ハートが夢見る医者 2

OPハートが夢見る医者
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続き! 私の性癖ごりっと積み込まれてるゲヘヘヘヘヘヘ。 可哀想な推しを見て周囲が助けようとしたり気遣ったりする話が好きなんだよぉ!! 推しを可哀想な目にあわせた悪いやつにはそれとなくちゃんとお仕置きしてるから許して★ミ


※7/17追記

清書しました。ブログで書いた落書き1.2の分を合わせてハートが夢見る医者 – 1 としてNovelページにアップしてます。

ハートが夢見る医者 - 1
サウザンドサニー号は海の上で濃い霧に包まれていた。 四方八方を覆う濃霧にナミは顔を顰める。これから敵地に向かうというのにこの霧はまずい。仕切り直すべきではないだろうか。 厳しい状況に歯噛みしながらナミは振り向く。視線の先には同じ...

そんなわけでこっから下はブログに書いた方の落書き↓

 

 

「う……ぐ、ぅ……」

シャンブルズで転移した先で、ローは蹲り唸り声を上げる。体中が痛かった。頭がぐらぐら揺さぶられているようだ。視界が揺れる。気持ち悪い。痛い。嫌な汗が背を伝うのを感じるのに、手足は冷えて凍えそうだった。

「は、あ……」

震える手を見下ろせば、手の甲がじわじわと白に侵食されていくのがわかる。舌打ちしたくも、それをする余力すらなかった。無理に使用した能力による体力消耗が追い討ちをかけている。もう自らを治療する力は残っていなかった。

(あの能力者、最悪だ)

心の中でそう悪態を吐く。

シュガーがそうであったように、能力者が気絶すれば能力によって復元された病も消えるのではないかと思った。だが、変わらず珀鉛が体を蝕む痛みは消えない。肌を侵食する白が、消えない。

敵の能力を受けたとき、ローは全身が痛むのを感じながらも、能力者の情報をある程度掴むべく、あの場で留まることを選んだ。しかし、少し無理が過ぎた。あの能力は病が一番悪化していた状況まで復元するらしい。

三年かけて痛みとともに体を侵食した珀鉛病。その三年の苦痛を短時間に体感する羽目となったのだろう。幼い頃に経験した苦しみを凌駕するそれに、ローの体力も気力も一気に削り取られた。

もっと早く退避を選んでおけば、まだ自身に治療を施す余力があったかもしれない。それでも、これは能力による攻撃だ。最悪、通常の施術では治らない可能性もある。情報のために背に腹は変えられなかった。

ローが転移してきたのはサニー号の小さな倉庫部屋だ。今はその倉庫部屋の片隅に縮こまるようにして伏せている。決して清潔な場所ではない。だが、荷物に挟まれた狭い場所に居られるのは、少しでも身を隠せている気がして僅かに安心できた。

まずは体力を回復させなければ。少し休めば、今の自分ならばあの頃よりは何倍も早く体内の珀鉛を摘出することができるだろう。

そう冷静に考えようと必死になるのは、心の奥底から沸いてくる焦りと恐怖を誤魔化すためだった。

大丈夫だ、大丈夫。問題ない。なんら問題ない。

そう、ローは自分に言い聞かせる。

もしここが、ポーラータング号だったのなら、本当に何の心配もなかっただろう。だが、ここは……麦わらの一味の船の中だ。

(頼むから、ここには来てくれるな)

お人よし集団を憎く思いながら、ローは歪む世界に目を細める。白くなっていく自分の手が視界に入る。ぶれる視界が、その手が幼かった頃の小さく頼りないものに見せた。

違う。違う。そう必死に否定する。おれはもう、あの頃とは違う。病に打ち勝つ術もある。殺そうと向かってくる敵を全て薙ぎ倒す力もある。

……でも、病に蝕まれている今の体では、碌な抵抗ができない。これでは、あの頃と変わらないのではないか。国に、家に攻め入られ、銃弾から逃げ惑うことしかできず、物陰に隠れて震えていたあの頃と、同じではないのか。

ぞくりと、喉が詰まるような焦燥と恐怖が込み上げる。

この肌を見て、あいつらはどう思うだろうか。この病のことを、知っているだろうか。トニー屋なら知っている可能性が高い。それを知ったら、あいつらは、どんな顔でこちらを見てくるだろうか。

ぞくり、ぞくりと、体の奥底から悪寒がこみ上げる。心の芯を冷やすそれは、遠い昔の弱い自分が抱いた恐怖だ。

遠かったはずの記憶が、鮮明に蘇る。

病気の子供を治してくれと頼まれた医者は、最初はみな優しく応対する。だが、顔を伏せていたローの、その白に染まった肌に気付くと、人が変わる。表情を強張らせ、やがて恐怖と憎しみに歪め、何故生きているのだと冷たく責め立ててくる。それまで普通に接していた者が豹変していくそんな様を、ローは幾度も見た。

