【TOD2】死人に縁ナシ – 5 –

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はーい。ジューダスを怒らせたかっただけ短編上がりー!
NOVELのショートストーリーにぶち込むか悩むです。でも大体他の小説も書き始め理由はこれみたいに不純だから別にいいか。ぶち込んじゃって。
何かジューダス以外にも好きなキャラがいくつもできて、のめり込む子がコロコロ変わるんだけれど、ジューダスは別格な気がする。多分サイト作ってまで小説ずっと書いてきたからなんだろうなぁ。



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「ちょ、ジューダス!?落ち着いてっ」
「おいおい!マジかよ!」

脅しでも牽制でもなく、本気で斬りにかかろうとしているのが伝わってくるのにロニも大慌てでジューダスを止めるべく手を伸ばす。だが、その前に風を切る音を立てて剣が横に振られた。
それは男の目の前ギリギリを通り、前髪だけをスパッと切った。僅かに狂っていれば男は二度と光を見ることが叶わなくなっていただろう。
何処からともなく悲鳴が上がる。

ハロルドは震え上がった。心の底から湧き上がる好奇心と喜びに目を輝かせている。
このジューダスは生きている。今まで見てきた中で一番人間らしい。世界に興味を持たない欲のない死人のような彼とは大違いだ。
ハロルドからは後姿しか見えないが、きっとあの男はハロルドが部屋で見た時よりも何倍も鋭く絶対零度に冷え切った綺麗な瞳を見ていることだろう。その中に怒りの炎が燻っている様はこれまでのギャップを兼ね合わせどれだけ美しく見えることか。
あのジューダスが我を忘れるほどに怒るとは、あのイヤリングは一体何なのだろうか。
彼女の好奇心はどんどんと広がり加速していく。

ジューダスが次に剣を振る前にロニが小さな体を羽交い絞めにした。体格差は相当あるというのにロニが僅かに前に引っ張られる。邪魔するロニすら眼中になく、ジューダスはただイヤリングを踏み潰した男をじっと見下ろしているようだった。

まだ若く細い少年の醸し出す異常な空気に、残りの男たちは声を引き攣らせながら1歩、また1歩と後ろへ下がった。
ジューダスが己より遥か頭上を通り越す力量の持ち主であるとわかるどころか、その逆鱗にまで触れ本気で報復を受けるかもしれないとようやく気づいた彼らの顔は真っ青だ。
だが、仲間たちにはそれを様は無いと嘲笑う程の余裕を今持ち合わせていない。
誰に何も言われない静寂の中、男たちはイヤリングを踏んだ仲間を残して逃げ去った。
それを冷や汗を垂らしながらロニが見送る。早く目の前の男にも逃げて欲しいと思ったのだろう、そのまま彼はジューダスの肩越しに目の前の男へと目を向けるが、男はジューダスの方を見たままガクガクと震えるのみだ。このまま気絶するのではないかと言うほど恐怖に縛られている。

ハロルドの口角がにやりと曲がり持ち上がる。この場に留まった男が今後どうなるのかが楽しみなのだ。さぁ、早く続きを!と仕舞い忘れた短剣を握る手に汗を浮かべている。
だが、

「ロニ、もういい」

ハロルドの興奮は水をぴしゃりとかけられたように一気に冷えた。
先ほどまでの様子から想像できない普段通りの静かな声で話しかけたジューダスをロニは訝しげに見る。

「これでは剣も収められん」

ジューダスは捕まえられた両手を僅かに動かしてロニに言う。剣を握る手に力は込められておらず、腕の動きと共にぶらりと揺れたそれはすぐ落ちてしまいそうだ。ロニはゆっくりジューダスから離れた。
ジューダスは言葉通り剣を収める。
先ほどまで他に何も見えないと言わんかのごとく男を見ていたはずなのに、今は反対に眼中に無いようで男に目を向けていない。
代わりに壊れたイヤリングを見下ろしていた。あれだけ暴れたのだからそれは彼にとって大事な物のはずだ。なのにイヤリングに向ける視線は冷たい。その横顔からハロルドは僅かに葛藤を感じ取った。だがジューダスはそれを押し殺す。ハロルドはそう予測する。そしてそれは違わず、ジューダスはイヤリングを拾おうともせず背を向けてしまった。

今度は宿の方へ、ハロルド達のいる方へと歩き出したジューダス。横切られたカイルは慌てて追いつきながらジューダスに問い掛ける。

「ジューダス?これ……」
「もういい」

ジューダスの背後でカイルがイヤリングを指差すが、それすら見ずに彼は歩みを進める。
ハロルドが真正面から見たジューダスの表情はやはりいつもと変わらないものだった。いつだって、全てを諦めている少年。あぁ、もったいない、つまらない。再びハロルドの胸中に憂鬱が詰め込まれる。
カイルも納得できないのだろう。ジューダスに食い下がった。

「なんだったの?あのイヤリング、……大切なものなんだよね?」
「…………」
「ジューダス!」

最初は遠慮がちに聞いたカイルだが、沈黙で返された時には声を荒げる。このままじゃ納得しないというカイルの意思表示にジューダスはため息を吐いた。同時に歩みが遅くなり、彼は口を開いた。

「……母の、形見なんだ」

振り向くこともせずに呟かれたジューダスの言葉にカイルは目を瞠る。
カイルに着いて歩いていたロニが眉を寄せる。

「おいおい、だったらもういいなんてことないだろ」
「いいんだ」

ジューダスは首をゆっくり横に振る。

「母は僕を生んで直ぐに亡くなった。思い出など一つとてない。……それに」

仮面の下の表情がどんどん殺されていくその様に、ハロルドはジューダスから目を逸らした。
解答はもう出している。なのに答え合わせをしたくない。それはこの答えに納得していないからだ。

「僕ももう、死んでいるんだ」

ハロルドは不貞腐れ、下唇を突き出して眉を寄せ頬を膨らませた。
つまらない。本当につまらない。何より気に食わない。先の見えない世界をめちゃくちゃに足掻いて生きるのが楽しい。皆平等に与えられる権利だ。だけど彼にはそれがない。あったとしても実行しない。そうならざるを得ない理由を知っていて改善もできない。だって彼女は神を殺しに来たのだから。

バキィ!!!

