願いと奇跡 – 2

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ルーティとスタンが迷い無く歩いていくのは道無き道だった。

草木の生い茂っている山の麓は、入ることすら許されないかのようにその存在を主張していた。だが、少し入ってしまえば草は短く、木々はその体を自ら退け、自然と道を作っていた。

ルーティらがどれだけその場所に通っているか。その証だった。

 

「二人一緒に行くのは、久しぶりだな」

「そうね」

 

灯りはルーティが持つレンズに光を宿したもののみで、月明かりは葉に遮られ暗闇の中に放り投げられたかのようだ。

それでも、二人はしっかりとした足取りで歩きながら言葉を交わす。

 

孤児院には何時だってスタンかルーティどちらかが居た。

当然、子供達だけを置いて行くわけにはいかないからだ。

それでも、もしも何か用事があったときには町の人に留守を頼むのだ。今日もまた、夜遅いというのに快く承ってくれた。

 

やがて、暗い道が終わった。

その場所は草は生えているものの靴を越えることはなく、木はその場に1本しか生えていなかった。

月の光を遮るものが無くなり、海も見えるその丘は、とても神々しいものに見えた。

 

「……すごい……」

 

その光景にカイルは唖然と呟く。ロニもまた黙って頷いた。それほどに美しかった。

月光が海に反射されている様、数え切れないほどの星。それが180度見渡せる。

 

ルーティとスタンはそんなカイルらを見て少し笑った後、また歩みを進める。

丘の上に立つ一本の大樹に向って。

カイル達もそれに続けば、木の麓に何かがあるのが分かった。

 

「……石?」

 

遠目からその正体を知り、カイルは首を傾げる。

暗くてよくは見えないが、小石でもなく岩でもない大きさの石が、不自然に木に寄り添うように立っている。

ルーティは石の元へと真っ直ぐ歩み寄り、そしてその場に腰を屈めた。

 

「これが、リオンのお墓」

「………リオン、の……」

「とは言っても、遺体が埋まってるわけでもないんだけどね」

 

その言葉に胸が締め付けられるようで、カイルは眉を寄せる。

ルーティは優しくその石を撫でる。その姿に、神の騒乱の重みを味わう。

カイルは一度俯き、視線を彷徨わせた。

 

「あ」

 

その時、遠くに光を見つけて声を上げる。

ルーティらの視線がカイルに集まる。

 

「ここから、クレスタ見えるんだね」

「あぁ。本当に此処はいいところだろう?」

 

小さくも輝いているのは確かにクレスタだった。

スタンが優しく微笑むのに、カイルは強く頷く。

 

「だから、きっと、リオンは此処には居なくても……ちゃんと母さん達を見ててくれてるんだよ!だから今日も、俺達を守ってくれたんだ」

「………そうね」

 

カイルの言葉に答えた彼女の声は完全に震えており、今にも泣き出してしまいそうに思えた。だから、カイルは微笑んだ。そして石へと近づく。

その場に膝を付き、手を合わせ、そして目を瞑った。

ルーティは眼を瞠ったが、やがて同じように手を合わせ、目を瞑る。スタンとロニも同じく手を合わせた。

 

カイルもロニも、完全に理解はできていない。18年前のことは書に記されていることしか知らない。ほとんど知らない。目を瞑っても、何を伝えたいのか分からない。

それでも、こうせずには居られなかった。

己の中の何かが、目の前の石に何かを伝えたいと訴えるのだ。

 

柔らかい月光と大樹に包まれ、海の音と木の葉の擦れる音だけが暫く続いた。

長い黙祷は終わり、ゆっくりと皆頭を上げていく。

 

カイルはこのまま帰っていいものか迷った。

たとえどんな過去があろうとも、恐らく今日出逢った少年に対する印象は変わらないと思う。本当に、ずっと昔から彼を知っていたかのように

それでも、とカイルは思い切って口を開いた。

 

「ねぇ…」

「愛する人を護る為だ」

 