あの表情を、彼らもするかもしれない。

(嫌だ……)

さっさと体を休めるべきなのに、心の奥底を恐怖が苛む。ざわつく心が落ち着く気配は一向にない。

ローはあの頃のように、胎児のように体を丸め、少しでも露出する肌を隠す。震える体を抱きこむ。畜生、くそ、と現状に苛立ちをぶつける。そうすることで恐怖から目を背けようとする。それでも、病と共に蘇った記憶が、どこまでもローを追い詰める。

焼ける病院。血の海。火薬の匂い。死体の山。何度も見た豹変する医者たちの表情。罵倒。呼び込まれる防護服を着た者たち。向けられる銃口。命乞いの声。無機質に殺害報告を繰り返す声。

その過去の記憶に飲み込まれるように、ローの意識は落ちていった。

 

 

 

 

 

戦いは麦わらの一味の勝利で終わった。

戦闘に戻ったサンジと、フランキーに代わり射撃援護に来たウソップの加勢により、敵は次々に撃退された。敵船の者たちは早々に病を操る能力者の男を置いて船で引き上げていった。サンジがその男だけは逃さぬように心臓と一緒にその体を背に戦ったが故だった。

サニー号は今、霧を何とか抜けた新世界の海を漂っている。敵が引き上げ始めたのを見て、ほとんどの者を甲板から叩き落すと同時に、クー・ド・バーストを使用して一気にその場を脱出したのだ。燃料を使う羽目になったが、航海士が倒れた状態で新世界の霧の中にいる方がリスクは高い。

今は経験豊富なブルックとフランキーが協力して舵をとっている。いつ追っ手がくるかもわからないので、ゾロとルフィは甲板で見張りだ。そして、残りの者はみな医務室にいた。

「ロビンちゃんは、もう大丈夫なのか?」

「えぇ。チョッパーの薬は本当によく効くわ」

「でもロビン、まだ安静にしてないとダメだぞ!」

すかさず言うチョッパーにロビンはふふ、と笑顔を見せる。その顔色は悪くない。まだ少し気だるさは残していそうだが、十分回復を見せていた。

ロビンは医務室の寝台に近寄り、そこに横たわるナミの額にそっと触れる。手から伝わる高い熱に表情を曇らせた。

「熱い、わね……」

「ケスチア熱だからな。二年前に余った抗体を残していて良かったよ。恐ろしい能力者だったな」

チョッパーは自分のデスクでカルテを眺めながら真剣な顔で言う。

「症状は感染してから三日目くらい……病の進行度まで再現しているみたいだ」

チョッパーの隣でナミへと顔を向け、サンジは表情を曇らせた。

「一番重症だったときの状態にされるってことか」

「うん。でも薬はちゃんと効いているみたいだ。よかったよ。悪魔の実の能力って話だったから、薬で治らなかったらどうしようかと思った」

「お疲れさん。チョッパー、お前の体は大丈夫なのか?」

「うん。おれも軽い熱を出しただけだったから。薬も飲んだし、全然大丈夫だ! ずっとドクトリーヌと一緒にいたからな。今まで病気をこじらせたことはなかったし、問題ないよ」

「ふふ。頼もしい船医さんがいて本当によかったわ」

ロビンが微笑む。あの緑の幕が船内に入り込んだとき、ロビンは眩暈から立っていられなくなるほど具合が悪かったのだ。チョッパーも突如の体調不良に一瞬体をふらつかせていた。だが、すぐにチョッパーはポケットから丸い形の薬を取り出し、口の中にポンと入れるとロビンの元へ駆け寄り診察をした。たった一つの丸い薬。それだけで調子を取り戻してみせたのだ。

その後、的確にロビンへと処方された薬は驚くほど瞬時に効果を発揮したのだ。あまりの即効っぷりに少し怖いくらいだった。薬学の研究を続けるチョッパーならではの薬なのだろう。

ロビンの言葉にチョッパーは嬉しそうに「褒められても嬉しくねぇぞ、コノヤロー!」と照れる。

そんな姿に思わず笑うサンジ。ナミの治療は一段落ついたのだと悟り、一息つく。

そして、姿を消した同盟相手のことを思う。チョッパーに相談すべきだろうと口を開きかけたとき、同時に背後のドアが勢いよく開かれた。

「ギャッ」

「チョッパー」

現れたのはルフィだった。小さく悲鳴を上げたのは勢いよく開かれたドアに頭部をぶつけたワズワズの実の能力者だ。彼は今、海楼石の手錠をされ、縄で体をぐるぐる巻きにされている。丁度ドア横の壁にもたれるよう座らされていたがための悲劇だった。酷い衝撃を受けたようだが、今もなお心臓を抜かれたときから意識を取り戻していない。今しがた取り戻しかけていたのが先の衝撃で吹っ飛んだのかもしれないが、誰も気にはしない。視線は突如現れたルフィへと集まった。

