dive – 4.第二階層

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閉じていた目を開けると、優しい光が入り込んだ。現実世界の砂漠の太陽と違い、肌を焼くような強い日差しはない。

ジューダスはダイブをやりたくないように見えたから、今度こそコスモスフィアに入れないんじゃないかと思ったが、またもダイブには成功したようだ。何故か知らないが、なんだかんだであいつは俺を受け入れてくれている。

さっと辺りを見回し、俺は思わず安堵の笑みを浮かべた。今度は、ちゃんと世界があったのだ。空がある。雲もある。太陽もある。俺は小高い丘にいるようだった。地面には草が生えている。風も感じる。第一階層とは随分と差のある世界だった。

丘からは景色が一望できた。丘の下、正面にはやや田舎っぽいクレスタにとてもよく似た雰囲気の町がある。畑があって、木々があって、人が行き交う姿も遠目から見えた。あぁ、人がいる。生活している。世界がある。すごく、安心した。

ふと、視界の左端に違和感を感じて顔をそちらへ向ける。

「お?」

長大な壁が世界を真っ二つに割るように伸びていた。この丘から辛うじて壁の向こう側が見える。壁の向こうにも、町があるようだ。

壁はこの丘にも続いており、どこから向こう側の町にいけるのかはわからない。それにしても、こちら側の町は緑や光に溢れて明るい印象を受けるが、壁の向こうは随分と暗い印象だ。何でかな、と空を仰いだところで納得がいった。壁の向こう側の空にだけ厚い雲が覆って太陽の光を遮っていた。壁だけでなく空までも雲によって真っ二つに世界を割っているようだった。そして、世界を囲むようにところどころに、第一階層で見た鎖の姿があった。第一階層のように密集しているわけではないが、世界を丸ごと包む様に、地面から空へ向かって伸びているようだ。

「また来たの」

世界の観察をしている俺の頭上から、ずいぶんと失礼な言葉が投げかけられた。

「随分な挨拶だな」

いつの間に現れたのか、この階層でも一番に話しかけてきたのはこの世界の守護者だった。

「丁度良かった、心の護さんよ。聞きたいことがあったんだ」

一旦言葉を区切ってみる。また「答えるつもりはない」って一刀両断されると思ったのだが、意外にも心の護は俺の言葉の続きを待っていた。

「この世界にも鎖があるんだな」

「そうだね」

「これも、俺が来たからか?」

「違うよ。第一階層には君が来るまであの鎖は到達していなかったけれど、第二階層には最初からあるよ」

思わず目をぱちくりさせる。心の護が言っていた言葉に対してではなく、心の護が情報を俺に開示してくれている事実にびっくりした。

「なんだ、なんかお前突然友好的になってねぇか」

「友好的ってわけじゃないよ。別にそんな大した情報じゃないしね」

「そうか?」

やっぱりコイツは主によく似ていると思う。

「あと、最近コスモスフィアで何か変わったことはないか? さっき、現実世界でちょっと嫌な感じがしたっていうか……何故か、現実世界でこっちの世界の鎖の音を聞いた気がしてよ」

「ふぅーん? そんなことあるんだ。まぁ、変わったと言われれば変わったけれど、そんなに大きくは変わってないよ」

「ん、どっちなのかよくわかんねぇ物言いだな。とりあえず変わったんだな?」

「というか、人の心なんて移り変わるのが当然でしょ? 多かれ少なかれ何かしら変わっていくものだよ」

まぁ、それもそうか。だが、あの時感じた異変はそんなことで済まされるようなものなのだろうか

「何が変わったんだ?」

「……ちょっと、鎖が増えたくらいかな」

心の護の言葉に、世界を囲む鎖を見る。その数は決して少ない量じゃない。

「まぁでもさ、鎖は元からあったわけだから。千ある鎖が更に十増えても、そんなに変わらないでしょ」

そう言う心の護の声はどこか憂いを帯びていた。きっとこの鎖はそうやって少しずつ増えてできたのだろう。その度にジューダスはあの表情を浮かべていたのだろうか。心の護がそれを知っているとするならば、その憂いは当然だ。

「この鎖って、よくないもんなのか?」

「良いものか悪いものかは、僕が決められることじゃない。少なくともこの鎖は坊ちゃんの世界の一部だよ」

「俺には、良い物には見えないがな」

「君はアレに邪魔されたからね。でも君が悪であったなら、君を阻む鎖は坊ちゃんにとって善になるね」

「……へー、そういうこと。俺だけを阻む目的ならぶっ壊してやりてぇがな」

「……」

心の護は沈黙した。世界の一部を壊すことの危険性はリアラから聞いている。俺を再び危険視しただろうか。俺の言葉からどんな反応をするかを、ちょっと見てみたかったんだがな。表情も何も無いものだから沈黙されると何とも分かりづらい。

「んーまぁ、でも今回はあの鎖、俺を阻んだりしてこねぇみたいだな」

俺は言外に先ほどの言葉を撤回しつつ、そう言った。事実、この階層では鎖は世界を囲んでいるだけであって、俺の行く手を阻むように生えてきたりはしていない。第一階層ほど密集して歩くのが困難というわけでもない。背景の一部になっているだけで、街の中には鎖は見当たらない。ただ世界を囲んでいるだけだ。つまり、この鎖はただ俺を阻む為だけにあるわけではないってこった。下手に壊すわけにはいかない。

俺の独り言に心の護が何か答える様子はない。またダンマリモードかねぇ。両手を頭の後ろで組んで、俺はひとまず丘を降り、クレスタに良く似た町のほうへと向かった。

木で出来たお粗末なゲートを潜る。やはりクレスタとよく似ている町だ。子供の元気な笑い声がどこからともなく聞こえてくる。クレスタよりは大きくやや発展しているように感じるが、やはり似ている。何となく安心する。

あたりをキョロキョロと見回してみるが、今回の階層でもジューダスの姿は簡単には見つからないようだ。

「やぁ、おかえり」

「ん、おう」

突然あまり見覚えの無いおばあちゃんに声をかけられる。思わず返答したが、おかえりって? まぁ、いいか。

「なぁ、ばあちゃんジューダスを知らないか?」

「ん? はて、知らないねぇ。ロニのお友達かい?」

「……ばあちゃん、俺のこと知ってるのか?」

「まぁ、やだねぇ!ちょっと出て行ってた間に忘れちまったのかい?」

「あ、いや、はは……わりぃわりぃ」

困った。全く知らないぞこんなばあちゃん。苦笑してごまかしている間に遠くから「ばあちゃーん!」と子供の声が聞こえてきた。ばあちゃんはそちらを向いて「はいはい」と返答している。

「パンを焼いていたんだよ。それが焼けたみたいだねぇ。最後の仕上げが終わったら、もっていってあげるよ。あんたんとこの子たちと食べるといいよ」

「お、ありがとよ!」

言われた途端、パンの焼けたいい匂いがしてくる。あぁ、腹にダイレクトアタック。腹の虫が鳴りそうだ。

おばあちゃんは俺に背を向けてゆっくりと自分の家らしき建物に入っていった。頭を掻きながら唖然とそれを見る。俺は、この町の住人に知られている?