カイルが言う前に、スタンが突然文脈も無くそう答え、カイルは目を丸くする。

スタンは寂しそうに微笑んだ。

 

「それだけだったんだ。……あいつ、結構単純なんだよ」

 

カイルはリオンについて聞こうと開けた口を一度閉じ、そして小さく答えた。

 

「……そっか」

「あぁ」

 

カイルはもう一度、父の仲間が眠る石へと向き直り、頭を下げた。

 

「……ここから、ダリルシェイドも見えるんですね」

 

ふと、そう言ったのはロニだった。

クレスタとは反対方向にあるそれをじっと眺めている。カイルもその視線を追ってみるが、クレスタのように光は見えず、夜でもよくわかる程に重たい雲がそこにはあった。

 

「……ロニ、ごめんね……」

「何言ってるんっすか。今此処でそういう話はやめておきましょうよ、ルーティさん」

 

ルーティの重たい表情とは真逆に、ロニは軽く笑った。元よりそのつもりでダリルシェイドのことを話しに出したのではないからだ。

 

「ただ、あそこはほんと、何時まで経っても変わんねぇなって……」

「……あぁ、そうだな」

 

ロニの言葉にスタンが賛同する。

ほとんどの町は復興を果たすか、他の町に移住することで元の生活へと戻りつつある。

そんな中、ダリルシェイドだけが18年前の世界に置いてけぼりになったかのごとく、復興も果たせず、人が留まり続けているのだ。

 

「……仕方ないわよ。首都だったんだもの。…本当に、大きな町だったからね」

「年々、少しずつ人は減っていってるけどな」

 

ルーティの言葉にスタンがそう続け、そしてそれらを聞いてロニの表情に影が差す。

そんな中、カイルは小首を傾げた。

 

「なんでダリルシェイドはなかなか復興ができないの?それだけ人が居たんだよね?悲しみが大きかったとか……」

 

考えながら話をしていたカイルだが、やがてルーティから呆れた目で見られていることに気付き、口を閉ざす。

 

「あんたねぇ、地理の勉強ちゃんとやってる!?歴史は!?」

「わ、ご、ごめんなさいっ!!」

 

テストの点数もあり、平謝りとなったカイルにロニとスタンが苦笑いをしながらも答えてくれた。

 

「まぁ確かに、一番被害が大きかったからなダリルシェイドは。だけど一番はあの雲だ」

「……雲?」

「カイル、ダリルシェイドまで一緒に何度か行っただろう?で、その度にダリルシェイドは雨が降っていた。違うか?」

 

スタンの問いにカイルは一度硬直し、記憶を手繰り寄せる。

 

「あ、確かに」

「別にあれは偶然そうだったってわけじゃない。地形の変化が原因なのか、18年前からダリルシェイドにはずっと雲がかかっているんだ。あれから一度もダリルシェイドに日は差していない。あれだけ曇りやら、雨やらが続くとな……」

 

スタンの言葉にカイルはようやく納得した。

 

「そうだね……雨は大変だよね………クレスタがそうだったら、雨漏りばっかりで孤児院腐っちゃうよ……」

「カイル………ちょっと違うぞ?」

 

当然ロニから突っ込みが入る。

またもルーティは深くため息をつくこととなった。

 

「雨が降ったら色々と危ないでしょ!滑るし、それで崩れるし!そういうので瓦礫を退ける作業も中々はかどらないの。んでもって太陽も中々出てこないから作物もまともに育たない」

「貿易港は新しくできたアイグレッテに取られちまったしな。ほんと、どうしようもなくなっちまったってところだ」

 

親切な解説により、ようやくカイルは正しく理解を得る。

息子の様子に満足したのかルーティはダリルシェイドの方向へと数歩歩み寄った。

 

「でも、あたしもあの町は、できれば復興してほしいわ……」

「……どうして?」

 

寂しげな声色にカイルが尋ねる。

スタンは黙ってルーティの方へと歩み、細い肩に手を置いた。

 

「なんか……よく夢を見るのよね」

「……夢?」

 

