したかのように、その気配が変動した。

ウソップも何か感じ取ったのだろう。困惑と不安を浮かべてサンジへ目を向けている。ロビンもフランキーも、二人の変化を察して場に緊張が走る。

何か良くないことが起きているに違いない。

サンジはすぐにそこへ向かおうと体を向けるが、今度は背後から足音が聞こえ、動きを止められる。

「おい、なんだこの気配は」

「トラ男、何かあったのか!?」

小走りに駆けてきたのはルフィとゾロだ。彼らも気配を感じ取ったのだろう。一番現況に疎いゾロは困惑しつつも、その手は刀へと添えられている。

「だぁ~~! 待て! おめェらはそこで止まれ! おれが見てくるから! ウソップ、マリモとルフィに説明を頼んだ。倉庫にはぜってェ入らねェように言い聞かせてくれ」

「あ、あぁ」

伝染病という脅威を前に、この二人に好き勝手に動かれては困る。サンジは面倒な二人が来たと苛立ち、ウソップにこの場を全て丸投げした。ウソップは目を瞬かせながら頷く。それを見届け、サンジは倉庫部屋へ向かって走り出した。

険しい表情のルフィとゾロを前に、ウソップは感染対策についてどうにか彼らにわかるようにと話し出す。

そんな中、遠ざかるサンジの背をロビンは神妙な面持ちで見つめていた。

 

 

 

サンジは倉庫部屋までの僅かな距離を走る間、見聞色の覇気の使用に集中する。常なら凛として思考を気取らせないローの気配が、今はもう支離滅裂に乱れていた。多くの思考と感情がない交ぜになって読み取ることすら困難だ。そんな中、時々はっきりと聞こえる声があった。

――殺される

切羽詰ったその声。それだけが明確にわかるものだというのに、その意味がわからない。今、彼の周りに、彼を害する存在などないというのに。

サンジは辿り着いた倉庫部屋のドアを叩いた。

「おい! チョッパー!! どうした!?」

「待って!! 入っちゃダメだ!」

チョッパーの緊迫した声に、サンジは今にもドアを開こうとしていたその手を止める。チョッパーはサンジの行動を的確に読み取り、それを止めた。その言葉がなければすぐに倉庫へ押し入っていた。

危険な伝染病を前にしているからこそ、ドアを開ける前に荒々しいノックをしたわけだが、いざ止められると今度はどうしたらいいかわからずサンジは顔を顰める。チョッパーの声には余裕がなかった。現状の説明は求められないだろう。

扉の向こうでは争っているかのような物音が聞こえる。病床に伏せていたローが何故このような気配を出しているのかわからない。暴れていると思しき人物はローなのか。何で? あの言葉の意味は?

「サンジ」

解決しない疑問がぐるぐる回る思考を、凛とした声が裂く。背後からかけられたそれに振り向く。

「ロビンちゃん」

小走りに駆けてきたロビンはサンジを視界に入れると足を緩め、静かに歩み寄ってきた。

「私が見てくるわ」

冷静に倉庫部屋のドアへと目を向けたロビンはそう言うと、腕を交差させて目を瞑る。彼女が能力を発動させるとき特有の体勢だ。

彼女の分身であれば感染の心配もないだろう。サンジは静かに頷き、ロビンに任せつつも心配そうに扉を睨んだ。

 

 

ロビンはまず、倉庫部屋の中に目だけを咲かせる。倉庫はロビンの記憶より物が大きく移動しており、先ほどの物音の原因か、荷物の箱がひとつ転げて中をぶちまけていた。その奥でチョッパーがローを抱えているのが見える。ローの意識はないらしく、チョッパーはローの体を横たえて毛布をかけるところだった。

ロビンは咲かせた目を閉じると、次に分身を咲かせる。本体であるロビンと同じ体勢のまま咲いた分身は、ゆっくりと目を開ける。チョッパーはそれに気づくことなく、背を丸めてローを見ていた。そんな彼のもとへ、そっと歩み寄る。

「チョッパー、どうしたの?」

「ロ、ロビン!? だめだよ、入ってきちゃ!」

びくっ、と体を震わせて目を丸くしたチョッパーが、慌てて声量を抑えながら言う。ロビンは安心させるように微笑んだ。

「大丈夫よ、分身だから。それより……」

ロビンは倒れて中身をぶちまけてしまった荷物の箱へ視線をやる。よく見ればその下敷きに、チョッパーが持ち込んだ薬がいくつか割れて転がっているようだった。それからぐったりと眠るローの顔へ視線をやり、その真っ白な肌を見る。次にチョッパーへと視線を移す。チョッパーの頬が腫れているように見えた。

