最後の小片 – 9

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「被害は…以上のようです」

「……そうか、下がってくれ」

 

ウッドロウは荒れ果てた玉座の間で顎に手をかけながら唸る。

一部城を破壊された程度で、兵士達は後頭部への打撃等で気絶させられていただけ。

レンズを奪われるという最悪の結果ではあったが、死人は一切出ていなかった。

 

(リオン君…)

 

強いアメジストが頭から離れない。

 

(彼は一体何者なのだろうか)

 

レンズだけを奪い、被害を最小限に抑えて脱出した昔の仲間によく似た少年。

 

答えが出るわけが無く、ただレンズが奪われたその部屋をじっと見つめる。

しばらくして、廊下のほうが騒がしくなってきた。

 

「おいおい、いきなりとっ捕まえるこたぁねぇだろうがよ!」

 

それは聞いたことのある声で、ウッドロウはそちらに顔を向ける。

すると、やがてそこから仲間の息子達が手錠をかけられこの場所までつれてこられた。その事にウッドロウは目を見開く。

 

「一体何事かね…彼らは四英雄スタンの息子と、皆知っていることだろう」

「はい、陛下…ですから牢に叩き込む前にこちらに…」

 

突然のことに王は眉を寄せた。

銀髪の青年は苛立たしげに時々声を上げる。暴れだしてはいないが、兵士達はかなりきつい目で彼らを見ているようだ。

少女も同じく捕らえられ、ただ黙って金髪の少年のほうを見ていた。

そしてその彼はというと、らしくなく俯き元気がなかった。

 

「……説明を」

「侵入者が彼を庇ったのです」

「……庇った?」

 

そう言って、兵士は金髪の少年を指差した。

ウッドロウは益々表情を険しくする。そういえば、彼らは侵入者に対して名を呼んではいなかっただろうか。

 

「カイル君……あの少年を知っているのかい?」

「………はい」

「庇った、というのは」

「弓兵の攻撃と同時にこの少年が飛び出しまして…その時あの少年がこの子を助けたのです」

(……助けた?)

 

兵士の説明にそっとカイルを見るが、彼は俯いたままでこちらの視線に気付いていないようだ。ロニはため息をつきながらカイルの様子を見ている。

ウッドロウは兵士に視線を戻した。

 

「ならば、黒衣の少年は?」

「それが……突然眩い光が少年から発せられたと思ったら、消えまして…」

「…消えた?」

「はい…もう、そうとしか言いようが…」

 

そのようなことが可能なのだろうか。

ウッドロウは唸るが、思えばあの少年は大量のレンズをまるで手のひらに吸い取ったかのような…晶術でその姿はよく見えなかったが、彼が逃走したときには既にレンズは無かったのだ。

彼にそのような力が備わっているのかもしれない。だがそうなると、何故今までその力を使わなかったのか

 

(…考えても無駄か)

 

ウッドロウは一つため息をつくと、もう一度金髪の少年のほうを見る。

両手を前に出し、手を繋がれ俯いてる様はその歳にはとても似つかわしくなく、ウッドロウの胸を抉る。

 

「とりあえず手錠を解いてやってはくれないか」

「王…」

「彼らは敵ではない」

 

そこでようやくカイルが顔を上げた。少年は想像通りの表情で、目を揺らしている。

恐らく、いや、間違いなくカイルとあの侵入者は知り合い。

何らかの事情があるのだが、聞くには敵対心をむき出しにしている兵士が邪魔だった。

 

「下がってくれ」

「王!」

「命令だ」

「………しかし」

 

兵士は尚も食いつく。

カイルとの、彼の父親との信頼関係が無ければウッドロウとて首を縦に振らないだろう。

だが、カイルの青い澄んだ瞳は間違いなくスタンから譲り受けられたそれで、彼の純粋さは仲間であるウッドロウがよく知っているものだ。

 

「彼らから武器は奪ってあるのだろう?案ずるな、年老いたとは言え武器を持たぬ者に負ける気はせぬよ。さぁ、もう一度言う。下がれ」

「……かしこまりました」

 

すごすごと下がる兵士に一つため息をつく。

足音が聞こえなくなったところで、もう一度ウッドロウはカイルのほうを見た。

 

「カイル君……教えてくれるかね?」

「……はい」

 

カイルは小さく返事をした。

 

スタンと瓜二つと言っていいほどよく似た少年から出てくる言葉に、ウッドロウは額に手を当てた。

 

