何かを求めて彷徨った左手が握ったのは、冷たい雪だった。
それにより、その場に倒れていた少年のアメジストが開いていく。
「……凍え死ぬところだったな」
体を起こせば体に積もっていた雪がさらさらと落ち、ジューダスはそっと体を震わせた。
辺りを見回せば、5人とも雪に埋もれており、また目の前にハイデルベルグを確認する。
ゆっくりと体を起こす。寒さで少し動きの鈍くなっている体が、ふと途中で止まる。
(……背中が軽い)
白い息が口から漏れた後、ジューダスは体を起こし、一先ずすぐ目の前に居たロニの頭を引っ張ると頬を叩いた。
その力に手加減は無く、ロニは自身の体が鳴らした音と痛みに跳ね起きる。
「いってぇ!さむっ!」
「お前も手伝え」
暴れるように目を覚ましたロニの頭をすぐさま離したジューダスは、目を覚ました直後の彼に直ぐに命令を出す。
「あのなぁ、もうちょっと優しく起こせって!」
「せっかく死線を潜ったのにこんなところで凍死してたまるか」
「あ、あぁ…」
一先ず手加減無しに叩かれたことに対して怒鳴ろうと両手を振り上げたロニはジューダスの冷たい言葉にその動きを止めた。
―せっかく、シャルティエがその身を差し出してくれたのに
そのように聞こえたのは、彼の背中が寂しげなことから見当違いという訳ではなさそうだ。
ロニの目が優しいような、寂しいようなものになるが、背を向けているジューダスに気付かれることはなく。年長者は仮面を被った少年に怒られる前にナナリーを起こすことにした。
ハイデルベルグに入り、道を歩く中、一行の一番後ろで歩くジューダスは目を細める。
バルバトスとの戦いの傷が大きく、皆どうにも歩き方が不自然だ。
遠くに宿の看板を見つけ、ジューダスは皆に声をかけた。
「お前達、先に宿に入って休んでいろ」
「え…、ジューダスは?」
「僕は城に報告に行く」
「え?報告って?」
疲れが見える青い瞳を少し開き、首を横に傾けるカイルに思わずため息が出た。
成長したと思っていたが、抜けているのは変わりないらしい。
「レンズの行方の報告だ」
「……あぁ、そういやレンズ奪還のときに俺達飛ばされたんだっけ」
ロニが思い出したように手のひらを打ち、嬉しそうに言った。
ジューダスにしては、(お前も忘れていたのか)という気分で、軽くロニを睨むが気付かれることはなかった。
「……わかったらさっさと宿をとっていろ」
「ちょいと!」
そう言って漆黒を翻し、足を速めたところでナナリーから声がかかり、ジューダスは煩わしそうに顔だけ振り向く。
「あんただって疲れてるだろ?あたしが行くよ。あんたこそ宿で休んでな」
「僕は大丈夫だ」
心配気に眉を寄せるナナリーにジューダスは無表情で答える。
女に心配され、手を貸されるのは一人で生き抜いてきた彼にとってありえないことだ。
「何言ってるんだい。最後まで戦ってたのはあんただろ。前衛が一番負担あっただろうし、あたしはまだ大丈夫だから」
「お前達程やわじゃない」
「よく言うよ、一番体力低いくせに」
「…………」
ジューダスは思わず言葉に詰まる。
それは的を射ているようで、また、女性陣には体力は劣らないだろうという反発からもあったのだが、ナナリーの後ろでロニが笑う為、彼は奥歯を噛み締めることとなった。
不機嫌からか大人しくなったジューダスにナナリーは満足そうに笑うとジューダスの背を押し宿のほうへと向かわせる。
「はい。たまには甘えること!」
「……勝手にしろ」
青筋を立て、さっさと宿へと入っていったジューダスにカイルとリアラが笑いあい、ロニは笑いながらため息をついた。
そんな一行の前をハロルドが通り過ぎる。
「んーじゃ、ナナリー悪いけど任せるわ。私は……ふふ、色々と見て周りたいから」
