dive 29 (完結)

diveTOD2
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ハロルドから借りたレンズを使った明かりで地面を照らしながらクレスタの町を歩く。

ジューダスは俺の二歩後ろをついて歩いてきている。第九階層のジューダスと比べ、少し心もとない様子なのだが、でも俺の後をしっかりついてくる。なんともその違うような、同じような変化が可笑しい。

クレスタの町の木でできたゲートの下を通り、虫の鳴き声がリンリン響く音を聞きながら歩く。

「町の外に出るのか?」

「あぁ」

俺は迷いなく歩みを進めた。星空があたり一面に広がっている。田舎の星空はやはり綺麗だ。ジューダスと出会った後のクレスタへの帰り道を思い出す。あれからずいぶんと時間が経った。

やがて道を反れて山へと歩みを進める。やがてたどり着くあの隠された道の前で、戸惑いながらもしっかりついてきていたジューダスの足がとうとう止まった。

「どうした?」

振り向く。仮面以外は真っ黒だから、ジューダスの姿は本当に闇に溶けやすい。

「いや……知ったんだな、と思って」

「……あぁ。うん、行こう」

そういえば現実世界のジューダスには全然話してなかったしな。これから話すつもりではあったが。とはいえ、今から向かおうとしている場所から、ルーティさんとの血縁関係を俺が知ったってことはわかったのだろう。

がさ、と音を立てて森の中へ入る。恐ろしさを感じるほどの闇だ。俺はそっとジューダスへと手を伸ばした。

「手、繋いで行こうぜ。さすがに暗い」

「……子供じゃ……あるまいし」

別に俺もジューダスがはぐれるとは思っていない。ただ、そうしないといられないほど夜の森は恐ろしいのだ。だから単純に、第九階層で繋いでいたぬくもりが欲しくなった。

俺は譲らずに「ん」と手を突き出す。ジューダスは暫く躊躇っていたが、おずおずと手を重ねた。その手を強く握り、引っ張りながら前を歩く。

やがて辿り着く開けた崖の上。一本の木と、その麓に二つの石。波の音が遠く聞こえる真実を知る者の為の場所。

森を抜けた後もジューダスの手をがっちり捕まえたまま、小さな石の元へと歩き、その石の前に屈みこんだ。ハロルドから借りたレンズを使用する明かりをその石の傍へと置く。

「これ、ルーティさんがお前のために作った墓だって。あの時、聞いてたか?」

「……遠くから、聞いてた」

「そっか。……名前、ちゃんと掘ってあるな。……もう一個の石は、名前掘ってねぇけど……多分、ヒューゴさんのかな」

「……」

握っていた手がぴくりと僅かに反応する。

「……ヒューゴのことも、知ったのか?」

「ミクトランに操られていただけだってこと?」

「……ん」

仮面がこく、と僅かに下に動いた。俺は「うん、全部知った」と答えながら立ち上がった。

ジューダスの表情は闇と仮面でまったく読めなくなっている。ただ、仮面がやや俯いて見える。あまり碌なことを考えてなさそうだ。そっと握っていた手が離されようとしたから、俺は強く握って引き戻す。

「でも、お前は……そんなの気にして赦さなくても……無理に赦さなくても」

ほらみろ。

「ジューダス。わからねぇか? 俺は、全部見てきた。全部知って、それでも俺はちゃんと自分の胸のうちで色々考えて、全部、これ以上ねぇってほど考えて、それで決めたんだ。俺の想いは何も変わらなかった。お前を全部受け入れるし、お前のことを赦すよ。そして、お前のことが好きだ」

俺からしたら、もう何度も何度も、くどすぎるくらい伝えた言葉だ。目の前のジューダスには直接伝えられていない。でも、ジューダスの想いは、俺の言葉をしっかり受け取っているはずだ。だから、

「わかるだろ?」

そう問いかけた。

ジューダスは繋いでいない左手で心臓を鷲掴むように胸を握った。

「……本当、に」

「本当だ。お前は本当はもうわかってるはずだ。全部、話してきたんだから。全部見た。全部知った。お前がこれからどうなると思っていたかも。神を殺したら起きるかもしれないことも知った」