何が起きたのか無言で確認をするロビンを見て、チョッパーは再び視線を落とした。座り込んだ膝の上で拳が震える。

「おれは……診察の仕方を誤った……!」

「チョッパー……?」

チョッパーはゆっくりと人型から元の姿へと戻る。チョッパーの体積が少なくなる分、着ていた防護服はしわくちゃになってその場に落ちた。チョッパーはおずおずと防護服から抜け出て、それを畳み始める。

「ちゃんと、予測できることだった……」

ロビンはただ静かにチョッパーを見ている。チョッパーは顔を上げることができず、苦しげに眠るローを見つめた。同じ様に、苦しみに塗れた表情で見つめた。

どうして気づかなかったんだろう。そう、チョッパーは己を責め立てる。

珀鉛病は、滅びたあの国でしか発症例がないことを、チョッパーは知っていた。その国がどうやって滅びたのかも、知っていた。人の手によって、戦争によって滅びたことを知っていた。悲劇と称されたそれが戦争とは名ばかりの虐殺であったことは、今思えば簡単に想像がつく。

そんな敵国が、伝染を恐れて防護服を着用していたことくらい、記述になくとも十分読み取れたはずだったのだ。

だから、珀鉛病を発症しているローに防護服を着用して接することが、彼にとってどういう意味になるかも、気づくべきだったのだ。

防護服を抱え込んだ腕に、思わず力がこもる。

「……」

その姿を黙って見ていたロビンは少し屈み、そっとチョッパーの頭を撫でた。

「チョッパー……」

その気遣いが返って苦しかったのか、チョッパーはロビンの手を拒絶するように頭を軽く振るう。

「おれは、なんともない……おれは……。トラ男は、悪くないんだ。おれが……」

手を戻すロビンへ、チョッパーは防護服を差し出す。

「これは、もう、いいよ。部屋から出しておいてほしい。ごめん、殺菌だけ、お願いしていいかな」

「……わかったわ」

ロビンはそれを受け取ると、屈んでいた体を起こす。両手に防護服を抱えて出口へと向く。

ロビンは一度防護服へと視線を落とした。それを撫で、ロビンはチョッパーに背を向けたまま、口を開いた。

「……白い町……フレバンス、だったかしら……本で読んだことがあるわ」

「!? 何か知ってるのか!? 珀鉛病について、何か書いてあったか!?」

弾かれたように顔を上げ、チョッパーはロビンへと顔を向ける。ロビンは静かに首を横に振る。

「いいえ、どのような病気なのか、その説明だけで治療法は何も。ただ、その国でどんな悲劇が起こったのか。その歴史の一端が語られていただけよ」

ロビンには、この場で何が起きたのか、説明されずとも理解できた。珀鉛病によって生まれた迫害と戦争の歴史を彼女は知っている。ローが発症している病が珀鉛病だと悟った時から、それが彼のトラウマに触れることではないかと、もとより心配していたのだ。

白い町の悲劇を語る本。それを読んだとき、ロビンはその本を、書かれている通りには読まなかった。彼女は彼女の経験則に基づいて、著者があえて文にしなかった歴史を読み解いていた。戦争と書かれた裏で起こっただろう虐殺も、病を広めないためと書かれた裏で行われた迫害も、欺瞞に塗れた文から滲み出て見えた。

だが、チョッパーは自分とは違っただろうと、ロビンは思う。医学の一旦として知識を得ようとしたチョッパーが、病以外の戦争の話まで深く知っていたとは思えない。この優しい船医が、悲劇と書かれた本の裏にある残酷な現実を、どこまで想像できただろうか。

それを想像できなかったのは、確かに、チョッパーの考えが足りなかったからだ。だが、ロビンは思う。彼が彼だからこそ想像できなかったのだと。

本に記された者たちのような、病に苦しむ人を我が身可愛さに殺す者とは違う。それどころか、我が身を捨てて助けようとする彼だからこそ、思いつきもしなかった。ただそれだけなのだと。

