コスモスフィア楽しい
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鎖が増えた……か。
もう一度空を仰ぎ見る。世界を囲むように存在する鎖は決して少ない量じゃない。
「ま、でも鎖はやっぱり元からあったわけだからさ。億ある鎖が更に百増えても、変わりなんてわかんないでしょ」
そう言う心の護の声はどこか憂いを帯びていた。
根元はどこかにあるとしても、きっとこの鎖はそうやって幾重に増え、それが折り重なってできたのだろう。その度にジューダスはあの表情を浮かべいてたのだろうか。心の護がそれを知っているとするならば、その憂いは当然だ。
……空気を変えたい。
「そういやさ、俺ついさっきリアルでジューダスに好きだって告白したんだけど」
「へ!?」
「あいつ相当動揺してたけどよ、そこんとこコスモスフィアで変わりはなかったのか?」
「告白って、ほんと君一体どうしたんだよ。どっかに頭打ち付けたんじゃないの?」
「残念ながらそうじゃねぇな。……多分、第一階層に入ることで触れたジューダスの欠片に、すげぇ惹かれたんだ」
「……はぁ……僕はまだ認めないからね。坊ちゃんも君の事なんかまだ眼中にないでしょ。ただ押しに弱くて、情を捨てきれない人なだけだから」
「う……わかってるけど……それがわかるってことは」
「残念ながら坊ちゃんの深層心理に君の影響でできたものなんて一欠片もないよ」
「さいですか」
あんだけ動揺してたんだから、ちょっとくらい何か起きてもいいと思ったのによー。ちぇっ。深層心理のど真ん中に俺の像でも建ってくれてりゃ最高に面白かったのに
とりあえずまぁ、町に行ってみるか。今はこの町を見下ろせる丘の上にいる。しかし空により明暗しっかり分けられた二つの町……またはひとつの町が壁ひとつに裂かれた町、は町の雰囲気もまた明暗分かれているように感じた。自然と、空が明るいほうに足を運んだ。
しばらく歩けば町に入った。本当に至って普通の町だ。驚いたのは人が住んでいること。第一階層とはえらい違いだ。
「普通の町だな」
「君のよく知る町って感じだね。平和な町だよ」
子供の笑い声が響く。公園があって、子供たちがはしゃぎまわっていた。
本当にいたって普通だ。なんとなく、クレスタのイメージが浮かぶ。俺の知るクレスタよりは町並みはしっかりしてるけど。
きょろきょろと町を見回していたら、見知った赤い髪を見つけて驚いた。
「おま、ナナリー!?」
「あぁ、なんだいロニ。あんたもこいつらに遊んでもらうかい?」
目の前の女性は俺の知るナナリーと全く同じ用に話しかけてきた。
「どういうことだ、なんでナナリーがここにいるんだよ!?」
「は?何でって、あたしはずっとここに住んでるけど……?」
遊ぼうと詰め寄ってきた子供たちも足を止めて首を傾げている。さっぱりわからん。
「あんただって、ここの住人だろう?」
「へ……?」
「ロニー遊ぼうぜー!」
子供たちはホープタウンにいた子たちだ。
混乱している俺に心の護が声をかける。
「あれは坊ちゃんのコスモスフィアのナナリーだよ。リアルのナナリーじゃない」
「まじで?こんなのもあるのかよ」
「当たり前だよ。想い、気持ち、意思、過去、人格が見える形で世界となって広がっているのがコスモスフィア。坊ちゃんにとってナナリーという人物は、坊ちゃんの世界でこの場所に住む人だって坊ちゃんが思っているってこと」
なるほど。ジューダスがナナリーをどう思っているかってのまでわかっちまうわけか。
そして先程のナナリーの言葉からすると
「じゃあ、俺もこの世界にいたりするのか?」
「いるよ。でも君がダイブしているときは存在しない。入れ替わるように君がリアルに戻れば坊ちゃんのコスモスフィアのロニが戻ってくる」
「なんだそりゃ、なんか気味わりぃな」
「そう?当然の現象だと思うけど。君だってあるでしょ。人の見た目だけで判断して、この人はこんなことを話すんじゃないかとか、ちょっと喋ってみただけでこういう人なんだって決めつけ。それがコスモスフィアに現れてるんだよ。でも当の本人が今目の前にいるんだから、現れようがないってこと」
なーるほど。じゃあどう足掻いてもジューダスにとっての俺という存在には会えないわけだ。そりゃそうだよな。ジューダスは俺が一人しかいないの知ってるし、本人を目の前にして自分の頭の中の俺が全てだなんて病的な考えはしねぇ。
あーどんなんなんだろうなぁ、この世界の俺は……ハハ、きっと美女追い掛け回してるだけの人間になってるんだろうな。……少し前だったのなら、ひたすらジューダスを敵視している俺がこの世界に巣食っていたのかもしれない。
「どうしたんだい?ロニ」
「あ、わりぃ。ちょっと俺他に用があるんだわ」
「そっか。なら仕方ないね。そういやカイルも近くにいるよ。探してるのはカイルかい?」
まじで!?と思わず食いつきそうになった。危ない危ない。ここでカイルを見つけたとしてもリアルで見つけらるわけじゃないというのに。
「いや、違うんだ。なぁ、ジューダスがどこか知らないか?」
「ん?誰だい、それ」
……え?