ジューダスはただその場に立ち尽くしていた。

「なぁ、お前はわかっているはずだ。俺がお前に何を願ったか。そしてお前も願ってくれたはずだ。俺と同じことを。なぁ、教えてくれ。今のお前の口から、俺に伝えてくれよ。変わらない答えを聞かせてくれ」

握っていた左手を引き寄せ、その白く細い手に右手を被せて閉じ込める。

「愛してる、ジューダス。俺と一緒に生きよう」

仮面の奥に隠れる揺れる目を見つけた。その目を捉えて離さないように、告げる。

「お前のこと、全部見たよ。リオンとして生きてきたことも、エミリオとしての想いも、ジューダスとして生きようとしていたかも。……でも、今はもう違うはずだ。そうだろ?」

俺はにや、と不敵な笑みを浮かべて見せた。

ジューダスからしてみれば、未だに答えが不明なもの。でも俺はその答えを全て既に知ってしまっている。こんなにもジューダスに対して先を行き有利に立っているのって、初めてかもしれない。なんだか可笑しくなってきた。

「……お前は、一体僕に、何をしたんだ」

ジューダスは僅かに声を震わせながら言った。それこそ若干の恐れすら感じているような声だった。戦慄が走るような、そんな感じだろうか。クク、可笑しくてたまらない。そりゃあそうだろう。

「お前の世界をぶっ壊して作り変えちまった」

「……とんでもない男を、受け入れてしまったものだ」

その言葉には間違いなく許容が含まれていた。

「でも、悪くねぇだろ?」

「……」

ニッと笑って見せれば、ジューダスの肩から少し力が抜けるのがわかった。

「ジューダス、愛してる」

「……うん」

もう一度言えば、今度は答えが返ってきた。まだ、足りない。

「全部終わっても、絶対戻って来い」

「……」

「世界中の人間がお前を恨もうとも、俺はお前を待ち続ける。お前をずっと愛している。だから、世界より、俺を選んで戻ってこい」

第八階層で告げた言葉を、もう一度告げる。

「……もし、戻ってこれたとしても、いつか、僕の正体がばれてしまうかもしれない。世界を壊したリオンが生きていると、世界中の人に罵倒される日が来るかもしれない」

「そんときゃ、俺がお前の耳を塞いでやる」

「追い掛け回されるかもしれない」

「一緒に逃げようぜ。どこまでも」

「追い詰められて、囲まれるかもしれない」

「そんときゃ、一緒に死のうか」

「……お前にだけは、生きてて欲しい」

「お前が先に死んだら、俺は後を追っちまうだろうよ」

くだらない言葉遊びだ。俺たちはこのやりとりをもう全部終えた後なのだ。でも、確かめ合うように、第八階層をこの現実でもう一度繰り返すのは、なんだか悪くない。

もうわかっているんだろう? 俺はもうわかってる。お前も俺が何って返すか全部わかってて聞いてるんだろう?

「……僕はお前を不幸にばかり導くんだな」

おいおい。

「違う。お前と一緒にいたら俺は幸せだから、どんな困難も一緒に乗り越えていこうって言ってるんだ。お前、ほんとにわかってるのか?」

俺は思わず安堵にもたれるのをやめて、身を乗り出すようにジューダスの顔を覗き込み表情をしかめた。

「いや……そうだな、お前の言うとおりだ」

間近に見て、ジューダスの表情が少しわかる。ジューダスはやっと諦めたのか、ゲームの負けを認め投了するように穏やかに目を瞑る。俺は「ヨシ!」と一息ついて前のめりになった体を戻した。

両手で捕まえていたジューダスの右手に、ぐっと力が込められ、俺は小首をかしげる。ジューダスの顔へと視線を向けていたのだが、ふと右手の項を包む温かみを感じて手へと視線を落とした。

ジューダスもまた、俺の手を包むようにもう片方の手を被せていた。

驚いてジューダスへと視線を向ければ、仮面の奥から上目遣いに、挑むように俺を射抜く目があった。

「それに、例えこの先が不幸だとしても、僕はもう、この手を離してやれない」

2秒ほど思考が停止しちまった。あんまりにも特大のそれを、俺は飲み込むのに苦労したのだ。ようやく飲み込んだときには、あまりにも熱くて、胸が爆発しそうで、俺は噴出して笑った。