ロビンは振り向く。そして真っ直ぐ、チョッパーの目を見る。とても綺麗なその目を。

「チョッパー、あなたは治療をするために行動をしたの。……何も、恥じることはないのよ」

ロビンの言葉に、チョッパーの顔が泣きそうに歪む。

チョッパーはこの船の皆を守るべく、そしてローを守るべく、医者として最善の方法を必死に探した。これが最善と思って動いたのだ。実際、医者であるチョッパーまでも病に倒れてしまっては、まだナミの容態も完全には落ち着いていない現状、麦わらの一味が壊滅する事態に陥りかねない。チョッパーの行動を責められる者などいない。

それでも、この優しい船医は、自分を責めることを止めないだろう。チョッパーやロビンが考える通り、もしローが白い町の悲劇の生き残りだとすれば、その過去の傷は察して余りある。悪意のない行動とはいえ、自らの行動をきっかけに、その深い傷を抉ったのだと思えば、自責を覚えずにはいられまい。

未だに苦しげな顔をするチョッパーに、ロビンは目を伏せる。

「みんなには、私から話しておくわ」

「……うん、ありがとうロビン。それから、おれはもうこの部屋から出ないようにするから、みんなにはナミを見ててほしいんだ。様子がおかしかったら、教えてくれ」

まだ落ち込んではいるが、それでもチョッパーの目が、医者としての決意に満ちた強い光を宿しているのを見て、ロビンは微笑む。

「えぇ。これだけ片付けたら、部屋の掃除、手伝いにくるわね」

 

倉庫部屋の外で、本体であるロビンは目を開けた。

「ロビンちゃん」

倉庫部屋をじっと見ていたサンジがロビンの方へ振り向く。中の会話のいくつかは漏れ聞こえていただろうが、彼には何が起きたかさっぱりわからなかっただろう。説明を求める眼差しに、ロビンは安心させるように微笑む。

「大丈夫よ。私たちは一度戻りましょう。ちょっと物を運びたいから、今はここにいない方がいいわ。何が起こったかは、そこで説明するから」

それだけ言って、ロビンは医務室へと向かう。サンジは一度倉庫部屋へと顔を向けたが、すぐロビンに従いついてきた。

1 2 3

Comment

  1. 彩雅 より:

    このコメントは管理者だけが見ることができます

    • 内緒 より:

      彩雅さんこんにちはー! 性癖完全一致ありがとうございます!(大声) こんな偏狭の地まで起こしいただけて凄く嬉しいです! 妄想途中の拙い駄文にまで目を通していただけて嬉し恥ずかしです/// 彩雅さんの妄想の糧となれたようで、よかったです~!

      ハートが夢見る医者は、2のラストのあの部分を書きたくて書いたようなもので、一番の見せ場ともいえるような部分でしたから、そうやって文字から映像を想像して読んで頂けるの、すごく嬉しいです! 私もローの表情を色々頭に思い描きながら書いていたものですからっ! 彩雅さんが思い描いておられるものと一致しておりとても嬉しいです///

      ルフィ先輩からしたら、諦めが混じるその笑みにはもやっとくるでしょうねw もっと胸張って笑えるようにしてやる! って暴れだしてくれそうです……っ! ルフィぱいせんマジぱいせん……っ!

      あぁ~~そう、そうなんです。愚かで愛おしいは、まさしくそういう意図を込めたもので、的確に読み解いて頂けて本当に嬉しいです! ローからしたら、コラさんやチョッパーの行動は危険で、愚かに見えるんですが、でもそんな彼らだからこそ、ローは命を救われてきて、そんな彼らの愚かさが、ローにとっては愛おしくて仕方ないだろうなと……っ!
      タイトルつけるの超絶苦手人間なんで、う~んう~んって唸りながらつけたタイトルの意図も汲み取って頂けて、もう大の字でとろけてますw

      この後に関しては、8割方ご想像通りな感じになっているのでちょっと爆笑しちゃいましたw まぁ、妄想途中の方で元ネタあるので、そちらをご覧になっていらしたらほぼほぼどうなるかはわかっちゃったかもしれませんね>w< ロー君妄想して楽しんで頂けて幸いです~~!

      長文めちゃくちゃ喜び転がる人間なので、本当に嬉しいです! ありがとうございますっ! またとんでもない妄想思いついては書き散らしたりすると思うので是非お付き合いいただければとっ! 宜しければ是非是非、彩雅さんのロー君の妄想も聞かせてください~~! 大好きなんです妄想語り/////
      こちらこそ、たくさんのご感想をありがとうございます! 本当に本当に嬉しいです!

  2. 内緒 より:

    このコメントは管理者だけが見ることができます