どさ! と物音がして振り返る。子供が路地から出てきて思いっきりすっ転んでいるところだった。あ、あの子供は、

「あぁあぁ、そんなに急ぐからだよ。大丈夫かい」

「いってぇー! でも俺平気だよ! 強いもん!」

子供はすぐ立ち上がり、擦りむいた膝をそのままに両腕を腰に当てて反り繰り返った。それを笑ってみているのは赤毛を二つくくりにした女。

「おま、ナナリー!?」

「あぁ、なんだいロニ、帰ってたのかい」

俺の知っているナナリーとなんら変わらない女がそこにいた。俺の知る笑顔で、声で、当たり前のように俺に話しかけてくる。ナナリーと一緒にいる先ほど転んだ子供は現実世界で何度も俺のケツを棒で叩いたホープタウンの腕白ガキんちょだ。

「どういうことだ、なんでナナリーがここにいるんだよ!?」

「は? 何でって、どうしたんだい? なんだい、気分が悪いね、ここにいちゃ悪いのかい?」

「あ、いやそうじゃなくてよ、ホープタウンはどうしたんだよ。ここまで、遠出……? いや、うん?」

自分でも言ってて混乱してきた。ここは現実世界じゃないからホープタウンは存在しない。ここはジューダスの精神世界だ。いや、でもジューダスの精神世界にナナリーが、存在するのか?

「ホープタウンって、どこだい? 壁の向こうにそんなとこがあるのかね? あんた壁の向こう側に行ってたのかい? ロニ」

「え、いや、そうじゃなくて」

「あたしはこの町から出たことなんてないよ? ちょっと、誰と勘違いしてるんだい」

ナナリーの口がへの字に曲がり、不機嫌だと一発で分かる顔をした。やばい、関節技発動までのカウントダウンがこっそり進んでいる顔だ。

「どうせまた、どっかの女たらしこんで聞いた話と混同してんだろ!」

「あぁああ待て!ちょっとタンマ!話をっぉおっおうっ」

止められなかった。

「全く、ちょっと遠出したら遊んでばっかり! あんたには監視が必要かねぇ? 今度から狩りに出るときはあたしもついていくからね! ……いつまで伸びてるんだか。歩けるようになったらさっさと帰っておいでよ」

ひん伸びている俺にナナリーは言いたいことだけ言って歩き去ってしまった。俺はゆっくり上半身を起こす。あぁ、いてぇ。

「プ、クククク」

「……おい、笑ってねぇで説明してくれ」

発光体が心なしか震えてるように見える。すっげぇ腹が立つ。こめかみに青筋を立てたまま俺は心の護を半目で見た。

「何の説明が欲しい?」

「あのナナリーは何なんだ。もしかして、あいつもダイブして……るわけない、よな」

「うん。あれは現実世界のナナリーじゃないよ。この精神世界上にいるナナリー・フレッチだね。坊ちゃんがナナリー・フレッチに抱く印象そのものって感じになるかな」

「はー……そんなこともあるのか」

ジューダスが抱くナナリーへの印象というのは完璧のようだ。関節技しかける前の表情から関節技の痛みまで見事に再現されていた。ジューダスはあの関節技を喰らったことはないはずなのに。素晴らしい観察眼というかなんというか。

「あ。ってことは、ジューダスが思う俺も、ナナリーみたいにこの世界で暮らしてんのか?」

「そうだよ。町の住人の反応から何となくわかったでしょう? でも君がダイブしている間は精神世界のロニはここにはいないよ。君がここにいる限り君がロニだ。そして君がダイブをやめれば、坊ちゃんの印象で作られたロニがここに戻ってくる」

「なんだそりゃ、なんか気味わりぃな」

「そう? 当然の現象だと思うけど。ここは坊ちゃんの心の中だから、現実世界で抱いた印象がそのままに人物となって動いているけど、君はダイブによってここに入り込んでいる当の本人だ。本人が入り込んでしまっているんだから、そんな印象だけの紛い物は存在しようがないってこと」

なーるほど。じゃあどう足掻いてもジューダスにとっての俺という存在には会えないわけだ。そりゃそうだよな。本人を目の前にして自分の頭の中の俺が全てだなんて病的な考えはしねぇか。あーどんなんなんだろうなぁ、この世界の俺は。見てみたかったもんだ。……ナナリーの反応見るに、きっと美女追い掛け回している人間になってるんだろうな。あたってるけど。少し前だったのなら、ひたすらジューダスを敵視している俺がこの世界に巣食っていたのかもしれない。

「つか、ナナリー俺に帰って来いっつってたけど、俺とナナリーは一緒に暮らしてるのか……? 今のホープタウンの暮らしが微妙に影響してんのかな」

呟いてみたが心の護からの返答は無い。とりあえず知っている人間から情報を聞くのが良いだろうと見て、俺はナナリーが歩いていった方へと足を向ける。

「あ」

そこには孤児院と思しき建物があった。デュナミス孤児院よりややみすぼらしい。庭で子供たちが駆けずり回っている。庭には滑り台があり、その影から金髪がぴょこんと飛び出ている。金髪の持ち主を想像する前に、それは滑り台の影から飛び出してきた。

「あ、ロニ! おかえり!」

「カイル!!」

無事だったのか、と久々に見た弟の姿に一瞬安堵するが、ここは現実世界ではないんだったと我に返る。

「ねぇ! 狩りはどうだった!? すごい冒険はできた!? おっきいモンスターとか! 怪獣とかいなかった!? ねぇ! いたら俺にも教えてよ! 俺、そいつ倒して英雄になる!!

あぁ、うん、やや表現が誇大化してるが、すごくカイルらしい様だ。うん、ジューダスの印象あってるあってる。一人こっそり納得する。

「あーなんだ、この辺平和でよ、モンスターに全く出会わなかった」

「そうなんだ。ちぇーつまらないなぁ」

実際、丘からここまでの平原では一切モンスターを見ていない。本当にここは平和な町だ。これを、どう受け取ったらいいんだろうなぁ。

「ところでよ、ジューダスを知らないか?」

相変わらず見当たらない存在をカイルに聞く。あいつも、この町のどこかに居るのだろうか。また木の陰にこっそり隠れてたりすんのかねぇ。

そんな呑気な考えが、カイルの言葉で吹っ飛んだ。

「ジューダスって誰?」

カイルは首を傾げて俺を見上げていた。思わず絶句する。

「……誰って、ジューダスだよ。お前が名付けたんだろうが」

「へ? 何かと勘違いしてるのかなロニ。俺孤児院の動物の名前はちゃんと覚えてるよ! ヤギのギーコでしょ、ハムスターの」

ぼそぼそと動物の名前を連呼するカイル。どうも、この世界のカイルは本当にジューダスのことを知らないようだ。どういうことだ、この世界の人物というのはジューダスの印象から成り立っているんじゃなかったのか。いくらカイルといえども人の名前をすぐ忘れるような奴じゃない。そもそも、この世界のカイルはジューダスと出会ってないってことになっているのか?