「くっ……ははは! いい! それでいいんだ! すげぇ嬉しいぜ、ジューダス」

ジューダスもまた笑みを浮かべていた。そして、少し照れくさそうに視線を海の方へとずらした。それがまた可笑しくて、幸せで、俺は笑いを納めるのに少々時間を要した。

ようやく息が落ち着いたところで、そっと苦言を申してみる。

「お前は先のことを見すぎなんだよ。臆病になりすぎだ」

ジューダスは口を少し引き結び、不服そうに俺を睨んだ。

「カイルもそうだが……お前は後先考えずに突っ走りすぎなんだ」

「じゃあ、足したら丁度いい感じだな」

ニヤ、と笑って言えば、ジューダスは「ふふ……」と肩を震わせて笑った。

「でも、お前のそれは、損しちまうぜ? 先の遠いとこばっか見てないで、直ぐ目の前も見てみろよ」

小首を傾げるジューダスへ顔を近づける。

「いい男がいるだろ?」

ポカン、と目を丸めたジューダスを見て、俺は笑いながら一度体を離した。

「これ、見逃したら大損だからな!」

「……バカ面だ」

「あぁ!?」

「でも、好きだ」

「~~っ! お前、そりゃ……かわいすぎるだろ!!」

ジューダスの呆け顔を引き出して満悦に浸っていたのに、まさかの反撃に俺が百面相する羽目になった。せめて俺に好きだと告げた顔を見てやろうと思ったのに、ジューダスは俯いて仮面の下に表情を隠してしまった。畜生、やっぱりこの仮面は邪魔だ。そう、俺はこの仮面が邪魔だからここに来たんだ。

やっと本題を思い出し、右手をそっとジューダスの手から抜け出す。ジューダスが名残惜しそうに開いた左手を浮かしているのがなんだか可愛い。

右手で仮面へと触れる。冷たい、角ばった竜族の骨。

「なぁ、ジューダス。その仮面、外しちまえよ。お前の顔が見辛い」

そっとジューダスは顔を上げて俺を睨んだ。不服そうなその理由がわかって、思わずにやにやと笑ってしまう。

「そんなに照れ顔見られんの恥ずかしい?」

ジューダスは自棄を起こしたように俺に握られていた右手を振り払い、驚きのすばやさで仮面を脱いで見せた。かわいい。頬が勝手に持ち上がる。頬筋が吊りそうだ。

もうこんなにも容易く、ジューダスは仮面を外してしまえるようになったのだ。

「で、それ、ここに捨てちまおう」

それ、とジューダスの両手に抱えられる骨の仮面を指差す。

ジューダスはしばらく俺の顔を見た後、そっと仮面へと視線を落とした。

「それは、もう必要ないだろ? それ、お前の遺体みたいなもんだろ? 俺にはそう見える。正体を隠すとかの前に、自分は死人だってそう思い込むためにつけてたんじゃねぇのか?」

