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それで、こいつが少しでも救われるというならば、何の躊躇いもない。
「帰れるのか……?」
ジューダスが黒い鎖を見て言う。
……確かにかなり手強い相手だとは思うが、
「帰りてえんだろ?」
ジューダスは驚きを隠さずに俺を見る。
俺はにっと笑い、辺りを見渡した。
民家の壁に使い込まれた農具がある。あの固そうな鎖相手では少し力不足だろうが、まぁそこは俺の腕力で補うしかない。
「ロニ……。」
「あ?」
「無理だ、そんなんじゃ、この鎖は……。」
「やる前からうだうだ言うなってよっと!!!」
ガキィン、と金属のぶつかり合う音が響く。
火花が散る程に力を込めた。だというのに、鎖には傷ひとつついていなかった。
何度も何度も打ち付ける。
先に根をあげたのは俺ではなく、農具のほうだった。
ガキィンッ!
「あ」
ドス、と音を立てて刃の破片が地面に突き刺さった。
やっべ。怒られるかな。
「……ロニ、もういい。無理なんだ」
先ほどから何ら声色を変えず、ジューダスは言う。
俺の試みが失敗に終わったのを無念がる素振りもない。
本当に、元から絶対この鎖を壊すことは無理なのだと、諦めきっていやがる。
あぁ、そっか。だからだ。
「お前、本当にあっちに帰りたいのか?」
「……帰りたい……けど」
「何で無理だって思う」
「鎖が、あるから」
「何でこの鎖は絶対外すことができないんだ?」
「それは……」
俺はすぐ傍に生えていた赤黒い鎖をぼろぼろになった農具で薙ぎ払った。
鎖は簡単に千切れた。とはいえ、いくらでもまた生えるのだろうが。
「こっちは簡単に切れるのによ」
「わからない」
「お前が作ってんじゃねぇのか?この鎖は」
「……僕、じゃない」
ふむ。第一階層で黒い鎖を大量に生やしてたのも、ジューダスだったと思ったんだがな。
無意識なものなのか?
「この鎖を壊せないのは、お前が壊せないって思い込んでるからじゃないのか?」
「……何を、言ってるんだ」
「だってここは、お前の意識が作り出してる世界だろ?」
ジューダスは静かに鎖を見た。
その背中へと続けて言葉を投げかける。
「だったら、お前が鎖を打ち破れるって心から信じれば、鎖千切ることができるんじゃねぇのか」
「…………。」
「他の道具、探してくる。俺はぜってぇその鎖ぶち壊すぜ、ジューダス」
壊れた農具を元の場所に戻し、赤黒い鎖が蔓延る世界を歩き出す。
背中にジューダスの視線を感じる。どんな顔して見ているんだかな。絶対無理だというのに、何でって顔でもしてるんだろうか。なんだか少し、可笑しくなってきた。
「君の考えは正しい」
神出鬼没だな。こいつ。
空を仰げば案の定、何の姿も見えない光があった。
「あの鎖は確かに坊ちゃんが作り出しているものだ。坊ちゃんが壊せると思えば破壊できるよ」
「だろうな。何べんも聞いたしな。想い、気持ち、意思、過去、ジューダスという人格を形成する全てが目に見える物質となった世界がコスモスフィア。ようはジューダスが作り出してる世界ってこった」
「で、そんなコスモスフィアの中であれだけ強度を持つ大きな存在を、壊していいと思ってるの?」
思わず足を止めたのは、一瞬の恐怖故だった。
「口すっぱく言われて来たんじゃなかったの?僕も言わなかったっけ?」
「だが、あの鎖は……あの鎖があるからあいつは」
「……ま、やってみればいいよ。好きにすればいい。どうせ壊せやしないし、壊れたってきっと、何も変わらないよ」
「……どういうことだよ」
一番聞きたいところで押し黙るのは心の護も一緒らしい。
だったら気になっちまうようなことなんて話さなけりゃいいってのによ
くそ、……しかし、本当に壊していいのか?あの鎖は……
まぁ、そもそも壊し方検討つかねぇけど。
俺は頭をガシガシと掻いた。
心の護から不意に告げられた言葉があまりに不吉だ。
あの鎖は一体何なんだ。何でできている。何が原因で出来ている?
それを知らぬままに、断ち切ってしまっていいのか。実は、それがどこか片隅でジュータスの大切な一部を担っている。そんなことも、ありうるのか
「よくわかってるじゃない」
俺の心を読んだかのように心の護が言う。
俺、言葉に出してたっけ?
「出てたよ」
「あ、そう」
「例えば、君はこの世界で坊ちゃんを必死にこの町に留まらせようとしてる。でも、坊ちゃんはそれを苦痛に感じていた。鎖は、もしかしたらそんな君たちを体現するものかもしれない」
「……は……?」
「例えば、の話だよ」
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説明書きになっちゃう癖なんとかしたいまじで。
時間置いてやってるから説明したかどうか忘れて多重説明になってる悪寒
UPしなおすとき直していくの大変そうだ。うぇっふーい
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