ルフィはなにやらそわそわした様子だ。不思議に思うも、サンジは顔をしかめてひとまずルフィを嗜める。

「お前、ナミさんが寝てんだぞ。静かにしろ」

「あっ、悪い!」

慌てて謝ったルフィは、心底申し訳なさそうにしてはいたが、それでも焦りが先立つのか、すぐにチョッパーへと目を向け、自分の用を伝えた。

「なぁ、チョッパー。トラ男も診てやってくれ」

ルフィの表情がやけに真剣で、チョッパーは目を丸くした。

「え? トラ男も体調が悪いのか? どこにいるんだ?」

「おれ、連れてくるよ」

チョッパーの質問に答えもせず、言うだけ言って踵を返そうとするルフィ。あまりに性急なその様に慌ててサンジがルフィの服の裾を掴んだ。

「待て、ルフィ」

「なんだよぉ」

不満そうというよりは不安そうな表情。何をそんなに焦っているのだと困惑しながら、そのまま裾を引っ張ってルフィをドアから離す。

ローに「一人にしてくれ、誰も近づくな」と、異様な剣幕で告げられたことが、サンジは少し気がかりだった。今のルフィは問答無用でローを連れてきそうな勢いだ。あのときのローの様子を唯一知る身としては、少し不安があった。

「おれとチョッパーで様子を見に行く。お前は甲板の見張りに戻れ。ついでに、こいつも甲板にもってって一緒に見張っててくれ」

こいつ、とサンジは頭にたんこぶを作っているワズワズの実の能力者を親指で差す。ルフィは不満そうに顔を歪めた。

「えぇー! おれも一緒に行く」

「だめだ。この状況でまた奇襲かけられたらたまったもんじゃねぇ。チョッパーが治療に専念できるよう、お前は船をしっかり守ってろ」

うぅ、と唸るルフィは納得がいかないのかまだその場を動かない。チョッパーは困惑してルフィとサンジの顔を交互に見る。だがそれもつかの間、彼は己のやるべきことをちゃんと悟り、いつものリュックを背負いながら椅子から降りる。そして、てとてととルフィの足元まで歩み寄り、見上げた。

「ルフィ! おれに任せてくれ」

チョッパーが自身に満ちた顔で言う。チョッパーが医者として見せるその顔を、ルフィはよく見知っていた。彼の医者としての責任感と強き心を十二分に知っていた。ルフィの表情からゆっくりと不安が消える。

「ん、頼んだぞ、チョッパー!」

「おう!」

ニッと笑い、いつもの調子を取り戻したルフィが言う。その信頼が嬉しくて、チョッパーは胸を張って答えた。満足げにそれを聞くと、ルフィは能力者の男の首根っこをガッと掴み、乱暴に男を引きずりながら甲板へと向かった。ゴン、ゴン、と男は床に何度も頭を打ち付けているが、やはりそのことを気にするものは誰もいない。

チョッパーとルフィのやり取りを見て思わず微笑んだ後、サンジはローの居場所を探るべく集中していた。同時に、ルフィが何故あんなにそわそわしながらローのことを言いに来たのか、その理由に行き着く。

気絶しているのか、はっきりとした声は聞こえない。だが、病気による苦しみだけではない……何か不穏な気配を感じられるのだ。

「サンジ、トラ男はどこにいるんだ?」

気配を探っている間にサンジへと歩み寄っていたチョッパー。サンジは不穏な気配を出し続ける存在に少し眉を寄せながら、その場所を答える。

「……倉庫部屋、だな」

「えっ!? なんでそんなところにいるんだ?」

「あいつ、自分で治せるから一人にしろっつって有無を言わさず能力で消えやがったんだよ。ったく、これだからプライドの高いやつは……一人で抱え込みやがって」

心配を苛立ちで隠しながら、サンジはチョッパーを連れて医務室を出た。

 

 

 

(一人にしてくれと言ってはいたが、病人がわざわざこんな清潔感のかけらもない場所に篭らなくてもいいだろうに)

サンジは倉庫部屋の扉を前に心の中でぼやく。閉められた扉をチョッパーがノックするが、返答を待つ前にサンジは扉を開ける。ローがノックに返答できる状態ではないことを、見聞色で予見していたからだ。

扉を開ければ、倉庫特有の薄暗く埃っぽい空気が出迎えた。所狭しと並んだ荷物。それらをざっと見回せば、部屋の奥の荷物、その後ろから黒のコートの端が見えた。チョッパーもそれに気づき、荷物の間を縫って部屋の奥へと向かう。