「ジューダスだって。ジューダス」
「そんな奴、この町にはいないよ?」
「お前、ジューダスのこと本当に知らないのか?」
「知らないって」
唖然とする。どういうことだ?ナナリーはジューダスの存在を全く知らないと、ジューダスが思ってるってことなのか?んな馬鹿な。何でそんなことになる?
いや、まて。それを言うならナナリーがこの町に住んでいるのもおかしい。あいつはホープタウンに住んでいるんだ。それにカイルのことを既に知っているのもおかしい。コスモスフィアは想い、気持ち、意思、過去、全てが入り混じってできてるんだ。過去や記憶、知識がそのまま忠実にできてるわけではないんだろう。想いや意思により捻じ曲げられているんだ。
「そうか……じゃあ他を探すわ。ありがとよ」
「ちょっと待った、ロニ。他を探すって、もしかしてあの町に行くつもりかい?」
そう言ってナナリーが視線を投げたのは、例の空が曇ってる側の町。
別にあの町を限定して探そうとしていたわけじゃないが、どうもナナリーのこの言い草では曇った町以外にジューダスの居そうなところはないようだ。
「あぁ。そうするつもりだけど」
「そっか……んー気をつけなよ?あんまり良い噂聞かないし。実際こっちよりは治安悪いらしいしさ」
ナナリーの顔まで曇った。やっぱり外見通りの町なんだろうなぁ。
世界の明暗がはっきりとわかる世界、ってところだろうか。で、あいつの居場所は暗いところってか?はー。くだらねぇ。ぜってぇこっちに引きずり出してやろう。
「ま、とは言っても同じ人間が住んでるんだしさ、まぁただの噂だしね。でもスリには気をつけなよ」
「あぁ、さんきゅ」
ナナリーに軽く手を振る。ナナリーは特にそれ以上気にかける様子なく子供たちのところへと戻っていった。やはりこの町はクレスタと雰囲気がよく似ている。
ナナリーと別れてから空が薄暗い方へと歩いていく。至る所で住人同士の仲の良さ気な会話が聞こえてくる。物々交換とか懐かしいな。クレスタではよくルーティさんに頼まれて行ったっけ。
しばらくして、大きな壁にぶち当たった。そこを伝って行けばその大きさに見合う門があった。これがこの町の境なのだろう。錆付いた外見から長くこの門を使われていなかったことが窺い知れる。開くのか?これ
錆だらけのそれに手を触れ、押してみたら以外にも簡単に開いた。
中に入ると、門は勝手に閉まった。振り返ればあちら側から見たのと全く同じ概観の門がそこにある。だけど何故か違和感を感じた。それはこの町のせいだろうか。
入った瞬間、寒気が走った。つか、本当にあっちの町と温度違うんじゃないのか?あちら側は快適な温度だっていうのに、こっちは軽く凍えてしまいそうな寒さだ。
あたりに人の姿はない。と思ったら、建物の隙間にボロボロにな服を着た人間が座り込んでいる。
居心地が悪いな。
こういうところはいくつか見たことがある。その場だけの手助けなどでそこが改善される訳もなく、自分の生活もある俺はただその場を通り過ぎることしかしたことがなかった。
息をひとつついて、座り込んでいる人へと足を向ける。まだカイルよりも小さな少年だった。
「なぁ、少し聞きたいことがあるんだが、いいか?」
あからさまに警戒の目を向けられる。無言でじっと見つめられるが、この際気にせず話を進める。
「ジューダスってやつ知らないか?お前よりちょっと年上くらいの、仮面被ったやつなんだけど」
「……知らない」
「そっか。ありがとよ」
それだけの会話で終わり、また俺はこの町を適当に散策する。それにしても寒い。
「ちきしょ、羽織るもんでも売ってねぇかな」
「そんなものこの町にはないよ。大体この町もあちらの町も同じ温度なんだから」
今まで後ろをふよふよついてきていた心の護が口を出してきた。
しかし同じ温度だと?んな馬鹿な。お前今ただの発光体だから温度感じないだけじゃねぇのか
「明らかこっちのが10度低く感じるんだが」
「それは君があちらの町の人間だからだよ」
「……へー。そういう世界か」
「そう。そういう世界」
支離滅裂なコスモスフィアにも慣れてきた。あれだな。考えるんじゃない、感じるんだ。そんな感じだ。
まぁ、ようは俺はこの町にいるような人間じゃないってジューダスが思ってる。ってところか?実際こういう町に住んだことは殆どない。十八年前の騒乱当時はどこもこんな感じではあったけど
同じように壁際に座り込んでいる住人の何人かに話を聞いてみたが、誰もが知らないと答えるか無視だった。ジューダスはこの町のどこかにいる。どこか確信していた。どいつもこいつも知らないと言うのはただ単に町の住民の顔と名前なんて興味のないやつらばかりなのだろう。皆自分ひとり生きるのに必死になっているんだ。
いい加減この町の住民への聞き込みを諦めようと思っていたところ、今度は身なりのいいおっさんがやってきた。これでラストにしておくか
「あ、すみません。ちょっとお尋ねしたいことがあるんですが」
「はいはい、何でしょうか」
道端に転がっている住民とは違って至って普通の対応に思わず安堵する。
「ジューダスって知りませんか?仮面被ったやつでまだ16歳くらいの男なんですが」
「あぁ、知ってますよ。ジューダスのお知り合いですか」
「え、あぁ、はい」
知ってるのかよ。絶対知らないと思っていた。思わず面食らって返しが曖昧になる。
「ご案内します。どうぞ」
おっさんはにっこりと笑うと歩き出した。
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読み直ししてないけどいいよね!
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