少なくとも、現実世界の人物の印象がそのまま作られた世界ではない。何かしら思いや気持ちによって捻じ曲げられた世界なんだろう。

だとしたら、これはどういう思いで作られているんだ? ……あいつは、俺たちと同行したことに後悔しているのだろうか。

「カイル、お前と同じくらいの歳で、背もお前と同じくらい、黒髪で黒い服着てて、骨の仮面を被った男がジューダスって言うんだ。俺の……」

俺の、なんて言ったらいいんだろう。カイルとリアラと全員ひっくるめて旅の仲間なんだと、そうずっと認識していたから、改めて二人だけの関係で“仲間”というのが、どことなく気恥ずかしくて言葉に詰まった。でも、俺はもうあいつを認めているんだ。

「俺の仲間なんだ」

「なにそれ仮面つけてるとかカッコイイ!」

「あー……知らねぇ、んだな」

「うん。そんな人この町にはいないよ?」

「そうか」

「ロニ! 帰ってたのね」

孤児院の中から聞きなれた声がかかる。俺は目を丸めた。

「ルーティさんまで……」

「おかえり。疲れたでしょ。付近の警備お疲れ様」

そこにいたのは俺の義理の母親、ルーティ・カトレットその人だった。相変わらず年を感じさせない美しさを……あれ、なんかちょっといつもより綺麗というか……若い?

てか、何でルーティさんがこの世界にいるのだろうか。あいつ、知ってるのか、ルーティさんのこと。孤児院を経営していることまでも。……まぁ、有名な話ではあるもんな。だとしたら、俺が孤児院出身だってこともあいつに直接言ったことはないが、既に勘付いているのかもしれねぇ。まぁ別に気にしちゃいねぇけど。

しかし、付近の警備、か。ナナリーやカイルが狩りと言っていたところを見るに、町の近辺にモンスターがいたら人が襲われる前に狩るのが俺の仕事だったみたいだ。

「あぁ、帰りました。この辺は平和でしたよ」

「そう。ご飯の支度ができているわよ。さ! みんな遊んでないで戻ってきて手を洗いなさい!」

「は~い!」

庭で遊んでいた子供たちがパタパタと孤児院に入っていく。

「やったー! 今日のご飯は何かな! ロニ! 楽しみだね!」

当たり前のように、俺は知っているようで知らない不思議な孤児院へと受け入れられた。中に入るとキッチンではナナリーも一緒になって料理をしていた。一緒に食卓を囲む子供たちの中には俺の知らない奴が結構いる。一方で現実世界ではホープタウンに住んでいるはずの子供たちがいる。デュナミス孤児院にいた子供はあまり見当たらない。似たような奴はいるが、性格が全く違ったりした。面白いもんだな。

食事はくだらない雑談で穏やかに進められた。飯は上手い。あのおばあちゃんが持ってきてくれたらしきパンとスープが並んでいる。スープの味付けはナナリーのようだ。ルーティさん特有のご飯にありつけなかったのが残念だ。

「ルーティさん! ロニったら警備の仕事サボってまた女引っ掛けまわしてたみたいなんだよ!」

「ンゴッ………ぎゅっ」

味わっていたスープを思わず噴出しそうになったのはナナリーからの思わぬ暴露のせいだ。貴重な飯だ。無理やり飲み込んだせいで喉から変な音がでた。

「いや、それはちげぇって!」

「あはは! 何、ロニまたやってるの! で~? 今度はどんな振られ方したわけ!」

ルーティさんが笑い、そのまま乗ってくる。にやりとあげられた口の端には意地悪という言葉が似合う。

「ひぃ、や、やめてくださいよルーティさん」

「でもさ、正直ちょっと心配だよ……あんた、壁の向こうに行ったんじゃないよね?」

ふと、ナナリーの声が真剣味を帯びる。「えっ」とルーティさんが小さく声を上げた。

「そうなの? ロニ」

何だろう、咎めるような空気がそこにはあった。壁の向こうとは、あの雲に覆われた薄暗い印象の町の方だろうが、何かよくない場所なのだろうか

「いや、行ってないですよ。こいつの勘違いですって」

「でもアンタ知らない町の名前を言ってたじゃないか。それってイン側にある町の名前なんじゃないのかい? ヨウにそんな町はないよ」

ナナリーの話から全く知らない単語が出てきた。なんだ、イン側? ヨウ? とりあえず、ホープタウンという町はこのあたりの人間は知らないようだ。そもそもこの町の名前すら俺はわからないんだが。

「いや……その……通りすがりの人に聞いた町の名前で」

何とか無理やり話を合わせようとしてみる。誰かこの世界の作りだとか説明してくれよ。あとで心の護に聞いたら答えてくれるだろうか。

「ふぅん……通りすがりねぇ。もしかしてインの人間だったのかな?」

「えぇ、インの人間がヨウに来るかねぇ?」

インとかヨウってのは、国か?

「ごちそうさまー!」

カイルが手を合わせて陽気に告げた言葉で、一連の話は遮られた。

この孤児院にもちゃんと俺の部屋は用意されていた。とはいっても、カイルとの相部屋だが。昔に戻ったようだ。カイルはようやく一人部屋をもてたと喜んでいたのにな。

カイルは子供たちが眠くなるまで遊んでやっているから部屋にはいない。俺も一緒に行くべきなのだろうが、ちょっと疲れている、と無理を言って先に部屋に戻ってきた。

「説明をくれよ心の護さん。さすがに大変なんだって」

「大変なら帰ってもいいんだよ?」

漸く一人になれたところで心の護に話しかける。そういやこいつ、周りの人間から見えていないのだろうか。こいつに干渉する人間を見たことが無いから俺にだけ見えるものだと勝手に認識して人前で話しかけることを避けていた。

「帰らねぇって、そういやお前って他の人間には見えないのか?」

「悪くない観察眼だね」

やっぱりか。よかった。人前で話しかけたりしなくて。

「そっか。とりあえずなんだが、インとかヨウって何なんだ?」

「気づいていると思うけど、この世界はあの壁を境に真っ二つに分かれているんだよ。で、君が今居るこちら側がヨウで、あっち側がインって呼ばれてるね」

「なるほどね。ナナリーたちの様子を見るに、インとヨウはあんまり交流が無いみたいだな」

「そのようだね」

「で、ジューダスはインの方にいるのか?」

「それは自分の目で確かめてみなよ」

ちぇっ、素直に答えてくれてた流れでジューダスの居場所も聞けると思ったのに相変わらず冷たい奴だ。だが、心のどこかで俺はジューダスがイン側にいるのだと確信していた。何でなんだろうな。強い日差しの中、それを避けるように木の陰に紛れる姿を思い出すんだ。

明日はイン側に行って見よう。そう思って部屋の明かりを消し、目を閉じた。眠気は中々こない。暫くして、誰かが部屋に入ってきた。カイルだろう。布団をごそごそと動かす音が聞こえる。やがてそれも静まったとき、再び部屋の扉が開かれた。今度は誰だ?

「おはよう、ロニ」

「え?」

目を開け、上体を起こすと先ほどまで真っ暗だった部屋はカーテンの間から差し込む光で明るくなっていた。ベッドの前に立っているのはルーティさんだ。ルーティさんは窓へ寄るとカーテンを何かを握った両手で思いっきり開けた。眩しい。朝?