「トラ男!? 大丈夫か!?」

チョッパーが狭い場所へ体を横にしながら何とか入り込もうとする。サンジはローを隠している荷物の上に上体を乗せ、そこを覗き込むように見下ろす。

倉庫の荷物に挟まれて、体を丸めて伏せているローがそこにいた。相変わらず浅く早い呼吸に背が上下している。顔を伏せているので表情は見えないが、やはり意識はないだろう。

「ったく、何が一人で治せるだ」

サンジはため息を吐く。あの様子だったのだ。まともに自身の治療をできたかも怪しい。能力で飛んですぐ意識を飛ばしたのではなかろうか。

狭い場所に苦心しているチョッパーのために、サンジは何とか荷物を避けて場所を作る。ようやくローの周りにある程度の空間ができ、チョッパーはローの肩をとんとんと叩く。意識が戻る気配はない。診察のためにも、楽な体勢にさせるためにも、チョッパーはローを仰向けにさせるべく、肩をぐい、と引っ張る。ぐらりとこちらを向いたローの頭から帽子が落ち、ようやくその顔がこちらに向けられた。

それと同時に、チョッパーとサンジは息を呑んだ。

「おい、これ……」

露になったローの顔は苦痛に歪んでいる。高い熱が出ているのか、額には汗をかいており、薄く開いた口から漏れる息は熱く、荒い。だが、それらよりも異常なのは……肌だった。

ローの肌に、頬や額に、白い痣のようなものが大きく浮かんでいたのだ。それは首にも、そしてよく見れば袖から覗く手にも侵食していた。肌のほとんどを埋め尽くすその白は、通常の肌色部分こそが痣なのではと見紛うほどにその体を埋め尽くそうとしていた。その異様な光景にサンジはしばらく絶句した。

「チョッパー、なんなんだこれ、大丈夫なのか……?」

「……っ!」

思わずサンジがローへと手を伸ばす。それに気づき、硬直していたチョッパーが弾かれたようにサンジへと振り向く。

「だ、だめだ! サンジ! 離れてくれ!」

「……? チョッパー?」

その異様な剣幕にサンジは困惑する。チョッパーは瞳を震わせながらローの体を蝕む白い痣を見渡し、震える声で言う。

「おれも初めてみるから、確かじゃないけど……もし、そうなら…………これは、伝染力のすごく高い病気なんだ。それも……」

チョッパーはドクドクと高鳴る心臓を押さえるように胸にひづめを当て、呻るように言った。

「治療法の見つかっていない……難病だ」

サンジはわずかに目を見開き、唇を引き結ぶ。治療法が見つかっていない。つまり、それは……。

「感染したら、死ぬ……そう言われてる」

チョッパーの言葉に、サンジは息を呑む。ナミもあと二日放置していれば死んでいたと言われた。そんな彼女を治療してみせたチョッパーでも、ローが今発症している病の治療法を知らない。

「ローは、自分で治せるって言ってたが……」

サンジはローの言葉を思い出して言うが、サンジ自身も、そしてチョッパーの表情からも厳しさが和らぐことはない。

「悪魔の実の力で治せるのかな……でも……」

普段眠っているところに近寄ればすぐに目を覚ますあのローが、ぐったりと倒れたまま硬く目を瞑って荒い息を吐き続けている。

「……とても自力で治療できる状態には見えねぇな」

サンジの背に嫌な汗が流れる。このまま意識を取り戻すことがなかったら、どうなってしまうのだと。

「トラ男の能力は自分の体力を削るらしいんだ。せめてもっと症状を緩和させないと……」

それと、とチョッパーは厳しい表情をして言う。

「さっきも言ったけど、この病の恐ろしさは異常な伝染力の高さにあるんだ。この病気のせいで……国が滅ぶに至ってる。国民が一斉に感染したんだよ」

「……なるほど」

何故ローが一人になりたがっていたのか、近づくサンジを何故あれほどまで過剰に遮ったのか……その理由がこれか、とサンジは納得する。

「急いで対処しないと……」

チョッパーは小さな体でローのコートを脱がしにかかる。場所が狭いので人型になることも適わない。サンジは「手伝おうか」と聞くが、チョッパーは頑なに近寄らないようにと言う。サンジは一先ず倉庫の荷物を整理し、スペースを確保していく。

チョッパーはローの袖をまくり、腕を露出させる。真っ白になった腕は陶器のようだった。その腕へと注射針を刺し、薬を投与する。倉庫にあった毛布をたたんで枕代わりにし、額に氷嚢を置き、脱がせたコートを布団の代わりにかける。そこまでして、チョッパーは一度ローから離れた。

「サンジ、一度部屋を出よう。まず、おれもサンジも消毒からだ」

 

 

 

サンジはチョッパーの指示通り、二人で念入りな消毒を行うこととなった。その後、チョッパーはフランキーを呼び、船内と甲板の消毒液散布を頼む。騒動に気づいたウソップが医務室から出て事情を伺い、事態を知って目を丸くした。