「お前、下手な行動起こすなよ…?」
「わーかってるわよー」
「お前…わかってないだろ」
不安と呆れに満ちたロニの言葉にハロルドは口笛で返して宿へと入っていった。
カイルとリアラもそれに続く。とりあえず宿で大人しくしていてくれることを祈ろう。
「さてと」
息を付き、ロニはナナリーのほうを振り返る。
彼女は俯いていたようだが、ロニの視線に直ぐ顔を上げた。
「そいじゃま、行きますか」
「何言ってるんだい。あんたも休んでな。あんたが一番傷深いんだからさ。ださくも頑張ってたからサービスしてやるよ」
「なにぃっ」
両手を腰にかけ、言い張るナナリーにロニが頬をひくつかせる。
ロニは直ぐに心の中で体勢を立て直すと背をピンッと貼りナナリーを見下した。
「俺はだなぁ、お前みたいな野蛮な女が国王様とちゃんとお話できるか心配でついてってやるんだよ」
「いらない心配だよ、さっさと宿入らないと知らないよ?」
それに怯むことなく指をポキポキ鳴らし始めたナナリーにロニの顔色がさーっと変わる。
あの音は販促だ。
「……はい、ナナリーさんお願いします」
「よろしい」
ロニは白い息を吐き出し、ナナリーに背を向けようとしたとき、またナナリーが俯いているのに気付き動きを止めた。
そっと彼女は手を目の前に出し、それを見つめる。
「どうかしたか?」
「いや……あいつ、まだ鞘は背負ってるんだなって思ってさ」
「………あぁ…」
それがジューダスのことと気付き、ロニのふざけていた空気が散る。
少年がいつも、唯一無二の存在をその背に背負っていたことは、今や誰もが知ることだ。ナナリーは先程ジューダスの背を押したときに感触から気付いたのだろう。
「ハロルドもジューダスも平気な顔ばっかしちゃってさ…」
たまには甘えること
彼らの問題ではあるが、だからと言って仲間を頼ってはいけない等ということはない。辛くなれば、頼ってくれればいい。
そう思っての言葉だったのだろう。
「…ま、きっと大丈夫だよ。…あんま心配すんなって、そんな腫れ物に触るような顔するとあいつ怒るぜ」
ロニが軽く手を横に広げて笑いながら言う。
それはナナリーを安心させたいからやる無意識なもので、ナナリーはそれに気付いて微笑みながらもため息で反した。
「何言ってるんだい。あんたが一番そんな顔してたくせにさ」
「マジかよ…」
その言葉には絶句せざるを得ない。
ロニは勤めていつもの通りを目指しているつもりだったのだ。
「ま、行ってくるね」
「…あぁ」
ナナリーが背を向け、小走りに城へと向かうのを見送り、ロニもまた宿へと入ろうとしたとき、目の前をゆっくり落ちていくものが目に留まる。
雪が降り出していた。
そっと空を見上げれば、灰色の空からゆっくり降りてくる無数の雪。
それはロニの手に止まるとすっと解けて消えていった。
とても嫌な感じがした。
静かに振り出した雪を部屋の窓から眺める。
ジューダスはマントを外し、軽く椅子にかけるとベッドに腰掛け、背中の鞘を下ろした。
その鞘を、ベッドに立てかける。
此処が定位置だった。
空洞になっている鞘を眺めるのは、なんだか変な気持ちにさせる。
少年はため息をついた。
今日は贅沢にも一人一部屋。
一人を好む彼にとって実に安らげる貴重な時間となりそうだ。
だが、返ってそれは嫌な考え事をさせる時間となる。
ジューダスは一度目を瞑り、またゆっくり瞼を持ち上げると、目の前に左手を出す。
それは僅かに輪郭を残し、ほとんど部屋を映しこんでいた。
目を細め、左手に軽く意識を向ければ、やがてそれは色を取り戻し始める。
バルバトスとの戦いのとき、ずっと左手で持てていたのが不思議な程、今の体は不安定だった。
今や肩まで伸び、うっすらと色を薄くする。
(服まで透けるのが厄介だな…)