仲間だった黒衣の少年。久しく合えば理由も分からず敵に

なんて皮肉なことだろう。これもまた運命なのだろうか。

裏切りの少年は、18年前の彼とそっくりで、また目の前の少年はその親友とそっくりとは

カイルが浮かべる表情も、当時のスタンの表情と同じだった。

 

「……その少年が、君を庇った、というのは本当かね」

「…はい、……何かの偶然とか、そんなんじゃなかったんです。俺、ジューダスによく庇われたりしてて、それと、何ら変わらなくって…」

 

此処だけが、18年前と違うところだろうか。

…いや、そんなことは無い。

海底洞窟で、動揺するスタンに致命傷を与えるくらい、彼なら簡単だったはずだ。

それは皆よく想うことで、スタンに至ってはその話をするたびに涙を溢れさせていた。

 

「それでも、ジューダスは…何も言ってくれなくて……エルレインのところへ戻って…」

 

そう、違うところといえば此処だ。

少年の仲間は、まだ生きている。

間違いなく、今も彼らは仲間なのだろう。当事者である彼らの動揺は大きいものだが、この事件は一つの希望にもなったのではないだろうか。

ただ、問題があるとすれば、彼らにはもう時間がないということ。

 

(…私達は、彼と戦ったことを後悔していない。ああするしかなかった…)

 

18年前を想う。たった独りで、全てを抱え込んで死んでいった、まだ16の少年。

 

(…後悔をしていないなんて、嘘だ)

 

ただ後悔するだけでは前に進めないから、皆強く生きてきた。

ただそれだけ。

誰もが想っている。あの少年を救いたかったと。

誰もが想うはずなのだ。犠牲を無くし、幸せになる方法があればと

だからこそ、この先を強く生きる。

 

(せめて、彼らには……あのような想いをさせたくない)

 

そう強く想う、そしてもう一つ。

 

ウッドロウは玉座の向こうを見つめた。

その行動にカイル達は首をかしげる中、ウッドロウはつい前に対峙していた黒衣の少年を思い浮かべる。

 

18年前の仲間とそっくりな少年と、突然現れた奇跡の聖女

どこか、嫌な感じがした。

 

もしもその奇跡の力で彼が蘇っていたら

それは、あの少年が今生きていてくれたら、そんな期待から来る下らない夢のような話。それでも、もしかしたら…そんな考えが頭から離れない。

 

ギリリ、と音が鳴りそうな程拳を握った。

 

「時間がない…か」

 

レンズを取られた以上、もう事を先延ばしにすることは出来ないとのこと。

それは黒衣の少年と、カイル達の、仲間同士の戦いが近いことを示す。

 

「私からフィリア君のほうへエルレインの動きを見るように伝えておこう。君達は、少しクレスタのほうへと戻ってはいかがかね」

「え…クレスタに、ですか?」

「ルーティ君も心配しているだろうし……彼らからも何か助言をもらってはどうだろう」

 

カイル達3人が顔を見合わせる中、ウッドロウは眼を閉じた。

このような事、ただ逃げるためだけに時間を無駄に使っているようなものだが、解決策が見つからないままに行かせたくはない。

あの少年が、もしもウッドロウの想像通りの性格ならば、二度とボロはださないだろう。

 

だが、もしも…あの少年がリオンだったら…どうだろうか

 

(らしくない……だが、賭ける価値はある…何より、私が出来るのはこれくらいしかない)

 

不安の渦の中を進まなければならない彼らを、ウッドロウは静かに見つめた。

やがてカイルはウッドロウに軽くお辞儀をする。

 

「はい…とりあえず、クレスタに戻ってみます。ありがとうございました。ウッドロウさん」

「あぁ…」

 

ゆっくりと背を向け、歩き出す3つの背中を見送る。

その姿が当時の自分達の背中と被るのを、ウッドロウは声を上げることで振り払った。

 

「カイル君!」

 

くるりと振り返る青い瞳を、ウッドロウは力強く見つめた。

 

「君達にはまだ時間があるよ。まだ、まだ終わってない」

「………はい!」

 

今度こそ、城から去っていった少年達にウッドロウは祈る。

彼らは今、四英雄が過去に歩いた道を、今歩いている。

そこは、もうウッドロウには歩けない道。

 

(どうか、そのまま私達が歩いたところを辿ることなく、新しい道を開いてくれ)

 

 

 

 

 

目を開ければ、眩しすぎるくらいに白で統一された部屋にもう一度目を閉じた。

何度か瞬きを繰り返し、ゆっくりと体を持ち上げる。

矢が突き刺さったはずの肩は、まったく痛みを感じなかった。

 