カイルが聞き返せば、ルーティが頷く。

遠い雲の下。雨に打たれるダリルシェイドを、彼女はずっと見つめた。

 

「ダリルシェイドの夢。ずっと雨が降ってる、今の、瓦礫だらけの町。そこにね、あいつがいるの」

 

カイルとロニでも、ルーティの言う「あいつ」がリオンであることがわかった。

 

「ずっとあいつは、一人で雨に打たれながら、そこに突っ立ってるの。……寂しそうに。……そんな夢を、何度も…何度も見るのよね」

「あそこは、あいつの故郷でもあるしな……」

 

スタンが呟く。その夢についてスタンは既にルーティから聞かされていたのだろう。

カイルはやるせない想いでいっぱいになる。

 

ルーティが言葉にしただけの夢の光景は、何故かカイルの頭の中にはっきりと映った。

 

雨の音はしない。それでも、振り続ける雨と灰色の世界に見ているだけで寒さを感じる。

瓦礫の詰まれた付近を、一人ぽつんと立っている少年。

太陽を求めて空を見ることなどなく、ただこの町を刻み込むように瓦礫の一点を見つめ、俯いている。頬を覆い隠す長い前髪からは何度も何度も雫が落ちた。

前髪だけでなく、頬からも雫が滑り落ちる。

ゆっくりと、少年がこちらを振り向く。

 

彼の瞳を見て、カイルは唇を噛んだ。

いつからか、胸の内に芽生えていた違和感。それ故の漠然とした想いが、今日一日で決意を共に完全な形となった。

 

 

 

「俺、旅に出る!」

 

それは、あの丘へと行ってからそう日が経たぬうちのことだった。

突如そうカイルがスタンとルーティに告げたのだ。

 

「…はぁ?旅って、あんた……」

 

ルーティはお玉を片手に目を丸めた。

だが、ルーティが反対することくらい、カイルは覚悟をしていた。

決意に満ちた空色の瞳はルーティを見つめ続ける。

息子の本気に、ルーティは表情を硬くした。

 

「だめよ!まだ早い……」

「行って来るといい」

 

すぐさま止めようと口を開いたルーティ。だが、その言葉はスタンが軽く掻き消してしまった。

当然ルーティは驚いてまた固まり、その後スタンを睨みつける。だが、スタンは微笑みながらも真剣な顔でルーティの目を見返した。

いつもどこか抜けていて大らかなスタンが、時々するこの深く強い瞳。ルーティはこれを向けられると黙ることしかできなくなる。スタンは何時だって真っ直ぐ正しいと思うことを貫き通すからだ。

 

スタンは次にカイルへと目を向ける。カイルはその瞳に負けることなく力強く頷いた。それを見て、スタンは笑う。

ルーティはため息をついた。

 

「はぁ……わかったわ。……気をつけるのよ。あんたはスタンと似てほんっとうに間抜けなんだから」

「大丈夫だよ!」

 

カイルは元気よくルーティに返事をする。それが返ってルーティに心配をさせているのだが、カイルは思ったより簡単に了承を得られたことに喜んだのか、バタバタと階段を上がって行った。

 

その背を見送ってから、ルーティはスタンへと視線を向けた。

 

「いつか、あいつは旅に出ると思ってたよ。俺達みたいにな」

「………そうだけど……」

 

ルーティは深くため息をついた。

 

「まったく。ほんっと仕方のない親子ね」

 

2階に上がり、カイルは自分の部屋へと転がり込むように入った。

既に旅の準備はできていた。パンパンに詰めたリュックと、しっかりと手入れをした剣。

それぞれを身に付け、カイルは大きく深呼吸する。

その時、躊躇いがちにカイルの部屋の扉が開いた。

 

「カイル兄ちゃん……?」

 

ドタバタと古い孤児院を動き回った為か、孤児院の子供達がカイルの部屋の前に集まっていた。

 

「どうしたの?」

「うん、ちょっと、旅に出るんだ」

 

