ハートの数字を見てこっそりガッツポーズとりながら続きを書く僕です。
ハートありがとうござまぁあああああああす!!!!(歓喜)
「さて、坊ちゃん。神の手を消すんですよね」
シャルティエの言葉に俺たちは青く続く綺麗な空を狭くしている白い巨大な手を仰ぎ見た。
「あぁ」
「きっと、できますよ。今の坊ちゃんなら。 ……僕も、願っています。心の底から……坊ちゃんが、大切な人と生きてくれることを」
ジューダスはシャルティエへと視線を向け、その後俺を見る。俺はにかっと笑ってその視線を迎えた。ジューダスは少し頬を染めてシャルティエへと視線を戻す。
「ありがとう……シャル」
シャルティエのコアクリスタルがほわ、と光った。
「じゃ、景気良くぶっ壊しにいくか!」
「とりあえず麓までいかないとだな」
俺たちはヨウへとは戻らず、町の外れをまっすぐ神の手へと向かい歩く。
徐々に大きくなるこの世界を鷲掴みしている綺麗な、真っ白な手。あまりに美しく、そして無機質で一切温度を感じさせない手。
これが消えて尚、この世界に変化がなければ、間違いなくジューダスは自分の生を諦めることなく願ってくれるということだ。一種の度胸試しみてぇなもんかもしれない。
ただ、今更こんなこと試さなくても、俺はこの世界が変わらず残ることを確信している。一切疑っていない。だからこれは、ただ単にこいつの世界に勝手に手を突っ込んできた神が邪魔だから消すってだけのことなのだ。
俺は軽口を叩いて見せた。
「まさか、今更不安だなんて言い出さねぇよな?」
ジューダスは神の手を仰ぎ見て答える。
「今でも、本来ならありえないことだとは思っている。僕は正しい歴史に存在しない人間だ」
ジューダスの答えに俺はふぅ、とため息をついた。ま、こいつはそういうやつだ。理屈でものを考える。
「でも、それとこれとは別だ。そうだろ? 今は理屈ではなく、ただ単純に、僕がどうなりたいか、どうなってほしいか。それだけ考えればいい」
「上出来だ」
続けられた答えに、俺は満足して笑った。ジューダスも不敵な笑みを浮かべる。
「歴史の修正はこれまで行ってきたが、神を殺したことはまだないんだ。何がどう変わるか、先のことは誰もわからない。だから、僕は僕の都合のいいように願うさ」
自信たっぷりにそう言い切ったジューダスの姿に、シャルティエは嬉しそうに笑った。
「ふてぶてしいところ、ロニに似ましたかね、坊ちゃん」
「まったくだな。ほんと、お前たちには毒されていくばかりだ」
「いい変化じゃねぇか」
「そうだな、悪くない」
俺の言葉にそう返すジューダスの顔は、本当に生き生きとしていた。
「じゃあ、壊すぞ」
「あぁ」
「シャル」
「はい、坊ちゃん」
ジューダスの呼びかけに答え、シャルティエがジューダスの手へと収まる。
そしてジューダスはシャルティエを振り上げ、勢いよく、神の手へと突き刺した。
パリン、と音を立て、剣が手へと突き刺さる。その手は血を噴出すことなく、ガラス細工だったかのように砕け、そこから全体へと罅を広げた。その罅が幾重にも増え、やがて耐え切れなくなったようにパン、と神の手は砕けた。
砕けた欠片がはらはらと空から落ちながら消えていく。ようやく俺は邪魔することなくこの世界の広い空を拝んだ。
この世界は、何も変わらなかった。
「割と、呆気なかったな」
「ふん、当然だ」
やがて降り注ぐ欠片も全て消えた。俺たちは穏やかなこの世界の風を静かに受けていた。
「これで、一件落着ってとこか」
「あぁ。もうこの世界は、僕は、誰にも縛られやしない」
吹き抜ける風を一身に受け、ジューダスは気持ちよさそうにそう言った。
