散り行き帰るは – 8

この記事は約16分で読めます。

あれから一日休み、地上軍拠点跡地へと出発することになった。

天候は今のところ良好。雲は広がっているが雪が降ることはない。

 

「よし、準備できたよね!」

 

カイルが皆を見回して聞くが、聞いている張本人の準備が一番心配である。

まぁ旅に必須なものはナナリーが中心となって準備しているので大丈夫ではあろうが

 

「じゃあ出発!」

 

そう言って、雪に足を取られる中進んだ。

旅を始めた当初は雪の上を歩くのに酷く苦労させられたが、長い旅を経て大分慣れたものだ。

ハロルドは元から1000年前の極寒の世界で育っている為大分足が軽い。

 

そんな成長しているメンバーの中、ジューダスは己の落ちていく体力に軽くため息をついた。

一番後ろの為、そんな様子を悟られる心配もないが、気だるい体を気力で皆に悟られぬよう動かす。

 

まるで追い討ちのように襲ってくるモンスター達。

まだまだ目的地は先だというのに、これで2回目の戦闘。

飛びついてきたウサギのようなモンスターを右手で切り捨て、雪のせいではない自分の動きの鈍さに眼を細める。

 

此処のモンスターはまだ楽に倒せる為、ハイデルベルグで調達した短剣を腰のままにできるのだけが不幸中の幸いというやつだ。

 

剣を鞘に戻したところで、ふと視線に気付く。

感じる視線のほうへと顔を向ければ、カイルが何やら眉を寄せ、似合わない表情でじっとジューダスを見ていた。

 

「どうした?」

 

カイルの視線はジューダスへというよりも、ジューダスの体へと注がれており、こちらが振り向いたのに気付かない。

ジューダスが声をかけてようやくカイルは視線を返されていることに気付き、僅かに眼を見開く。

 

「あ、えっと…」

 

だが直ぐにまた同じような表情に戻り、ゆっくりとこちらへ歩み寄ってきた。

ジューダスはというと、隠し事をしている身の為、カイルの何かを探るような表情と視線による僅かな焦りを凍らせるようにいつも以上の冷静さを作る。

 

「……どうした」

 

もう一度聞いた。

すぐ目の前までやってきたカイルは、じっとジューダスの体を見つめ、やがて彼の左腕を手に取った。

そのまま鷲掴みにし、じっと左腕を眺めるものだから、ジューダスはそっと左腕に力を込める。

 

しばらくそのままで固まるカイルに他のメンバーも訝しげな顔でこちらを見始めるものだから、ジューダスは眉を寄せた。

 

「…おい」

「ううん……ごめん、なんでもない。気のせい…かな」

 

ようやく手を離し、背を向けたカイルにジューダスはため息を飲み込んだ。

 

(気付かれるのは時間の問題だな…)

 

何より、もう彼らに最後まで付いていってやれる自信がない。

残された時間はほんの僅か。

気を抜けば今すぐにでも塵になって消えていってしまえそうだ。

 

(だがカイルからばれるとは……情けないような…)

 

実際ばれているわけではないが、ボロを出したのは間違いない。

前から戦闘中にカイルの視線は感じた。

それは最近ではなく、仲間になって直ぐからだ。

基本は目の前の敵に集中しているのだが、恐らく同じ剣を使う者として時々思わず目で追っているのだろう。

それが結果的にジューダスの不調を察知することとなった。

 

ふぅ、とため息をつけば、そのまま全てが抜け出るような感覚が起きて、ジューダスは僅かに揺れた視界の中急いで足を前に出した。

崩したバランスを直ぐに整え、何事も無かったかのように彼らの後ろを付いていく。

 

(………死んだら、何処へ行くんだろうな…)

 

雪が降り始めた。

 

しばらく歩けば、また殺気。

鈍る意識の中でそれを敏感に感じ取れたのを皮肉に感じる。

 

殺気の持ち主のほうへと目を向け、足を止める。

右手の方向だ。

一つ足音が止まったことから一番後ろにいてもカイル達が気付き、同様に同じ方向を見た。

 