そう言った瞬間、「えぇぇえっ!!」と子供達から一斉に声が上がり、一気にカイルは囲まれた。様々なところから声がかかり、カイルは苦笑した。

 

「カイル兄ちゃんとうとう英雄になるんだね!?」

 

一人、子供が興奮したようにそういえば、周りの子供達もきゃぁきゃぁとはしゃぐ。

だが、カイルは首を振った。

 

「ううん。違うよ。ただ、この世界を見に行きたくなったんだ。ちょっと、探し物」

「……?」

 

途端、子供達は唖然とカイルを見上げた。

カイルはにっこりと笑う。

 

「それじゃ!元気にしてろよっ」

 

そう挨拶すれば、子供達は同じように元気よくカイルに挨拶を返した。

 

1階へと戻り、荷物を片手にカイルは再び両親の前に立つ。

少し不安げなルーティと、正反対に安心感すら抱くほどに堂々とそこに立つスタンの姿。

日常では真逆なことが多いからこそに、少しカイルからは愉快に見えた。

 

「それじゃ、俺行ってくるね」

「あぁ」

「気をつけなさいよ」

「うん」

 

カイルは二人に親指を立て、孤児院を飛び出した。

スタンとルーティが外まで出て、カイルの背を見送る。

渋っていたルーティも、その時だけは笑顔でカイルを見送った。

 

カイルの背が小さくなっていく中、突如スタンが声を上げた。

 

「カイル!」

 

小さくなった金色が揺れ、こちらを振り向いたのが分かる。

スタンはそれを見て、先ほどとは違って普通の声量で言った。

 

「ありがとな……」

「え?なんてーーー!?」

 

当然、もう大分離れてしまったカイルにスタンの声は聞こえるはずがなく、カイルはクレスタ中に響きそうな声で聞き返す。

スタンはにかっと笑い、大きく手を振った。

 

「頑張って来い!お前なら、きっと見つけれる!」

 

スタンとカイルのやり取りを、ルーティは少し目を大きくし、ただ見ていた。

カイルがスタンの言葉に一瞬唖然とその場に立ち尽くすが、すぐさま遠くからでも満面の笑みと自信を浮かべているだろうとわかる声が返る。

 

「行ってきます!!」

 

息子のその声に、二人は再び暖かくカイルを見送った。

 

やがて本当に声も姿も無くなった時、ルーティは力尽きたように俯いた。

それに気付き、視線はカイルが歩いていった方へと向けたまま、スタンはルーティに言う。

 

「大丈夫だ。きっとロニも付いていくぞ」

「え?なんで……」

「あの丘に連れて行ってから、あいつら顔変わった。絶対何か言い出すと思ったんだ」

 

その言葉に、ルーティの瞳が揺れた。

スタンが笑顔を浮かべる。

 

「確かに心配だ。けどさ、そんなことよりも、何よりも……」

 

俯いたルーティの肩へと手を乗せ、スタンは空を仰いだ。

18年前、自分達が護った空を仰ぎながら言う。

 

「嬉しかった」

 

ルーティは口元に手を当て、黙って頷いた。

スタンも彼自身が言ったように、歓喜から笑顔を浮かべているのだが、眉を寄せ、言葉を途切れさせながら言う。

 

「本当のあいつを……カイルが、ロニが、…知ってくれて、理解してくれて、今も理解しようとしてくれてるって………嬉しかった…っ」

 

口に手を当てている為篭ったのもあり、ルーティから返った声は本当に弱々しいものだったが、彼女は「うん」と答え、何度も何度も頷いた。

 

「あれ?ロニ……」

「いよう。カイル」

 

孤児院を飛び出し、このままクレスタをも飛び出そうと走っていたカイルを遮ったのはロニだった。ハルバードを手に持ち、彼は右手を軽く上げて挨拶をする。

 

「あ、俺今日はおつかいじゃないよ」

「わかってるって……俺も今日はパンの耳持って出てきたわけじゃねぇよ」

 

カイルを小突き、ロニは笑う。

 