「カイルー! 起きなさい! 朝よ!」

寝た覚えが全くしないんだが……精神世界だから、だろうか。

暫くして、フライパンとおたまが打ち鳴らす轟音が響いた。

朝食にも当たり前のようにナナリーの姿があった。やはりこの孤児院に住んでいるようだ。昨日(?)の夜と同じように談笑交じりに食卓を囲む。やがて話は俺の今日の仕事へと向いた。どの仕事をしてもらおうか、そんな話が出始めて俺は慌てて話を遮る。

「あの、すみません。俺、今日はやらないといけないことがあって」

「ん? 何?」

「人を探しているんです。ルーティさんは知りませんか?」

カイルに言った様に、再びジューダスの容姿を上げてみた。あんな目立つ格好をしているのだ。この辺に居ればわかるはず。だが、やはりルーティさん、そしてナナリーもそんな怪しい男は知らないと言う。

「俺、そいつを探さないといけなくて、多分、インにいるんじゃないかと思うんです。だから、行こうと思って」

「ちょっと待って、その人、危ない人なんじゃないでしょうね」

「違います! 俺の仲間です。探さねぇと」

容姿の怪しさからか、ルーティさんの表情が曇る。

「そう……別に行っても構わないけど、気をつけなさいね? インは治安が悪いのよ」

「そうなんですか」

「スリとかは当たり前って聞くわ。よーく気をつけること! 甘い話には絶対乗らないこと!」

インに行くこと自体は簡単に許可をもらったが、その後ルーティさんから驚くほど長く注意を受けた。能天気でどんくさいカイルに対して行うような徹底振りの注意だった。俺はカイルという比較対象があるからか、割としっかりしている方だと見られ、ここまでめちゃくちゃ注意を受けたことはないかもしれない。

何だろう、それだけインというのは危ない場所だと知れ渡っているのだろうか。アイグレッテも裏路地を行けば貧民層のたまり場となった治安の悪い場所があったりする。そういう雰囲気の場所なのかもしれないな。

だとしたら、俺はそういう世界を知っているのだから、ここまで懇々と注意をしなくてもいいんだけどなぁ。

心配は愛情だが、口煩いなぁと思わずにはいられなかった。俺は苦笑いしながらルーティさんの話を最後まで聞いた。

ナナリーやルーティさんに教えられた方へと歩いていく。目指す先はイン側への唯一の通り道である門だ。

相変わらずこのヨウと呼ばれるところは日光が暖かく人々は活気に満ちている。若干の田舎臭さのある陽気なところだ。至る所で住人同士が仲良さ気に会話をしている。あ、昨日出会った知らないおばあちゃんだ。右手にはパンを入れた籠を持っている。配っているのか、物々交換かもしれない。懐かしいな。よくルーティさんに頼まれてヤギのミルクや畑の野菜を交換しに行ったりしたものだ。

アイグレッテなどの都会ならではの喧騒は時に大きな闇を生む。そんなものとはかけ離れたこの町は、ほんと、居心地がいい。

「お、あれか」

町を眺めながら歩いている間に、壁はどんどんと迫っていた。大きな壁だ。その壁の大きさから見ると門は小さかった。数人係で歯車回して開ける大掛かりな門を予想していたのだが、人一人でも開けられそうな大きさだった。

縦は3メートルぐらいだろうか。横幅は1.5メートルくらい。錆び付いた外見から長く使われていなかったことが窺い知れる。錆びのせいで開かなくなっていたりしないだろうか。

門の周辺には家屋が一切なく、人通りも皆無だった。門を前にして、なんだか怖気づきそうだった。インと呼ばれる町の治安を危惧しているわけじゃない。この門が何だか、入ってくるなと訴えかけてくるような……漠然と拒絶を感じる。あいつと関わるとこういう雰囲気によく出くわす。

ふぅ、と息を一つ吐いて俺は門に手を伸ばした。ぐ、と掌に力を入れれば思いの外、門は簡単に開いた。ギィギィと軋む音がする。

ゾワッ、と背筋に嫌なものが走った。門の向こうから冷気が入り込んできた。昔オベロン社製の機械で食べ物を冷やし長時間保存することのできる箱があったが、それを開いたときのような感じだった。

一歩、門の向こう側へと踏み出す。やはり寒い。足の先から体へと冷気が上ってくる。完全にイン側へと入り込み、門を支えていた腕を離す。門はまたギギギと軋みながら大きな音を立てて閉じられた。

寒い。雪が降るまでとはいかないが、ヨウ側がポカポカ陽気だっただけあって、この寒さは辛い。主に俺の格好のせいだけど。剥き出しの肩を摩って温めながらとりあえず町を歩く。やはりイン側も門の周辺にはあまり家屋が無いようだ。

ヨウ側が割と田舎っぽかったのに比べ、イン側は随分と大きな町の様だ。奥の方に城らしき建物まで見える。人の数はそこそこ多いが、ヨウ側の町のように足を止めて談笑している姿は見かけない。ただただ人がすれ違っていくのみだった。

土の道だったヨウに比べ、こっちは石畳の道が敷かれている。アイグレッテよりも大きい、遠い記憶の中にある崩壊前のダリルシェイドを連想させた。雲のせいで薄暗い雰囲気は現代のダリルシェイドっぽいが。

今歩いている場所は大通りになるのだろうか。行き交う人の中にジューダスの姿はない。ふと、左を見たら家屋の立ち並ぶ奥のほうに、カイルよりも小さい子供が座り込んでいるのが見えた。

何となく気になって、俺は大通りから逸れて家屋の間の狭い道へと入り込む。子供の元へ向かって奥に進むほど、ボロボロの家が立ち並び、道端には物乞いのようなボロボロのおっさんが座っていた。ドロっとした目がこちらを見て、思わず視線をそらす。

そのおっさんの近くに、子供は座り込んでいた。服はおっさん同様ボロボロで靴を履いていない。

「なぁ坊主、少し聞きたいことがあるんだけど、いいか?」

俯いていた子供が気だるげに頭を上げて俺を見る。

「……兄ちゃん、もしかしてヨウから来たの?」

「あ? わかんのか?」

子供はくすっと笑って頷いた後「何?」と続ける。

話しかける前は俯きぐったりと座り込んでいたから暗そうなやつだと思っていた。以外にも人懐っこい笑顔を向けられて少し安堵する。

「ジューダスってやつ知らないか? お前よりちょっと年上くらいの、黒髪で紫と青が混じったような目をしてて、多分黒い服を着て骨の仮面をかぶってる怪しい奴」

「知らないなぁ。すごく面白い恰好をしてる人なんだね」

子供の反応に俺は苦笑して適当に相槌を打った。

「兄ちゃん、しばらくここら辺にいる?」

「あ? どうした?」

「僕はその人知らないけど、色んなこと知ってる友達がいるんだ。その人なら知ってるかもしれない。聞いてきてあげるよ。この辺にいて」

「まじか。サンキュ!」

子供はにこっと笑って裸足のまま入り組んだ路地裏をペタペタと走り去っていった。やはり子供は子供か。元気なものだ。インに来てからずっと寒かった体がやや温まる思いがした。