「そりゃ、えれぇことだな。トラ男は大丈夫なのか?」

「わからない……この病気は情報が本当に少ないんだ。トラ男が自身を治療できるだけの余力さえ取り戻すことができたら大丈夫だと思うんだけど……でも、それができなかったら……」

「マジかよ……」

信じられないと目を丸くするウソップ。一時は七武海に名を連ねた男が、まさか過去にそのような難病にかかっていたなんて、想像がつかなかった。

「でも、でもよぉ、ナミと同じように、あいつも一度その病気を完治したから、今まで生きてきたんだろ? きっと、自分で病を治したんだろ? だったら、今回も大丈夫なんじゃ……」

「そうだと思いたいよ。でも、楽観視はできない。それだけ、トラ男の容態は悪く見えるし……それだけ、危険な病気なんだ」

「……」

完全に閉口したウソップは固唾を呑む音だけを響かせる。

「おれもできる限りのことはするつもりだけど……そうだ!」

真剣な顔で床を睨み考え込んでいたチョッパーがバッと顔を上げる。

「なぁ、ペンギンたちに連絡つかねぇかな? 何か知ってるかもしれない。少しでも治療法が、症状を軽減する方法がわかれば!」

長年連れ添った彼の仲間ならば、あの病気について何かわかるかもしれない。チョッパーの表情が少し明るくなる。サンジも自然と下がっていた視線を上げ、頷いた。

「そうだな。ちょっと待ってろ。電伝虫とってくる」

そしてすぐに駆け出す。それを見送って、チョッパーは持っていたメモにさらさらと文字を書き始めた。

「ウソップ、体調を崩しているナミのところに、おれは行けない。悪いけど、ここに書いたものを医務室から取ってきてほしい。ロビンならすぐわかると思う」

「わかった」

ケスチアで倒れたナミは体力を消費している。感染率もそれだけ高くなるだろう。消毒をしてきたとはいえ、彼女の眠る医務室に入るのは憚られる。さらさらとメモを書きながらチョッパーはウソップに言う。

「それと、他のみんなにも、倉庫には絶対来ないようにって言っておいてくれ」

「おう!」

チョッパーが書き終わったメモをウソップに渡すと彼は医務室へ向かって駆け出した。

その背を見送り、チョッパーは動機の激しい胸を押さえる。

ローの病気はかなり進行しているように見える。情報がゼロに近い致死率百パーセントの伝染病を前に、緊張と恐れがチョッパーを襲う。

(それでも、おれにやれることをやらなきゃ……!)

病気の症状を抑えることができなかったとしても、痛みを抑え、体力を回復させることくらいなら手伝えるはずだ。大丈夫。そうすればきっと、彼は自身を治療できるようになる。病に苦しむローの力を頼るのは心苦しいが、今確かに見える希望はこれしかない。

チョッパーは先ほどから、あの病気の……珀鉛病について学んだ記憶を必死に掘り起こしてはいる。だが、思い出したのは、“この病気に関する情報は殆どない”という情報だった。何故なら、この病気は……昔、この病気にかかった人々は……。

「チョッパー!」

物思いにふけていたチョッパーに、サンジが走りよりながら声をかける。電伝虫を持ってきたのだろう。だが、頭を上げたチョッパーの元にたどり着いたサンジの表情は、何故か苦渋に満ちていた。

「これ」

そう言ってサンジが差し出した手の上には予想通りに電伝虫が乗っていた。――だが

「えっ!? どうしたんだ!? お前!」

ぐったりと頭をサンジの手のひらに預けている電伝虫は、目を瞑って小さく震えている。とても健常には見えなかった。

「どうやら、こいつも能力の影響を受けてたみてぇだ」

「……そんな」

電伝虫も生き物だ。体調を崩すことだってある。体調を崩せば、能力を発揮できないのか、電波が悪くなって電伝虫同士の通信ができなくなってしまうのだ。これでは、今先行して敵地にいるペンギンたちに連絡をとることはできない。

「とりあえず、薬を与えてみるよ」

どれ程で電伝虫は回復するだろうか。ハートの海賊団のいる島と距離はそう離れてはいないが、あの距離を繋ぐのに、一体どれほどの体力を必要とするのだろうか。それを回復させるのに、何時間、何日かかるだろう。

ペンギンたちの情報を頼ることは難しいだろう。僅かに見出した希望が砕かれ、チョッパーは眉を下げる。

それでも手は淀みなく動かした。リュックから吸い飲みを取り出し、それに薬液を入れて電伝虫の口へと運ぶ。電伝虫はゆっくりとそれを飲んでいく。力なく薬液を飲む電伝虫をチョッパーは悲しげにそっと撫でた。