仮面に視線を落とし、俯くジューダスの目が静かに瞬くのが今はよく見えた。

「でも、もういらねぇだろ?」

ゆっくり、ジューダスは顔を上げて俺を見た。俺はジューダスへと右手を差し出す。その意味を理解したのか、ジューダスはおずおずと仮面を俺の右手へと置いた。

「こんなもん、海に放り投げちまえ」

ブン、と 勢いよく仮面を海に向かって放り投げる。骨の仮面は呆気なく夜の闇に放られ、放物線を描いて重力のまま落ちていく。

「あ」とジューダスは声を上げた。何だよ、何が悪い?と俺は不遜な態度でジューダスへと目を向ける。

「……どうするんだ、ロニ。明日、僕はルーティから全力で逃げないと」

「あ」

俺もジューダスと同じように声を上げるはめになった。いや、でも。

「会ってもいいんじゃねぇか? 話し合わないといけないこと、沢山あるだろ」

「……全て終わってから、そうするとしよう。今は時間もないしな」

腰に手をあて、気楽にそういいながら夜風を受ける姿に、仮面への名残惜しさは一切感じられない。俺は安堵して、海へと目を向ける。仮面は、もうどこにも見えない。

隣を見れば、何に隠されることも、縛られることもなくなった、素顔を晒したジューダスがそこにいる。

俺は薄い肩へと手を伸ばし、腕の中にその体を抱きこんだ。

「あぁ、やっとお前を手に入れたんだなって感じがする。お前は、俺のものだ」

背にぬくもりを感じる。ジューダスが腕を回したのだろう。

「勝手なことを。お前も僕のものだぞ?」

下から見上げてくるジューダスの丸々さらけ出された瞳は、とても綺麗だった。

「あぁ。それでいい」

こつ、とジューダスの額に俺の額を押し当て、目を瞑る。額から、頭へ温もりが直接伝わるようで心地がいい。

「俺の腕の中に、絶対帰ってこいよ。俺はいつまでも待つぞ。じじいになっても、死んでも待つぞ」

「いい男が台無しになってしまうな。そうなる前に戻ってくるよう努力しなければ」

その言葉に俺は顔を上げてまじまじとジューダスを見た。まさかジューダスの口から“いい男”だなんて。

腕の中の体がハッと固くなり、ジューダスは一度そっぽを向いた後、俺の胸へと顔を埋めてしまった。

どうしてくれよう。この可愛い生き物。

「不思議だ。僕はいつの間に、こんなにお前のことを好きになってしまったんだ?」

くぐもった声が、そう尋ねてくる。だらしなくニヤニヤ笑ってしまうのは、もう仕方ないよな。

「コスモスフィアでの俺様が、相当かっこよかったってことだな。お前が全部覚えてないのが本当に惜しいぜ」

「……人が覚えてないのをいいことに好き勝手言ってくれるな……反論できないのが結構腹立つ」

ベシ、と衣服に守られていない腰あたりを叩かれて「いてぇ!」と言いながら俺は笑った。

はぁ、と腕の中でため息がこぼされる。

「本当にお前は恐ろしい男だな。……でも、もう仕方ない、な」

ジューダスは顔を上げ、ふっと微笑んだ。

「腹を括ったぞ、ロニ。……僕も、お前の腕の中に戻りたい。そう想っている。世界の全てを欺いてでも、戻りたいと」

腹の真ん中からぶわっと感動がはじけ飛ぶような感覚があって、俺はそれをこらえる様に顔をくしゃくしゃにしてジューダスの頭を支え、そっとその唇に口付けた。

そのとき、視界の端で光が広がった。

「なんだ……?」

それは俺のポケットから発していた。ポケットに手を入れ、それを取り出す。

ずっとジューダスにダイブするために使用してきた、リアラからもらったレンズだ。

その光は大地の色をした温かみのある光だった。

「……一瞬、シャルのコアクリスタルかと思った」

「あぁ」

ジューダスの中に残るシャルティエとの記憶。シャルティエがジューダスに残した想いの数々。それが、ジューダスの中で心の護のシャルティエとなって息づいている。きっと、この光はシャルティエの光なのだ。

俺たちはその光に目を奪われていた。レンズが俺の手からひとりでに離れ、ふわふわと浮き上がっていく。コスモスフィアのシャルティエのように、光ながらふわふわと。俺たちを見守るように、ゆっくりと浮き上がっていく。

やがて頭上で俺たちを見つめるように一時停止したかと思うと、レンズは空へと一気に駆け上がっていった。

「消えた」

「流れ星みたいに飛んでいっちまったな」

夜空に線を描いて、それは消えていった。俺たちは互いに身を寄せ合いながら、それを見ていた。

どこにも光の名残を見つけられなくなった頃、俺はジューダスへと視線を戻す。

「もしかしたら、俺たちの願いを叶える為に流れ星になったのかもな?」

「なんだそれ。臭いな、お前」

「あぁ!?」

「ふふ」

軽口を叩き、笑いあいながら、もう一度空を見上げる。

あのレンズはどこへ消えてしまったのだろう。俺たちにはもう必要のないものだから、消えてしまったのだろうか。あれには、俺たちの想いと願いがたくさん詰まっている。

冗談のように言ったけれど、俺は割りと本気で思ってる。きっとあれは晶術の一種じゃないだろうか。レンズの力を引き出して魔法のような力を扱えるのと同じように。

俺たちの願いを、叶えに行ったのではないだろうか。

 

 

■epilogue

木々の間から見える木漏れ日が、凄く綺麗だ。

カイルがどうしてもここ、ラグナ遺跡を見ていきたいと、一人で奥へと入っていった。

不思議な場所だ。十八年前の騒乱からある遺跡だが、綺麗で、本当に不思議な場所。何だか、初めて来た場所じゃない気がする。ガキの頃、カイルと冒険してここに来たこととか、あったっけ? んー、あった気がする。たしか、宝を探していた気がする。あの時は大変だったなぁ。大切なレンズを壊してしまって、それを見つかって、部屋に閉じ込められてよ。でも、そこで大切な人に出会って……
あ? ……そんなこと、あったっけ?