子供と出会った場所から離れすぎないように適当に歩き、そこらへんに座り込んでいる住人や、一度大通りに戻って道行く人にジューダスを知らないかと聞いて回った。

だが誰もが知らないと答えるか無視だった。大通りを歩く人間の殆どは聞く耳を持たないことが多い。みんな忙しいのかねぇ。自然と裏路地に戻り、そこらへんに座り込んでいる人間を見つけては聞いていたのだが、やはり良い答えは得られない。

こりゃ、何もない砂漠の世界より難儀だ。

この辺の座り込んでいる人間にはあらかた聞き終えてしまった。あの子供はいつ戻ってくるのだろうか、と困ったところであのペチペチという足音が帰ってきた。

「兄ちゃん! 良かった。まだいたね!」

子供は俺の顔を見たと同時ににこっと笑った。そして俺からは死角となっている方へ、「この人だよ」と話しかけている。

やがて子供の後を追って一人の男が現れた。友達と言っていたから、やや歳の離れた兄貴分か何かが出てくるのかと思ったのだが、現れたのはおっさんと呼んで良さげな年齢の男だった。しかも、子供に比べ身なりは悪くない。

「あぁ、君かね。ジューダス君を探しているというのは」

おっさんは人の良さそうな笑顔を向けてきた。“ジューダス君”という呼び方に物凄い違和感を感じる。

「……ジューダスを知っているんですか?」

「えぇ、えぇ、もちろん。ジューダス君に会いにわざわざヨウからいらしたのかね?」

「あぁ……」

おっさんは、自分はジューダスの身内だと言わんかのような態度だ。どういう関係なんだろうか。

「あの、俺はロニ・デュナミスっていいます。あなたは?」

「私はボサト・キーニです。ロニ君はジューダス君のお友達ですかね?」

「まぁそんなところです」

「いやぁ、遠くから来てくれるなんて嬉しいもんです。さぁ、案内しますよ」

にこっと笑って、ボサトと名乗った男は俺に背を向け路地裏を進んでいく。子供が「兄ちゃんばいばい」と手を振ったので手を振りかえしてボサトさんの後を追う。

しかし、違和感が拭えない。……あぁ、わかった。結構長い付き合いだけれど、ジューダスの知り合いの話を一度も聞いたことがない。俺たちについてきて大丈夫なのかと聞いたときも、家族はいないと言っていたから、勝手に孤独な少年という印象を持っていた。

こうして精神世界に知り合いを名乗る男がいるのだから、本当はそんなことないのだろうか? この男は、ジューダスについて何か知っているのだろうか。

ボサトさんはどんどんと大通りから離れ、入り組んだ道を進んでいく。人の気配がなくなっていく。こういう裏通りって、あぶねぇんだよな……。

――甘い話には絶対乗らないこと!

今朝ルーティさんから言われた言葉が頭を過ると同時に背後に気配を感じた。

バチッ

背中に何かが触れ、衝撃が走った。視界が、黒く塗りつぶされた。

 

 

 

冷たい。体全身に冷えを感じる。何かひんやりとしたものを背中一面に当てられている。

「え?」

何が起きた? 俺は、なんでこんなところに寝ている? 体中が痛い。頭も痛い。そう感じるのは、冷たい石の床に何も引かずにそのまま仰向けに寝転がされていたからだ。

ゆっくり上体を起こす。目の前に信じられない光景があった。思わずそれを握る。ガシャン、と音がなった。動かないものかと持ち上げようとしてみたり、引っ張ったり、押したりしても動かない。

鉄格子だ。……俺は今、牢屋の中にいる。現実世界のダリルシェイドで捕まったのとは違う、正真正銘の牢屋だ。何が起きた? 意味がわからない。ボサトとかいうやつはどこへいった? ジューダスの元へ連れて行ってくれるという話は? 俺は、騙されたのか? 何のために? 何故?

身包みを剥がされたわけではない。というか金目のものは最初から一切持っていない。俺を捕まえて何の得になる? 俺はこの世界のこと何も知らないっていうのに。そういえば心の護の姿が見えない。あいつ一人で逃げやがったのか?

何も考えがまとまらない。どれだけ思考しても一向に答えが見つからない。それだけ、置かれた現状が唐突で意味不明なものだった。

カツカツ、と威圧的な靴音が聞こえてくる。一人じゃない。誰か来る。

俺の前に現れたのは全く知らない男二人と、見張りの兵士らしき男だった。鉄格子の向こうで俺の前に立ち、冷たい目で俺を見下ろすその二人に、俺は食って掛かるように叫んだ。

「おい、俺をここに入れたのはあんたらか!? なんなんだよ、なんでこんな!」

「こいつが将軍を殺害したというのか」

「間違いございません」

は?

理解不能な現状に興奮する俺とは正反対に、目の前の男たちの声は冷たい。男の一人は手に持った紙をじっと見つめている。もう一方はその男を一度見たあと俺をまた冷たい目で見下ろした。俺は二人がした会話の意味を二度、三度頭の中で繰り返して戸惑いを強くした。

俺が、将軍を、殺した?

「たんま。あんた何言ってるんだ? ちょっと、説明してくれ。意味がわからねぇ!」

「白を切るな。貴様、何が目的だ。誰に頼まれた? お前ひとりの判断か」

「何がだよ!?」

「なぜ将軍を殺害した。動機はなんだ。誰の差し金だ」

「将軍……? 殺害!? はぁ!? してねぇよ!」

嫌な汗が首筋を伝う。思わず場にそぐわぬ笑みを口の端に浮かべてしまうくらいに、狂った状況だった。いっそ滑稽なほどの濡れ衣だ。俺はその将軍とやらの名前や姿すらわからないというのに。それでも、それでも目の前の男たちは俺がその将軍とやらを殺したのだと信じて疑っていない。

「まぁ、そう簡単には吐きませんよね」

「苦労をかけるな」

「それが私の仕事ですので」

目の前の男二人は俺を無視して話を勝手に進めている。俺の言葉に耳を傾けやしない。俺の疑問に答えてくれやしない。あいつらはあいつらが望む言葉しか俺に求めていない。それ以外の言葉は何も許されていない。俺は唖然とそいつらのやりとりを見ていることしかできなかった。あまりにも理不尽な状況が過ぎていくのを、ただ見ていることしかできない。

「では、私は準備をして参ります」

「どれくらい時間がかかりそうだ?」

「丁度機器をメンテナンスに出していたものですから、返ってくるのが1時間後の予定となっております。始めることができれば、精神が貧弱そうな男ですし、30分もあれば知っていることは全部吐くのではないかと」

「そうか。かの将軍が殺害されたのだ。誰もが報告を待っている。できる限り急げ」

「畏まりました。では失礼ながらお先に準備しに参っても?」

「構わん。行け」

なんだ、何の話だ? こいつらは何をしようと……

男の一人が立ち去っていくのを見ていたら、突如目の前の鉄格子を力強く蹴られる。けたたましい音が牢屋に響いた。

「1時間半後だ。貴様を拷問にかける」

男の言葉に頭が真っ白になった。

「レンズの力で電流を貴様の体に流す。想像できるか? 体に電流が走る痛みというのはどんなものなのだろうな。普通の人間は体験しないからな。私は醜いから見たことがないが、それはもう汚い声を上げて泣き叫ぶそうだ。口が動く内に全て吐けば楽に死ねるぞ」

それだけ言って、残った男もまた去って行った。あとは少し立ち位置を変えて見張りの兵士が残っただけだ。

拷問、電流……楽に、死ねる? 吐ける情報など一切ないが、もしあったとしても楽に死ねるだけだってことか。つまりこのままだと俺の未来は苦しんで死ぬ以外にありえねぇと?