吸い飲みの中身が空になり、チョッパーはリュックにそれを戻して小さく頭を振る。自分にできることをやるのだと、さっき決心したばかりではないかと、自分を奮い立たせる。

「仕方ないよ……おれは、おれができる限りのことをする!」

そう声に出すチョッパーを、サンジは温かい眼差しを向け頷いてくれた。それに勇気をもらい、チョッパーはもう一度電伝虫を撫でる。

「お前も、今は自分の体だけ考えてゆっくり休んでろよ」

電伝虫は僅かに重い瞼を上げ、再び目を閉じた。

「チョッパー! とってきたぞー!」

そうしている間に、今度はウソップが戻ってきた。頼まれたものを入れているのだろう、大きな箱を持ち、肩には毛布や点滴スタンドなど乗せている。バランスを今にも崩してしまいそうな姿に、チョッパーは駆け寄って大きな箱を受け取る。

「ありがとう、ウソップ!」

箱の中には薬品類だけではなく顕微鏡などの機材も入っている。これらで少しでも珀鉛病について調べるつもりなのだ。

「チョッパー、電伝虫の様子はおれが見ておく。通話ができそうだったら伝えるから、お前はローの方を頼む」

「うん。頼んだ、サンジ。電伝虫やナミの様子が少しでもおかしかったら直ぐに教えてくれ」

「あぁ、もちろんだ」

「チョッパーあとこれよ!」

ウソップは毛布を肩から下ろす。すると毛布の下に隠れていた黄色い物が露になった。

「パンクハザードでいくつかちょろまかしておいたんだ。いつか使う日が来るかもって思ってよ」

ウソップが持ってきたのは黄色い防護服。パンクハザードでシーザーの部下たちが着ていたものだ。

「治療するつったって、お前まで病気になっちまったんじゃ二進も三進もいかなくなるだろ。これで少しでも伝染を防げたらって思ってな」

「おぉ! でも作業しづらそうだなこれ」

「まぁな。でもあいつらが使ってたのをちょいと改造したから、手はかなり動かしやすくなってるぜ!」

ウソップは実際に黄色い防護服の腕に手を通し、わきわきと動かす。手袋が指にしっかり密着しているのがわかった。

「すげぇー! ありがとう、ウソップ!」

薬での療法がメインのチョッパーであれば、これだけ動けばなんとかなるだろう。

何かにつけて器用に物作りをする仲間を素直に尊敬し、チョッパーはそれを受け取る。

人型にならなければ着ることはできないが、先程サンジが倉庫をだいぶ広くしてくれたから、大きな体となるチョッパーでも問題ないだろう。チョッパーは人型になり防護服を着用する。視界は悪くなるが、思ったよりも動きやすく、チョッパーは再び感心する。

「それじゃ、みんな、よろしくな!」

「おう」

ウソップから受け取った荷物を両手に抱え、チョッパーは再び倉庫へと向かった。

 

 

 

 

 

あちこちから悲鳴が上がっている。命乞いの声が聞こえる。容赦なく撃たれる銃の音が聞こえる。

怖い。

怯えて、恐ろしい音を遮断しようと耳を塞ぎ、縮こまる。それでも容赦なくその音は耳を通じて脳に染み込む。

これは、ローが時々見る夢だ。昔は頻繁に見た。最近では、あまり見なかった。体や精神が追い詰められたときに見やすい、過去の情景に沿った悪夢だ。

夢と知らないローは、過去のあの時と同じく、耳を塞いで涙を零し震えている。銃撃の音と悲鳴が絶え間なく続く。大切な故郷を蹂躙する足音がバタバタと響く。

橋の下に隠れこむまで、ローは彼らに追われていた。防護服を着て銃を持った男たちに。

――感染者、二名、駆除。

あまりに無機質にそう報告されていた両親の遺体。思わず泣き叫び、両親に縋り付いたローを見て、表情のない防護服のマスクはこちらを振り向き、冷たい銃口をローに向けた。

走った。走って、走って走って、できる限り入り組んだ裏路地を走り抜けた。

子供の探究心をそそる狭い道。もう少し小さい頃は、友達と駆け抜けて遊んだりもした。そんな日常の場所に、時々血まみれの遺体が転がっている。それを見つけては小さく悲鳴を上げて立ち止まり、どこかから聞こえるあの無機質な声に怯えてまた駆ける。

見つかったら殺される。見つかったら殺される。

ずっと走り続けていたから、息が切れる。苦しい。喉が張り付いているようだ。体が熱い。痛い。苦しい。

そうして、橋の下へと潜り込み、長く気が狂いそうな時間、みんなが殺される音を聞き続けた。

見つかったら殺される。見つかったら殺される。また追いかけられる。銃口を向けられる。あれにあたったら死ぬ。皆死んだ。そうやって皆死んだ。

彼らには何を言っても無駄だ。命乞いをしても無駄だ。珀鉛病は伝染しないと伝えても、誰も信じない。この病を発症したが最後。もう、人として扱ってはもらえない。ホワイトモンスター。もう、おれはただ駆除されるだけの化け物だ。

痛い。身体中が痛い。

熱い。苦しい。息がし辛い。

この感覚は、知っている。ああ、珀鉛病の発作だ。

じわりと滲む視界がわずかに開ける。体の痛さに身を捩る。目の前に現れた真っ白な手。珀鉛病に侵された自分の手。その奥に見える倉庫と思しき風景。

ぐにゃり。視界が歪む。

ここ、どこだ。

逃げてきたのか?