だが、少年は進行する自身の体の異常に対してそんな場違いなことを考える。
せめて服だけでも透けなければ露出の少ない彼が自身の異変を隠すのは簡単だっただろう。
(体も…服も、何もかも…ジューダスとしての全てが消えるのだろう)
ただ事実を、特に何の感情が沸くこともなく考えた。
部屋についてからの眠気や気だるさが半端なく、ジューダスは仮面をサイドテーブルに置くと、早々にベッドに体を寝かした。
(眠たい……)
横向きになれば、立てかけられた鞘が眼に入る。
今寝て、次起きた時、そこに鞘はあるだろうか
アメジストがゆっくりと閉じていった。
笑っている……。
暖かい世界が目の前に広がっていた。
黒い髪をショートカットにした女が、幸せを振りまくような笑顔で、太陽の光に白く反射された石畳の街路を走っていた。
彼女が走り去った後には花が咲き乱れているように感じる程、そこは暖かい世界
目の前までやってきた彼女に、そっと触れようとする。
だが、彼女はするりと自分の手を透けて、金髪の男の下へと笑顔を渡しに行ってしまった。
触れることの叶わなかった己の手を見つめる。
それは拒絶に怯えるように震えていた。
石畳の上に、優しく木漏れ日を降らす大木に近づく。
今度はそれに触れようとした。
暖かい世界の名残はあるだろうか
だが、それは触れた途端に崩れていった。
そこから徐々に周りのもの全てが崩れて、暗闇の中に落ちていく。
やがて、自分が立っている地面すらも奈落に消えて、体は闇を彷徨った。
辿り着くのは、深い海の底
自分に帰る場所など無い。
この世界に、下から自分の席などなく
無理に居ようとすれば、世界を壊した。
帰る場所など無い。彷徨い続ける。
そんなこと、言われなくとも分かっている。
今だ自分の体は海の中、波に飲まれているのだろうか
帰る場所もなく、死へと向かう僕は屍
きっと、僕の魂も、帰る場所もなく海の中を彷徨っているのだろう
何処に辿り着くこともなく。
「………嫌な夢だ」
そっと体を起こせば、既に窓からは太陽の光がもれていた。
そっと己の左手を見た後、ベッドに立てかけた鞘を見る。
ため息を一つついた。
「…本当に、嫌な夢だ」
ベッドから這い出て、鞘を背負う。
そしてその上から椅子かけていたにマントを被せる。
サイドテーブルから死の象徴のような、骨の仮面を手にする。
仮面を見ていれば、バルバトスの言葉が頭に語りかけてくる
ようやくおさらば出来たあの男を思い起こすような夢を見たことに、また心の中で嫌な夢だったと呟いた。
自分の存在を示し、それでいて自分の願望すらも見せた。
叶うわけがないのだという絶望とする為に
眼を瞑り、骨を被る。
眼を開け、鏡の前に立ち、自分の姿を焼き付けた。
そっと鏡に右手を置き、体重をかける。
押し潰して、割ってしまいたい。そんな衝動に駆られながら骨の奥に潜むアメジストを睨んだ。
「………言われなくとも、わかっている」
鏡の中の自分へ、言い聞かせるように呟く
「ジューダス。起きてるかい?」
ふと扉のほうからナナリーの声が聞こえて、右手に込めていた力を弱める。
「あぁ」
「食事の用意できたよ」
「……わかった」
扉の向こうの気配が遠ざかっていく。
もう一度だけ、鏡の中の自分を見た後、左腕を持ち上げる。
(まだ意識していればなんとかなりそうだな…)
右手をもう一人の自分から離し、軽く息を吸い、いつものごとく気を張って、ドアノブに手をかけた。
朝食を終え、今度はそろってウッドロウに謁見した。
今回は報告だけでなく、エルレインの行方についてだ。
歴史を修正してから、彼女の行方が分からなくなった。
ウッドロウが何か情報を得ていないか、謁見の間へと入ったが、ウッドロウは難しい表情をしたまま彼女の行方を知らないという。