ひでぇよ、そんなの、いくらなんでもあんまりだろ!

理不尽すぎる状況に再び脳が沸騰し、怒りのままに俺は喚き散らした。

「おい! おい! 聞こえてんだろ! 状況を説明しろ! 俺にはさっぱり何があったかわからねぇんだぞ! なんで俺は将軍だか誰だか知らねぇやつを殺したことになってるんだ!」

鉄格子を思い切り揺らして叫んでみても、見張りの兵士はこちらに視線を向けることもしない。おいおい、ふざけんなよ……。

いや、落ち着け俺。ここはコスモスフィアだ……。現実じゃない。……このままもし拷問とやらがあったとして、……俺はどうなるんだ? 大丈夫なのか?

牢屋の壁を思いっきり殴ってみる。力を入れた分だけ拳は痛んだ。痛覚はある。……冗談じゃない。現実では無傷だとしても、痛い思いをするのはごめんだ。

一体何なんだ。ジューダスに合うことも叶わず、なんでこんな事態に陥った? これは、ジューダスが望んだことなのか? 第一階層では、あいつは俺を攻撃してこなかった。深い階層に進んだことで、傷つけたくない思いよりも排除したい気持ちが上回っているのか? だから、こんなことに? だとしたら、なんでこんな事態になっているんだ? 本人が表れて剣でぶった切った方がわかりやすいだろ。この事態は何を表している?

冷たい石の地面を睨んで思考するも、何もわからない。ただただ冷たい冷気が体の芯を冷やしていくばかりだった。

「何をしているんだ、お前は」

思考の底に沈んでいた意識が、聞きなれた声に浮上する。バッと顔を上げたら、思った通りの人物、ジューダスが鉄格子の向こうにいた。

「ジュ」

驚きのままに名を叫ぼうとしたら、鉄格子の間から腕が伸びてきて俺の口を思いっきり塞いだ。

「大きな声を出すな」

俺は目を丸々と開きながらジューダスの手の感触を感じていた。数秒後、あぁ、こいつはこの場所に忍び込んでいるのか、と納得する。そっと俺の口からジューダスの手が離れた。

「わ、わりぃ……お前、なんでここに」

「それはこっちのセリフだ。なんでインに来ている」

ゆっくりと腕を鉄格子の間から引き抜きながらジューダスは俺に怪訝な目を向ける。

この全く未知の世界で、ようやく俺の知る人が目の前にいる。まともに会話ができる。そのことに、心なしか俺は安堵した。同時に、どっと疲れた押し寄せるような感覚が沸く。深く息を吐きながら俺は答えた。

「お前を探してたんだよ」

仮面の奥でジューダスが訝しげな顔をする。

「……? なんでだ……いや、いい。お前は時々よくわからない理由で突っ走る奴だった」

「どういう認識してくれてんの……」

「だが、バカにも程があるぞ。ヨウの人間がインに来るなど。……生きる世界が違う」

最初は呆れを見せていたが、途中からジューダスは真剣に俺を見つめて咎めていた。

「どういう意味だよ」

「こんな目に合っているというのに、わからないのか? そんな能天気な有様だからお前は都合のいい身代わりとして牢屋に入れられているんだぞ」

ジューダスは目を細めて冷やかに告げた。そう言われても、まだわからない。何で俺は牢屋に入れられたんだ。その疑問を口にする前にジューダスが口を開く。

「お前はハメられたんだ。どこでドジを踏んだのか知らないが、お前は将軍の遺体の横で凶器を右手に握りしめて倒れていたそうだぞ?」

「なっ……」

漸く将軍殺しの疑いがかかったわけを知った。俺は、路地裏で意識を失った。だとしたらハメたのはあのボサトと名乗ったおっさんだ。何をどうやったかは知らないが、俺が意識を失っている間にご丁寧に殺害現場まで俺を運び放置したのだろう。そして、俺は遺体と共に発見されて牢屋にぶち込まれたと……。

「ヨウの人間なんだ。カモにされたんだろう」

ジューダスは冷たくそう言い放った。

おいおい、ちょっと壁を挟んだ向こう側から来たからって、それだけでこんな、こんな汚い罠に嵌められるようなこと、あってたまるかよ。異常だろ、こんなの! なんだって見ず知らずの人間に殺人容疑をかけて不名誉のまま死なせるようなことができるってんだ!?

怒りがぶわっと湧き起こる。あのおっさん、見つけ出して一発ぶん殴ってやりたい! ……いや、待て。ここは現実世界じゃない。落ち着け……。ここは、ここはジューダスの精神世界だ。

「ジューダス、お前こんなところで何をしているんだ?」

俺はジューダスの後ろを見る。未だに見張りの兵士は立ち位置を変えずにその場に立っている。囚人である俺に堂々と話しかけている怪しい仮面の男を咎めないし誰かを呼びに行く様子もない。人形のようにただそこに突っ立っていた。

「あいつなら大丈夫だ」

俺の視線を辿ったジューダスが言う。

「大丈夫って……」

「買収したからな」

「へ?」

ジューダスは鉄格子の扉となるだろう部分に手を伸ばした。カチカチと音が鳴り、やがてカシャンと何かが降りる音がした。ジューダスが鉄格子から手を放す。その右手には鍵が握られていた。

「何をぼうっとしているんだ。さっさと出ろ。電気椅子にかけられたいのか?」

俺は鉄格子の扉にそっと触れる。びくともしなかった鉄格子が小さく開いた。あっけなく開いた鉄格子とジューダスを交互に見て、トクトク、と心臓が早まる。

「お前、助けに来てくれたのか?」

「勘違いするな。お前が逃げればこちらにとって都合がいい。ただそれだけのことだ。運が良かったな」

こちらにとっての都合? 思わぬ言葉に眉を寄せる。それはつまり、俺をハメたやつらの敵対勢力側にこいつはいるってことか? こいつは、このインと呼ばれる側の世界で、そうやって暮らしているのか? この、人間のあまりに欲深い陰謀が蔓延る中で?