「う、うぅ……」

痛みに呻く。体を掻き抱く。額を床に擦る。やり過ごしようのない痛みがローを襲い続けている。

「は……ぁ、はあ……あっ、は……」

呼吸が勝手に荒くなる。頭がジーンと痺れるような不思議な感覚。意識を持っていかれそうだ。だが、それを呼び戻す痛みが続く。痛い、痛い。悶える。体勢を変えれば楽になるのではないかと体を何度も捩るが、苦しみは続く。

「うぅ……」

自分の声が薄い膜の向こうから聞こえてくるようだった。

……お……。

……トラ……!。

ふと、自分の呻き声以外の何かが聞こえることに気づく。ぐい、と体が誰かに動かされる。それだけでぐるんと視界が回った。ぐにゃぐにゃと景色が歪む、不確かな視界の中で、目の前の物が何なのか、それを知覚する。

ガスマスクをした、人間。防護服を着た人間。

―― 殺される。

ローの目が、恐慌に見開かれた。

 

 

 

チョッパーは目を丸くして硬直した。一瞬、何が起きたのかわからなかった。壁に叩きつけられた頭と背中が鈍く痛む。何より殴られたらしき頬がじんじんする。そう、殴られたのだ。突然、ローに。

防護服を着て倉庫部屋に戻ったチョッパーは、ローが呻いているのに気づいて慌てて彼の元へと向かった。一度仰向けにしていたはずの彼は再び体を伏せて身を捩っている。酷い苦痛に悶えているのがわかり、鎮痛剤を打つべくその体を仰向けに起こそうとした。

そうして、今に至る。

思考が停止したチョッパーは唖然と目の前のローを見る。

床に手を着き、かろうじて上半身を起こした状態。荒い息にその背を上下させながら、ローはチョッパーを睨んでいた。荒い呼吸と、バランスを保つのが辛い体のため体ごと揺れるその視線はぶれており焦点があっていない。だが、必死にこちらを睨み付けている。

「ト、トラ男……?」

困惑しながら名を呼ぶが、反応はない。代わりに、ずっとぐらついていた上体がとうとう崩れ落ちた。チョッパーは慌ててその体を支えようと再び駆け寄る。だが、ローの体に触れようとすると、ローは大きく腕を振りかぶってチョッパーを遮った。

「トラ男!? どうしたんだ!? 大丈夫だよ、鎮痛剤を打つだけだから!」

その腕を捕らえ、何とか落ち着かせようと声をかけるのだが、ローは荒い息の中に唸り声を混じらせながら必死にチョッパーの手を引き離そうとがむしゃらに腕を暴れさせ、その体を突き飛ばした。

二度による壁への衝突。チョッパーは再び唖然とする。先の動きに、普段ローが戦闘するときに見せる華麗な身のこなしは一切なかった。何をどうすればその戦闘を有利にさせるか、そんな打算など欠片もない。病気で体力が衰えているからなんて問題ではない。ただその身に迫る拘束から逃れることしか考えられていない。冷静さを完全に失くした、怯えて錯乱した幼子のような暴れようだった。

そう認識し、チョッパーは気づく。

そう、ローは、怯えているんだ。

あのローが、怯えている。あの普段は物静かで、それでいてルフィに並ぶ強さを持つ男が。迫りくるチョッパーの腕に怯え、それでもその場から逃げ出すだけの体力もなく、必死に威嚇してきている。

正気じゃないんだ。高熱で幻視を見ているのかもしれない。ローの息の荒さは次第に激しくなり、今にも過呼吸に陥ってしまいそうだ。それでも尚、ローは必死に焦点の合わない目でチョッパーを睨み、動向を探っている。

その瞳に宿るモノを、チョッパーは、知っていた。

――あの頃の自分と、同じだ。

トナカイにも人間にもなれず、誰からも化け物と罵られ攻撃を受け続け、やがて何もかもが信じられなくなった、あのときの自分に。

近づく全ての生き物が、自分を殺そうと攻撃してくる。何の情けも容赦もなく、モンスターと呼び、恐れ、蔑み、銃を向けてくる。痛くて、悲しくて、恐ろしくて、だから攻撃される前に攻撃することで身を守ろうとしていた。そんな、あの頃の自分に。