「さて、どうすっかね。とりあえずヨウの町に戻るか? あそこで俺と一緒に過ごしてハッピーエンド、ってとこか?」
そう言って俺はジューダスへと手を伸ばした。ジューダスは俺の手を見たあと、ヨウへと視線を向け、首を横に振った。
「いや」
思わぬ否定の言葉だったが、そこに影を感じなかったから、俺は首をかしげた。
ジューダスは再び俺へと視線を戻し、穏やかな表情で言った。
「ここからは、本当の世界で」
その言葉に気づかされ、俺は少しだけ目を見開き、「そうだな」と答えた。
「僕は信じる。この世界がきっとこの先も広がることを」
「あぁ、俺も信じる」
差し伸ばしていた手は下ろしかけたところで、細い手に捕らえられた。
「これからも、よろしくな。ロニ」
俺は絶対離さないようにその手に力を込め、「あぁ」と答えた。
そっと俺たち二人の間にシャルティエが浮遊して近づく。
「ロニ、ここまでで、これで最後だね。君は坊ちゃんの世界の全てを見た。これが、最後。これが全て。そして今この世界が広がってるのは、君のおかげだ」
ふわりと、シャルティエのコアクリスタルが光る。
「ありがとう、ロニ。坊ちゃんの全てを受け入れてくれて」
シャルティエの心からの礼の言葉は、胸にジンと響いた。
この世界の全てを、ジューダスの全てを見た。知った。いろんなことがあった。でも、今こうしてここに立てているのは、この世界がこうやって美しく広がっているのは、俺一人の力じゃない。
「俺も、お前たちには感謝しねぇと。ジューダスは俺を信じて心を開いてくれた。シャルティエも、なんだかんだで俺を助けてくれたしな」
「僕は別にそこまで君に協力的だったわけじゃないけどね」
「まぁな」
クックック、と俺とシャルティエは笑いあった。
ハロルドにも力を借りた。ルーティーさんの存在がなければ、第八階層がどうなっていたかすらわからない。それ以外にも、いろんなこまかな要素が折り重なって、今この奇跡はここにある。
この奇跡に、そっと胸のうちで感謝した。
「ロニとは、これで本当にお別れだね」
目を瞑り思いに耽っていたところ、シャルティエの少し寂しそうな声に呼び戻される。
「そう……なのか? 俺はもうコスモスフィアに来れないのか?」
「レンズさえあれば来ようと思えば来れると思うけれど、僕はもう来て欲しくないなって思うよ」
「あぁ? なんでだよ。この期に及んで歓迎しないその態度」
シャルティエの言葉にこれまでのような剣はないのだが、俺は思わず拗ねて言った。
「現実で想いを伝え合うことを怠らないように、ってことだよ。君は第九階層まできたんだよ。坊ちゃんの全てを見てきたんだ。だったら、もうこの世界に頼ることなく現実世界でしっかり伝え合い、育み合って行くべきだ」
「あー……そりゃ、そうだな」
そもそもこの精神世界に入り込むってのは神の力を使った反則技みたいなもんだった。確かに、シャルティエの言うとおりだ。ジューダスの世界をこうもありのままに見ることはこの力を借りなければできなかっただろうが、本来は現実でしっかり交流し想いを伝え合うべきことなのだ。
シャルティエが僅かにジューダスの方へと体を傾ける。
「坊ちゃんも、あんまりロニを甘やかして何でもかんでも我慢しちゃだめですよ?」
「僕はそんなことした覚えがないぞ」
「はー。無自覚なんだから困っちゃいます。まぁとりあえず、全部自分の心に秘めてしまわないで、ロニにはちゃんと伝えないとダメですよ!」
「……わかった」
ジューダスはきょとんとした顔をしながら、とりあえずといった態で頷いた。
「僕はちゃんと、ここにいますからね。坊ちゃん」