雪が降り、視界が悪いそこから現れたのは亡霊のようなモンスター。

人骨そのままのようなそれは禍々しい剣を引きずるように歩いてくる。

5匹か。

 

そう思ったところでまた後ろから同じような殺気を感じ、軽くそちらを見れば、同じモンスターが6匹。それと布を被せた、子供にお化けと題して書かせた絵のようなモンスターが何処からともなく5匹、空中より現れる。

 

エルレインからの嫌がらせか何かだろうか。

少し本気でそう考えた。

 

「ひぃいいお化けが大量じゃねぇか!」

「お化けと考えるな。モンスターと考えろ」

 

情けない声を出すロニに言葉を投げてみるも、ロニと軽く似た思考をしていた自分を恥じる。

 

今までゆっくり歩いていた骸骨達は、残り30メートル当たりで突然加速し、今までの気だるげなお化けの動きが嘘のようで、皆一斉に武器を構えた。

 

ハロルドとリアラが詠唱に入るのを横目に、一気に気を高める。

流石に今回ばかりは短剣を抜いた。それでも剣は右手のままで

 

後々問い詰めてきそうなハロルドとカイルに誤魔化す言葉を考えながら目の前まで走ってきたモンスターの剣を避けて脇腹辺りになる骨へと剣を横薙ぎにする。

ゴッと音を立ててモンスターが仰け反ったところを後ろへと飛んで距離をとった。

同時にハロルドの初級晶術がモンスターを焼く。

 

「少し硬いな……カイル、砕くのは厳しい。筋肉馬鹿はいいがお前は攻撃を防いで始末はリアラ達に任せろ」

「筋肉馬鹿って俺のことか!?」

「わかった!」

 

ロニの言葉を軽く無視し、どんどん走ってくる骸骨の攻撃を防ぐ。

骨の固まりとは実に面倒だ。何より少し気が滅入った。

 

生きる屍。

それを見事に表現した目の前のモンスターと自分を重ねる。

骨を被って生きる己。嗚呼、実に滑稽だ。

 

苛立ちをぶつけるようにモンスターの頭を横から力いっぱい叩けば、頭部に軽く罅が入ってモンスターは振り上げていた腕をそのまま固まり、倒れる。

 

空中に浮いたモンスターのほうはナナリーが弓で動きを止めているが、流石に5匹がばらばらに動き始めればそれも厳しい。

こちらへと飛んできて、何処から出したのか木の小さいハンマーを投げてきた。それを下から縦に一閃。パックリ割れたハンマーは自身の左右へと跳んで雪に埋もれた。

 

「お見事ジューダスちゃん。今度うちの薪割り手伝ってくんね?」

「カイルにでもやらせておけ」

「え?俺ちょっと自身ないな」

 

ロニはたまたま見ていたから軽口を叩いてきたのだろうと思ったが、まさかカイルにまで会話に入られるとは思わなかった。戦闘に集中しろと小言を投げかけようと思ったところでまた骨が突進してくる。

 

剣を二三交える中、ふと、そのモンスターが己が纏っていた紅のマントを背中に靡かせた。

幻影だ。末期だと

そう思いながらも、そこから視線を外せない。

 

海の中、独り漂う屍。

 

未来の自分

 

それを見て今自分がどう思っているのか分からない。

思考が麻痺した。恐らくいろんなことを想いすぎて混乱している。

 

それでも、何となく分かった。

とてつもない恐怖と、それを押し殺す諦め、無気力感。

 

脳が映像を映し出す中、なんとか本能で体が動き、剣を止めている。

遠くで爆音が響いた。

恐らくリアラが上級晶術を唱え終えたのだろう。

だとしたらその音がもう少し近いと思うのだが

 

そこで思考がぐらぐらと揺れていることに、ようやく気付いた。

本当に末期だ。僕としたことが、普通幻影見続けてる時点で気付くだろう。何をやっているんだ

自分をひたすらに叱咤するが、それでも不思議な世界は止まらない。

 