そう思考して、はっと目が覚めあたりを見回す。

何ら変わらない、白い部屋。

 

「……此処、は…」

 

嫌な汗が伝い、そっと服の中に手を入れた。

だが予想外に、自分が探していたものが、すぐに見つかった。

 

「まだ、夢の世界は作っていませんよ」

 

突如現れた気配と声に、すぐさまベッドから飛び降りた。

聖女が目を細めるのに、自分もまた、目を細めエルレインを睨みつけた。

 

「……何故、取らなかった?」

 

ハイデルベルグから奪ったレンズを右手に握り、エルレインに問う。

 

「貴方の答えを待っているからです」

 

エルレインは微笑んだ。

答え――幸せな夢か、現実という名の悪夢か

こいつは、ずっと僕の答えを待っている。

 

「お前らしくない」

 

冷たくそういえば、エルレインは笑みを消して怪訝な顔をした。

あぁ、気付いていないのか。

 

「お前にとっては、幸せな世界という結果さえ作れればそれでいいはずだ。僕なんかに構わず、さっさとレンズを奪って幸せな世界を、前のお前なら作ったはずだ」

「…………」

「そうしないのは……お前が、理解しているからではないのか」

 

本当の、幸せというものを、理解したからではないのか。

暗にそう言えば、エルレインの表情に僅かに苦痛が混じった。

 

「神に与えられた幸福こそが絶対。人は神無しで幸福になることなどできない!」

 

まるで駄々をこねるように叫ぶエルレインを、冷静に見つめる。

聖女は突如、自分が感情を荒げたのに気付き、すぐにそれを押し込めた。

それでも、先ほどのような笑みはもうだせていないが

 

「………私も、いつまでも待っていられませんよ」

 

冷たく告げられ、唇を噛む。

 

「カイル=デュナミスたちは、また此処に来るでしょうね」

「…………」

「選びなさい、神を求めるか……再びあの悪夢を繰り返すか」

 

爪が食い込むほどに拳を握る。

 

神はこの身を再び生き返らせ、そしてこの不自由な二択を出した。

神を求めるか、再び悪夢を繰り返すか。

 

神を求めればと言って、目の前に現れたのはヒューゴ。

ミクトランの支配から逃れられた、本当の、ヒューゴ=ジルクリストだった。

 

例え本当の父を目の前にだされようとも、自分の意思は変わらない。

だが、そう言った僕に対して、エルレインは冷たく告げた。

 

ならば再び悪夢を、と。

神を裏切るというのならば、再びミクトランの精神をヒューゴに戻すと

そうして、あの悪夢を繰り返し、神の幸福を求めればいいと、エルレインは笑った。

 

「私を求めろ!リオン=マグナス!」

 

唇を噛み締めれば、ぶつりと切れて血が流れた。

 

エルレインを裏切ればミクトランが敵になる。

自分ひとりで相手に出来る者でないことなど、16年の生でよくよく知っていた。

かといって、エルレインの創る世界など、望みはしない。

自分の刻んだ歴史を自ら消すようなこと、したくないのだ。

 

だが、……だが、そうすれば、ミクトランが蘇る。

自分ひとりならばいい。いくらでもその悪夢に耐えてみせよう。

だが、だが今の、今のこの世界には、ようやく幸せを手にしたルーティがいる。

悪夢から18年、ようやく傷が癒えてきたこの世界がある!

カイルに接触もできない……カイルは、ルーティの子供なのだ。

 

そして、あの男が……あの男が、

自分の、本当の父だというこの男の存在が……

 

ふと、思考に落ちていた意識を一度浮上させ、エルレインを見ると、彼女はまた苦痛と悲痛、哀れみ、蔑み、いろんなものが混じったような、そんな表情をしていた。

睨みつければ、エルレインは一度表情を消した。

 

「……あと、あと少しだけ、時間を与えましょう。……貴方が苦しまずに居られる世界を、私は望みます」

 

静かにエルレインが出て行くと、部屋の扉は閉まらず、そのまま入れ違うように、ヒューゴが入ってくる。

こちらを見る目は心配の色がありありと見えて、視線を外すとベッドに座り、額を拳に当てた。

 

「……エミリオ」

 

呟かれる本当の名に、答えることはできない。

ヒューゴは、神を求めた。夢までは求めなかったそうだが、神を、求めた。

息子と会いたいと、そう願った男に、僕はどんな感情を向ければいいのかわからない。

 

父親なんて、知らない。

ずっと、ミクトランに操られたそれを父親だと思ってきた

縋ろうともしたし……憎みもした。

今更それが、別の人物で、彼が本物だなんていわれても、分からない。

 