「……あぁ」
ジューダスは俺と繋いでいない方の手で、シャルティエの刀身へと手を伸ばし、そっと惜しむようにシャルティエを撫でた。シャルティエのコアクリスタルが嬉しそうに光る。
「坊ちゃんの全てを、エミリオとしての坊ちゃんも、リオンとしての坊ちゃんも、ジューダスとしての坊ちゃんも、全部知ってたのは僕だけだったのにね」
「その特等席は残念ながら今日から二人用だな」
「ふふ、そうだね。……でも現実には僕はもういないから、今後も見ていけるのは君だけだ。妬けちゃうや」
ジューダスからの愛撫を受けながら呟かれたシャルティエの言葉に、俺は一瞬喉が開かなかった。
「……俺たちのこと見守っててくれよ。お前の想いは変わらずここにあるんだろ?」
「うん。坊ちゃんのこと傷つけたら許さないんだから。僕はずっと坊ちゃんの心の護なんだからね。坊ちゃんに何かしたらただじゃおかないってのは前も今も変わらないんだから、肝に銘じておくこと」
「当然だ」
相変わらずの言葉に安心して、俺はにかっと笑った。呼応するようにシャルティエもコアクリスタルを光らせる。
そしてゆっくりシャルティエはジューダスの手から離れ、俺たちに向き合うように浮かんだ。
「ロニ、坊ちゃんのこと、よろしくお願いします」
「あぁ、任せろ。シャルティエ」
「坊ちゃん。どうか、お幸せに。最後まで絶対、自分の幸せを諦めないでくださいね。僕はずっと、あなたの幸せを願っています。ずっと、いつまでも」
「ありがとう。シャル」
最後の言葉を交わし、シャルティエのコアクリスタルが白く光った。
その光は世界をも包むほどに広がる。目の前が真っ白になる。
「じゃあ、戻すよ!」
シャルティエの言葉が遠く聞こえ、俺は叫んだ。
「シャルティエ、ありがとな!」
真っ白な中、最後に、あの暖かな大地のようなコアクリスタルの光を見た。
「お、帰ってきた!」
「どわっ!?」
意識が戻り、目を開けた途端、目の前にあったのは視界いっぱいに広がるハロルドの顔だった。思わず驚いて飛び起き、ずずず、と後ろに向かって体を這わせて距離をとる。ハロルドは頬を膨らませて唇を突き上げた。
「ちょっとー、柄にもなく心配して何時間もここにいてあげたってのに、ずいぶんな反応してくれるじゃないの?」
真っ白になっていた頭が、ハロルドの言葉からいくつかの情報を受け取り、そして現実世界で何が起きていたのかを思い出す。
「は……そ、そうだ! ジューダス!」
第九階層ではすっかり安心モードに入っていたのだが、現実世界ではジューダスが目を覚まさないままに終わっていたのだ。確かシャルティエがもう大丈夫だと言ってはいたが……
すぐ隣で寝ていたジューダスへと目を向ければ、ちょうど長い睫が揺れ、ゆっくりとその瞼が開かれていくところだった。
「……ッ……ジューダス!!」
「……ロニ?」
思わずその頭を一気に持ち上げ、腕の中に抱きしめる。よかった、ちゃんと目を覚ました。ちゃんとジューダスは帰ってきた。もう大丈夫なのだ。
「あぁ……よ、かった……あぁ! あぁ! 良かった、良かった!!!」
「おい、どうした。ロニ? 頭でも打ったか?」
「馬鹿野郎……! くっそ、お前は……!」
コスモスフィアの世界では幸せ絶好調だったが、現実に戻った途端、あの第七階層後の絶望がぶり返して思わず涙が溢れる。本当に、危なかったのだ。本当に、本当に。あと少しで、本当に取り返しのつかないことになっていた。それでも、色々あって、こいつは俺の手を取ってくれたのだ。そうして、帰ってきてくれたのだ。一緒に生きてくれると言ったのだ。
俺の涙を見てジューダスは目を白黒させて腕の中をもがく。