あぁ、まずい。とてもまずい。

今、己の体はちゃんと色を失うことなく在るだろうか

 

一度モンスターから距離をとらなければ、そう脳で考えれば体はちゃんと動いた。

そうすれば、ようやく幻影の世界が雪に掠れながら現実へと戻ってくる。

それでも、何故かそれを第三者のように見ている自分が居る。

妙な世界だ。頭と体が切り離されたような感覚。此処は現実なのかまだ幻影なのか

 

距離をとるために跳んだ体が、足が地へと、雪へと付く。

それが現実のはずなのに、足は雪に埋もれたはずなのに、何故か海に片足を突っ込んでいる。……あれ…

 

海の音が強く響いて、それ以外の何も感じ取れなくなった。

ザァと鳴る波の音の中に、自分の名前を強く呼ぶ声が混じっていたのは気のせいだろうか、気のせいであってほしい。

せっかく考えた誤魔化しの言葉も全て水の泡になりそうだ。

 

「ジューダス!!」

 

-いつ、また先程のようなことが起きるかわからないんですよ!それこそ戦闘中かもしれない、危険ですっ!

 

あぁ、もう、こんな時にばっかり話しかけてくるなシャル

 

カイルは目を見開いた。

最近ジューダスの様子がおかしい。調子が悪いようだった。

ずっとジューダスを尊敬し、戦闘中思わず目で追っていたから気付いた。

たまたまその場面を見たってだけかもしれないけれど

 

だから、気付いてからもっとジューダスを見るようになっていた。

でも流石に始終見ていられない。今回のような数の多い敵とか特に

それでも、慣れないながらいつもジューダスがやっているように、ジューダスの立ち位置とか気にして、出来る限りジューダスにいつでもフォローにいけるようにって、そう思っていたけれど、やっぱり目の前の敵に集中しだすと周りが見れなくなってしまう癖は今でも取れず、気付けばジューダスもロニも結構離れていた。

 

そしてこんな時に限って、事が起きる。

 

この時ほど、カイルは己の癖を、失態を恨んだことは無いかもしれない。

気付いていたのに

 

ようやく目の前の骸骨とお化けを倒したところで、あっと思い出して漆黒を探した。

そしたら離れたところにその姿、彼の目の前には骨のモンスター。

 

モンスターは剣を振り上げているというのに、ジューダスはまったく持って動かずに固まっていた。

 

その体が、一瞬消えて見えたのは何なのだろう。

 

モンスターが剣を振り下ろす。

ジューダスは固まったまま動かない。

 

そんな光景が、青い瞳が丸々と開かれたところに映し出されている。

 

カイルが張り裂けそうな声で彼の名を呼ぶが

答えたのは仮面が割れた音だけだった。

 

 

カーンという割れる音と、カイルの叫び声。

冷たく澄んだ雪の世界でそれはとても大きく響いた。

皆、現状に目を見開く。

 

リアラが唱えた晶術にて大抵のモンスターを倒し、それぞれ目の前の敵を倒したところで残りのモンスターはジューダスの目の前に居る骸骨だけである。

 

本来ならば、誰もが一斉にジューダスに走って向かうところなのだが、その光景に仮面の割れる音を境に風の音も聞こえぬ静寂だけが包む。

ちらりちらりと雪が揺れながら落ちる中、黒髪を揺らした少年の瞳は真っ黒だった。

 

モンスターの一太刀により割れた仮面は雪の中に沈み、僅かに骨を突き出すだけで遠目からではもう見えない。

そして、モンスターの剣の行方はというと、しっかりとジューダスの体に沈んでいたのだが

 

血が溢れない。

 

ジューダスは、今そこにいるのかも不確かなほど、体が消えかけていた。

剣は、ジューダスの体を傷つけることなく、彼の体をすり抜けている。

割れたのは仮面だけだろう。

剣が中に浮いているのは、ジューダスの体に刺さっているのではなく、モンスターが剣を手に持っているからだ。

 

「……んだよ…これ」

 

