ホープタウンでのことはきっとジューダスにとって苦いものがいっぱい浮かび上がったに違いないニヤニヤ。それを見たロニがジューダスのことを更に知って更に知りたいことが増えて……ウフフフウフ
「ジューダスって変なやつだね。仮面ずっと外さないのかい?」
ナナリーの言葉に俺は苦笑を浮かべるしかなかった。
こんなくそ暑い中にいても、あいつは仮面を外そうとしない。蒸れねぇのかなぁ。あれ。
「俺も素顔見たことねぇんだ」
「きっと外したら綺麗な顔してるだろうにねぇ」
「額に変なもんがついてて、それを隠したいとか、そんなんなんじゃね?」
「はは、そんなくだらない理由だったらいいんだけどね」
そうだな。俺もそんな鼻で笑い飛ばして終えることのできる理由だったらいいと、本当に思う。
ナナリーも短い付き合いながらジューダスについて俺たちと同じ印象を受けたようだ。
「ルーが生きてたら、同じぐらいの歳だろうにね」
「ルー?」
「弟。病気でずいぶん前に死んじゃったんだけどね。よく笑う子だったよ。きっと生きてたら今もよく笑ってるんだろうね。そう思うとさ、気になっちゃって」
「……そうか」
思わぬところで普段明るいナナリーの陰をも見てしまい、少し答えあぐねた。その時、遠めに見ていたジューダスがこちらを振り向きじっと見てくる。
「お、どうした?」
「先ほどから視線がうざい」
「ぶっ、あはは。ごめんよ。仕事サボってどこうろついてんのかと思ったらうまいこと隠れてるもんだと思ってね」
そう、相変わらず子供の相手から逃げだしたこいつは木陰に隠れてゆっくりナナリーから借りた本を読んでいたのだ。ちなみに子供たちにはジューダスを探せっていう任務で遊ばせているが、こうも闇に溶け込んじまってると見つけるのは一苦労だろうな。
だが、ジューダスが声を出した為に、どこに潜んでいたのか子供たちが現れ、「ジューダス見っけ!」と連呼する。ジューダスがそちらを一瞥したが、すぐに書物へと目を戻した。そんな姿にナナリーがため息をひとつ付くと立ち上がる。
「全く可愛げのない子だねぇ」
「全くだ」
「はは、ちょっと会いたくなっちゃったなぁ。……もう少し子供たちのこと頼んだよ、ロニ」
「ん?今度はどこ行くんだ?」
「すぐそこまで」
そう言うとナナリーは町の隅っこの墓がある場所へと歩き出した。綺麗な景色の中に立つ墓は弟のだったのか。
ザ、と砂を踏む音がして気づいたら隣にジューダスが立っていた。いつの間にかガキどもの姿が見えなくなっている。
「おい、お前あいつらに何て言ったんだ」
「かくれんぼ中のジューダスを見つけれたらジューダスが剣の稽古つけてくれるってよ」
舌打ちとともに恨めしそうな視線が来る。仕方ねーだろうが、どっかの誰かさんがサボってるから俺も子守が大変なんだよ。少しくらい楽させろ。
「しかしあいつらはどうしたんだ?納得させれたのか?」
「撒いてきた」
「ぶっ、おまえねぇ……」
「そんなことよりだ。ロニ、僕たちはどうやらハイデルベルグから十年の時を過ごしたようだぞ」
「は?」
ジューダスの言った言葉を飲み下すことができなかった。その状態の俺にジューダスは本を突き出す。
……出版日が9年後になってんだけど。
「おいおい、ただのミスだろ」
「去年に出版されたもののようだ。中身は9年前に降り立った神についての話。フォルトゥナ神団の話。ちなみに著者はD6151。ようやくナナリーが呟いていた言葉の意味がわかったな」
そういえば、出会った当初はあんた達にはちゃんとした名前があるんだね。とか、あんた達もアイグレッテから出てきたのかい?とか、言っていたような。いや、でもだからっていくらなんでも
「何だそれ、頭イカれてるやつが書いたんじゃねぇの?」