アタモニ神団の者も、エルレインの姿をまったく見ていないというのだ。
手詰まりの中、またイクシフォスラーを借りることにする。
ハロルドが言うには元の場所に戻っているとのことで、エルレインの居場所を掴むのに良いだろうということだ。
2日ほど休んだ後、地上軍拠点跡地へと向かうこととし、ウッドロウがそれまで城で休むといいと言ってくれた為、宿を城へと移し、今はまた自由行動となっている。
カイル、リアラ、ロニの行動はいつもの通り。ナナリーは一人買出しに行った。ハロルドは4時間前に図書館に入ってそのままだ。
そしてジューダスはというと、いつものようにふらりと一人、特に何も無い場所で虚空を見つめていた。
いつもは人目につかぬ場所でシャルティエと喋るのが目的で一人になるのだが、今はもうジューダスと喋りたいとぐずる彼はいない。
ただ静かな時の流れを感じるのみだった。
バルコニーの柵に腕を乗せて、ゆっくり降る雪を眺め続ける。
あまり強く降っているわけではないが、ずっとバルコニーに立ってそれを眺め続けていた少年の体は冷え切っていることだろう。
だが、その小さな体は寒さに震えることもなく、まるで氷像のようにその場に動かず留まり続けていた。
そんな彼を動かしたのは、無粋な質問。
開きっぱなしにしていた窓のほうから、それは突然やってきた。とはいえ、少年はその気配に気付いていたが
「ねぇ、あんたさ、リオン=マグナス?」
「…………僕は部屋にしっかり鍵をかけたと思ったのだが」
ジューダスは振り向きもせず、また質問に対しての答えも出さずに返す。
此処は城にあてられたジューダスの個室だ。鍵はしっかりと掛け、誰かが入ってくるなどありえない。
だが、ハロルドは右手で奇妙な形に折れ曲がっている棒をつまみ、無邪気に答える。
「開けれちゃった」
「開けるな」
常識外れの彼女に即座に常識を叩き込むが、ハロルドは気にすることなくジューダスのほうへと近寄り、2歩程きたところで軽くぶるりと体を震わせた。
「あんた何やってんのー?部屋まで氷ついてるわよ」
「………」
「変なやつー。まぁいいけどね」
服の素材でいつも快適な温度を保っているらしいハロルドは、演技のように自分の体を抱いていた腕を軽く外すと腰に当てた。
「で、答えは?」
「………」
「そう。じゃあさ、あんたって死んだ後の人間なの?それとも死ぬ前に?」
「…………後だ」
沈黙を肯定と勝手に取った彼女は更に一般人には意味不明としか思えない質問を投げかける。
ジューダスは今更否定する必要性も感じず、しばらくの間のあと答えた。
「…ま、どっちにしろ、そんな変わらないか」
簡単に答えたジューダスに対して、ハロルドが呟く。
言葉が足りなく感じる会話だが、二人が考えている内容はまったくもって一緒だった。
「で、あんたそのこと分かってるわよね」
「あぁ」
ハロルドの次の言葉はもう質問ではなく確認。
先程の質問をした時点で、彼が全てを察して尚こうしていること、その理由。全てをハロルドは察した。
また同じく、ジューダスはハロルドが神を殺した後、世界が、己が、そしてまたリアラがどうなるか分かっていると気付き、白い息を吐く。
「……何で皆に言わないんだーって、本当はどつき倒しておきたいところなんだけど、まぁ…理由何となくわかるからやめとくわ」
「そうか」
ハロルド以外の人間が気付く可能性は低いだろう。皆現状に必死だから。
だが気付かれたら面倒だ。そう少年は思っていた。
気付いたのがハロルドだけでよかった。そんな風に想う。
もともと彼女以外気付かないだろうとわかっていても、こうして彼女が自分の想いに気付いて必要以上に迫ってこないことに、今はとても救われる。