ロニが呟いた言葉は遠くに居る仲間達には聞こえないが、皆が同じ思いだっただろう。

そんな中、ハロルドは目を細め、カイルはやはり見間違いなどではなかったことに気付く。

 

何度か見たのだ。ジューダスの左手が透けて見えたところを

 

「ジューダス!」

 

一行に動かないジューダスに、もう一度カイルが声を上げた。

 

波の音が煩い。

だが、そんな煩い音をも引き裂くような声が届いた。

カイルだ。ロニも煩いが声の大きさではカイルに勝つ者はいないだろう。

 

何を映しているのか、何も映していないからなのか、暗い海を眺めていたその視界が真っ白に染まる。海以外の背景は灰色。それが海を掻き消したような錯覚。

その後、白は疎らになり、ようやくそれが雪だと気付いたときには、目の前には骸骨。

 

己の体を突き抜けて存在する剣に、今の状況を悟った。

思わず口の端が上がる。

 

モンスターはのろのろと剣を引いた。

まるで恐れているような、人間みたいな反応がまた可笑しい。

 

何の抵抗もなくすり抜けていく剣を見送った後、雪の中に埋まっている剣を見つけ、手に意識を集中させて拾う。

すり抜けられたらどうしようかと思ったが、何とか手に取れた。

何故だか今はもう体のだるさがない。それもそのはず、何も感じないからだ。

素早く剣を払えば、骨は簡単に砕けて真っ二つになる。

 

それと同時に、左手に持った剣がまた手から零れ落ちる。

握ったままだったのだが、どうやらすり抜けてしまったらしい。

 

何時からか、それとも今一瞬でなのか、唐突に雪が強く斜めに降り視界を白くする。

次の瞬間に現れたのはまた暗い海。

 

骨が、剣が、水面を叩いて海の中に沈んでいった。

それを呆然と見ていた己の視界が、世界が傾いていく。

あぁ、違う。傾いてるのは世界じゃなくて自分の体だ。

 

そう思ったところで、一際大きく水面を叩く音がした。

 

今まで煩かった波の音は、水中で空気の鳴る音に変わった。

 

「ジューダスッ!!」

 

ただ唖然とその光景を見ていた中で、カイルがいち早く動いた。

雪の中に倒れた、雪の色に混じり消えていこうとする少年の元へと駆け寄る。

その後をハロルドが、そして遅れて他のメンバーも全速力で走った。

 

「ジューダス!ジューダスッ!」

 

このままでは消えてしまう。

今にも消えてしまいそうな仲間にカイルは焦りで震える手を出し、少年を抱き起こそうとしたのだが

 

ジューダスの肩に触れようとしたはずの手は、触覚など感じさせずにすり抜けてしまい、カイルは急いでその手を引っ込めた。

カイルの顔がくしゃくしゃに歪む。

 

「ロニ!ロニどうしよう!」

 

駆け寄ってくる義兄弟に縋りつくような声を出すが、ロニには当然答えられない。

 

刻々と、少年の体が雪に溶けるように消えていく。

 

「リアラ!!」

 

誰もがどうすればいいか分からない中、ハロルドが叫んだ。

それにびくっと反応したリアラは、すぐに何故自分が呼ばれたのか理解する。

 

ジューダスの直ぐ傍で雪の冷たさなど気にせず膝をつき、ペンダントにそっと手を当てて目を瞑る。

何度も見た奇跡の光。

少しずつだが、少年が形を取り戻していくようで、カイルは希望に目を見開いた。

 

「ハロルド、助かるの!?」

 

今リアラに話しかけるべきではないと判断し、ハロルドに声をかける。

だが、彼女の表情は硬い。

 

「一先ずは……でも…」

「力が………足りないっ…」

 

目を閉じながら、リアラが眉を寄せて苦しげにあげた声にカイルが、皆が表情をまた硬くする。

 

「ど、どうするんだい!一体何が…っジューダスはどうしちまったんだい!」

「こいつ、エルレインの力を借りて生きてたんでしょ?つまりそういうこと」

「私の力じゃ……人の命を保つなんてこと…」

 

ナナリーの疑問にハロルドが答える。

リアラが作り上げる光は少しずつ小さくなっている。

ロニは奥歯を噛み締めた。

 

そうだ。一度死んだはずのリオン=マグナスが生きている。

18年前の死ぬ前に来たのではなく、生き返って

それは彼が見ていた悪夢でよくわかっていることではないか

だったら生き返したのは誰だ!簡単なことなのに、そんなことすら気付かなかった!