「そこらの住人に聞いてみたらどうだ?それこそ、ナナリーにでも」
そう言ってジューダスはナナリーの居る方へと目を向ける。そこに墓の前に座るナナリーの姿を見た瞬間動きが止まった。さすがに声をかけられる状況じゃねぇもんな。
「弟の墓だそうだぜ」
「弟……」
「生きてたらお前と同じぐらいだって言ってた」
随分前だとは言っていた。墓の前に座るナナリーの背はしっかりしているように見える。だが、どこか影がある。
肉親を失う悲しみは計り知れないものだ。俺だって、経験してる。
そういえば、ルーティさんも弟を亡くしているって言ってたな。時々子供たちを近所の人に任せて誰にも行き先を告げずに外に出ることがある。孤児院の年長者としては心配で無理やり行き先を聞いたら弟の墓に行くのだと話してくれた。自然と、二人の影が重なった。
―――ィィン
ふと耳鳴りを感じて目を瞑る。その瞼を上げるとちょうどナナリーが振り返って目が合う。ナナリーが笑って手を振りこちらへと歩いてきた。
「ジューダス降りてきたのかい。で、子供たちに剣の稽古って話は?」
「……知るか、そんなもの」
「あははははは、でもあいつらはきっと離しちゃくれないよ?」
―――キィィィン
何だ?耳鳴りがやまない。
子供たちがようやくジューダスの姿を見つけてわらわらと集まり始め、ジューダスは抵抗もせずその場に居続けた結果、子供たちにマントをがっしりと捕まえられた。
「あはは、ほらね? あんたもさ、いつまでもそんな仮面付けて仏頂面してないで、たまには年相応に子供たちと戯れてみたらどうだい? 子供はやっぱり元気でいるべきなんだよ。そうしてくれると、嬉しいんだけどな」
ナナリーの言葉の裏にはルーと重ねての感情がある。恐らくそれは鋭いジューダスには伝わったはずだ。ナナリーの言葉は俺がジューダスにこの前かけた言葉とほぼ同じだが、どうなるか。
―――キィィィイイイン
い……っつぅ……、何なんだこれ。さっきから耳鳴りがまじやべぇ。頭痛にまで発展しそうなんだが。なんだ、これ。何か、異様に胸が掻き毟られるような焦燥感。何か変だ。俺変な病気にでもかかっちまったか?
耳鳴りに隠れてもうひとつ何か音がしてる気がする。
「あんたさ、人生一度きりなんだから。もっと楽しまないとだよ」
ジャラジャラ……?……鎖?
音の正体に気づいた時、脳裏に一瞬、フラッシュバックのように浮かんだ景色は見覚えがあった。
世界を覆う、数多の鎖。
…………コスモスフィア?
ハッとして、ジューダスの方を見る。
うつむく事で仮面の下に隠されたその表情が、何故か俺には手に取るようにわかった。耐え兼ねる痛みに、歪んだ顔。
耳鳴りは止み、異様なまでの静けさが戻ってくる。子供たちの声は今でもざわついて聞こえるのに、静かだ。
ジューダスは何も言わず、しっかり掴んでいたはずの子供たちの腕からいつの間にか逃れ、そのまま歩いて去っていく。子供たちはジューダスを捕まえようと腕を伸ばすのだが、ことごとくそれらは避けられ、またジューダスの醸し出す空気に自然と子供たちは腕を伸ばすのをやめた。
変わりに、純粋な大きな瞳たちは不安げな色を湛えてナナリーへと向けられる。
「ジューダス……」
控えめにナナリーが呼びかけるが、それにも一切反応せずジューダスの歩みは止まらない。
「ごめん、あたし何か悪いこと言っちまったかな」
「いや、気にすんな。あいつ何が地雷かさっぱりわかんねぇから……ちょっと俺から話してくるからよ、しばらく部屋貸してもらえるか? あと、その部屋に人寄らせねえでほしいんだ」
「ん、わかった」
ナナリーにいいつつ、俺はズボンのポケットへと手を入れる。右手に滑らかな物体の感触を確かめ、それをぎゅっと握った。耳鳴りは病んだが、焦燥感だけはどこか残っている。緊張に胸が高鳴っているのかもしれない。