バシッ
そんな風に考えていたところに突然やってきた頭部への刺激に、その考えは崩れた。
「…お前、今自分で言った言葉覚えているか?」
「いくらなんでも、そこまで冷静な答えばかりされるとむかつく」
「……ハロルド…」
今しがたやめておくと言っておきながらジューダスを殴った右手を軽く振り、ハロルドは言った。その表情は彼女の言う通り苛立ちからむすっと膨れている。
そんな彼女にジューダスはようやくハロルドのほうへと顔を向け、眼を伏せた。
「わかってるけどねぇ…皆がみんな、あんたみたいに割り切れないわよ。まぁ気付いてないけどね…。本当はあんたにも割り切って欲しくないわ。たった16の餓鬼がそこまで達観する必要ないもの。逆に悲しくなるわ」
そんなハロルドの言葉に、ジューダスは何も返さず、またハロルドから視線を外し、どことなく空を見上げる。
少年には、ハロルドの言いたいことがわかるようで、わからない。
ならば泣き叫べというのだろうか。それで現実が変わるわけもなく
割り切ってしまったほうが、どれだけ楽か
諦めてしまったほうが、どれだけ傷つかないで済むか
ジューダスはそれをよく知っていた。
それに対してハロルドは、ジューダスの小さな背を見つめて目を細める。
彼はきっと知らない。大切なことを
「あんた、家族とかいないの?」
「無くした」
「……生きていないの?」
「一人だけ、姉が生きている」
「会いに行かないわけ?」
最後の質問は、分かっていて聞いた。
ジューダスは振り向かず俯くと、軽いため息の後、諦めの言葉を綴る。
「彼女にとっては、僕はもう過去の人物だ。風化されたものを無理に起こす必要などない」
その言葉に、ハロルドは表情を動かすことはしなかったが、彼が醸し出す悲しい空気に胸を痛ませた。
(あぁ、……殺している)
自分で自分を、必死に殺している。
屍であろうとしている。彼は生きているのに
ハロルドは痛ましげに瞳を揺らした。
生きているのに、死んでいることにするなんて、無理に決まっているのに、なんて悲しい子供だろうか
「ジューダス」
「なんだ」
「きっと、もし18年経っても、もう一度兄貴と会えたら、わたしは喜ぶわ。それが例え一瞬の再会だとしても、すっごく喜ぶ。会いに来てくれたことに」
小さな背中に向かって、ハロルドは語りかける。
だが、ジューダスから何も返ってこない。
少年の想いも分かる。だから、最終的には彼に任せるしかない。この問題は、ジューダスと共に旅する仲間には解けない。
だが、ジューダスは大切なことに気付いていない。ハロルドはそう思った。
しばらくその言葉を最後に沈黙が降りたが、降る雪以外の動きはなく、ハロルドはため息をついてジューダスに背を向けた。
「…あんたは、死んだら何処へ帰るつもり?」
それだけ言って、ハロルドは部屋を出て行った。
ジューダスはただ虚空を見つめる。
その瞳には白銀の世界が映るが、脳裏には奈落の底の海のみが頭に浮かぶ。
きっと、此処ですら帰る場所ではない。
帰る場所が無い。世界から弾き出された存在。
「……シャル」
無性にそれが怖くなって、視線を下ろし、友の名を呼んだ。
だが、返って来るわけもなく、背中は軽いまま。
心臓が押し潰されそうになった。
-ずっと、ぼっちゃんからは見えなくなっても、ずっと一緒にいますよ
「……わかるか………」
今、その存在を感じ取りたいのに
白い息を吐き、柵に乗せた両腕へと顔を伏せる。
(一度死んだ僕が、こんな感情持ち合わせていいわけがないのに、僕は死人…もう、死んでるんだ…)
そっと少年の体が、雪に紛れ薄れ行くのに気付く者はいない。
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