遺跡の壁にもたれていた体を起こし、カイルが入っていった遺跡の奥へと目を向けた。木々が鬱蒼としている中、幻想的な木漏れ日がちらちらと床を照らしていた。

ものすごく、大切なことを忘れている気がする。絶対、忘れてなるものかって、思っていたことだ。

胸がぎゅうっと締め付けられるような、息が苦しくなるような、なんだか、とても切ない。今すぐ、暴れまわってしまいたいような、そんな衝動に駆られる。

違う、暴れたいんじゃない。走り回りたいんだ。走り回って、探したいんだ。

あいつは、どこだ。探さないと

それが誰かも思い出せないけれど、本能的にそう思った。

どこにいるだろう。どこにいけば会える?

今すぐだ、今すぐ駆け出したい。待っていられない。俺がちゃんと見つけてやらないと、あいつはすぐに隠れちまうんだ。

早く、早く行きたい。あぁ、でも、今突然居なくなったら、きっとカイルが俺を探して困っちまうから……。あぁ、でも、でも

「ロニ!」

遺跡の奥からカイルの元気な声が届く。それが、俺を縛っていた紐を解く。

「カイル!! 戻ったな!? 俺、ちょっと用事を思い出したんだ! 悪い! 一度クレスタに戻っていてくれ! あとで、行くから!!」

「あ、ちょ……ロニ!?」

戻ってきたカイルの姿も碌に見もしないで走り出した。視界の隅に、桃色の布がふわっと風に揺られて広がったのを見た気がする。

どくんどくんと、心臓が大きくなっていた。俺に何かをずっと訴えかけていた。

足が、勝手に動いていた。ラグナ遺跡を出て、森を抜け、クレスタの町に繋がる道を超えて、反対方面にある山付近の森へと走った。

持久力を考えもせずに全力疾走してしまって、息が切れた。道が全くない、木々が壁のように生えているその場所を前にして、俺は何でこんなところに走ってきたのだろうと、今さらながらに考えた。なんだか、無性に虚しくなって、また胸が締め付けられる。

俺は、一体どうしちまったんだろう。

そう思いながら木々を見ていたとき、ふと一か所だけ不自然な場所を見つけた。

引き寄せられるように歩み寄れば、そこだけ、道ができていた。明らかに人が行き来した後のように、人が歩けるように一部木の枝が切られたり、草が踏み抜かれていたり、木が切られた跡がある。ラグナ遺跡で感じたような既視感を覚える。

俺はその道を、ゆっくり歩き始めた。とても、大切な場所のように思えた。何か、とても大切な想いが、あったような気がする。

一歩一歩近づくたびに、木々の間から見える光が強くなっていく。その光の先にあるものを、俺は泣きそうなくらい求めていた。

そして、木々に囲まれた狭い道が、突如開ける。

波の音が、静かに響いていた。視界一杯に、海が広がっている。空の色を映して真っ青で、穏やかに波打っていた。

その開けた場所に一本だけ、何かを守るように木が生えていて、その木の陰に

 

黒い、人影があった。

 

俺は息を忘れて、背を向けているその黒い人物を見ていた。

背は、カイルと同じぐらい。綺麗な黒髪が、波風に煽られてサラサラと揺れているのが遠目からも見えた。

その人は、ゆっくり屈みこむと、足元にあった石を両手で持った。その石の手前には、萎れ始めていた花が添えられていた。石の陰で風を避けていた花は、風除けが無くなるとともに突如吹いた強い風に呆気なく吹き飛ばされていった。

その人物は、ゆっくり海の方、崖の端へと歩いていく。

木の陰から出ても、その人は真っ黒だった。全身、黒ずくめの衣装だった。あぁ、よく影に紛れるように隠れていたこいつを探すのは、大変だった。でも、こうやって光の中にいると、すごく目立って、なんて見つけやすいんだろう。