ヒューゴがそっと近づいてくる。

視線だけは合わせず、ただ動かないでいれば、そっとヒューゴはベッドのシーツを握る僕の右手を両手で包んだ。

 

「………すまない」

「…………。」

 

……分からない。

 

だけれども、自分を包むこの温もりは、感じたことのないもので

余計、わからなくなった。

 

………共に生きることなど、出来ないのに

 

ミクトランが蘇る前に、神を殺してしまわないと。

時間はもう無い。いつまであの女が気まぐれを続けるかわからないのだ。

隙を見て、エルレインに気付かれる前に、神の殺さないと。

 

リアラはもう、神から切り離されている。大丈夫だ。

彼らは、悪夢から覚めたこの世界で、幸せに暮らしてくれればいい。

 

そして、悪夢である僕達など、速く消えてしまえばいい。

 

…………右手が、熱い。

 

カイル達はウッドロウに言われた通りに、イクシフォスラーでクレスタへと戻った。

が、そのまま町に入ることはせず、近場の海岸で落ち行く太陽を眺めていた。

 

帰る前に、頭を整理したいというカイルの要望からだった。

ジューダスがいたら、整理するほどの内容がその頭に詰まっているのか?なんて皮肉が返ってきたかもしれない。

だが、本当に今カイルの頭の中はいつもの直情故にめちゃくちゃになっていた。

だから、ロニもリアラも何も言わず、一緒についてきた。

 

浜辺に座り、ずっと夕日を睨みつけていたカイルが、やがていつもの彼には似つかわしくない、低く静かな声を出す。

 

「……ロニ、どう、思った?」

「ジューダスが、庇ったことか?」

「うん」

 

ロニはカイルの斜め後ろに立ち、夕日に目を伏せながら顎に手を当てる。

重い空気を吐けば、ロニが応える前にカイルが続けた。

 

「やっぱり、ジューダスは俺達の仲間だ。仲間なんだ。ジューダスは、全然変わってない。まったくもって、かわってない。前に、一緒に旅してたジューダスなんだ」

 

淡々と静かにそう言うカイルに、ロニも、カイルの横に座ったリアラも、頷いた。

 

変わらなかった。カイルを助けた時のあの姿は

旅をしていたときと、同じだった。

自分の身を省みず、仲間を助け、そしてそれに安堵する痛々しい様は、何一つ変わっていなかった。

 

「だから」

 

ゆっくりカイルが立ち上がる。

顔を俯け、服に付いた砂を叩くことはせず、その両手は拳を作り震えさせて。

リアラが立ち上がったカイルへと目を向ける。

 

「俺、怒った」

 

突如そうカイルが言って、リアラは驚く。

それが、憎しみから来る怒りではなかったからだ。つまり、エルレインに向けた怒りではなく、ジューダスに向けた怒りだとわかったからだ。

ロニも少しだけ表情を動かしたが、黙ってカイルを見た。

 

「ジューダス、俺が無事なの見てから、すっごい安心したような顔して、そして……すっごい寂しそうな目してた。あの頃よりも、ずっとずっと、寂しそうな目だった」

 

そこまで言って、カイルは突如顔を上げる。

夕日に真っ赤に染められた瞳は、確かに怒りを宿していた。

そして、今までの静かな声とは反して、カイルは声を荒げた。

 

「また!ジューダスは抱え込んでるんだ!一人で、勝手に!俺達に何も相談せずに!一人で解決しようとしてるんだっ!」

「カ、カイル……」

 

握った拳を振って、砂を踏みつけて、カイルは怒りを撒き散らした。

隣に座っていたリアラが一歩後退し驚きながらカイルを見る。

 

「あの時だって!自分が消えてしまうってこと、最後まで黙ってた!だから、俺記憶戻ったときから、ちょっと怒ってたけど、もう、もう怒った!ずっとずっと、ジューダスは全部一人で抱え込んでるっ!そんなのおかしいよ!」

 

カイルの激しい怒りの表情には、やがて苦痛と悲しみが混じり始め、少しずつ暴れも小さくなっていく。

 

「それで、俺達は、何もしてやれない!わからない!頼ってもらえない!気付いてあげられない!今まで、何もできなかった!むかつく!むかつく!むかつくっ!!」

 