 

ジューダスは改変世界の、あの夢の世界で間違いなくエルレインと敵対したのだ。

神を、否定したのだ。自分が今生きていることを否定したのだ。

 

(こいつもこいつだ!気付いていて今まで言わずにいやがったな!…最近調子悪そうで、おかしいと思ってたんだ…畜生!)

 

ぎりぎりと歯を鳴らし、拳を握り締めて己の失態を思いながら雪の中に力なくうつ伏せている少年を睨みつける。少年をいつも覆っていた仮面は既に雪の中に埋もれてしまった。

いつもならば、こうして睨みつければ対抗するようにロニの鋭い目を圧倒するほどの綺麗なアメジストが睨み返してくるというのに、惜しげなく晒された少年の目はもう二度と開かないかのようにピクリとも動かず閉じている。

 

もう手遅れ。そうとしか思えない程に、リアラの力を持ってしても少年の体が元に戻ることがなかった。

せめてもう少し早く気付いてやれれば、彼が自分らを頼ってくれれば

IFの世界での解決策など思いつかないが、そう思わずにはいられなかった。

 

「せめて、レンズがあれば…まだ……」

「レンズがあればいいんだな!」

 

とうとう奇跡の光が消えてしまう。

荒い息を付きながらリアラが呟いた言葉を、ロニは縋りつくように反復した。

 

そしてジューダスに近づき、彼の肩に手を伸ばす。

一度はカイルの手をすり抜けさせたその肩だが、今はリアラの力によりか何とか触ることができた。

 

(冷たい……)

 

死体みたいだ。

怖くて息を確かめる気が起きなかった。

 

ジューダスの体を抱き起こし背負う。

 

「ロニ!?」

「ハイデルベルグに戻るんだ!ウッドロウ王に頼んで、少しでも多くレンズを!」

 

この前飛行竜を海に沈めたことを酷く後悔する。

たった数日で玉座の後ろにどれだけレンズが溜まるかわからないが、今はそれくらいしかロニには解決策が考えられなかった。

 

「それだったら私はイクシフォスラーのほうを取ってくるわ。あれの動力もレンズだから」

「それだったら一度跡地へ行ったほうがいいんじゃ…」

「いや、此処から拠点跡地はまだ遠い。ハイデルベルグのほうが早く着く。そこで時間稼いでイクシフォスラーのレンズを待ったほうがいい」

 

カイルの言葉にロニは自分でも驚くほど冷静な判断で指示を出した。

この中で一番感情を高ぶらせ、焦っているのではないかと自分で勝手に思っていながらも、それ以上に助けなければという想いが頭をひたすらに冷やす。

 

「俺がジューダス背負ってハイデルベルグに行く。もちろんリアラも一緒だ。カイルはハロルドとイクシフォスラーへ、悪いがナナリーは俺と、軽いけどモンスター出たらあれだからな」

「わかった!」

 

雪に足を取られる中、まだまだ地上軍拠点跡地は遠いだろうに走り出すカイル。そしてそれに文句も言わず同じように走って追いかけるハロルド。

体力が持たないぞ、そんな呆れた言葉なんか今はかけれない。時間との勝負だ。

 

ロニもジューダスを背負い走り出す。

消えかけている為なのか、冷たい体はまったく重量を感じさせない。

 

(畜生……目ぇ覚ましたらぜってぇぶん殴る!だから、だからそれまで消えんなっ!)

 

弾む息を噛み、叩きつけてくる雪に目を細めながら、ひたすらに走った。

 

Comment