「おい、どうしたんだ……ロニ」
「うるせぇ……色々あったんだよ」
「泣くこと、ないだろう」
呆れた声と、すこし優しげな心配そうな声に俺は幸せを感じながら腕で涙を拭う。
顔を上げてジューダスを見たとき、その視界の端でハロルドが呆れた顔をしながらも仕方なさそうに退出するところが見えた。
「あ、わりぃ! ハロルド!! 本当にありがとう、恩に着る!!」
ハロルドは後ろ手をひらひらと動かし黙って退出していった。後で何か礼を持っていかねぇとな。何がいいんだろう。解剖実験を求められると困るが。
ジューダスはハロルドが退出していったドアを訝しげに見つめ、そして自分の顔にそっと触れてまた小首を傾げている。
「ロニ、何があったんだ?……何か、不思議な感じがする。僕はなぜ仮面をつけていない」
「あー」
何が、と問われれば数時間語り続けないといけないほど色々あったわけなのだが。こういうとき、コスモスフィアでのできごとを覚えていない受け入れ側との温度差に戸惑う。
「仮面は、ちょっと俺が外していたんだ」
「……そう、か」
ジューダスはしきりに不思議そうな顔をしていた。多分、今日ダイブする前だったのなら、仮面を外すということは互いにとって不の感情を呼び起こすことだったはずだ。だが、今の俺たちの間にはそれがない。俺にはわかる。だがジューダスには直感でしかわからず、理屈で考えていたこととちぐはぐしているのだろう。
戸惑いつつもジューダスは仮面へと手を伸ばし、そっとそれを被った。第八階層からずっとジューダスの素顔だけ見ていた俺は、不思議とその姿に違和感を覚える。ずっと一緒に旅をしてきたジューダスは、この変な仮面を被ったジューダスだ。 見慣れた姿のはずだった。だが、今はその仮面があまりにも異質なものに感じた。
沈黙の中、直感で俺はその異質の理由に気づき、ベッドから降りた。
「ジューダス、ちょっと出かけようぜ。何があったのかも話したいしな」
「こんな時間にか?」
窓の外はもう真っ暗だ。
「今しかできねぇからな。何か明かりがねぇと困るな……あそこ、暗いだろうからなぁ」
俺は荷物をガサゴソと漁る。松明、は危ないだろうしな。ハロルドがそういう便利そうなの持っているだろうか。
「仕方ねぇ。ハロルドにばっか頼むのもちょっと申し訳ないが、まぁハロルドんとこ寄っていくか。てかあいつどこいったんだろうな。またイクシフォスラーのとこにいんのかな」
俺はぶつぶつと呟きながら部屋を出る。ジューダスはまだどこか戸惑いを見せながらも俺に黙ってついてきた。
■あとがき
今回はここまでで。精神世界はもうこれで本当におしまいですね。物語りももう次で終わっちゃうかな。長かったなー!
そういえばすっかり仮面描写のこと忘れてた気がします。
第七階層ジューダスは仮面つけてる設定だったっけ、違ったっけ。忘れちゃった。多分つけてる気がする。
第八階層のジューダスは既に死んでる状態な世界だったから仮面はつけてない。
第九階層ジューダスはその名残で仮面はつけてないってことにしてるけど絶対これ全部書き忘れてるナンテコッタイ。
仮面描写大事なのに内緒ェ……。清書時にちゃんとやろなぁ……?
それにしてもコスモスフィアと現実世界の温度差には風邪ひきそうになる。
ここまできたらまじ神の手なんてもう負ける気がしないとしか……。
コスモスフィアなんてLv8がラスボスなんだから仕方ないよネ! ネ! ラスボスはジューダスちゃん 神の手なんて消化試合です。
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