ジューダスに向けた怒りは、やがて自分自身に向けられるものとなり、最後にカイルは砂を何度も何度も踏みつけ、蹴り飛ばした。

そこまで胸の内を海に吐いて、ようやく落ち着いたのか、カイルはぜぇぜぇと荒く息をしながら立ち尽くした。そんなカイルにロニは一歩近づき、黙って肩に手を置いてやる。

カイルが僅かに眉を寄せ、怒りを一度静めて話し出す。

 

「…ジューダス、あんまり深く関わって欲しくないようだったから、俺も、あんまり無理強いしたくなかったんだ。……だけど、やっぱりこのままじゃダメだったんだ」

「………あぁ、そうかもな。あいつは…一人で抱え込みすぎだ」

 

静かに肯定するロニに、カイルは今一度夕日を睨みつけた。

青に混じった赤の瞳は、もう怒りは宿しておらず、ただ決意を強く表していて、どこまでも強く綺麗な瞳だった。

 

「…だから、俺、もう躊躇わない。ルゥを助けた時も、言ったように。その為ならば、たとえ俺を見てもらえなくなってもいい」

 

ロニはカイルの力強い言葉に少し口の端を吊り上げる。

きっと、ジューダスがそうなることはないだろうと。なんだかんだ言って甘い奴だから。

 

「俺、ジューダスに嫌われてもいい。ジューダスを、どんな手を使ってでも捕まえる。……それで、怒ってやる。今までジューダスが俺にしてきたように、叱ってやる」

 

それに対し、ロニもまた不敵な笑みを浮かべた。

 

「……そうだな。あぁ、そうだ。……俺もあいつのひねくれっぷりには相当きてるんだぜ?ちょっくら無理やりとっ捕まえて、皆で囲んで1時間ほど説教してやったほうがいいな」

 

リアラも立ち上がり、スカートについた砂を払うとカイルに近づき、にっこりと笑った。

カイルもロニも、それだけでリアラが同じ思いだと分かり、やがて皆笑みを浮かべる。

 

「あぁ、もう、いっそのこと一発ぶん殴ってやろう。あのかってぇ頭ちょっとは柔らかくしてやらねぇと」

「返り討ちにあわないようにね、ロニ」

「お前こそな……って、まぁなんだかんだいって、あいつはお前に甘いからなぁ」

「あら、でもやっぱりジューダス強いから、逃げようとしちゃうかもね」

「3人がかりならいけるって!リアラも、手伝ってくれるんだろ?」

「もちろん!」

 

皆、顔を見合わせひとしきり笑った。

やがてその笑いが引いていくと、ロニは真面目な顔に戻り、カイルを見る。

 

「……話すんだろ?スタンさんたちに」

「…うん」

 

カイルは静かに頷いた。

カイル達はウッドロウの言葉の裏をしっかり読み取っていた。

 

「ウッドロウさんは、きっとジューダスがリオンだって、なんとなく気付いてた」

「あぁ………俺達は、ジューダスしか知らない。だが、もしそれだけで解決できない、リオンとしてのことが関わっているとするならば……ってわけだな」

 

ウッドロウの言葉から、表情から、そして今まで旅してきたジューダスの姿から、今もリオンと四英雄の絆が消えていないことがわかる。

 

「全部、話す…そして、全部、教えてもらう」

「……あぁ」

 

きっと、ジューダスは怒るだろう。

それでも、待つことはもうやめたのだ。

彼が、自ら手を出すまで待つのを、もうやめたのだ。

 

(無理やりにでもその手を引っ張ってやるんだ!)

 

ぎゅっとカイルは拳を握り締めると、海に背を向けた。

 

「行こう、クレスタに……父さんと、母さんのところに」

「……あぁ」

「うん」

 

そうして、3人が浜辺から立ち去ろうとした時、運命の声がカイルにだけ届いた。

それは、運命なんて重たい言葉とはとても似つかわしくないものだったけれども、だけど、その存在は、とても、とても大きな物。

 

『あらぁ~。あいつを囲ってふるぼっこなんて面白そうなこと考えてるじゃない。ちょっと混ぜなさいよ』

 

カイルの決意に満ちた瞳は面白いくらい見開かれ、ばっと彼は振り返る。

ロニとリアラが振り返り、「どうした?」と聞くが、カイルの耳には入らない。

頭に直接響いた声が、あまりにも大きすぎる。

 

「…………」

 

何と言っていいのかわからず、口をパクパクと開閉するカイルに、それはくすくすと笑った。

 

『1000年ぶりね。まぁ、あんた達はそんなに時間たってないでしょうけど』

 

ロニがカイルの視線を辿っていけば、そこには、赤い海に打ち上げられた、一本の黒い剣があった。

 

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