「おい、ボサっとするな。いつ誰が来るかわからないんだぞ」

「あ、あぁ……」

ジューダスに急かされ、ひとまず俺は牢屋を出た。ジューダスは「こっちだ」と短く言って歩き出す。それについていきながら、ひたすらこの世界のことを考えた。

インとヨウと呼ばれる二つの世界。ヨウというクレスタに近い暖かな町に住む俺たちやカイル。一方、インと呼ばれる世界で何らかの陰謀が蔓延る世界の中を生きている様子のジューダス。カイル達は、ジューダスのことを知らなかった。生きる世界が違うという言葉。壁を隔てて、真っ二つに分かれた世界。俺を襲った陰謀。自分に都合がいいからと言っていたが、助けてくれたジューダス。

最初、こんな状況に陥ったのはこれ以上ダイブするなとか、そういう警告か何かかと思った。でも、ジューダスは助けてくれた。

「ここから出ろ」

ジューダスが足を止めた。そこには人ひとりが入れそうな大きな排水溝があった。

「地下水道に繋がっている。そこから町外れに出られる。あとは壁に沿って門のところまで行って、さっさとヨウへ帰れ。二度とこっちには来るな。ここがどういう世界なのか、十分わかっただろう? お前たちの知る世界とは、違うんだ」

ジューダスは突き放すようにそう言った。胸がもやっとする。同時に、何かが掴めそうな、引っ掛かりを感じた。知りたかった答えが霧の向こうに影として現れたような気分だ。

「お前はどうするんだ?」

「やることがある」

「何を?」

「お前には関係ない」

にべもなくジューダスは言い、さっさと行け、と顎をしゃくった。

やることってなんだ。ジューダスはここに残って、誰かしらの陰謀に加担するのだろうか。それは、一体どんな意思によって行われているのだろうか。この世界は、一体なんなのだ。何を表しているんだ。何が起こっているんだ。

未だわからないことだらけだ。ただ漠然と感じる。ジューダスが言ったように、俺とジューダスは生きてきた世界が違うのだ。こいつはこんな冷たくて寒くて、気分の悪くなるような世界に生きてきたのか。

「お前は……こんなところにいて、気が休まるときはあるのか?」

俺の質問に、ジューダスは何も答えなかった。ただ一見無表情に見えるその瞳の奥に、僅かに羨望を感じたのは、俺の勝手な想像だろうか。

リアラは、心の未完了が階層化した世界がコスモスフィアだと言った。この世界には、何かしら問題があるのだ。

こちらの世界は冷たい。一方で、あっちの、ヨウと呼ばれていたあの町は、ナナリーやカイルがいるあの場所は、暖かい。こいつはそれを知っている。

ならば、答えはひとつだった。

「ジューダス、お前も一緒に来い!」

「なっ」

俺は排水溝の蓋をあけて、無理やりジューダスを引き摺り下ろした。水の上に音を立てて落ちる。それでなくとも寒い世界だというのに、濡れて余計と体が冷えた。

「何をする!」

「なぁ、お前はこっちに残って何をするんだ。俺がやられたように誰かを貶めたりすんのか?」

怒気を露わにしていたジューダスの顔から表情が消えた。そのまま黙して何も語らない。

「なぁ、ジューダス一緒に逃げよう。ヨウ側に行こう」

「え……」

「お前が何をやってるのか知らない、言いたくないなら、もういい。だけど、そんな、あんな人を貶めるようなことに加担しちまうようなことは止めろ。そんで、一緒に来い。こんなところで生きる必要ねぇだろ」

ジューダスが一体何者なのかはわからない。もしかしたら裏に何者かがいて、俺たちを監視するように命令されていたりするのかもしれない。そういう、後ろ暗いものを感じさせる世界が、この第二階層には広がっている。だが、ジューダスはこの場から俺を逃そうとしている。俺を、助けようとしてくれている。

ジューダスを逃さないように細い腕を掴む。ジューダスは振り解こうと腕を振った。

「止めろ。僕はこっち側の人間だ。ここに住んでいるんだ。僕には、僕の……」

「なぁ、お前は本当にここにいたいのか? それが本当にやりたいことなのか?」

地下水路は薄暗くてジューダスの表情が見辛い。俺は目を凝らしてジューダスを見る。瞳が僅かに揺れたのを見逃さなかった。

「あぁ、だめだ。やっぱり駄目だ。お前は連れて行く」

バシャバシャと無理やり腕を引っ張って地下水道の奥を進んでいく。ジューダスはつんのめりながら腕を引かれ、仕方なく歩みを合わせながらも離せと言う。

「僕はあちらには行けない」

「なんでだよ」

歩みを止めないまま一度振り向いて問う。足場の悪い地下水道をいつまでも脇見しながら歩けないから再度前を向いた。どれくらい歩けば外に出られるだろうか。

「住む世界が違う。ヨウの人間がインで暮らせないように、インの人間はヨウでは暮らせない」

「あぁ? なんだそれ。そういう決まりでもあんのか? んな下らないもんぶっ壊しちまえ!」

「決まりとかではない。必然的に起こることだ。お前はこの世界での生き方などわからないだろう? だから、カモにされたんだ」

「あぁ? 確かにここでは俺はそうなっちまったが、あっちの方にはそんなことする奴いねぇよ! いたとしても、俺がそんなことさせねぇ!」

「そうじゃない……」

ぼそっとジューダスが力なく呟く。じゃあ、なんだっていうんだよ。反論のしようがないからか、ジューダスはそれから口を開かない。

暗かった地下水道の奥に光が見えた。ジューダスが最初に説明した通りに、町の外れに出た。遠くに家屋がポツリポツリと見える。目の前にはあの世界を真っ二つに裂く壁があった。

「ロニ……」

尚もジューダスは自らの意思で俺についてこようとはしない。俺が腕を離したらあの恐ろしい牢屋へ戻ってしまいそうだ。

俺は黙ってジューダスを引っ張った。門は家屋が近くに無かったとはいえ、町の大通りの延長線上にあった。町の中心側へ行くように壁に沿って歩けば見つかるはずだ。

ふと、聞き覚えのある高い声が聞こえてきて声のした方を見る。

「あ」

「……どうした」

首を傾げるジューダスごと、近くの壊れかけた壁の影に隠れ、再度先ほど見た方へ目を凝らした。

俺が一番最初に声をかけた子供と、あの男、ボサトがいた。

「お前をハメた連中か」

“連中” その事実を俺は受け入れるしかないようだ。おっさんが、子供に何かを手渡している。……報酬だろう。あの子供も、グルだったのだ。あの笑顔も何もかも俺をハメるためのまやかしだったのだろう。

「あのおっさん、お前のこと知り合いのように言ってたけど」

「知るわけがないだろう、あんな男」

「だよな」

クソ、なんって世界だ。こんな、クソみたいな世界に、ここではジューダスが生きているのだ。それは現実世界のジューダスもまた、この世界を生きてきたということに、または今も生きているということに繋がるのだろう。

連れ出す。ジューダスが何と言おうとも。ジューダスは、こんな世界に生きるやつじゃねぇ。ジューダスは俺を助けてくれた。仲間を想ってくれた。こんな世界の住人なんかじゃない!