何もかもが信じられないのだ。自分に差し伸べられる手すらも、首元に突きつけられるナイフに見えるのだ。

「と、トラ男! 落ち着いて!」

今無理に暴れれば、また体力を失う。熱だって上がるだろう。ローの珀鉛病はかなり進んでいるように見えた。これ以上体力を失い、治療する余力を失ってしまえば、本当に命が危うい。

「トラ男、おれだよ、チョッパーだよ!?」

ローがチョッパーを認識できていないことを悟り、そう声をかけるも、聞こえているようには見えない。今チョッパーは防護服を着ているから、顔を視認できなかったはずだ。それが今のローに警戒を抱かせる原因になっているのだろう。

そう、防護服を着ているから。

チョッパーの体が硬直する。防護服を着ているから、今チョッパーの顔をローが見ることはできない。単純にそう考えていた思考が、別の原因へと行き着く。

珀鉛病を一斉発症した国は、どうやって滅びた?

遠い記憶を掘り起こす。危険な伝染病について勉強をしていたとき、この珀鉛病について知った。とても嫌な気持ちになったのを覚えている。珀鉛病によって滅んだ国が、ただ病だけが原因で滅びたのではなかったから。

珀鉛病の発症は、滅びたあの国以外に例はないはずだ。なら、彼は、あの国にいたのではないのか。あの国が滅びたのはいつだった? 病気の情報ばかり気にしていたから、殆ど記憶にない。でも、十年は前だったはずだ。なら、彼は、まだ子供だったはずだ。そんな彼が、後に悲劇と呼ばれるあの惨事の渦中にいたとしたなら……。

「あっ……」

何故、ローがこれほどまでに取り乱すことになったのか。その原因に思い当たり、チョッパーは心臓が握りつぶされたような苦しさを覚えた。彼の過去の傷を、その途方のない深さを察し、その傷を暴き抉っただろう自らの行動に気づいて、息を呑む。

そのとき、倉庫のドアがドンドンと乱暴に叩かれた。

「おい! チョッパー!! どうした!?」

サンジの声だ。騒動に気づいて駆けつけてきたのだろう。すぐにでもドアを開けそうな彼の剣幕にチョッパーは声を荒げる。

「待って!! 入っちゃダメだ!」

今、更にこの場に人が増えれば、ローの恐怖を更に搔き立て収拾が付かなくなるかもしれない。だが、それよりも、もうこれ以上ローを怖がらせたくない。その一心でチョッパーは叫ぶ。

想像どおり、ローは人が増えた気配に気づいたのか更に抵抗し始めた。荷物の壁に追いこめられた状態から何とか逃れようと、狭い空間に立ち塞がるチョッパーを押しのけようとする。自身に危険を与えるかもしれない気配だけは敏感に察知している。それほどまでに恐怖が強いのだ。恐怖による警戒心で、本来自分に害をなさぬものにまで、全てに怯えている。錯乱している。あれほど理性的だった人が。その痛々しさにチョッパーは奥歯を噛む。

チョッパーを押しのけようとした腕の力は、チョッパーが足を少し踏ん張るだけで相殺された。これ以上暴れないようにとチョッパーはローの右腕を取り、腕の中に抱き寄せる。

腕の中の細身が緊張に硬直し、狂ったように暴れ始める。ローは何度もチョッパーの胸を殴った。

痛い。痛い。

打たれた胸とは別の、もっと奥が、痛い。ローの腕が何度体を打とうとも、痛みは鈍い。それだけローの体は弱っていたし、混乱により更に動きを鈍らせている。だが、それだけじゃない。今、チョッパーの身は……分厚い防護服で、守られている。

「……っ!!」

こんなものが、あるからいけないんだ。

チョッパーに、もう伝染への恐れなど欠片もなかった。それよりも、自身が同じように全てに恐怖していたときのことを思い出す。その恐怖が、もう必要ないのだと教えてくれた尊い記憶を思い出す。

自らを治療しようとした恩人を、血塗れになるまで殴ったとき……あの人は、どうした。

チョッパーは防護服のメットを乱暴に脱ぐと同時に投げ捨てる。未だもがき続けるローの体を抑えながら叫ぶ。

「大丈夫、おれは、おれはっ! トラ男を攻撃したりしない!!」

ドス、と胸が叩かれた。痛くない。まだ体は分厚い防護服で庇われている。それが、やるせなかった。チョッパーの腕を剥がそうと必死なローはずっとチョッパーの腕へ視線を落としていた。だが、ふと、ローは顔を上げた。マスク越しではなく、直接視線が合う。それと同時に、チョッパーは声を上げる。

「おれは、医者だ!!」

一瞬、ローの動きが止まった。チョッパーの声が届いたのかは、わからない。丁度、体力の限界を迎えたのかもしれない。次の瞬間には、ふっとローの意識が完全に途絶えたのがわかり、チョッパーは慌ててその頭を腕で庇う。ぜぇぜぇと荒く息を吐き、完全に意識を失ったローの体は酷く熱かった。

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