その人は石を持った両手を胸の前まで持ち上げて、そしてそっと手を離した。

石が、重力に引っ張られて崖の下へと落ちてく。ゴロン、ゴロンと崖にぶつかりながら、最後にドポン、と間抜けな水音を立てた。

その人はゆっくり、こちらを振り向いた。

その髪と対照的に白い肌。それが、僅かに赤く染まる。ふわ、と花が咲いたように、幸せそうに、微笑んだ。

全身が、歓喜に震えるこの感覚を、俺は知っている。

俺は飛びつくように、駆け出した。

俺の愛しい人は、控えめながらも待ち受けるように両手を俺に向けてそっと差し出した。

 

「ジューダス!」

 

end.

 


■あとがき

はああああああああい終わりましたダイブ終わりました完結しましたお疲れさまあああああああああああああああああ!!!!!!!!!

ロニジュがいちゃいちゃし始めちゃって 砂はきそうになりながらも 内緒もにやにやしてました。

こいつら軽口たたきあいながらも合間に愛を囁いて、そしてまた照れ隠しに軽口たたいてたらめっちゃかわいいと思います。

決戦前の夜にそのまま押し倒さなかったロニの理性に乾杯。R-18じゃないから仕方ないね。R-18だったら押し倒してたね。決戦前だから自重しようね。クリア後は好きなだけいちゃいちゃするといいよ!

 

いやぁ、長い間お付き合いいただきありがとうございました。めっちゃ楽しかったです。

今後はロニちゃんに愛されすぎてジューダス幸せ!でおねしゃす^p^ ジューダスも完全にデレ期に入って、人前ではツンツン、二人っきりになったらデンレデレーになってりゃいいなと思いますwww

この後、墓石捨てて覚悟決めたジューダスはちゃんとルーティとスタンに会いにいきますよ! そうじゃないとルーティとスタンが墓石捨てた奴は誰だってぶちぎれちゃいますからねw ジューダスに会いに四英雄がクレスタにこっそり集結してクレスタはちょっとした騒動になればいいww なになに?四英雄同窓会??みたいなw でもまぁジューダスのことは隠して頑張るけどね!ジューダスは大事に大事に人目から隠して愛でられればいいよ>< そして四英雄にもみくちゃにされるジューダスを見てロニは幸せに思いながらも僅かな嫉妬を抱いていればいい>w<ブヒヒーwwブヒヒーww

レンズが飛んでいくシーンはまんまカイルとリアラのときと同じことが起きたのだとしてます。フォルトゥナってレンズに人の願いが集って生まれたとかなんとかな設定だったからきっと想いが強ければ神の力だって起こせるに違いない。そういう超常現象ということにしておく。

ロニジュハッピーエンドわーい!! 二人で旅なりパン屋なり隠居なり好きにするがいい! でも四英雄との交流はきっと盛んなんだろうなぁw やっと結ばれた新婚さんだよ! いちゃいちゃしてってね!!

 

ちなみに神の卵突入前の小話 (仮面捨て後)

ルーティに見つからないようにこそこそ合流

カ「あれ、ジューダス……仮面はどうしたの?」

ジ「……」

ナ「なんだい、ロニ。にやにやしちまってさ」

ロ「へっへっへ」

カ「うわ。ロニ、気持ち悪いよ」

ジ「……僕も、一つ選択しただけだ」

ジ「カイル、お前は選んだか」

カ「……うん」

カ「行こう!」

ハ「ふふ、綺麗な顔してるじゃない!あんた!」

ジ「……」(いやそうな顔)

ハ「とてもいい顔してるわ」

ジ「……」(すがすがしそうな感じで少し微笑む)

見事に悟ったハロルドはめちゃくちゃ喜んでいるといい。

 

神倒した後一人ずつ消えていくシーンは、どうどうと待ってるぜ! で終わる感じだと思う。 でもちょっとぶれて、抱き合ったりとかすりゃいいと思うよ//// え、カイルが見てる?しらんな///////

 

ジューダスに仮面とリオンの墓捨てさせるの、めちゃくちゃやりたかったんですよね。

ヒャッハーーーー! 目標達成ダーーーーイ!!!!