足早にジューダスに近づく。俺から逃れようと動くのが見えたが、力任せにそれを掴んで引っ張った。
すさまじい怒気を向けられたのがわかったが、完全に覚悟を決めて挑んだ俺は揺らぐことなく無理やりジューダスを引っ張る。力では負けないから捕まえてしまえばこっちのもんだ。
「何だ」
「ちょい話」
「話すことなどない」
「いいから一度こっちこいよ」
ぐいぐいと無理やり引っ張る。右手で鷲づかみしたジューダスの腕は力加減を間違えたら折ってしまいそうな細さだった。ジューダスがどこへ行こうとしていたのかは知らないが、ちょうど進行方向付近にナナリーの家があるから使わせてもらう。この部屋に鍵なんてものはないが、まぁいい。
部屋にジューダスを押し込み、ドアを閉める。
「ジューダス。ダイブさせてくれ」
「……は?」
開口一番にそう告げれば、ジューダスは珍しく表情を変えて驚いた。
大方、先の態度を咎めるような言葉か、先日と同じ言葉をかけられると思っていたんだろう。出てきた言葉はもう二度と行うはずのないものだったのだから、仕方ないだろうな。
ズボンからレンズを取り出しジューダスに見せてやれば、苦虫を噛み潰したような表情をした。
「貴様……返したのではなかったのか」
「悪い」
「ふざけるな、僕はもう二度とごめんだ。僕が信じられないと言うのならば一緒に旅はしないと言ったはずだ」
「ちげぇよ。信じられないからやるんじゃねぇ」
「じゃあ何だ!?」
「お前のことが知りてぇんだ」
「信じられないからそう思うのだろう?」
「ちげぇって!違うんだ!何で知りたいイコール信じられないになるんだよ。そうじゃねぇ、そうじゃねぇんだ」
どうすれば上手く伝わる!? 俺はこんなにも言葉を知らない馬鹿だったってのか!!
気になるんだよ、目の上のタンコブみたいに。痛いんだよ、実際神経なんて一切つながってない赤の他人だっていうのに、俺まで痛いんだ。笑って欲しいんだよ。穏やかに、安らげる場所で、そんなところに連れて行ってやりてぇんだよ。
お前を
「お前を守りたいんだよ!」
「……………………は?」
随分と間を置いて、再びジューダスはさっきと同じ顔をして唖然とした。呆けたと言ってもいい。
俺もまた暫くして自分の発言が少し一般的じゃないような感じがして顔に血が上る。でもなんだろう、この言葉が一番的確な気がする。すっぽりと自分の胸のうちへと入ってくれる。
でも、守るとか、普通主従関係もない男に向けて言う言葉じゃない。それを戦術では俺に引けをとらないどころか悔しいながらも上を行っているかもしれない相手に、だ。でも、これが俺の気持ちなんだ。
…………はは、嘘だろ?何でだ。仲間として、のつもりだったはずなのに
俺は気づいてしまった。自分の気持ちが一線を越えてしまっていたことに。
「お前のことが、好きなんだよ!」
ちょwwwwwwww
あれ、告白こんな早い予定じゃなかったはずなのにwwwロニさん何勝手に暴走してるんですk
しかも凄まじくムードのないところでwwww
あと内緒さん何勝手にダイブシステムをさらっと捏造してるんですかwww
リアルで耳鳴りとかの意味不明な以心伝心は内緒さんの捏造です。
正直ジューダスの守りが硬すぎてロニがすっごい熱くなってくれないとダイブさせてくれなさそうだったんです。なのでもうちょっと熱くなれよぉ!!!!って脳内命令したらロニさん凄まじく暴走始めました。あと軽く寝ながら書いたのもあると思う。いつものことだけど。以上言い訳。
どうでもいいからジューダスさん早くダイブさせてください。
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