「旅に出るんだろう?」

「え!?なんでわかったの?」

「ははっ、何年同じ屋根の下で暮らしたと思ってんだよ。俺はお前の兄貴だぞ?」

 

ロニはけらけら笑った後、にやりと口の端を持ち上げた。

 

「俺も一緒に行くって言ってんだよ」

「え……?でもパン屋さん……」

「そんなことより、やりたいことがあんだよ」

 

ロニはそう言って、ハルバードを肩に担ぎパン屋に背を向ける。

 

「あの黒いのもそうだが、俺達は何かを忘れている。違うか?」

「………うん、なんか、そんな気がする。やっぱりロニもだったの?」

「そーいうわけ。だから、付いていくぜ?それにやっぱお前一人だと危なっかしいしな」

「もー!ロニまで!」

 

カイルが頬を膨らませて怒れば、ロニは声を上げて笑った。

 

「やっぱりルーティさんに言われたか!じゃ、やっぱり俺も付いてってやらねぇとな」

 

今も笑いの収まらぬロニに同じく頬を膨らませたままのカイルだが、それでもロニが付いて来てくれると聞き、表情に歓喜の色が混じる。

 

「んじゃま、行くとしますか。……行き先は決めてるのか?」

「………うん」

 

此処に来てようやく二人とも真面目な顔となる。

ロニの質問に、カイルは真っ直ぐと一点に視線を向けた。

 

「ラグナ遺跡」

 

はっきりとカイルは言う。

ラグナ遺跡はクレスタからすぐ近くにある遺跡で、旅の目的地とするにはとても相応しいものではない。それでも、ロニはその言葉をどこかで予測していたかのように自然と受け入れ、二人はラグナ遺跡へと向い始めた。

 

暗い。闇の世界に放り込まれたかのようだ。

いや、実際そこには闇などなく、ただ無があった。

そんな中、一つの光が形を作っては四散しかけ、またそれが集まり形を作る。

 

―カイル……

 

何度目か、今までより一番はっきりとした形を作り、それは目を開いた。

愛しい人の名を呼び、手を伸ばす。

 

その先にはこの無の世界を照らす光があった。

もう遠い過去のように感じるあの旅の結末。

その直前に、彼の人と送り届けた、あの光が

 

―カイル…………

 

もう一度、強く名を呼び、手を更に伸ばす。

だが、光は遠のき、伸ばした手はまた細かい光となって散って行く。

 

リアラは目を細めた。

 

(レンズが……遠い………)

 

それでも、しきりに再び光を集め、手を形作ろうとする。

あの光を掴もうと…約束を、再び巡り合う奇跡を起こそうと

 

だが、彼女の意識は遠のく。

再び形あったものが崩れていく。

レンズの光ももう小さい。

 

絶望と諦めがリアラの胸に湧き上がった。

涙もまた光となって四散していく。

 

完全に形が無くなってしまうと思ったとき、誰かが彼女の呼んだ。

実際に名前を呼ばれてはいないが、それでも、誰かが彼女を求めている。それを漠然と感じた。

 

―カイル……っ!?

 

消えていく中、久しく感じた彼の気に、リアラはその名しか知らぬように愛しい人の名を叫び続ける。

 

すると、突然遠くなっていたレンズがどんどんと彼女に近づいてきた。

四散しかけていた体が再び形を取り戻す。

レンズから、誰かの手が伸びた。白い手が、伸びた。

 

―……え?

 

しっかりと腕を握られ、リアラは眼を瞠った。

 

―……あなた………

 

そこに存在しているものから、本当に強い力をリアラは感じた。

神の力のような……いや、レンズそのもののような力。

 

だが、それは確かに、懐かしい仲間の形を取っていた。

 

彼は軽く微笑んだ。仮面がないから、よく表情がわかる。

闇に溶け込む身なりだが、光が強くなり、彼の姿もはっきりと映る。

 

リアラは強い力に引っ張られ、ずっと手を伸ばし続けていた光の中へと消えていった。

 

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