書き始めて何年経ってんだって話ですねwwww 最後まで読んでくださった方、本当にありがとうございます! 前のサイトでも、拍手とか感想にとっても励まされて、そのおかげで無事ここまでかけました! 嬉しい!

あとはのんびり気が向いたら清書してNOVELのほうへあげていこうと思います。あげ終わったらブログの方のdiveタグは消しちゃうかなー。

あーコスモスフィア楽しかったなアッー! お粗末さまでした!

Comment

  1. 匿名 より:

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    • 内緒 より:

      キェェェエエアアア!!!!(喜びの奇声)
      コメントありがとうございますぅうううう!!!!! そういっていただけると大変嬉しいです! 感想ありがたいです! その勇気に乾杯・・・! もうどんな文章でもどんなお言葉でも僕は感想すごく嬉しいです! にやにやしちゃいます!
      幸せ後日談・・・! そうおっしゃるのであれば短文にはなりそうですが、今度ちゃちゃっと書いてみます・・・!

      お~D2昨年プレイされたんですね! 古い作品にはまると、二次の少なさがちょっと悲しくなったりしますよね(´・ω・) 私も割りと流行に乗らず遅れて好きになるタイプなので、そのときの寂しさというものに覚えがあります・・・・・・!
      そういう人の為になれるなら・・・! 化石としてこのサイト残していて・・・よかった・・・!!!!!
      こちらこそ、これだけゲームが発売されてから時間が経っているのに、今もまた新しい同士に会えるのは非常に幸せです! ありがとうございます!

  2. 匿名 より:

    このコメントは管理者だけが見ることができます

    • 内緒 より:

      キェェェエエアアア!!!!(喜びの奇声)コメントありがとうございます!
      dive最後まで読んでいただきありがとうございました…っっ!!
      感動話好きな内緒としては「感動した!泣いた!」ってコメントはすっごく嬉しいです////// こちらこそ何年もかけて完結させた小説最後まで読んでいただいて感無量でございます!
      ちょwwwwwww アホエロダイブのお話wwww 大分前のブログのあほ話
      をまさかwwwww覚えている方がいらっしゃるとはwwwwww
      書くとしたら多分僕のwwww変態っぷりがwwww全力で公開処刑されるんですがwwwwむっつりスケベの内緒に書けるかな//////// クリア後、流れ星のように飛んでいったdive仕様レンズを手元に戻さねば……(使命感)
      4,5年前でも、発売からはもうかなり経っちゃってるんですよね……! 時の流れ怖い。 ほんと、D2サイト減ってますよね(´・ω・) 私のブクマ全滅事件まじ悲劇。
      なんと! こちらにはそうやってこられたのですか! 口コミでこっそり広がる感じなんだかすっごく嬉しい//////// ようこそおいでくださいました!
      総愛されって最高ですよね! 私の書くジュダが好きだって言ってもらえると本当に嬉しいです!!! ありがとうございまぁあああああす!!!
      長いコメント大好きです///// ありがとうございます/////

  3. 椿 より:

    このコメントは管理者だけが見ることができます

    • 内緒 より:

      わぁああ! 初めまして!! 久々にD2小説へ感想頂けて感極まっております!
      それも、まさかのアルトネリコ好きの方に見て頂けるなんて~~~っ!!!! わかりますっ! わかります! ダイブシステムマジで最高ですよね! 一人の人物をああも深堀してくれるの、本当に楽しくって素敵で……っ! ありとあらゆるキャラクターにダイブしたい気持ちで一杯ですっ! そんな煩悩に忠実な二次創作でした……っ! 楽しんでいただけて幸いです!
      そうなんですよねぇ……っ! D2サイト様、もうなかなか見かけなくって……っ! ちょくちょく移転してますが、ここのサイトは結構化石レベルで昔からありまして、サイトを2、3年すっぽかして戻ってきたときにD2サイト様のブックマークが全滅してたなんて事件があったりもしました……w
      ToD2はもう大分古い作品になりますが、今も尚、同じジューダス好きの方に出会えて嬉しいです……っ! こんな化石サイトでも残している甲斐があったってものですっ!
      借りているサーバーが死なない限り閉鎖するつもりは今のところ全然ないですっ! 貧乏性なのでっ! へっへっへ>w< 是非また気が向いたときに読みにきてやってください!
      この度は素敵な感想と出会いをありがとうございました!