突如とてもいい音が鳴った。
ジューダスが驚いて振り返る。ハロルドは視界の隅で音の根源を見ていたので不意を突かれたような驚きはないが、それでも先程の不貞腐れ顔が飛んでいく程いい音だった。
音を出したのはカイル。ちなみに楽器と化したのは今や完全に伸びているあの男だ。

カイルはジューダスからイヤリングが母の形見と聞いた途端くるりと振り返った。視線の先にはジューダスが離れたことでようやく動き始めた男。カイルは一目散に男の下へと行き、その勢いのまま男の顔を殴りつけたのだ。
当然、ジューダスが「もういい」と言った理由なんて聞いてない。

紫紺の瞳がパチパチと大きく瞬かれる。鳩が豆鉄砲食らったような顔にハロルドは噴出しそうになった。
カイルは壊れたイヤリングを拾うと、またジューダスの元へと駆け寄る。

「はい!だめだよジューダス、大切なものなんだから」

きっと断腸の思いで切り捨てただろうそれが、数分もしないうちに目の前に差し出されている。ジューダスは唖然と目の前の金色の欠片を見ている。ハロルドは顔が半分にやけているのを必死に手で隠すが、隠しきれていない。
ジューダスが、そしてハロルドが必死になって諦めたそれをカイルは無邪気に拾い上げる。ここまで爽快にやられては形無しも通り越して笑い話だ。

一向にイヤリングを受け取ってくれないジューダスにカイルは首を傾げた。だがすぐに「閃いた」と顔に書いたような表情を浮かべ、ロニへと視線を向ける。

「ねぇ、この辺に修理してくれるところあるかな?」

受け取らない訳を勝手に解釈したカイルにハロルドは完全に噴出した。
ジューダスの言葉に軽くお通夜状態だった仲間達も徐々に表情が明るくなり笑い出す。彼らに遅れてジューダスが頭を垂れながら深く息を吐いた。仮面で隠されてしまったが、ハロルドは彼もまた笑っていると直感する。
顔を上げたジューダスの表情が晴れやかなのは、ハロルドと同じ気持ちを抱いたからに違いない。

「カイル、構わない」
「え、でも……」

カイルが顔を顰めて反論しようとするが、その前にジューダスはカイルの手からイヤリングを拾い上げた。己の手のひらで壊れたイヤリングを暫く眺めた後、完全に手の中に収める。
目を瞑りまた深く息を吐くジューダスの一挙一動を仲間達は静かに見つめる。やがて再び開かれた瞳はカイルへと向けられ、そして

「ありがとう」

ふわりと効果音をつけてしまいそうな程に、彼は優しく穏やかに微笑んだ。花も恥らうとはこのことだ。完全に自分のペースに持ち込んでいたはずのカイルすら固まって目をまんまるにしている。

ハロルドの心臓がドクンと大きく高鳴った。
なんてことだろう。今までうだうだ考えていた天才であるはずの自分を罵ってしまう程の現実。
生きている。こいつは間違いなく生きている。何てとんでもない生き物だろうかコレは

ジューダスは再び背を向けて宿の方へと歩き出した。
それから3秒程経ってからカイルは我に返り急いでジューダスを追いかける。

「ジュ、ジューダス待って!い、今のもう一回!!」
「何がもう一回だ。さっさと宿に戻るぞ」
「ジューダス!もっかい、もっかい!!お願いっ!」

じゃれてくるカイルに呆れ顔のジューダス。いつもと変わらない姿。
置いてかれたロニとナナリーとリアラが顔を見合わせ笑う。そして彼らの後へと続いていく。

ハロルドは再び己の運の良さに笑みを浮かべた。
やはり付いていくことになったこの仲間達は面白い。最高だ。
この仲間達がいればできる。カイルはいとも簡単にジューダスのあの表情を引き出したのだ。できるに決まっている。神を殺し、あの死人気取りの子供を草むらの中に引きずり込む事ができるはずだ。
あんな輝きを見せられて諦められるわけがない。諦めるなんてありえない。

「ハロルドー!明日からの旅のこと決めるんだって。一度部屋に戻るよー!」

宿の扉からカイルが顔をひょこりと出してハロルドを呼ぶ。ハロルドはスキップし、グフフフと特有の笑いを浮かべながら宿へと向かった。

見てなさい、私は神を超えてみせるんだから!

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原作ハロルドとちょっと違うような?でもマッドサイエンティストハロルドは勝手にこんなイメージ。多分これもどこかで拝見させて頂いた小説サイト様の影響の気がするかも。
そしてジューダスのデレ落ちが定番化してきた内緒。ハロルドがジューダスの魅力にどっぷりはまったお話でした。こうしてこの話のジューダスも絶対死なせてもらえなくなるっていうねwざまぁない!もっと仲間に愛でられるがよい。
相変わらずの睡眠前クオリティ。明日読み返すのがちょっと怖いぜ

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