「行くぞ」

「いっ、引っ張るな!」

腕の痛みを訴える声があったが、俺はジューダスの腕を離してやらない。離してなどやれるものか。

そうしてとうとう、門の前に辿り着いた。

「ロニ! いい加減にしろ!」

門の前についたとき、一際強くジューダスが叫んだ。その声がやや震えていたのに気づいてしまった。俺は無理やり引っ張るのを一度やめてジューダスに向き直る。

「ジューダス。お前も、本当はあの世界になんて居たくないんだろ。お前が何をしてたか知らないけど、でも、本当はやりたくねぇんだろ」

「……」

「逃げられない理由があるってのか?」

長い間を置いて、ジューダスは小さく首を横に振った。

「だったら逃げよう。どこに逃げていいのかわからねぇってのなら、俺んとこに来い」

「ヨウは……無理だ」

「なんでだよ。大丈夫だ、俺が一緒にいてやる。それに、お前はもうあっち側に本当はいるだろうが!」

ジューダスの目が大きく見開かれる。

「お前、あっち側のナナリーやカイルの記憶捏造してやがるけど、本当はナナリーもカイルもお前のこと知ってるだろ! 俺はお前のこと知ってるし、お前も俺のことを知ってる! 俺とお前は居候って形だけど今ナナリー達と一緒に暮らしてるだろうが! もう、お前はヨウ側に足を踏み入れてんだよ! 何が違う世界の住人だ。勝手にこんな壁ぶっ建ててんじゃねぇ!」

ひとしきり叫んで、言いたいことは全部言った。ジューダスは俯き眉を寄せている。弱ってしまっているようにすら見える。反論はない。

まだ自分の意志で門を通ってくれそうにはないが、あとは俺が引っ張ればいいだけの話だ。

俺は門へと向き直った。

「……あ?」

唖然とした。門に鎖が絡み付いている。先ほどまではなかった。この世界を覆う鎖とはまた違った。世界を覆う鎖は真っ黒なのに対し、この門に絡む鎖は赤かった。やや錆びついているようにも見える。気味の悪い赤だった。……血を連想させた。

「んだ……これ……」

あまりの不気味さに、そっとジューダスの反応を伺い見る。

ジューダスは俺とは違って狼狽えることなく、静かに鎖を見ていた。そこにそれがあるのが当たり前のように見ていた。

あぁ、この鎖は黒い鎖とは違う。俺を遮るためにあるんじゃない。この鎖は、ジューダスを外に出さないようにしているのだと、そう感じた。ジューダスがヨウ側を受け入れられない理由が具現化したものなのかもしれない。だとしたら、向こう側にはいけないのか?

触れるのすら躊躇ってしまう鎖に、恐る恐る手を伸ばす。錆びついた鎖はところどころ欠けている。随分と古く、長い時を経て劣化したような状態だった。

意を決して力任せにそれを引っ張った。俺の予想を裏切り、鎖は簡単に壊れた。

「は……ハハ、なんだよ。ビビり損!」

鎖を引きちぎり、門を押す。ギギギとあの特有の音を立てて門の向こう側から優しい日の光が差し込んだ。

ジューダスは千切り棄てられた鎖を少しの間唖然と見ていたが、やがて自嘲気味に小さく笑った。受け入れたのかもしれない。俺に無理やり連れて行かれることを、俺たちと共に暮らす現実を

「ほら、行こうぜ」

俺は再びジューダスの腕を引っ張り、門の向こう側へと踏み出した。薄暗い世界から日が当たる世界へと出たからか、慣れない目が視界を白く潰した。

 

 

 

「君、乱暴だね」

久々に聞く声。目を凝らして声のした方へと顔を向ける。

白くなった視界がようやく光になれた頃、広がる光景はヨウの世界ではなかった。

「あ、あれ?」

あたりを見回すが、当然今まで居たあの世界も門もどこにも存在しない。ジューダスもいない。今、俺が立っているのはあのドーム状の丸い天井がある白銀の何もない場所、第一階層後にも訪れた、現実世界と精神世界の狭間と呼ばれた場所だった。

おいおい、これからが本番だったのに! あ、……もしかして。

心の護の“乱暴”という言葉に俺は冷や汗をかく。

「俺、追い出されちまったのか?お前に」

自分勝手にジューダスを連れ出してしまったのは、本当はよくなかったのかもしれない。正直、あそこから連れ出さないといけないという思いの奥底には、本当に大丈夫なのだろうかという不安があった。

「……違うよ」

「へ?」

「パラダイムシフトしたんだよ。また気づかなかったの?」

パラダイムシフト――その階層の未完了を終えた証。同時に、ジューダスがまたひとつ俺を受け入れてくれたのだという証明。まさか、門を開けた後の光はパラダイムシフトによるものだったのか。

ほっと、一息つく。わからないことだらけの中、我武者羅に直感で動いたが……やはり俺の勘はあっていたんだ。あいつはあっちの世界にいちゃダメだったんだ。

「あれで、良かったんだな……」

「今回、怖かったでしょ」

クスクスと心の護が笑う。聞かなくても「怖い思いをしてまで来なくていい」と言われているのがわかった。正直、笑いごとじゃないくらい今回の階層は事実、恐ろしかった。

「つか、お前見てたのか? 牢屋に入れられたアタリからまた見なくなってたが」

「まぁね」

「はー……ひでぇな」

「まぁ、本当に殺されそうだったら、そうなる前に現実世界に強制送還させてあげたかな」

「そりゃありがてぇこった」

「痛みは感じると思うけどね」

「……」

人でなしめ。いや、こいつ人かどうかわからないんだった。

しかし、何よりの人でなしは、やはり俺をハメたあのおっさんと子供だ。あんなのがジューダスの心の中に巣くってるのは気分が悪い。あんな人間が、本当にいるというのだろうか。ああいう人間とジューダスは関わったことがあるのだろうか。

「薄暗ぇもんはそれなりに見てきたと思ったが……」

あそこまでのものは、考えも及ばなかった。そりゃ大人が汚い欲の為に悪知恵働かせているのはよく見るが、あれはそんなレベルを超越している。

「あいつは、あんなのと関わったことがあるっていうのか。カイルと変わらないぐらいの歳に見えるってのに」

ギリ、と奥歯を噛みしめる。あんな世界にいて、どれだけ心を傷つけただろうか。あんなのは人を信じられなくなる。ときに人を冷めたような目で見下すことがあるのは、人間への不信によるものかもしれない。船の上で年齢を聞いたときにとったジューダスの態度も、これに繋がるものを感じる。

「でも、今はもう違う。……そうだよな?」

俺は確かめるように、というよりはそうであってくれと乞うように心の護を見上げた。

「あの赤い鎖、簡単に壊せたのは現実世界では既にあいつがあんな世界に居続けないといけない障害がないから、だよな?」

逃げられない理由があるのかと聞いたとき、ジューダスはそれを否定して見せた。ならば、きっとあいつはもうそういう後ろ暗いものの中にはいないんじゃないか。または、いたとしても今回のことで、あの世界から足を洗う決意をしてくれたのではないだろうか。

ジューダスが隠しているものに不安はまだある。だが、こうしてダイブを重ねるごとに感じる。あいつに後ろ暗いものがあろうとも、それはあいつの意思じゃない。そして、あいつはお人よしだ。俺のことを、何度も助けてくれるのだから。

先ほどから心の護は一言も言葉を返してくれない。俺はじっと心の護を見つめた。やがて諦めたのか心の護は「そうだよ」と答えた。

「察しいいね、案外頭悪くないんだ。……物理的な障害はもうないよ。とりあえず今のところは、ね」

色々含みを持たせた言葉だった。それでも、現在もあの世界を強制させる力がないというのは心強い情報だった。

「じゃ、現実世界に戻すね」

あ、もう少し話したかったのに、そう思った瞬間ぷつんと意識が途切れた。

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